SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

143 / 151
第139話 「星空教室」

「そんな…マザーが…。」

「そ、そんなの100%信じられない!」

「…オフィエルめ。なるほど。合点がいったわ。あやつ、最近不穏な動きをしておると思っておったが…。」

マザーからアルを取り戻し、ダークファルスを浄化することに成功したオキ達。一件落着かと思いきや急に現れ、今まさに和解しかけた所にアースガイドの長、アーデムが現れマザーの腹部をその手に持つ剣で貫いた後、アーデムに逃げられた。

その出来事をアークスシップにて傷を癒してもらう為にコマチが連れて帰っていたアラトロン、そしてオークゥ、フルに伝えた。

勿論3人は動揺した。自らと一緒にいた同じ陣営の男が敵側におり、更にはマザーを裏切ったのだから。

「すまん。じいさんと約束したんだがな。」

「よい。おぬしのせいではない。あのアーデムとかいう男と、あのバカのせいなのじゃからな。」

「マスター、目的はなにかきけた?」

オークゥ、フルを看病していたクロノスの質問にオキは口を開き、アーデムの目的を話した。

そのときの状況、数日前の内容をもう一度踏まえて。

「おや? みなさんどうしたのですか? そのような顔をして。やっとたどり着いた共通の敵を倒せたのですよ? もっと喜びませんか?」

笑顔を崩さないアーデムに対し、オキはギロリと睨み返した。

「アーデム。なぜ切ったとは聞かん。だが、一つ教えてほしい。じゃあなぜその共通の敵の部下であるそこのおっさんと一緒にいる。」

アーデムの後ろに控えにやけ面をしている男。水の使徒オフィエル。マザーの使徒を名乗りリーダー格として幹部たちをまとめ上げていた認識でいたオキは二人が一緒にいる事に疑問を持った。

それはマザーも同じだ。信じて引き入れたオフィエルが自分を裏切って敵であったアースガイドについているオフィエルに驚きを隠せなかった。

「オフィエル…お前…なぜ!?」

「簡単な事ですよマザー。私は元からアースガイドの側。所謂スパイと言うやつです。」

「あなたの役目はここで終わりです。後は私に任せて…。」

床に崩れているマザーの横腹を再び剣で刺したアーデムはにこやかにほほ笑みながらマザーに言い放った。

「眠ってください。」

「マザー!!」

ヒツギの叫びもむなしく、マザーは光の粒子となり、そのままアーデムに吸収されていった。細目で見ていたシンキがアーデムをにらみながら一つの言葉をつぶやいた。

「そう、それがあなたの目的ね。フォトンとエーテルの融合体であったマザーを私たちが破り、そしてそれを横からかっさらう。元からすべて計画の内、そういうわけ。ふーん。」

シンキの眼にはその答えが見えていた。

「ご明察です。そしてわたしはこの力を使い、人の進化を促す。それが私の目的であり、やらねばならぬ使命なのです。」

「人の進化だと? アーデム、お前はこんなことをしてまで、それが出来ると思っているのか?」

エンガがアーデムを睨み付けながら聞いた。この中で一番驚いているのはエンガだろう。アーデムとの付き合いは長く、友人のように親しんでいたと本人は言っていた。

「ええ。今までに何千何万という年月繰り返してきましたから。」

「何千何万?」

オキやハヤマ達は顔を見合わせた。どうもオキ達がイメージしていた『ただの人』であるアーデムではないようだ。

アーデムは過去、幾万もの間人々の中に紛れてその人の進化を促してきた。

時には何気ない書物をたくさん書いていた時、時には後世に伝えられた内容に偏見があった際は名前を変えて再び訂正したり、また魔術師をしていた時もあったそうだ。その時にいた円卓の騎士たちは伝えられている内容よりもより屈強で、それでいて皆人の話をなかなか聞いてくれなかった。

「円卓…騎士? まさか、アーサー王?」

「ああ、懐かしい名前ですね。…あの人はなかなか、人のお話を聞かない、人の心がわからないと言われたほどの王でしてねぇ。」

「アーサー王?」

オキがヒツギに聞いた。アーサー王。かつて地球のブリテンと呼ばれる場所に生きていたと言われる伝説の王様の名。

円卓の騎士と呼ばれる数々の騎士を束ね、ついた名前が『騎士王』と言うようだ。だが、このお話は伝説上のお話。

仮に実在したとしても数千年もの昔のお話だ。やはり彼は何年も生きてきた。じゃあいったいいつから?

