SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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最終話 「ソードアークス・オンライン」

「決戦の時が決まった。」

シャオからの連絡でオラクル船団全域に緊張が走った。オラクル全ての敵、全宇宙を守るための決戦が始まろうとしていた。

艦橋に集まったオキ達守護輝士達はその作戦を再度確認していた。

内容は単純明快。邪魔するものを叩き切り、本体に乗りこんで特大の火力で一気に体力を削り、そしてフォトンとエーテルの融合体であり『闇』を浄化する力を持った刀『天叢雲剣』を使って全力全開の一撃をオキとマトイで【深遠なる闇】に喰らわせ浄化するといったモノだ。

地球の騒動で知り合った八坂ヒツギ。彼女が手にした闇を浄化する力を持つ刀、天叢雲剣を丸々コピー。オキとマトイに合わせて鍛冶師ジグによって調整されたモノを使用する。

「オキ、マトイ。この刀は元が一緒とはいえ、性質の異なるフォトンとエーテルの混合体。使えるのは一回だけだと思ってくれ。普通に使うならまだしも、君たちの力を合わせて使用するから強度がもたない。」

シャオから長い刀を一本受け取ったオキは、それをマトイに渡した。

「マトイがもっていてくれ。俺はみんなで暴れまくるから壊しちゃかなわん。」

「わかった。」

こくりと頷いたマトイは大事にその刀を背負った。

「こちら側もいつでも出撃可能状態まで完了しております。」

「アースガイド、マザークラスタ。どちらも100%準備完了したわ。後はそっちの合図で同時に参加する。」

元マザークラスタの幹部、フルとオークゥも地球との通信で準備が完了した事をこちらに伝えた。

星ひとつの問題ではない。全宇宙の問題である。つい最近まで敵対していたマザーも協力を申し出てきた。少しでも戦力の欲しいオキ達からすれば、ダーカーと直接殴り合える数少ない共闘者が増えるのは正直ありがたい。

「オラクル船団最終防衛ライン部隊、後衛援護、各種物資及び戦力の最終確認。…問題ありません。各シップ全て準備完了です!」

シエラの前にあるモニターすべてにグリーンのOKサインが表示された。

オラクル船団及び対抗出来うる技術、力を持つ全ての者達が準備を完了した合図だ。実際に敵を前にして戦う者達だけではない。

オキ達最前線の部隊を掩護する者、それに関連する者、全てが手を取り合い、一つでも何かが出来る者達が結束した合図である。

オキがその場にいる全員を見渡した。ハヤマ、コマチ、ミケ…は相変わらずどこから持ってきたのか骨付き肉を食べている。まぁ話は分かっているだろう。アインス、シンキ、クロノス、マトイ。そして地球からの協力者オークゥとフルも皆がオキに頷いた。

いつでも行ける。後は合図のみ。

「いけるぞ司令官。タイミングは任せる。」

『りょーかーい。オラクル船団だけではなく、全ての人達に対して連絡します。』

総司令、ウルク。かつてオキがシオンの力で助けた人物にしてオキ達関係者で一番最初の味方となってくれた一般人。今ではオラクルの管理者であったシャオの後をついで総司令官としてオラクル船団を引っ張る人物だ。ウルクの姿がモニターに映し出され、オラクル全てに発信された。

『これより私達は、全ての力をもって宇宙を喰らう最大の敵【深遠なる闇】浄化に向けて動き出します。時間は今から8時間後。短い時間だけどしっかり休んで、しっかり戦える準備を整えておいて。主力は守護輝士。最終防衛ラインに六芒均衡。この決戦にオラクルの、全宇宙の運命がかかってる。私は…こうしてみんなに指示を出すしかできない。実際に戦えないのが悔しい。だから、自分の役目を最大まで頑張る。だから、戦う人も、戦えない人も、みんな自分の役目を全うして頂戴。次のチャンスがあるか分からない。だから負けは許されない。全てがこの一戦にかかってる。みんな、お願い。オラクルの、全宇宙のために、頑張ろう! …それじゃあ全ての代表として守護輝士のオキ君、代表で一言お願い。』

