SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

18 / 151
番外編コマチ視点。
今回はクリスマスの夜にあるレアエネミーが出るという場所を探しそのエネミーから得られるという高級食材を目指す。
その道中で一人の女性と出会い共にそのエネミーを探すことに。そして出てきたレアエネミー。その姿とは?



第17話 「幸せの鳥」

雪の降る中、目的の場所へと歩いていた。目標はA~S級と思われるレア食材。

リーダーに必ず手に入れて帰ると約束した。それに俺はこっちの方が性に合ってる。

いつもと変わらず何かしらを掘る日々の方が。

アインクラッド内全域でクリスマスのイベントが発生し、周りのメンバーは浮足立っていた。

リーダーであるオキは愛する人の為にプレゼントを取ってくると言って、シリカと一緒に出掛けて行った。

ハヤマは最近仲のいい少女、シャルとその従者ツキミに引っ張られて第1層でやっているという祭りにデートだそうだ。本人は断っていたがシャルの勢いには負けたようだな。それになんだかんだで当の本人は満更じゃなさそうな顔してたし。ツンデレめ。

ミケも最近ギルドに入ってきた双子の少女と共にコタツで丸くなっていた。ありゃ本当に猫だな。

隊長もギルドのメンバーに引っ張られてお祭りに参加するようだ。

そんなメンバーの中で自分だけやる事が無かった。タケヤ達も1層に向かうらしく、こちらに声をかけてくれたが別の目的を思いついたので断った。

「というわけで情報ください。」

「期間限定のエネミーネェ。しかもレア食材の出る奴カ。」

向かった先はアルゴのところだ。こういうイベント事がある場合何かしら限定のクエストやエネミーがあるはずだと予測した。

「そうだネ。丁度いいものがあるんだガ。」

「買った。」

「相変わらず即決だこト。」

情報と言うのは手に入れるのが早ければ早い程こちらに有利となる。こういうのは即決が一番だ。うちのリーダーもいつも言っているしな。

『買わずに後悔。買って反省!』

「41層の森エリアの中の村で一人のNPCがレアエネミーの情報っぽい話をしていたという情報があル。」

アルゴからその情報を買い取り、早速向かっている。情報の内容は予想通り、この2日間の間の特殊な時間にだけ出てくると言われる鳥系エネミーがいるそうで、そのエネミーから手に入るレア食材がAからSランク級の肉ではないかと思われているらしい。高ランク食材を調理するにはそれと同格の調理スキルを持っていないと調理できないが、うちでいえばアスナがS、ハヤマ、サラがAランクと調理する人物はそろっている。後は数を手に入れればいい。

祭りに参加するのも一興だが、やるなら何かレアを掘りたい。更に言えば自分だけの物じゃなく、皆でその喜びを分かち合いたい。それがこんな俺を拾ってくれた、あの人の、リーダーの考えだからだ。

森の中を少しだけ歩いたところ、木々に囲まれた静かな村にたどり着いた。

今では雪が降り積もりNPCたちが雪かきをしていた。その中で情報のNPCは宿屋の1階で毎日のように座っている老人だという情報だ。早速宿屋に向かってみた。

宿に着くと一人だけ窓際に座っている老人を見つけた。情報通りだ。たぶん間違いないだろう。

「ドーモ。」

「ん…。なんか用かい? お若いの。」

まぁ、座りなさいと椅子を出してくれたので向かい側に座る。

「じいさん、なんでも珍しい鳥を知ってるとか聞いたんだが。」

「ああ、あの話か…。そうじゃなぁあれはわしが小さな子供のころじゃった。あの日もこれだけ大量の雪が降っててなぁ。」

『このような大量の雪が降った夜、家から森の中で光が見えてな。家を抜け出して森にはいったら、ある開けた広場で空から大量の鳥が下りてきたのを見たことがある。非常に臆病だったのかワシが駆けよると一斉に逃げていきおった。たった一匹だけ逃げ遅れた奴がいて、持ち帰ったらジイサマが焼いて食いおった。ワシも食わせてもらったがとてもうまかった。あの味は二度と忘れんよ。可能なら死ぬ前にもう一度食べてみたいのう』