「お前さん…一体何年生きてんだ?」

オキの質問にうーんと頭を悩ませはじめるアーデム。

「そうですねぇ。もうかれこれ歳を数えるのはやめましたから…。ああ、ヒツギさんの故郷である日本にもいましたよ。ええっとあの時の名前はなんと呼ばれてましたか…。確か…あべ…あべ…。」

「安倍? まさか、安倍晴明!?」

ヒツギの名前にようやく思い出したと言わんばかりにアーデムは手を叩いた。

「そうです。あの時は戦乱時代でしてねぇ。人の心が映し出し妖が多数出現していましたから…。」

くすくすと笑うアーデム。

「アーデム。お前、これからどうするつもりだ。」

エンガの質問にピタリと止まったアーデムはエンガに手を差し伸べた。

「エンガ。以前にも言ったはずです。人の進化は止まってしまった。昔は人は輝いていた。いついかなる時も生きる為に困難に立ち向かって生きていた。その時の人々は眩しい位さ。そうして進化してきた。僕はその眩しさが大好きだった。だが、今の人々はどうだい。惰性で今の時代を生きている。昔の輝きは今や無くなってしまった。進化を続けていた人は完全に立ち止り、その眩しかったのも今では過去。このままではこの星の未来はない。だから、僕が進化させるしかないんだ。そしてエンガ、僕には君が必要だ。だから一緒に来てくれ。」

差し伸べた手をエンガはじっと見つめ、そして微動だもせずに返答をした。

「その顔、戦力を増やしたいというおべんちゃらじゃなく、本気だなアーデム。俺はあんたを親友だと思っていた。俺をアースガイドに入れた時、一緒に地球を守っていこうと誓ったとき、俺はあんたを尊敬していた。だが、今やそれもわからねぇ。だが、これだけは言える。あんたは間違っていると。だからついて行けねぇ。」

「そう…そうか。残念だ。」

アーデムの顔は先ほどからの微笑みを崩してはいない。だが、少しだけ本当に寂しそうな顔をしていたとエンガは感じた。

その時、空中より高速で接近してくる何かをオキは見た。

「はあああああ!」

「!!」

黒のドレスを着た女性がアーデムに空中から飛び蹴りをかましたのだ。間を入れずにそれを受け流したアーデムはその蹴りを入れてきた人物を見て、目を見開いた。

「おお! アイヴズ、久しぶりだね! 何年振りかな、こうしてお互いに姿を見たのは! ずいぶん会ってないように思えるんだけど。」

「実に数百年ぶりです。最後にあなたを見たのは籠って錬金術にばかりかまけていた時ですよ。」

マザークラスタの火の使徒、ファレグ。彼女がいきなり割って入ってきたのだ。そしてどうやら彼女もただの人ではないようだ。数百年ぶり。彼女はそういった。つまりは彼女も過去より彼と同様に生きていた事になる。

「あれ、もうそんなに経ったっけ? 確かその頃は…そう! パラケルススと名乗っていた時代だ。」

「ええ、そうですね。そしてそのまま籠っていた家ごと蹴り飛ばしたのもお忘れなく。」

パラケルスス、あの錬金術の? とつぶやいたヒツギにオキが後で聞いてみた。

パラケルススとは昔、錬金術を研究していた人物だという。この人物も先ほどからアーデムが語っていた過去の人物だという。

目の前で急に戦闘を開始したファレグはアーデムとやりあい始めた。お互いにただの人とは思えない動きで動く二人。終いにはアーデムは5人に分身してファレグに切りかかった。だが、そのファレグも負けずスピードとパワーで圧倒する。