ニッコリとほほ笑んだウルクの姿がモニターから消え、代わりに艦橋に立つオキの姿が映し出された。

「は? 俺!? いきなり振られても…。ったく。これもう映ってんだよな?」

シエラに質問するとコクリと頷いた。おい、なんでおめーらおれから離れるんだよ。さみしーだろ一緒に映れよ。

はぁとため息をついたオキは正面を向いた。オラクルの、手を結んでくれた全てのモノたちがオキを見ている。

「あー…。俺の話何ざ、耳半分で聞いてくれ。正直どーでもいい話だ。深遠なる闇ってーのは、みんなも知っての通り全宇宙の敵だ。」

オキは語った。オラクルの皆に、地球の協力者に。聞いてくれている皆に対して。

アレは何でも喰らって何でも無にしちまう闇だ。それをやっちまってる奴を、それになっちまった奴を、俺は知っている。アークスの面々は知っているだろう。記憶にも新しいはずだ。以前、皆の手助けで助けてもらったマトイ。彼女は俺の中に集まってしまったダークファルスの集合体を自らを犠牲にしてその身に受け、そして深遠なる闇になりかけた。それを助ける為に奮闘した奴が俺以外にも一人いた。それが今、深遠なる闇となったバカだ。頭でっかちで、真っ直ぐしか道はねぇと横も後ろも見ねぇ不器用な奴で、ただひたすらに自分だけでマトイを助けようと、何もかもを、自分までも犠牲にして、途方もない時間、歴史を繰り返し、彼女を助けようとした大馬鹿者が、アレの正体だ。俺は、マトイは、あいつを救いたい。倒すとか、殺すとかじゃなくて、救いたいんだ。だが俺だけじゃ救えない。マトイを含めても、ここにいるメンバーだけじゃそれはできない。…あーシンキは別な。こいつの力ははんぱねぇから救うを通り越して殺しちまうからな。

オキの言葉に周囲のメンバーがシンキを苦笑気味にみる。シンキは相変わらずニヤニヤしたままだ。話がそれてしまった。元に戻そう。オキは写っている正面を向いて頭を深々と下げた。そして懇願した。皆、手を貸して欲しいと。

原初の星シオンは、マトイを救ったときに言った。人類の勝つ歴史を知らない。だが、シオンはこうも続けた。マトイが救われた歴史もまた知らないと、新たな歴史を紡いでくれと。今、人は歴史を歩んでいる。原初の星シオン、全知全能であった彼女が知らない一歩を進んでいる。その一歩一歩を止めないように【深淵なる闇】を浄化し、新たなる歩みを進み続けようじゃないか。

オキの言葉が終わると、艦橋にいるにも関わらず、オキのいるアークスシップからの盛大な声援が船内に響いた。ほかのシップでも一緒だとシエラはいう。

オキはそれを聞いて最初は戸惑ったが、頷く仲間をみて気合を入れる。

「いくぞ皆。深遠なる闇を、大馬鹿野郎を浄化するために!」

オキの乗るアークスシップの会議室エリア。その一つの大会議室を改良して作られた一室にその者たちはいた。

「負けられないね。」

「そうですね。」

「オキの…想い。伝わった。」

「うん。私たちのできることをしよう。」

その場にいたオキの演説を聞いた惑星スレアの住人達は最後の調整に入るために再び向かう。ずらりと並んだ巨大カプセルへ彼ら、彼女らは入っていく。

 

 

 