そして現在、話を聞き終えた後に森の中にあると思われる広場を探している最中である。

「ちくしょう。クッソさみぃ!」

森の中のエネミーも何やら動きが鈍い。この雪と寒さのせいなのだろうか。しかし寒さも感じ取る事が出来るとは面白いシステムだな。ここまでしなくてもいいだろうに。

積もった雪をかき分けながら進んでいると、前方から一人の女性が同じように雪の中を歩いてきた。

『カーソルが緑…。プレイヤーか。』

向こうも気づいたのか近づいた際に声をかけられた。

「こんにちは。」

「ども。」

軽く会釈をする。

「すみません。このあたりに開けた広場は無いかしら。探しているのだけれど…。」

どうやら自分と同じ場所を探しているらしい。もしかして鳥エネミー狙いか?

「俺も探している最中ですが、今の所みあたらないっすね。」

「もしかして、あなたも鳥エネミーを探しているのかしら?」

やはりそうだった。

彼女の名前は『フィーア』。アスナが来ている様なローブ系の防具を身にまとい、蒼を主体としている。長く黒いポニーテールが特徴的だ。彼女は料理スキルをかなり上げているらしく、今回の話を聞いた時に興味を引き探しに来たとか。

双方の自己紹介を軽く済ませ、共に森の中を探すことにした。

共に探す中で彼女のプレイヤーとしての腕も見れた。かなり高い方だと思われる。武器は細剣を使い、スピードを活かした戦い方をしている。先ほどの話ではソロに近い活動をしているようだし、これが終わったらオキに話を振ってギルド勧誘してみるか。今は戦力がほしいときだとも言っていたしな。

「見つからないわね…。」

「だーな。」

あちらこちら探して回ったがこの森エリアの中にそれらしき広場が見当たらない。休憩という事で森の中にあるセーフティエリアの木の下で休むことにした。相変わらず雪は降り続いている。

今までの傾向からすると『広場』と呼ばれる場所はかなり目立っているほど広い。そうここのセーフティエリアみたい…に?

「あ、見つけた。」

「え、どこかしら。開けた場所なんてあったかしら。」

「ここ。」

セーフティエリアの真ん中を指差す。それを見た後にフィーアはあたりをぐるりと見渡した。どうやら気づいたらしい。

「こんなところに…。」

「盲点だな。モンスターが出る場所とは限らなかったわけだ。」

時間も夕方過ぎ。夜中まで待たなければならないが村からここまで少し距離がある。他のプレイヤーが来る可能性も否定できない。せっかく見つけたのだ。確保しておきたい。

話し合った結果、たき火をして暖をとりつつ夜中を待つ事にした。普段から野宿をすることが多い為、そういうセットは常備している。

火を焚き待つ。隣をふと見ると体に手を沿わせて震えていた。なので彼女に持っていた予備のコート一式を渡した。先の村で大量に買ったのだ。だって寒いだろう?

初めは断っていたが、強引に渡してやった。流石に震えている人をそのまま放置するほど俺はSではない。それにそんなことしたらリーダーに殴られる。

「暖かい…。」

ぽそりと呟くフィーア。また暫く待つ。すると肩に何かが当たる。横をみるとフィーアの頭が肩に乗っていた。どうやら寝てしまったらしい。体もうつらうつらと少しずつ体重を掛けてくる。

『うーむ…。』

広場の方ばかり見ていたせいか周囲に小動物たちが集まっているのに気付かなかったがかなり集まってきているようだ。まぁこちらが動いていないから警戒をといて近づいてきたのだろう。

動けないのをいいことに体に上ってきたり、頭の上で寝たりする小動物たち。

『なんだこれ…。』

あまりこういう状況に慣れていないコマチは肩に頭を乗せてよりかかって寝ている彼女を見てため息をつく。

今迄数々の素材等を手に入れる為、敵を倒すためだけ、戦いのみに人生をかけて来た。そんな自分がこのような状況に慣れているわけがない。だが、悪い気はしない。彼女を起こさないようにじっと広場を見つめた。