「やりますねぇ。だから魔人と呼ばれるんですよ?」

「ただ単に修行しただけです。相変わらず人がなんだと言っているみたいですが…。」

立ち止ったアーデムとファレグ。その瞬間、アーデムのすぐ後ろ、後方の空間が裂け、何かが出てきた。そして、アーデムはソレに頭をパクリと食べられてしまった。

その光景に誰もが目を見開いた。パックリとくわえられたアーデムも動かない。

「は?」

オキの力の入らない声に我に返り、ようやくアークス達はそれが何なのかをようやく理解する。全てを把握したのはシンキだけのようだ。お腹を抱えて笑いをこらえているのか震えている。

もっきゅもっきゅと口を動かし、咀嚼しているソレがアーデムを引きずりながらゆっくりと裂けた空間から出てきた。空間から出てきたのは惑星ナベリウスにいるはずのファング・バンサ。その頭の一部が黒く焦げ、剥げているのを見るとミケの配下にいるキマリ号だ。キマリ号がいるという事はつまりその主もいる。

「キマリ号、何を食べているのだ。そんなの食べたらお腹壊すのだ。ぺっするのだ! っぺ!」

キマリ号の長い鬣の中から現れた小さな人物。猫耳の出たフードをかぶり顔を隠しているは、ミケである。その後ろには小さく顔を出している少女達が数十名一緒にキマリ号の背中に乗っていた。

まるでまずいと言わんばかりにアーデムを吐き出したキマリ号はのっしのっしと歩き、オキの目の前まで歩き、そして頭を下げた。

「ミケ!? お前、どこに行っていたんだ…それになんであんなところから…んでもってその子らは?」

「質問は一つずつなのだ。気が付いたらここに出ただけなのだ。ミケはなにも悪くないのだ。」

ミケはどうやらどこか違う場所、違う世界に飛んでいたようだ。理由は分からないらしいが笑いをこらえながらシンキが答えた。

流石一度見ただけで答えが分かる能力『全知なるや全能の星』を持つシンキである。その効力は一瞥するだけで見た物の解を出すことが出来るルーサーもびっくりな万能な能力。これについて知ったら標的がシンキに移る危険性すらあった全知能力…なのだが、大きな欠点があるという。

演算無しで解のみを出すので、本人だけしか解を知る事が出来ない。また、演算無しの為、何故そこに至ったのかなどの過程を知る事も出来ない。この能力で仮面の正体について看破しているし、今回のオフィエルのマザークラスタ側ではなく、アースガイド側についていたとも、マザー決戦直前のやり取りの最中、モニターが見えなくなっているにもかかわらず、アーデムの横にオフィエルがいた事を看破していた。ならばなぜその事をオキ達に伝えなかったか。それは彼ら、彼女らがその手で、オラクル宇宙の運命はオラクル宇宙の人々によって解決すべきと考えているからである。それをオキも知っているからこそ深くは追及しない。

「アーデム卿!」

キマリ号の涎でべとべとになった顔をハンカチで拭きながらヨロヨロと立ち上がるアーデムに肩をかし、彼に傷一つついていない事をオフィエルは確認した。

「あら、アーデム? 少しは色男になったんじゃない?」

ファレグも笑いをこらえているのか少しだけにやけながら肩を震わせつつアーデムを見ていた。

「ああ、心配しなくていい。大丈夫、舐められただけだ。…エンガ、残念だ。本当に、残念だよ。」

「悪いがここで引き揚げさせてもらう。また会える日を楽しみにしているよ!」

アーデムとオフィエルはそういいながらオフィエルの力、空間転移でその場を去って行った。

「あ、逃げられた。」

「オキ! そんなことはどーでもいいから、この子を早く治すのだ!」

ミケがオキのコートを引っ張り、キマリ号の背中に乗っている少女たちを示す。目に怪我をしているのか、目に包帯を巻いている子が一人。また、服が汚れていたり、ところどころ焦げていたりとあまりいい状態ではない少女達を見てこの場はすぐに撤退するしかないと判断した。