作戦開始1時間前。オキは自分のチームシップを訪れていた。

ミケが連れてきた少女たちを眺めながら、佳子達と設置してある小さなバーカウンターで話をしていた。

「ほんと、不思議な人ですね。」

「人…?」

佳子の『人』という言葉に美優が首をかしげる。オキはミケが連れてきた少女たちのその後の話をしていたのだ。

「ミケはミケという種類だとあれほど。」

「あ、あはは…。」

口をへの字に曲げるオキのセリフに苦笑気味の琴音。

「オーキー… 時間だって。」

「マズター、お時間でございます。ご準備はあちらに。」

木綿季が心配そうな顔で先程から鳴り響いていた内線の伝言を伝えてきた。通信はぎりぎりまで切っていたので、とうとう内線まで回ってきたのだ。

アオイはオキのマイルームから必要な装備、そして道具全てを用意してくれた。

「おう。」

すっていたタバコを灰皿にこすりつけ、ひとりひとりの頭を撫でた。

「そんじゃ、いってくる。終わったらパーティだ。」

こちらをチラチラ見ていたエステルも、子供たちを連れてこちらに集まってくる。

ミケは病室にいる双子ともうひとりの少女の様子を見に行っている。よって彼女達生徒から伝言を受け取った。

「絶対に戻ってきてください。ミケさんの笑顔を、また見せてください。」

生徒一同を代表してエステルからの約束。オキは頷き、受け取った。

「心配すんな。いつものように出て、いつものように帰ってくるよ。一人もかけることなくな。」

オキがニコリと微笑むも、心配そうな顔は変わらない。オキはアオイからコートを受け取り、バサリと羽織りチームシップを後にした。

『必ず帰ってくるさ。』

いつも通り。いつもの戦い。何も変わらない。ちょっと違うことを最後にやるだけだ。

アークスシップの中心、出発地点のアークスロビーそこにはスレアの面々が揃っていた。

「和人に明日菜。お前達も来ていたのか。」

「ああ、いてもたってもいれなくて。みんなもそうだ。これから?」

オキはコクリと頷いた。集まってくれたメンバーは揃いも揃ってオキを見つめる。

そしてハヤマもミケも、コマチも皆がロビーの中心に集まってきた。佳子達もオキを追ってきたようだ。

オキは周りを見渡し、スレアのメンバーとアークスのメンバーがこうして揃ったことが久しぶりだと気づく。

「SAOを思い出すな。こうして皆で巨大な扉を前にして気合を入れたな。一つ一つの扉の先が生か死か。必ず生きて上り進む。またあれやってくれよ。ディアベル。気合いが入る。」

SAOでの名前を再び呼ぶ。そしてニコリと微笑む青年が前に出てくる。

「ああ、わかった。」

微笑みから険しい顔つきで再び声をだす。

「この先は、君たちアークスだけの歩みではない。我々スレアの人々も同じ気持ちだ。こうしてリアルで言うのも不思議な気持ちだが君たちは日常茶飯事だろう。」

必ず生き残る。ディアベルの言葉に皆がオキたちをみた。

ハヤマの隣にいるシャルが、ツキミが。コマチのよこでコマチを見つめるフィーアが。その後ろに立つファータグランデの面々。シンキに撫でられているリーファ、シノン。アインスの周りにいるSAOでの怪物兵団のメンバー。タケヤ、ツバキ、サクラにレン。SAOで世話になったリズベットやエギル。ALOやGGOのメンバーまで勢揃いだ。

「必ず帰ってこい。君たちの帰るべき場所はここだ。」

「行ってくる。」

キャンプシップへと向かったオキたちの背中を見送るメンバー達。

「さぁ我々も行こう。」

「ああ。オキさんたちを手伝いにな。」

「ぱぱ、まま。シャオお兄ちゃんから連絡です。スレア全域、準備完了です。」

「いつでもいいそうよ。フォトンのチャージも完了してるって。」

ユイとストレアがシャオからの受信を受けた。システムはオールグリーン。フォトンの貯蔵も十分らしい。スレアのメンバーはそれぞれが頷き、指定の場所へと向かった。

 

 

 

 

作戦開始時刻。シャオの演算のとおり、再びその姿を現した巨大な徒花はナベリウスの宙域で花を咲かせた。

オキ、マトイを筆頭に全アークスが作戦内容を確認し準備が完了する。

『これより浄化作戦を開始する。守護輝士達は【双子】のコピーが守る領域を一気に突破。【深遠なる闇】本体へと向かって欲しい。』

「あいよ。その間は他の面々が【双子】達とやりあうんだろ? 気ぃ引き締めてヤれと伝えておけ。」

オキ達は全力で【深淵なる闇】に火力を向けれるように【双子】をガン無視で本体へと向かう。その間はアークスや地球のメンバー達が【双子】の動きを止めることになっている。正直数がものをいう勝負になるだろう。

「ファータグランデの面々も遠距離からとはいえ、手を貸してくれるそうだ。」

コマチの言葉にオキが頷く。ダーカー因子を浄化できる力はあまりないとは言え、抵抗できるほどの力を持つファータグランデのメンバー達の力はコマチが認めるほど。これほど頼もしい助力はありがたい話だ。

