SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

149 / 151
第145話 「地球の未来を受け継ぐ者」

いくつもの龍の頭が切り裂かれ、破壊され、とうとう本体のみとなった地球意思デウスエスカ。

アークスの攻撃は更に勢いを増し、飛び出たコアを狙って刃を突き立てていた。

「滅び果てよ!」

デウスエスカの巨大な手が地面を抉るようにオキ達の側面から向かってくる。地面を抉り、木と土を混ぜっ返した物が津波のようにオキ達を襲った。だが、それをジャンプしたり、逆に近づいたりして隙間をぬって回避したオキ達は近づいてきたコアを獲物だなんだと好機と見て隙あらば自分たちの出せる火力を一点に集中させた。

『月の破片最終防衛可能ラインまであと4分です!』

シエラの通信がオキの耳に届く。眼鏡のレンズの片隅に表示させているカウントはどんどん減っている。

「っち。」

上空に飛んだシンキの目の前に、上空に回避することを読んでいたデウスエスカの光の槍が今まさに降り注ごうと空を覆っていた。

舌打ちをしたシンキは背中側の空間を金色に光らせ波紋を生んだ。その波紋からは剣を初め、槍、斧、槌、武器という様々な武具が顔を出しそれと同時に光の槍へと射出される。

「うおっ!?」

「きゃっ!?」

閃光が走り、それと同時に轟音と衝撃波が上空でクロノスに守られているヒツギ、エンガを襲った。

「マスター、早い所けり付けないとまずいよ。」

クロノスは上空を見ながらオキへと通信を入れる。まだ距離があるとはいえ、クロノスの眼には月の破片が多数地球へと向かっているのが見えている。

「わーっとる! はやまん、足元!」

「おうさ!」

ハヤマの足元に異様な土煙が発生し始めたのをオキが見た。下から何かをしてくる気だ。案の定、下から茨を生やし串刺しにするつもりだったのだろう。だが、ハヤマはすでにその範囲から抜けだしており更にはカタナを構え、一閃にてその茨を根こそぎ切り払った。

「んー?」

ミケは上空をじっと眺めている。そのミケの見ていた空を覆ったデウスエスカの巨大な剣は光だし、稲妻を放ち始めた。

「あぶない!」

マトイがミケの近くに走り寄って頭上に杖を掲げ、ラ・ゾンデを発動させた。傘のように広がり放たれた雷はマトイ、ミケを覆いデウスエスカの放った雷撃から二人の身を守った。

「ふう、あぶないあぶない。ミケちゃん、大丈夫?」

「ありがとうなのだー。ミケは大丈夫なのだ。ちょっと遊んでくるのだー。」

「え? あ、ちょっと!」

マトイの下を離れたミケはデウスエスカの腕を伝って体を登り始めて行った。

『デウスエスカ、体力あと少しです! 急いでください! 後3分です!』

3分を切った事をシエラの通信と目の前で回るカウントをちらりと確認したオキは迷っている暇はないと下から腕を振り上げた。

直後に何もない空間から一本の鎖が長く飛び出していく。それを握ったオキはその飛び出ていく鎖の勢いで体が引っ張り上げられていった。

「よっと、ほっ…!」

ある程度引っ張り上げられた空中にいる状態でまた別の鎖をオキの身体の周りから出してまた握ってはその勢いで加速していく。

「あれは…そう。そこまでできる様になったのね。」

シンキの口元が少しだけゆがむ。オキの出す鎖を見て、シンキはソレが実践で使用できる状態になっている事を認識した。

今度は左手のエルデトロスを勢いよく飛ばし別の場所に突き刺す。

オキの身体はそちらの方に引っ張られる形になるので空中で移動方向を制御、コアへと攻撃をするべく空中から強襲をかけることにした。

ガキンと音を響かせコアを斬りつけるも先ほどからの攻撃でわかるようにまだ固い。だが、着実に傷をつけているのは確実である。

「何故刃向う!」

デウスエスカの巨大な腕がオキの身体を強打する。身体の周りを飛び交う虫のように払いのけた。

「オキ!」

その様子を見ていたマトイが悲鳴のようにオキの名を叫ぶ。口から血を流し、空を飛ぶオキはデウスエスカのコアを睨み付けた。

「まだまだぁ!」

振り上げた両腕を力一杯振り下ろし、エルデトロスをデウスエスカの身体に突き刺したオキは離れていく体を空中で制止させ

、そのままエルデトロスのワイヤーを引っ張り自らの身体をデウスエスカに向けて飛び込んだ。

「プレゼントだ。受け取りな!」

オキの様子を見ていたコマチはいつの間にか背負っていた黒い直剣をやり投げのように投げ、デウスエスカのコアに黒い直剣を当てた。だが、それは弾かれ、空中でクルクルと回転をし始める。そこにオキが勢いよく飛び蹴りをかましてうまく柄の先端を踏みつけコアに剣を突き刺した。だが、突き刺しただけでまだ浅い。オキはくるりとその場で体をひねりある方面を見た。