「オキ君。一度ここは戻ろう。相手の情報が少ない状況だ。深追いは禁物だろう。」

「隊長…。わかった。そっちはどうする? お姉さん?」

オキがファレグを見ると少し深呼吸をしてその震えを抑えていたファレグがオキの方を向いた。

「ええ、私の目的はアーデムの目的を阻止する事。それは今も昔も変わりません。ですので、ここは共闘と行きましょう。」

「というわけになったわけさ。」

人の進化を自ら行う。それがアーデムの目的であり、その目的のためにマザーを利用した。それが答えだとシンキは言い、ファレグは肯定した。

「融合体の力をどうやって使うか、進化なんてどうやって行おうと言うのかわかりませんが、間違いないでしょう。」

「マザー…。」

「あんの80%おやじめ…。」

「フル、言葉使い悪いよ? でも、オフィエルは許せない。こんな状態じゃなきゃ、すぐにでも探すのに…。」

「しばらくはアークスの力に頼るしかないの。すまぬが、よろしく頼む。」

未だにマザーが目の前で殺された事実を受け止めきれずにいるコオリにオークゥ、フルは怒りを露わにし、アークスの助力をアストロンは求めた。

「体が戻れば、すぐにでも場所を突き止めよう。なに、オフィエルがそばにおるんじゃったら、奴の居場所なぞすぐに見つかるわい。」

「じいさん頼むぜ。俺達もアークスの力を使ってあのバカ探してるんだが、如何せん情報が少なくてなかなか身動きが取れん。あんたらが頼みだ。」

オキはそういってクロに引き続き看病をお願いし、ファレグを連れて病室を出た。

マザー決戦後、アースガイドは二つに分断したそうだ。アーデム側についたアースガイドの構成員はアーデム、オフィエルごとどこかへ雲隠れし、アーデムに付かなかった者達はアースガイドの本部もろとも壊滅したという。壊滅させたのはアーデムだという。

「アーデムめ…。」

壊滅状態にあった本部を目の当たりにしたエンガはアーデムへの怒りを拳で握りしめ抑え込み、オキにお願いをした。

「必ずあいつに一発殴らねぇと気が収まらねぇ。だが、俺達じゃあいつの元にたどり着けるかすら怪しい。頼む。俺達に協力してくれ。」

オキはそれを承諾し、かならず一発殴らせてやると言った。エンガとヒツギは壊滅した本部に残った人々の救援を行う為に本部に残った。

「すまんね。あんたがいた方が信憑性上がると思ってよ。さて、これからあんたはどうするんだい?」

隣を一緒に歩くファレグをちらりとみたオキ。ファレグは相変わらず細目のまま、オキを見た。

「そうですね。私は私なりに彼を追ってみようと思います。いくつか候補がありますので。なにかわかりましたら連絡いたしましょう。」

「わかった。んじゃぁ、地球への連絡船手配するから、なんかあったらおせーて。」

オキは次にミケのもとへと向かった。急に現れ急に連れて帰ってきた少女たち。ミケは誰になにを言われたわけではなく、自ら彼女たちを助けたそうだ。

ミケがそもそも他人に興味持つこと自体がオキとしては興味深い。自分たちについてきているのも興味本位であると言っていたミケの普段の行動を見ていればそれがわかる。他人の事は一切のお構いなし。なにを考えているのかわからない。そもそも人助けという事を自ら行おうとしないミケだが、それらを踏まえても今回の行動は異様である。

「ここか。」

医療施設の一角にある集中治療室。そこにはミケの助けた少女たちの一人が眠っている。目に包帯を巻いていた少女。ミケが連れてきた少女の中では状態は一番最悪だった。

「フィリアさん。」

「ああ、来てくれたのね。安心して。ステラちゃんの目の中にあった異物はすべて取り除いたわ。」

不機嫌そうに言うフィリア。大きなカプセルに眠る少女。名をステラと言うらしい。言葉はしゃべれる上に常に笑みを浮かべ微笑んでいた少女は、眼に鉛を流し込まれていた。

ミケに聞けば連れ出した時にはそうなっていたと言うだけで理由は分からない。むしろよくあの状態で生きていたものだ。

連れて帰った直後、その状態をみたフィリアは困惑したという。

「普通、鉛をあのような状態にするには意図的に流し込まなきゃあんな状態にはならないわ。鉛の鍋に頭から突っ込んだとしても、綺麗に目の部分だけ鉛が流れてくるわけないモノ。つまり、誰かが意図的に流したか、自ら流したか。…でもステラちゃんは自分ではないと言っていた。」