「それじゃあ動きますかね! ミケ! タイミングを見計らって突っ込んでこい!」

「りょーかいなのだー!」

移動型決戦用揚陸艦竜ドラゴンフォートレスの頭に乗るミケに指示を出したオキはハヤマ達を率いて【双子】が沢山いるフィールドを見つめた。

相変わらずの巨体。ふざけているのかと思う城型の体躯。それが自由に動くのだ。普通なら踏まれただけでも人たまりもない。だが、アークスならそれを可能にする。

オキは一番薄くなっているフィールドの一部を見つける。どうやら【双子】に相当なダメージを入れている者がいるようだ。オキはそこを目指し、フィールドへと降り立った。

「おおおおおお!」

キャストのアークスが叫び、【双子】から飛び出たコアを二本の直剣で切り裂いている。いや、何かおかしい。あの戦い方はどこかで見たことがある。

「スイッチ!」

「やああぁぁぁぁ!」

別のキャストが二刀流のキャストの攻撃の隙を埋めるように細剣をコアに突き立てる。

すぐ近くにいる別のキャストも目に入った。別のコアを短剣で切り裂いている。

動くその姿にひとりの少女が重なった。

「…佳子!?」

「そうだよ。皆、ただ待っているだけじゃ嫌だ。そう思ったんだ。」

色のついていないキャストが後方から近づいてくる。一本の直剣を持ったそのキャストはオキの真横を通り過ぎ、11回の瞬速の突きを放つ。

「マザーズロザリオ!? 馬鹿な! なんで木綿季も佳子も…それにその姿は…。」

周りを見渡せば見たことのある戦い方の者ばかり。どう考えてもスレアのメンバーだらけだ。スレアの人々にはフォトンは扱えない。扱えないからダーカー因子を浄化できない。戦う力はなかった。

「あの子達は、自分たちも数に入れて欲しいって言ってきたの。あるシステムの構築ができないかってね。」

シンキがオキに微笑んだ。

フォトンの仕組みを理解するのはそう難しい話ではなかったという。シンキ講師の下で行われたフォトンの仕組み講座。わかりやすく、そして理解したあとに和人が考案したとあるシステムの概要。そのシステムをちょちょいと手を貸して完成させたシンキは『自ら戦いたい。手を貸したい。』と懇願してきた子達を見捨てなかった。

「命の危険は…ないのか?」

「安心しなさい。私が組んだシステムよ。万が一もあるわけがない。」

ドヤ顔で自信満々に言い放つシンキをみてそれでも心配になるオキ。

「飛んだぞ! 四方だ! 四方に逃げろ!」

指示をだす和人の声をだす色のないキャスト。

「みんなで何回も仮想空間で戦ったから戦い方はわかってるんだ。」

木綿季であるキャストが説明した。たしかにあそこなら練習も可能だ。スレアの、ここにもいない者たちもヘッドギアをつけて戦いに来ているという。

「行ってください。ここは、私たちに任せてください。」

「佳子…。わかった。」

声を聴けばわかる。彼女たちの意思が、決意が伝わる。それを無下にはしない。

オキはミケに合図を出し、フィールドをぬって飛んでくるドラゴンフォートレスの決戦フィールドへと飛び乗った。

彼女たちが、彼らが、その身に意識を入れるキャストのパーツはいつの間にかアークス皆に募集をかけられていたほとんど使用していないキャストパーツを組み合わせて作られた人形のようなものだ。

