SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第138話 「母なる願い」

惑星地球の衛星『月』。

大昔に生まれたばかりの地球に落下した巨大隕石の破片が組み合わさり地球の衛星軌道上を回り始めたのがきっかけだと言われている。通称『巨大衝突説』。現在よりやく45億年前に誕生した月。その月の本当の正体。それがマザーであった。

「フォトナーが作りだし、失敗作として異空間へと飛ばした後、私は長い旅を経てこの宇宙空間にある地球とぶつかり、その後こうして地球の周りを回り始めた。」

原初の星『シオン』と酷似した内装、装飾。そしてオキ達がいるこの場所が彼女のいた『あの場所』と同じなのはフォトナーがまねて作り上げたからであった。

「私はフォトナーに対し復讐を誓った。私を捨て、認めなかったあの者達に。」

「フォトナーはいない。すべていなくなった。」

最後のフォトナーであったルーサーもダークファルスとなり、【双子】に喰われた。しいて言うなら今もなお、【深遠なる闇】の内部にいるである【双子】のお腹の中にいるだろうが。

「ならば私が正しかったという事だ。私はエーテルを作り、そしてフォトンとの融合体を手にした。これを持って地球と融合し、そして…貴様らフォトナーの産物であるアークスを倒す。これこそが私の復讐なのだ。」

正直言ってオキ達アークスからすれば知った事ではない。フォトナー達から作られたことは認める。それにより闇、ダーカーを倒せる、浄化する力を手にできている事も感謝している。守りたいものが守れるからだ。

マザーが復習したいのはフォトナーであって現在のアークスには迷惑以上何もないのだ。

「だからこそお願いしたい。…死んでくれ。」

マザーが手を広げ力を込めだす。次の瞬間、マザーから黒い力があふれ出した。数体のエスカダーカーがマザーから出てきたのだ。

「貴様らの出番はない! 勝手に出てくるな! ダーカーども!」

すぐさまマザーは力を抑え、エスカダーカーを消滅させる。オキはそれをみてマザーが暴走状態だといっていた理由が分かった。

「マザー、お前さんダーカーの力を抑えられていないな? エーテルは情報通信能力、つまり伝達する力はフォトン同等。しかしあくまでそれだけだ。ダーカーを浄化するアークスの、フォトンの力はない! そんな状態で俺達を倒すと? っは! 鼻で笑っちまうわ! いくぞヒツギ。てめーの弟、取り返すぞ。」

「うん! マザーの想い通りになんか、させない!」

「くるがいい! わが力に平伏せ!」

マザーは赤と青の二本の直剣を具現化させ、オキ達へと飛び込んだ。

「これぞ我が雷! 喰らうがいい!」

巨大な轟音と共に空中からいくつもの雷が降り注ぐ。アインス、コマチは金色の巨大鎧を纏ったアラトロンとの勝負を終わらせようとしていた。アラトロンはフラフラになりながらも最後の力で数多の雷を振り下ろした。

「…神撃!!」

コマチは自身の持つ黒き直剣を空へ突き上げ数多の光と風を生み出し降り注ぐ雷を防ぎ切った。雷と光と風は空中でぶつかり爆発を生んだ。土煙が周囲に広がり、アラトロンは二人を見失う。

「ぐううう…どこに…。」

「倒れよ。我らはここで立ち止まるわけにはいかないのだ。」

アインスが土煙の中から強襲し、アラトロンの巨大鎧を一刀両断する。バラバラと崩れ落ちる鎧と共にアラトロンは仰向けになって倒れた。

「ぜぇ…ぜぇ…っふ。はっはっは! さすがはアークスよのう。このワシが全力をだしてこのざまか!」

額を手で抑え、息を切らし、倒れたアラトロンはその場で笑った。わかっていた。アークスに勝てるはずがないと。いくら具現武装を装備し、彼らに迫ったところで勝てるわけがな合い。地力が違うと。

「わかっていた上でも、曲げられない信念がある。ご老体、俺はそれが理解できる。だからこそ、俺も戦いに応じた。あなたが負けることを理解していたという事を踏まえてもだ。」