つまりは誰か、彼女ではない誰かが、彼女の眼に鉛を流し込むというアークスであるオキでも恐ろしいと思う程の行為を行ったのだ。フィリアはその事を理解した途端彼女の眼を何としても治して見せると決意したそうだ。

「絶対に許せない。でも誰が犯人かもわからないし…出来る限り彼女の眼は治して見せるわ。」

「すまん。お願いします。」

少しだけ彼女が入っているカプセルに近づき、中をのぞいた。頭に大きなヘルメットのような機械を取り付けられ、静かに眠っている。眼を完全に復活させるのは無理だろう。だが、彼女の意思とオラクルに技術であればまた光を見ることも可能だと言う。必ず、治してほしいものだ。

「エリスちゃんとレインちゃんは今の所問題ないわ。もう少し様子を見たら青空教室の子たちの所に行かせていいわよ。」

フィリアは再び端末を操作し始めた。ほかのスタッフもテキパキと動いている。

ミケが助けた少女たち。それは3つの場所から助け出したという。一つは盲目の少女ステラを助けた場所。そこではもう一人エリスという彼女の妹と共に連れてきたという。

次にレイン。助け出した少女たちの中では一番活発な少女だと思われるが、助けた状況が危なかったそうだ。

大人が多数、寄ってたかって彼女を囲い、ミケが助けなければその中にいた銃を持った男に撃たれていただろうとシンキは彼女を見てそう答えた。なぜそうなったかは気にはなったが、シンキではその過程は分からない。本人に聞けばわかるだろうが、掘り返していい過去でもないだろう。

ステラのいる病室のすぐ隣の部屋にエリス、そしてレインは二人でおしゃべりしていた。入ってきたオキに気づいた二人はぺこりと小さく頭を下げた。

「どうだい? 調子は。」

「うん! だいじょうぶ! お姉さんたちがおいしいごはんいっぱい食べさせてくれたから!」

元気いっぱいに答えたのはエリス。先ほどの盲目の少女ステラの妹だ。ミケが連れてきたときは栄養失調気味で元気もな下げだったが、やはり若い子供はすぐに元気になりやすい。

「うんそうか。だがあまりはしゃいじゃダメだぞ。すぐ体壊しちゃうからね。えっと確か…。」

もう一人の少女は小さくレインと自分の名をつぶやいた。ステラ、エリスよりも年上と思われる少女はまだ元気が無さそうだ。

「アタシも大丈夫…その、前もいったけど、アタシお金持ってないんだけど…。」

どうやら気にしているのは現状の事みたいだ。そりゃいきなり連れてきて病室に問答無用で入れられ、ご飯もきっちり食べさせてもらっている。気になるのは仕方ないだろう。

「別にかまわんとも前に言ったはずだ気にするな。助けたのはこっちだからな。ちゃんと後の面倒も責任もって見るさ。それに、レインちゃんのいた世界のお金が仮にいっぱいあったとしても、俺達の所じゃ何の価値もないガラクタにすぎない。だから何もいらない。」

「じゃあなんで…。」

「んー…。こいつはある物語のセリフでな。俺が好きなセリフの一つなんだがそれを借りると、『助けるのに、理由がいるかい?』 …なんか前にも同じこと誰かに言った気がするな。」