その人形にフォトン貯蔵した全てのアークスシップから分け与えられバッテリーのように使用され彼ら彼女らを守る領域を貼る。

そしてスレアのヘッドギアを使用し、意識をそのキャストに入れ込むのだ。

「エーテルまで使ったのか!」

通信にはエーテル技術を盛り込むことで不安定だった意思のタイムラグをなくすことに成功した。地球とのやりとりも無駄にはならなかったということだ。

戦えないスレアの住民も手を貸したい。貸しを返すために立ち上がったのだ。

フォトンを防御に回している分バッテリーの使い方なので攻撃に回せばすぐにフォトンは尽きる。そこでコマチの出番だ。

「武器はファータグランデで手に入れた武器を貸している。どうせ倉庫で眠っている武器だ。使ってやらんとかわいそうだろ。」

武器はコマチからの提供らしい。たしかに何度か見せてもらったあそこの武器はこちらで対抗できる力を武器自体が秘めている。

「古戦場で手に入れた武器がまさかこんな形で役に立つなんてな…。」

ぶつぶつと呟くコマチ。

「システム名は和人ちゃんがつけたわ。『ソードアークス・オンライン』というそうよ。面白いわね。ふふふ。」

SAO。まさかここでその名前を付けるとはあいつらしいというか。というかフォトンが万能とは言え、そこまでやるかよ何でもありだなフォトン。改めて可笑しいと思う。

おかげでより気合を入れることができた。

「そうそうに片付ける必要があるな。オキ君。」

「ああ。あいつらを戦いっぱなしにさせるのは不利になる一方だ。ったく、人の影でこそこそと何やってると思っていたら、そんなことを。」

「嬉しそうに笑ってるね、オキさん。」

「マスター見えてきたよ。」

クロノスの言葉に全員がその方向を向く。巨大な花びらを引っさげて改めて拝むその姿。

「決着をつけようオキ。佳子ちゃんも木綿季ちゃんも戦ってくれてる。」

「ああ、戦闘準備だ! 一気に吹っ飛ばすぞ! ハナから全力でいけ!」

マトイとオキの言葉にドラゴンフォートレスに乗る全員が力を貯め始めた。

 

 

 

 

二度目の決戦。今回の戦いは以前と違う。一人の追加。たったひとり。だがそれが一番大きい。

「頼むぜシンキ。以前みたいのまで出せとは言わねーから、それなりに手伝ってくれよ?」

「ふふ。この私が手伝うからには負けは許さないわよ?」

オキがフォトンで作り出した鎖の数々には先端に尖った短剣や短い刃が光り、ふよふよと深遠なる闇へとその頭を向けている。

シンキは相変わらず背中の何もない空間を歪ませ、数多の種類の武器を浮かせ、頭を見せている。

「ぶっつけ本番だが、アレやるぞシンキ。」

「りょーかい。力を溜めなさい。全てを貫く為に。」

オキの背後に立ったシンキはオキの援護に回る。オキはフォトンを最大限まで溜める為に集中に徹した。その間は無防備になる。そのため、その場に立つ全員の総力を叩き込むことにしていた。

「クロ! 動きを止めろ!」

「了解マスター。」

クロノスの背中に生える白き翼をバサリと広げ、クロノスは光り輝き始めた。

『「我、我が主『クロノス』の名を以てここに神格を解放する。我、我が主『クロノス』に代わり時空を乱す彼の者に裁きを下す。『天裁・時空神域(クロノスタシス)天裁・時空神域』」』

周囲にクロノスの、天使の羽が舞い上がり、ひらひらと宙に浮き光に反射し輝くその羽が舞う。クロノスは全ての時が停止した事を確認した。

『権能、行使。対象者、選定。』

時と運命の女神クロノス。同じ名を受け持ち、主に仕える天使クロノスはその名を以って止まった時の中で動ける者を選定する。

オキ、ハヤマ、コマチ、アインス、マトイ。シンキは時の概念から逸脱している為止めることはできない。ミケは、あの短剣の効力か、同じく止めることはできなかったが今回はどうでもいい。

「あまり長い時間は止められない。急いで!」

いくら神の使いだからと言って万能ではない。止められている時間も長くはない。

「ハヤマ君。いくぞ。」

「了解。いっくぜええええ!!!」

ハヤマがフォトンを吸収し、アギトを地面と平行に前へ突き出す。その直後に真っ直ぐに伸びていく光の槍が放たれた。

ハヤマの攻撃は何もかもを犠牲にして繰り出すたった一撃の強力なフォトンの突き。その反動すら見ずに繰り出すソレはハヤマの身にも襲い掛かる諸刃の剣。ただの突き。だが、それに圧縮されたフォトンの量は膨大である。

正直、ハヤマ自身気づいていない。本人は凡人だと思い込んでいる。元からイレギュラーにして、魔神より力を授けられたオキ。

ラグオルを救った英雄にして大剣豪のアインス。意味の分からない行動をしつつもその途方もない力を持っている事は理解が出来るミケ。文句を言いながらも涼しい顔をしてダークファルスと一対一で殴り合いのできる力を持つコマチはまだ何かを持っていると思っている。こうして時を止める事の出来る天使クロノス、破格の魔神シンキは言わずもがなだ。どうして自分だけがこのメンバー内にいるのか。理解不能だったハヤマはそれでも文句ひとつ漏らすことなく、努力を積み重ねていた。血のにじむ努力を。

「オメガブラストォォォ!!」

「だからこそ、その域に達することが出来たのよ。ハヤマちゃん。安心しなさい。私が保証してあげる。あなたは、この仲間にふさわしい力と意思の持ち主よ。」

オキの力を最大限に引き出せるよう、オキの背後で仁王立ちするシンキはハヤマを見つめる。オキはその言葉を黙って聞いていた。

時を止められた【深遠なる闇】は攻撃されたことを認識できていない。時が動き出して初めて認知することが出来る。喰らった猛攻が全て一瞬で【深遠なる闇】を襲う。そのダメージは計り知れない。