「頼んだぜ。隊長。」

「任されよう。」

既に発射体勢になっていたアインス。片膝を地面につき、自分の身丈よりも長く光り輝く弓を構えたアインスは力強く引っ張っていた指を離した。放った衝撃波で地面に土煙があがり、猛スピードで飛んだ放たれた光の矢はオキの身体のそばをかすめて飛び、今まさにオキが突き立てた剣の柄の先端に真っ直ぐ命中し、その勢いで剣と一緒にコアへと深々と刺さる。巨大な何かが割れる音と閃光がその場に走る。

「ぐぉおおおお!?」

力の源であるコアを破壊され、それが決定打となりデウスエスカは巨大樹の下へと落下していく。月の破片防衛可能ライン到達まで残り2分をきろうとしていたところだった。

「まだ間に合う! シエラ! AIS起動しろ! 一気に吹き飛ばす! シエラ?」

「あ、いえ、その…。」

歯切れが悪いシエラに何があったというのだろうか。急がなくてはならないという状態でシエラが混乱している。

「オキさん、あれ…。」

「あん? …な、なんじゃこりゃあ!?」

ハヤマがオキの肩を叩き、上空をみると先ほどまで一直線にまっすぐ地球へ落下していたはずの月の破片が異様な動きをしていた。

その動きは落下しているはずの月の破片が急に横に移動したり、急に90度回転したり、そして何より異様だと感じたのは月の破片に色が付き、4つ接近し、くっついた瞬間破片が空中で消滅するというどこかでこんな何かがあったと思える光景が目の前で繰り広げられていた。幸い、消滅している関係で地球に落下はないうえ、消滅し損ねた破片は何かの力が働いているのか大気圏外ぎりぎりのラインで制止しているとシエラは言う。

「オキちゃん、あれ。」

シンキが笑いをこらえながら指をさす方向を見る。先ほどまで地球意思がいた場所、つまりオキ達がいる樹木の天辺の反対側に小さな短剣を振るうミケが見えた。踊りを踊っているかのように、時には剣を真っ直ぐ、時には横に、時にはぐるぐると空を回し短剣を振るうミケ。その動きに連動するかの如く、月の破片は動いているようである。

なんだミケの仕業か。そう思ったオキはその短剣をじっと見つめた。初めはただの短剣だろうと思っていたが、いつも振るっている短剣とは明らかにナニカが違う。

「マスター…あれ、やばいやつ。」

クロノスがヒツギ、エンガを地面におろし、クロノスが顔を青くしてオキに近づいた。詳細までは語ってくれなかったが、あれが何であれ、異様な力を持つナニカだと言うのだけはオキにもハヤマにもわかった。

シンキ曰く少なくとも運命を司るクロノスの主をも超える『運命を変える』モノだという事だけは間違いないらしい。

少し混乱した頭でまとめようと考え始めたオキだったが、すぐさま『まあミケだから』と考えるのをやめた。

次の瞬間だ。地面が大きく揺れ、先ほどデウスエスカが落下した場所に大きな光が立つ。そして樹と茨の混合したもはや原型が何か分からない『それが樹であろう』と思われる物体が急遽生えてくる。そしてそれがデウスエスカであるという事がその直後に理解できた。最後の悪あがきだろう。最後の力であっただろうその姿での顕現。化け物のような姿に成り下がったデウスエスカ、地球意思は巨大な蔦を振り上げてオキ達を狙う。だがそれを許さないものがいた。

「い~加減、しつこいのだー!」

ミケの声が大きくその周囲に響いた。かろうじて見えたオキはミケが短剣と思われるソレを振るうのが見えた。そして急激に落下し始めた月の破片が異様なスピードでその場に溜まっていく。ある程度たまったところで、ソレが開始された。