苦笑気味になるオキに、レインは未だに納得が出来ない顔をしている。暫くはこの状態だろうが続ければ納得はしてもらえるだろう。

「ねーねーおにいちゃん。」

エリスがオキのコートを引っ張ってきた。

「ん? どうした。」

「おねーちゃん、元気になるかな…?」

姉であるステラを心配しているのだろう。元気な顔を見せてはいるがそれでも姉があの状態だ。心配もする。

「安心しろ。ここにいるすっごく優しい看護師さん達が治して元気なお姉ちゃんにしてくれるよ。だから、エリスもそれまで元気でいようね。」

頭を撫でるオキにエリスはうんと元気よく返事を返した。

「レインちゃんも、いいね?」

「うん…。わかった。」

小さく頷いた頭をポンと軽く撫でてあげたオキはミケが助けた3つの場所から連れてきた最後の少女達の場所へと向かった。

青空教室の子とミケが言っていた少女達。現在はオキのチームシップにて過ごしてもらっている。

病室の外にでたオキは転移装置をぬけ、チームシップの中に入ると騒がしい声が耳に飛び込んできた。

今まで滅多の事が無い限り使用されることのなかったチームシップ。SAO事件後は攻略クリア祝いに使った後、不定期ではあるが惑星スレアの友人たちがオラクルに遊びに来た時に使う程度。そんな場所に少女たちの声が響いていた。

「にゃははは! つかまえてみるのだー!」

「まてー!」

「まてまてー!」

どうやらミケを追いかけているらしい。その直線状にいるオキの姿を見たとたん走るのをやめ、一瞬だけ頭を下げたと思った矢先、すぐに他の少女たちのもとへと移動してしまった。

「あとは任せたのだ!」

「え? あ、おい!」

ミケはジャンプしてオキを飛び越えると転移装置でどこかへと飛んで行ってしまった。

一息ため息をついたオキはグルリとシップの広いホールを見渡した。何十人もの人が座れる横長の椅子。中央にある檀上。その先にある巨大な緑に光る木。それをグルリと囲むように広がる広間に、巨大な窓。その窓の近くに少女たちは固まっていた。

オキの姿を見たとたん全員がシンと静かになる。

「あの…。」

一人の少女がオキに話しかけてきた。凛とした顔つきではあるが、少々幼さがまだ見える。他の少女達とは違う服装を来てミケに連れられてきた少女たちの中でも一番年上だと思われるシスター。

「ええっと、確か名前は…エステルさんだったね。少しは慣れた? っつっても、無理か。」

苦笑気味に笑うオキに対し、少しだけクスリとほほ笑んでくれたエステル。だが、その顔も無理して作ってくれているとわかるくらい、まだ困惑しているだろう。

「ミケに聞いたよ。大変だったんだってね。まぁ大変って言葉で終わらせちゃ失礼だけど…。」

少女達、孤児である彼女たちはシスターがいたという小さな孤児院で生活していた。少女たちの先生役をしていたシスターは小さな孤児院内では少女達を学ばせることが出来なかった為に青空の下、『青空教室』と名前を付け過ごしていたという。

ある日、急に現れたミケに全員同時にキマリ号に乗せられたと思った矢先、孤児院及び周囲もろとも巨大な爆発が起きた。ミケによって間一髪のところを助けられたらしい。

「ミケさんの助けで私たちはこうして今でも生きています。本当になんと申し上げてよいか…。」

深々と頭を下げるエステルとそれにつられ一緒に頭を下げる少女達。

「別にええよぉ。ミケが助けたからこっちも責任あるし。助けたからには世話はちゃんとしないとね。もう元の場所には戻れないみたいだし。青空教室…だったっけ。それが星空教室になっちまったな。」

オラクル船団の多数浮遊するアークスシップとその先に広がる大宇宙の星々。それが窓の外で光り輝いている。青空の下、少女達は勉強をしていたというが、その青空は目にすることが出来ず、青空が星空となった。

シンキに確認してみれば、別の世界次元を無理やり通ってきたらしく、二度とその扉を開かせることは不可能だと言う。

そうなれば、こちらで世話をするしかない。助けたのはミケだが後の事は完全にこちらへ投げている。流石にこの人数がすぐに過ごせる場所を確保できなかったので、とりあえず自分たちが自由に使える広い場所という事で、このチームシップを使ってもらっている。

「今はまだここで寝泊まりしてもらうしかないけど、もう少し落ち着いたらこのシップの中にちゃんとした部屋作って寝泊まりできる場所を作るから待っていてくれ。欲しいものがあったら言ってくれ。何でも用意するからよ。」