「あとは…頼んだぜ。隊長…。」

自らの攻撃の反動で放った反対側に思い切り吹き飛ばされた。シンキが宝物庫より取り出したクッションで受け止めなければ宇宙空間に放り出されたことだろう。力を出し切ったハヤマは、倒れ際に自分の前に立った男の背中に次を託した。

「ああ、任せろ。」

蒼く光るオロチアギトを両手で握りハヤマの攻撃の間溜めていた力を、放出した。

宇宙を渡り歩けば、必ず耳にする『四天の刀の伝説』。別の宇宙からスライドしてきたシンキも、その力を保持しているほど、その存在は力強い。

サンゲ、ヤシャ、カムイ、そしてその3本の全ての力をオロチアギトへ注ぎ込む。アインスの周囲に現れた3本の異なる刀は光るオロチアギトと重なり、やがて一本の刀となる。

周囲の気が震え、ビリビリと伝わるその圧力は少し離れたオキやシンキにも伝わってくる。

「貴様が咲かせる徒花に、私も一つ咲かせるとしよう。」

シンキの、観測者からの試練を受けた時、一本の光の筋をアインスは見た。原初の光さえも叩き切ったアインスは満身創痍となりながらも一つの答えを導き出していた。

使い手が人である限り、神に辿り着く事は不可能だ。巨大な力に人は耐えられない。必ず身体か武器が砕けてしまう。

ならば少しでも前に進むため、この手を届かせる為、奔流の中にあるただ一つの点、小さなその一点を斬り裂き貫き進む。それこそが四天の力を持つものならば辿り着く極地。

「そうよね、それに辿り着くわよね。そしてそれが、貴方の形ね。」

アインスの手に持つ刀は刃が大きく伸び、蒼色から黒と白に染め上げられた柄となる。シンキの所持する四天の極意の形。大剣『罪斬』。アインスはそれを刀として形作った。

「これは、『人の身で神を討つ』と言う罪を断つ許しの刀。よって名を『罪斬』と呼ぶ。ここでこれを使えば二度と使えなくなるだろう。本当は、もっと別で使いたかったのだが…。」

アインスは後ろで見てくれているであろうシンキを意識する。それを感じ取ったのかシンキもそれに反応し、フフとほほ笑んだ。

「だが、貴様に使うならばコイツも本望だろう。相手にとって不足無し。我が四天の力、受け取るがいい。」

大きく振りかぶったアインス。罪斬の刃は銀色に輝き一瞬光った。そしてアインスの両腕より繰り出される斬撃を、その場にいたメンバー全員が身を以て感じた。

「オオオォォォ!!!」

 

斬!

 

一回の横一閃。振りかぶり斬り裂いた直後にオキは見た。一瞬二つに分かれ左右横にずれた斬り裂かれた世界を。

「幻覚とはいえ…それを認識させる斬撃を繰り出すか。ふははは! 人よ! しかと見届けた!」

実際に斬ったわけではない。だが、それを認識させるほどの斬撃は観測者が認めるほどの力であった。だが、それほどの力を放って無事でいられるはずもない。パキンと小さく音を鳴らし、砕け散った罪斬は元のオロチアギトに姿を戻し、折れた姿をさらしていた。

「相棒よ、ありがとう。」

たった一言。短い一言で別れを告げたアインス。しかしその短い言葉の中にアインスが全ての感謝が詰まっている。

長い時を共に過ごしたアインスの愛剣であり相棒であったオロチアギトは華を開かせ散っていった。

「っく…まさか、世界を斬るなんて…ダメだ! 今ので…力が…!」

クロノスが抑えていた時が、アインスの『罪斬』により世界が斬り裂かれ、再び動き出そうとしていた。

計画ではミケ、コマチが後に続き始めて時を動かし、怒涛の勢いで放った攻撃を一瞬のうちに認識し、悶える【深遠なる闇】にオキいがシンキの援助を受けて止めを刺すつもりだった。このままでは足りないうえ中途半端に与えたダメージで【深遠なる闇】が暴れるかもしれない。