浮かんでいる時計表示を見るとそろそろ午前2時を回ろうとしていた。息は白く月の光で輝き広場もうっすらと照らされていた。

そして午前2時。

「きた!」

急に空が明るくなり上から多数の鳥の影が降ってきた。フィーアを揺さぶり起こす。

「来たか。やはりここが正解だ。おい。起きろ。」

「うーん…っは! ご、ごめんなさい。つい…。」

寄り添っていた事に気づいたフィーアはすぐに離れた。

「あまり知らない男の前で寝るのは危険だぞ。気を付けろ。で、きた…ぞ?」

羽ばたきながら降りてくる鳥の姿はかわいらしい姿であった。

「まぁ! 白くてかわいい! 帽子までつけちゃって。」

白い雪と変わらぬ小さな羽をパタパタと羽ばたかせ、頭にはどうやって乗っけたのか誰が付けたのか分からないがクリスマス帽子をちょこんと乗せていた。

目を疑った。いや、ヒューナルもいたのだ。こういう奴らもいてもおかしくは無いか?

自分の様子がおかしい事に気づいたフィーアが顔を覗かせてきた。

「どうしたの?」

「セント・ラッピー…。はは! まさかこいつまでいるとはな。 おい、グラインダーおいてけ。」

エネミー名は『ラッキー』になっていたものの間違いなくあの超時空エネミー『ラッピー』だった。しかも冬の期間に現れる特殊なラッピー。その名も『セント・ラッピー』だ。ちなみにグラインダーとはアークス達が武器を強化する際に使用する材料の事を言う。その使用する際の量は膨大。入手手段はいろいろあるが、何故かラッピーが落としていく事がある為見かけた際にはグラインダーを探す事が多い。

「きゅっきゅ♪」

何故自分がこいつらを知っているのか。説明を後ですると言い、目の前にあるレアエネミーを狩る事にした。いやしようとした。

問題はここがセーフティゾーンだという事。こちらの攻撃も効かないはずだ。

とりあえず捕まえてみることにした。逃げ回る『ラッキー』を何とか捕まえることに成功する。

すると光り輝き出し、ラッキーは消え、手元にはタマゴが残っていた。

「これは…どうすればいのかしら。」

フィーアが悩んでいるさなか、自分はタマゴを振った。カラカラとなる卵の中。何か入っている。

近くにある石でタマゴを割ってみた。すると…。

『残念!』

そう書かれた紙が出てきた。

ポカンとする二人。周囲のラッキーはまだまだ降りてくる。試しにフィーアのも割ってみるとそこには光り輝く調理用の肉『ラッキーの肉』がアイテムとして出てきた。そして一緒に