「ん? いま何でもって。」

後方から聞こえてきた声にオキが振り向いた。すると山のようにたくさんのぬいぐるみを抱えてコマチがやってきたのだ。

たくさんの種類のぬいぐるみを見て目を見開き、驚く少女達にオキがにこりと微笑んだ。

「おーお。頼んだとはいえ、こりゃいっぱいもってきたなぁ。とりあえず、殺風景な場所だからもう少し女の子たちが過ごしやすくしようと思って…ほいおまえら。好きなの持って行っていいぞ。ほれほれこわーい顔のオッチャン達からのプレゼントだ。」

ニコリと笑うオキの顔とたくさんのぬいぐるみをみて顔を見合わせた少女たちはすぐに笑顔になりぬいぐるみめがけて走り出した。

「おっとっと…ほれほれ、いっぱいあるからあわてなさんな。」

「あの…えっと、本当によろしいのですか? こんなにいっぱい…。住む場所も、食事もこの人数ですし、更にこのようなことまで…。私にはお金もなにもありませんと最初に申した通りですが…。」

少女達が笑顔でいろんなぬいぐるみの中からお気に入りを見つけている中、エステルは困った顔をしてオキに近づいた。

そりゃそうだろう。いくら命を助けられたからとはいえ、いきなり連れてこられ場所を提供してもらっただけでなく数々の家具や食事、このようにぬいぐるみまで。しかもすべてオキ達の負担でだ。

「だから言っただろ。こっちが助け、こっちが勝手に連れて来ちまったんだ。こーんな変な場所にいきなり連れてきて、命は助けたから後は勝手にしな、なーんて言えるわけないだろ。過ごしやすいようにするさね。報酬とかいらねーよ。こちらと一人二人どころかこれくらいの人数だったら増えようとどうという事はない程の蓄えはあるからね。」

オキは近くにあったラッピーの手乗りサイズのぬいぐるみをエステルに手渡した。それをみたエステルは涙ぐんで再びありがとうと、オキに礼を言った。少女達もオキやコマチの前に笑顔でありがとうと一斉に口にした。

後に聞いたが彼女たちは決して裕福だったわけではない。その日々はなんとか暮らしていける状態だったという。他の大人の支援もない。むしろ悪い状態だったそうだ。そうした日々を過ごしていた彼女達青空教室の少女たちはいきなり青空から星空の下へと移動し、いきなりたくさんの支援を受けた。驚かないわけがない。

「マスター、ちょっといい?」

チームシップを後にしたオキはオキを追いかけてきた少々不機嫌になっているクロノスに呼び止められた。

「あの子たちの事なんだけど。」

ミケが助け出した少女達。クロノスの眼には運命が一度止まった形跡があるという。その形跡はどれも悲惨な運命を形作っているそうだ。現在ではその運命もこのオラクルに来てからなのか、ミケが介入したからなのかは不明だが、少なくとも不幸な運命にはならない事をクロノスから伝えられた。

「相変わらず人の運命をコロコロ変えちゃってるけど、普通はそんなことしたら怒られるからね。」

怒られるだけで済めばいいのだが。そう思いつつオキはクロの機嫌を直すためにメロンパンを与えるのであった。

3つの場所から悲惨な運命となるはずだった少女達を救い出したミケ。一体何を思って助けたのだろうか。

「みんな笑顔。いいことなのだなー。」




皆さまごきげんよう。今回はミケの要望に応えて後半半分追加で書き足しました。
まずは前半のアーデムについて。ここは本家ではシリアスなシーンでしたがせっかく自由に書いてるのでミケに乱入してもらおうかともくろんでました。最初はドヤ顔で意気揚々としゃべっているアーデムの顔に落書きでもさせるつもりでしたが、ミケ本人に「どうしたい?」と聞いたところ「じゃあキマリ号に食べさせる。ついでにぺってはかせる。」と予想斜め上の回答が。よって涎も滴るいい男になってしまったアーデムが誕生しました。
後半は珍しくミケの要望で「この子たちを助けた物語が見たい」とのことでしたので追加で書き足しました。ミケの珍しい一面が少しだけ見れたのではないかと思います。ちなみに彼女たちの原作はとあるアニメからです。一部オリジナルも付け加えていますが(名前とか)
さて、次回はアーデムを追ってある場所へと向かうお話になります。
ではまた次回にお会い致しましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。