「ミケに任せるのだー。うらーなのだー!」

ミケが以前デウスエスカを討伐した際に振り回していた、見ているだけでぞっと背筋が凍りつくような感覚になる不可思議な短剣を、円を描くように振り、空間を斬り裂いた。

それと同時に時が動き出し、一瞬のうちに多大なダメージを受けた【深遠なる闇】が暴れだそうとしているところの真上に同じ円が発生する。そこから何かが大量に振ってきて【深遠なる闇】にへばりついた。おかげで【深遠なる闇】が暴れずに済んでいる。よく見ればそれはミケの姿をしているではないか。大きなフードをかぶり、そのフードの隙間からは三日月型に曲がった笑う口が見えている。

「どっきりナイツ!」

「「「なのだー!」」」

一斉に三日月形に笑う口をより曲げたと思いきや、それらのミケ達が同時に爆発した。小さいながらも強力な爆発で【深遠なる闇】を攻撃するミケはまだ止まらない。

「びっくりレンジャー!!」

再び短剣を振り回したと思ったら、今度はミケの真正面に円が出てきた。そこからは空飛ぶ小さなミケが大量に【深遠なる闇】へと向かって飛んでいく。唐突に爆発を喰らい、更に力を拡散させてしまった【深遠なる闇】は特攻してくる小さなミケ達にこれ以上攻撃を喰らいまいと高速で宇宙空間を飛び始めた。

「むむむ! コマチー! 何とかするのだー!」

「へいへい。そんじゃ、始めますかね。準備はいいか!? おめーら!!」

コマチの叫び声に答えるように、ドラゴンンフォートレスの下方から、コマチのファータグランデの仲間たちが乗る船、グランサイファーが飛び出してきた。

「合わせろ。…始原の竜!」

コマチが上に手を翳した。直後にコマチの身体が光り輝きだす。それと同時にグランサイファーにいる二人の少女も体を光り輝かせていた。

「「闇の炎の子…汝の名は…。」」

二人の少女がコマチに合わせて言葉をつなぐ。そして3人同時にソレを呼び出した。

「「「バハムート!!!」」」

呼び出す声と同じに何もない宙の空間から出てきた黒い影。巨体に大きな翼。黒い鱗に白く光る胸部。口からは青白い炎があふれており、顔部の先端には巨大な角がある。星晶獣と呼ばれる星々を作りしモノたち。ファータグランデにいる神にも匹敵するモノだ。

こまっちーこれ、プロバハじゃなくてアルバh…。これはバハムート? イイネ? ア、ハイ。

コマチとグランサファーの仲間が召喚した巨大なドラゴンは飛んで逃げた【深遠なる闇】を猛スピードで追う。そのスピードは巨体に似合わず、【深遠なる闇】にすぐさま追いついた。

「逃がさん。」

光り続けるコマチは更に力を増幅させる。【深遠なる闇】といい勝負の大きさのバハムートと呼ばれた黒き竜は【深遠なる闇】をしっかりとつかみあげ、口を大きく開き青白く光らせる炎と咆哮を同時に吐き出した。

「完全なる破局!!!」

やっぱりアルバh。じゃなかったバハムートの巨大な咆哮によって【深遠なる闇】はドラゴンフォートレスまで飛ばされた。勢いよく飛んできた【深遠なる闇】はすでに相当なダメージを負っている。今がチャンスだ。フォトンの量は十分に溜まった。

「オキちゃん。」

「行くぞシンキ。」

 

呼び起こすは宙の息吹。

 

原初を語る。天地は分かれ、無は開闢を言祝ぐ。世界を裂くは我が乖離剣。

 

 

お互い一緒に宙へと浮かび上がる。鎖が飛び交い、白と黒の光が入り乱れる。

大人しくしていてくれよ。全ては、この時のために。

 

 

人と共に歩もう、俺は。故に―――『人よ、星々を繋ぎとめよう(エヌマ・エリシュ)』!

 

光を以て鎮まるが良い。『光闇乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』!