『ラッキー!』

と書かれた紙も入っていた。つまり先ほどのは『ハズレ』だという事だ。コマチは再びラッキーを捕まえタマゴを割る。

『ハッズレー!』

顔が引きつる。再度…。

『また頑張ろう!』

「ふっざけんなー! こん畜生!」

流石に切れた。

『うぉぉぉ!』と叫びながら付近にいるラッキーを追い駆ける。

それをみて苦笑するフィーア。

「ちょっと声が大きいけども…。でも、こういう騒がしいのもなんだかいいわね。私も手伝うわ!」

『はずれ!』

『残念でした!』

『大凶』

「おみくじか! ふざけんな!」

いくつの卵からハズレを引いたのだろうか。叫びながら走る。そして再びタマゴを割る。するとようやく。

「お、おお!?」

光り輝く肉を手に入れることができた。しかも先ほどフィーアが手に入れた大きさよりも何倍も大きい。

「大きいわね。これ大当たりよ! きっと。これだけあれば10人分の料理は…いやまだいけるわ。」

「まだ足りない。」

「え?」

なにせオキに大量のレアを持って帰ると約束したのだ。必ず持って帰る。それが約束だからだ。

「数をこなせばいいんだな。」

ようやく落ち着きを戻したコマチはアークスとしての血が騒ぎだした。

そこからは完全に作業だった。ラッキーを掴み、タマゴになり割って、あたりかハズレかを確認して次。

フィアも手伝ってはいたが中々でない。それどころか…

『素晴らしく運が無いな!』

『また、試したまえ!』

『ふむ。ハズレじゃないかな?』

「ドゥドゥー!」

まさかのドゥドゥのセリフっぽいのが混ざっているという。ドゥドゥとは。

彼はアークスの武器の強化を担当している人物だ。武器を強化できる人物は数が少なく、貴重とされている。

強化する際に独特な煽り文句を喋る為、アークス達からは好かれていない。

『なんなんだ!?』 『ふざけんな! 貴様はおよびじゃねーよ! かえれ!』 『ふざけんな! ちっくしょー!』

森の中に消えていく叫び声。何故かフィーアは笑顔だった。かなりうるさくしてしまったような気がするが。

そのことに気づいたのは粗方手に入れた後だった。

ともあれ、一晩中動き回り納得のいく量を手に入れたコマチは朝日を見ながらタバコに火をつける。

「これだけあればかなりの量の料理を作れるわね。」

「だな。そうだ。今回の礼もかねてうちのギルドのクリスマスパーティーに招待したい。こいつはそのための肉なんだ。」

目を見開くフィーア。何かおかしなこと言ったか?

「い、いいのかしら?」

「問題ない。リーダーなら間違いなく『あー。こいこい。連れてこい。人数は多ければ多い程楽しい。』というだろう。」

少し考えた後に首を縦に振ってくれた。

「わかったわ。お言葉に甘えるとするわね。」

にっこりほほ笑むフィーアの顔は朝日の光に輝いて見えた。

42層の『オラクル騎士団』ギルドホーム大会議室。そこには大量の肉料理がずらりと並んだ。

「ヤッホー! 食べ放題だ!」

「ちょっと乾杯してからよ!」

タケヤとツバキがはしゃいでいる。それを笑いながらみるレンとサクラ。

「なに、これまじでラッピー!?」

「まじかよ。とうとう食用になったか。」

「お肉さんもぐもぐ!」

報告した際にオキ達もラッピーの肉だという事に驚いていた。流石ミケ、相変わらず食べるのが早い。

フィーアはうちの料理人達と共に料理をして貰った。本人からの希望だった。まぁそもそもこの肉を使って料理をするのが目的だったみたいだし。ついでに料理人達との交流も深めた。

「ほう。こいつはすごい。」

「こりゃご馳走やな! しっかし、わいらもええんか?」

「ああ、うちのコマチが取ってきてくれたが相変わらず数を考えなくてね。せっかくだからみんなで食べよう。」

ディアベルやキバオウ達も呼び、ギルド連合の面々が集まって料理を口にした。

皆が舌鼓を打ち料理人達もA,S級食材を扱えて満足そうにしていた。

イベント中にフィーアはオキの勧誘の下、ギルドに加入。コマチのPTに入れられ前線火力役として活躍することになる。

なお、それでも余った食材はエギル商店に並び、かなりの量が取引されたのは余談である。あまりの量の多さにオキ達からため息と呆れ顔をされたのも言うまでもない。

ちなみに、余った分でフィーアが作った料理を一緒に例のじいさんに持って行ってやった。

じいさん、驚いて腰を抜かしていた。そして涙を流しながら食べているのをみてフィーアは笑っていた。

こういうのも悪くない。




皆様こんにちは。
アークスオキです。番外編のコマチ視点いかがだったでしょうか。ここで登場、ラッピーにドゥドゥのセリフ。
今作は少しだけPSO2要素を多くしました。
コマチは普段からうるさく叫ぶので罵倒部分も多くなっております。(本当に多いんですよ?

さて、PSO2の方では現在報酬期間で多数の効果UPが入っている為に絶賛レア堀と武器作成で大忙し。
ラムダグラインダーとメセタが溶ける溶ける…。どうしたものか。

では次回にお会いしましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。