「ふぁっはっは…。歴戦の猛者はいう事が違うのう。そうじゃな。ワシはマザーと共に歩み、進むと決めたんじゃ。だからこそ負けるとわかっておっても戦わなければならぬ。」

ゆっくりと起き上がり座り込んだアラトロンはかつての若いころ、月面でマザーと出会ったころの話をアインスとコマチに話した。

「ワシは彼女に感謝しておる。だからこそ、彼女に対しワシの命を懸けて共に歩もうと決意したんじゃ。アインスに、コマチといったな。一つ、頼みを聞いてくれるか。」

座り込んでいたアラトロンは巨大槌を支えに立ち上がった。それと同時に数多のエスカダーカーが現れた。

「見ての通り彼女は、あの少年を取り込んでから暴走しておる。理由は分かっておった。ダークファルスが少年の中にまだ残っている。それがあふれ出ていると彼女は言った。外には見せぬが、ワシにはわかる。彼女は苦しんでおる。アークスだけが、ダークファルスを討てると聞いた。彼女を…救ってほしい。」

「承知した。」

「感謝するぞ。アークスよ。ここはワシに任せて彼女の所へ行ってくれ。」

アインスは軽く頭を下げ、アラトロンを背にオキ達の向かった先へと走った。コマチはそちらへと向かわず、すぐにアラトロンの隣へと歩き始めた。

「じいさん、付き合うぜ。俺が向こうに行こうが行きまいが結果は変わらねぇからな。それに、こっちも依頼で来てるからな。」

「うむ? 依頼とな?」

「名前は…オークゥとフルだったか? これ聞いておかねーとうちのリーダーから拳骨飛んでくるかもしれんからな。あの人、オークゥとかいう方気に入ってるからよ。」

その言葉を聞いてアラトロンの太い眉に隠れた目がコマチのため息めいた笑い顔を映していた。コツンとアラトロンの巨大槌を拳で叩くと黒き直剣を向かってくるエスカダーカーに突き立てた。

「そうか…そうじゃったか。あの二人は生きておるのか。そうじゃったか…。うむ! ならばここは生きて帰らねばならぬな! 助太刀感謝するぞ!」

「っは! ジジイは無理せんとゆっくりやすんでな!」

コマチが遅れたきた理由。元々ファータグランデへと向かっていた彼だが、オキからマザーへの直接対決をするという連絡を受け、帰還。その際にオークゥとフルの看病をしていたクロノスから伝言を受けていた。

命だけは助けてあげて、と。

「消えろ。」

巨大な光の剣を具現化、オキへと飛ばしてきたマザーは更に追撃を行う為、剣と飛ばした直後に共にオキへと飛び込んだ。

「そういわれてもなぁ。」

口をへの字に曲げながら巨大剣をゲイルヴィスナーで受け流した後、マザーの二本の剣を受け止めた。

「させない!」

受け止めた直後にマザーの後方に現れたマトイがラ・グランツを放ち光の槍をマザーに突き立てようとした。

だが、すぐさま離れたマザーはそれを避け、距離を取った。

「っち。腐ってもフォトナーの作り出したモノか。よく我と同等の戦いが出来る。」

苦しそうな顔で唸るマザーに対し、余裕のオキとマトイ。二人の連携にマザーは翻弄されていた。

ヒツギとエンガはその援護で手一杯だが、それでも十分だった。逆に前にでて二人の邪魔をしてしまうとこちらが不利になる。

「さすがマトイだな。俺の動きをよく理解してらっしゃる。」

「ふふふ。圭子ちゃんやユウキちゃん達には負けてられないもん。」

再び飛んでくるマザーに構え、受け止める。

「なぁ、一つ聞いていいか?」

「…いいだろう。」

オキはマザーと切りあいながら一つの質問をした。彼女がシオンをベースに作られた人口の『全知全能』である事は理解した。

そしてエーテルの力で具現化したダークファルスの身体、アルを取り込み、フォトンと融合する事で力を得て、フォトナーへと復讐をしようともくろんでいる。わからないわけではない。理解できないわけではない。

オキ自身も作られ、失敗作と言われ、勝手に作っておいて身勝手に捨てられれば怒りも出てくる。

だが、フォトナーは滅び、アークスが残った現在。アークスを倒せば、現在脅威となっている【深遠なる闇】の顕現。

そして滅びゆく宇宙。それがわからないわけではないはずだ。

「そんなことか。」

オキの質問にマザーは『そんなことか』だけで返した。

「私には復讐の文字しかない。復讐を達成できれば、それ以外なにも求めない。」

「【深遠なる闇】に滅ぼされてもいいと言うのか? あれもフォトナーの作り出したモノでもあるんだぞ?」

「…。」

マザーは黙り込んだ。オキは続けながらマザーへの攻撃をやめない。

「あんたが俺達を倒すことでフォトナーよりも勝っていると言いたいのだろう。だがな、その後に残るのはアークスに倒されなかった【深遠なる闇】。それもフォトナーが残した産物だ。あれはアークスじゃなきゃ倒せない。シオンをベースに作られたとはいえ【全知全能】だろうが。それくらいわかっているはずだ!」