 

 

 

二つのエヌマ・エリシュが放たれる。シンキのエヌマはあくまでもオキのエヌマの増幅であるが、その助力は莫大な力を生す。

オキのスピードとパワーは何倍にも膨れ上がり、鋭さを増し、並大抵の武器では簡単に傷をつけれない【深遠なる闇】の外郭を貫いた。貫いた後、重度なダメージを負った【深遠なる闇】は予測通り再び時を巻き戻し、修復をしようとし始める。

だが、オキの放った『人よ、星々を繋ぎとめよう』により鎖が邪魔をして時を戻せない。

「ふう。ただいまー。」

鎖でがんじがらめにして戻ってきたオキは、マトイの隣に並んだ。マトイはオキをみて背負っていた刀を鞘から抜く。

「準備はいいよ。眠らせてあげよう。」

「ああ、もう休んでもいいだろう。」

ドラゴンフォートレスの決戦フィールド上にその頭部を乗せ縛り付けられている【深遠なる闇】。その殻の中に引きこもっていた【仮面】の姿を二人は見た。

二人は一緒に刀を持ち、高々と振り上げる。フォトンを溜め、集中をする。

「「やああああ!!」」

二人は手に持つ一本の刀を振るい、【深遠なる闇】へとその刃を入れる。闇が裂け、光り輝いていくオキ達。【深遠なる闇】はその光に飲み込まれていった。

 

 

 

 

「…こうして、光と闇。二つの力の大いなる戦いは終わりを告げるのであった。」

一人の女性が小さな家の中で数人の子供たちに本を読み聞かせている。暖炉の前で、暖かくして聞かせるは大昔のおとぎ話。子供のころに誰もが知る光と闇の物語。そしてぱたんと本を閉じた。一つの物語が終わってしまったのだ。

一人の子供が手を挙げて質問をする。光の騎士たちはどうなったの? 幸せになったの?

この物語はその続きが無い。あるのは戦いが終わったという終末だけ。

「どうだと思う?」

女性は微笑み子供たちに聞き返した。そこから先は子供たちの想像力を育てるものに変化する。幸せになった。戦いはまだ続いている。子供一人一人違う想像を湧き立てる。

今日はここでおしまい。よい子は寝ようね。女性がそういうと子供たちは元気よく返事をして布団へと入っていく。

暫くして女性は家を出た。そして大きな翼を広げ、その家から飛び去っていく。6枚の黒い大きな羽は月の明かりが白く光り輝かせる。

「その後…ね。これは、一つの物語の終わり。でも、始まりの分岐点でもあるわ。ふふふ。」

木々の生い茂る森の上空を飛ぶ羽の生えた女性は誰に話しかけたのか。微笑みながら独り言をしゃべり宙の闇の中へと消えて行った。

これは、光と闇の、千年にわたる大いなる戦いの物語。数多に分岐する一つの物語である。




完結! 長かった!! 3年と半分ない位の長い間、お付き合いいただきありがとうございました。ここまで来れたのも仲間たちと読んで下さった皆様のお陰です。あちこち誤字脱字等様々な部分で読みにくい部分もありましたと思います。ごめんなさい。
やりたい放題やった! 書きたい放題かいた! そんな自己満足な身内用だったとはいえ読んで下さった方々、本当にありがとうございます。特に感想を書いてくださっていた常連の皆さま。感想を書いてくれる事が本当にうれしかったです。
何度も読み返していると『あ、ここ設定が違う』とか『なんか説明足りてない』とかまだまだあります。(いつかやろう…。
SAO原作なのに、途中からPSO2関係になったり、Fate関連混ざったり、ぐっちゃぐちゃにまぜこぜな作品になってしまいましたし、完結とはいえ、なんか『俺達の戦いはこれからだ!』的な終わり方の最後ですが、原因は次回作にあります。
既に書き始めている次回作「Fate/Grand Order Guardian of History」は、この物語の最後。【深遠なる闇】に天叢雲剣を突き刺すところから始まります。
その為このような最後となってしまいました。まぁそれも一つの形という事で許してください。
いろいろ思うところはありますが、こうして一つの物語を完結まで持ってこれたことを糧とし、次回作にこの勢いのままで書き続けていきたいと思います。

さて、最後の最後にタイトル回収。『ソードアークス・オンライン』というシステム。最後に何としてもできる限りこのタイトルを持ってきたかったという想いから生まれた代物でした。フォトン万能説を使った強引な内容ですが、なんかいままで共に戦っていた仲間が最後に大集合するって熱くね? って気持ちで書いてましたはいすみません。

最後に、ソードアークス・オンラインという物語はここで一旦は幕を閉じます。最後に書いたように物語の始まりの分岐点でもあります。オキ達の冒険は別の物語で、描かれます。もしよろしければそちらもどうぞよろしくお願いいたします。
(次回作「Fate/Grand Order Guardian of History」の第1話の投稿は、来週の土曜日朝8:00を予定しております)

ではまた、どこかでお会い致しましょう。

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