「にゃにゃにゃ!」

4つとなった一組が消滅する。そしてその消滅に連鎖するように別のが、また別のがと消えていく。

「ファイヤー! アイスストーム! ダイヤキュート! ブレインダムド! ジュゲム!」

ミケが呪文のようなものを唱える毎にデウスエスカの頭上に透明の何かが溜まっていく。丸いその物体はどんどん大きくなっていく。

よく見ると小さな丸い半透明の物体が大量に固まっているではないか。

「ばよえ~んなのだー!!!」

ミケの最後の言葉と同時に短剣を勢いよく振り下ろし、空を切る。それと同時に丸い半透明の物体が落下、バケツをひっくり返したような嵐のごとくソレはデウスエスカに降り注ぎ、再び下へ下へと埋めていく。

「いてっ やったなー。」

「げげげぇ 大打撃。」

「「うわぁぁぁ。」」

コマチとアインスが笑いながら棒読みで相手の心境のような言葉を落下タイミングに合わせて言っている。そして最後に特大の丸い物体が圧し掛かった。

「ばたんきゅーってな。」

「ははは。懐かしい。よく遊んだものだ。よく知っているな。」

「今でも覚えているモノだな。自分でも驚きだ。」

ふっふっふと笑いあうコマチとアインス。後に聞けばアインスの故郷ではやった落下物のゲームだという。なぜコマチが、ミケが知っているのかは聞かなかった。

半透明の物体によって再び落下したデウスエスカ。シンキはソレをみて腹を抱えて笑っている。クロノスは唖然と口を開けて固まっている。ミケは満足したようにどこからか骨付き肉を取り出してアグアグしだした。

ハヤマはため息をついて肩を下げている。オキとマトイはお互いの顔を見合わせ耐え切れずに吹き出し笑い始めたのをヒツギとエンガは呆然と眺めているだけだった。

 

 

 

 

「ぐううぅぅ…。」

「はい、オキちゃん。釣ってきたわ。」

シンキの黄金に輝く釣竿の針によって吊り上げられた地球意思は小さくなり、元のオキ達と初めて出会った姿に戻っていた。

オキはやりたい放題やった地球意思に言いたいことがあるとシンキに頼み、半透明の丸い物体に埋まったデウスエスカを回収してもらったのだ。

「よもや我が…外宇宙の者よ、なぜ…ここまでする。貴様たちは…関係…ないだろう。」

「ま、そういうとは思っていたよ。」

オキはタバコに火を付け煙をゆっくり吐きながら地球意思に向かって言った。関係ないわけがない。。

正直オキにとって地球なんてどうでもいい話である。本来ならば宇宙全部を滅ぼす力を持っている『深遠なる闇』との戦いに備えていたはずなのだ。それをマザーが横からちゃちゃを入れてきた。解決しそうなところをアーデムがじゃまをし、地球意思が顕現した。邪魔をされたならやり返す。友が困っているから、せっかく繋いだ縁を消したくないから、こうしてオキ達は牙をむいたのだ。

「地球は正直どうでもいい。だがな、そこに住む友は大事だ。大事なものは守り抜く。」

「そう、か。この地に住まう人は、守られる価値があるのだな。そうか。」

地球意思は満足したように先ほどまでとは違う優しい声を発し、体を光り輝かせ始めた。

「地球の民よ、人の力を今一度信じよう。外の、はるばる遠くより来た客人が価値ある者と言ったのだ。」

「ああ、失望はさせねえように頑張るよ。」

「うん。絶対に。人は歩いて行ける。彼らに頼りっきりにならないよう頑張るから、だから見守っていてほしい」

「ならば、よい…。地球の未来、任せたぞ。地球の子らよ…。」

ヒツギとエンガの言葉に地球意思は『意志』を感じとり、光り輝きながらその姿を消していった。周囲の光景も光の粒子となっていき、次第にアーデムが神を降臨させた地下遺跡の最奥の広間に戻って行った。

地球意思からアーデムの姿に戻ったアーデムはドサリとその場に力なく倒れた。

「アーデム!」

エンガが走り寄り、アーデムの身体を起こした。

「エン…ガ…。僕…は…。僕…は、ダメ…だった…みたい…だね。」

「ああ。お前の負けだ。大人しく眠っていろ。そして、お前が諦めていた未来をお前をぶち破った俺達がどうするのかを見守っていてくれ。」

小さく微笑んだアーデムはコクリと小さく縦に頷いて力なく崩れ去った。身体は光の粒子として拡散し、空中を少しだけ漂い、消えて行った。

 