「…うるさい。」

小さく、唸るようにつぶやくマザー。オキは更に続ける。

「さっきから負ける事を前提に話しているが、そもそも俺達が負けるつもりは一切ないがな。現時点で、こうして俺とマトイちゃんの二人に、エンガとヒツギの二人に援護されているとはいえ押されている時点で、お前の勝目は一切ない。俺より強いやつがゴロゴロいるんだからよ。」

「うるさい…うるさい!!

「わかっているはずだ。俺達に負ければ復讐は達成できず。勝ったところで【深遠なる闇】が残っている。お前さんの言う通りであるならば、それはフォトナーの作り上げた代物に負けるという事。何をやっても、お前は勝てねえってことが!!」

「 うるさい!!」

悲鳴のごとく叫ぶマザーの持つ剣に、オキは思いきり力を込めた刃を振り下ろした。

パキンと響く音と共に砕けた青と朱の直剣はマザーの力が抜けると同時に消え去った。

その場に崩れたマザーはグッタリと座り込んでしまった。

「私は…間違って…なんか…。」

その姿をみて、マトイとオキは武器の構えを解き、ヒツギに目で合図した。

「う、うん。」

まだ彼女の中にいるアルを助け出せていない。オキと彼女自身、ソレが出来る事を理解していた。

オキは彼女の中に入った時に、ヒツギはその力が顕現した時に。

「落ち着いて。深呼吸で。大丈夫だ。お前ならできる。」

ヒツギが持っている具現武装、その刀をマザーに向けた時、異変は起きた。

黒い煙のようなモノがマザーの身体から吹き出て、その煙は人の形を成した。

「こいつは…!」

「離れて! ヒツギさん!」

「この感覚…まさかあの時の!」

オキとマトイはすぐさまそれが『何』であるかを理解した。ヒツギも一度は『ソレ』に取り込まれそうになったためにその感覚を思い出し、なんであるかを理解する。

「ぐう…! 出てくるな! 私は…破壊など…求めては…。ただ…復讐を…!」

マザーの何倍もの大きさに膨れ上がった人の形をした黒き煙はマザーをその内に閉じ込め、その姿を顕現させた。

銀と青色に輝く巨体に胸元と思われる場所には女性の身体が組み込まれている。先ほどとはまるで違う異常なまでにあふれ出るその力をビリビリとオキ達は感じていた。

『こちらでも確認しました。新たなるダークファルスです。』

シエラからも通信で改めて認識する。アルの中にいたダークファルスは浄化されたのではなく、静かに眠っており、マザーの力によってその力を蓄え、そして弱ったところに出しゃばってきたという事だ。

「オキ君!」

「オキちゃん!」

「オキさん!」

アインス、シンキ、ハヤマもその場に現れ、ダークファルスの姿を見上げた。

「あらあら。やっぱりこうなったのね。」

「説明を貰っていいかな? オキ君。」

「マザー弱らせたら、ダークファルスに取り込まれた。…切り刻むぞ!」

「分かり易い説明どうも!」

シンキはすでにどうなるかを自身の力で理解しており、アインスとハヤマに簡潔に説明。そして討伐を指示した。

『ダークファルス・マザー! 来ます!』

シエラの通信と同時にその咆哮を放つダークファルス・マザー。対するはダークファルス退治の専門家アークスの面々。

新たなるダークファルスの力を感じながら、オキはニヤリと口元を歪ませ武器を構えた。




皆様ごきげんよう
マザーへと到達し、エスカファルス・マザーと変貌。その姿を現しました。
ここからクライマックスへ一気に進みます。地球での騒動もあと少し。
そろそろ次の準備をやっておいたほうが良さそうですねぇ。
さて、そろそろ梅雨入りし夏が近づいて来ました。暑い日々が今年もやってきますのでお体に気をつけてお過ごし下さい。
ではまた次回にお会い致しましょう。

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