 

 

 

 

それから1週間程経って、地球でのいざこざがようやく落ち着きを見せたある日の事。

そこにいるのはオキ、シエラ、マトイ、エンガとオークゥ、フルである。

アルの中に残っていたマザーは、意思機体として活動はできる様で、アークスにかけた多大な迷惑を全アークスに向けて謝罪させ、最終的にエーテルを管理するモノとして月の元いた場所へと戻った。月はデウスエスカによって半壊したが、マザーの本体である部分は無事だったため、それが可能となった。アラトロンはその共として常に隣にいることにし、残ったマザークラスタをまとめ上げる事になった。

今回の騒動で壊滅しかけたアースガイドはマザークラスタと合併することで二度とこのような事が起きないようファレグ監視の元エンガを新たなアースガイド側の長として二つの組織が一つの地球を守る動き始めた。

また、それぞれの連絡役としてオークゥ、フルのペアはアークスシップ側に残る事になった。

「なんで私達が残らなきゃならないのよ…20%意味わかんない。」

とオークゥは言っていたが、フル曰く内心とてもうれしそうだと言っていた。フルは最近よくクロノスの下を訪れているとオークゥが教えてくれた。人見知りするあいつが懐く人が現れるとは珍しいものだ。

発端であるアークスとして登録されていないモノの侵入。地球からのログイン者であり良くも悪くもフォトンは扱える1アークスとしては戦力になるうえ、マザーにより覗かれる心配もなくなったのでそのまま維持することにし連絡役としてアークスシップ側に残る事になったオークゥ、フルによって地球側からのログイン者の管理もしてもらうことになった。

「と、言うわけで、無事に地球での騒動は解決です! お疲れ様でした!」

シエラの歓喜の声が艦橋に響いた。ぱちぱちと手が鳴らせているのはシエラとマトイだけだ。エンガは苦笑しっぱなで、オークゥは『ううう、嬉しくない!』と顔を赤くしながらフルを追いかけ、フルは「オキと一緒で嬉しいっていってたじゃない」と言いながらオークゥから逃げ、オキはため息をついていた。

「まとめあんがとよシエラ。おらそこ、静かにしねーか。エンガ、連絡あんがとさん。これから大変かもしれんが二度とこんなことが無いように、まぁ無理せん程度にやれ。」

「ああ、いろいろ助かったぜ。」

「ヒツギちゃんは今日は来てないの?」

ヒツギの事をきいたマトイ。ヒツギは学生生活に戻ったそうだ。時々アースガイドの方面を手伝てくれるらしく、彼女の親友コオリはマザークラスタの方をヒツギの手を煩わせないように手伝うらしい。

そっかとそれを聞いたマトイが少しだけ寂しそうにつぶやいた。どうやら一緒にお茶の約束をしたらしい。

エンガは落ち着いたらまた遊びに来させるよというとマトイは笑顔でうなずいていた。

「オキさんの方はどうだ?」

「ああ、俺の方か…。」

準備はほぼ整っていると言っていい。対『深遠なる闇』討伐に向けてアークス全体が動いている。演算を行っていたシャオも、もう暫くでその演算を終わらせそうだとシエラは言っていた。深遠なる闇を倒すための演算。オラクル船団の母船に籠りっきりのシャオがそういうのだ。決戦の時は近い。

「俺達もできる限り手を貸すよ。こっちがこんな状態だが、あんたらがやられたら俺達もやばい。他人事じゃねぇからな。」

「私達も、ね。マザーの意思だよ。」

「そうね。あんたが負けたらこっちにまで被害が及ぶんだから、私達も手伝うわ。何かしらの力にはなれるはずよ。エーテルは元は一緒なんでしょ?」

いつの間にか落ち着いていたオークゥ、フルもオキとマトイに手伝う申し出をしてきた。

オキからすれば人ではあるだけありがたい。総力戦になるのは間違いないからだ。

「ああ、たのむ。絶対に倒すぞ。」

その場にいた全員が頷き合った。




皆さまごきげんよう。
ようやく地球編の完結を迎える事が出来ました。この作品もラスト2話となりました。
今まで長い間ありがとうございます。もう少しの間お付き合い頂ければとおもいます。
既に書き始めている次回作については、次回にて告知したいと思います。
では、また次回にお会いいたしましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。