SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第137話 「月の中枢」

コオリの洗脳を解き、マザーが暴走状態になりつつあるという情報を聞いて地球でのダーカー型幻想種『エスカ・ダーカー』と名付けたソレらが増えすぎないよう倒しつつ、助けたオークゥ達からマザーの居場所を聞き出すのに数日かかった。

彼女たちの負担が思った以上に大きかったからだ。数日寝込んだ状態が続き、ようやく対面の許可がおりたのだ。

結論から言うとマザーの居場所は、オークゥ達が自爆をしてでもオキを足止めしようとした場所、その地中にあるという。

「場所は示したところ。そこに100%マザーはいる。」

「アラトロンさんはマザーと初めて出会った大切な場所だと言っていました。そこから移動することはまずないでしょう。」

マザーは居場所を大事にしていたという。よってその場所から移動することはまずありえないと二人は言った。

また、暴走状態にありつつあるマザーの状態をしって、二人はオキにできる限りマザーを助けてほしいとも伝えた。

マザーが彼女たちを救ったことは事実。その恩を返したいと言う。

「という事で、作戦会議だ。」

艦橋に集まった守護輝士。オキをはじめマトイ、ハヤマ、ミケ、クロ、シンキ、アインス。コマチは多分ファータ・グランデだろう。

ヒツギやエンガも来てくれた。最終決戦ということで、全員の情報を共有するためにシエラが現状をまとめてくれた。

「むかうはこちら、その地中が目標の場所となります。」

月面の地中。そこが目標の地点だ。オキたちがむかい、マザーからアルを取り除き、アークスへの介入を阻止する。向かってきた場合は交戦も行う。

「手ぇぬいておとなしくさせることができりゃ楽なんだが、もしどうしてもと行かない場合は倒すこと。」

「ここで死ぬわけには行かないからな。オキ君の考えは甘い、と言いたいところだがそれも君らしい。協力しよう。」

アインスやハヤマ達も頷き協力することを約束してくれた。

シンキは納得してなさそうな表情だったが、すべてオキに任せるといい再び黙り込んだ。

「今回の戦いはアースガイドとしても協力をえる。アーデムに連絡をしたい。」

はいはい任せてくださいとシエラが通信を開始した。だが、映像が映らない。

「おっかしいですねぇ。また故障でしょうか。」

「おーい、アーデム。聞こえてんなら返事しろ。」

エンガの言葉でようやくアーデムの返答が帰ってきた。

「すまない。どうも調子が悪いようだ。声だけで失礼するよ。」

幻想種の影響か、はたまたマザーの異変によるものか。どちらにせよ、向こう側も準備が出来ているようだ。

「アースガイドの持ちうる力すべてで、君たちを援護する。もちろん僕自身も。」

今回の戦いは地球に生きる人びとが更なる進化を迎えるために必ず勝たねばならない戦い。彼はそういった。

そしてエンガのみを案じ、お互いに協力体制が整っていることを確認できた。

「…オキちゃんやアークス全員が揃っていることをわかっているかのような言い方。向こう側からは見えていたということかしら?」

シンキがボソリとつぶやいた。

「ん? なんかいった?」

しかしその言葉は誰にも聞こえていない。かろうじてすぐ隣にいたハヤマが何かをつぶやいたときにする程度の声量だった。

「ううん。なんでもないわ。」

シンキは見えないモニターの向こう側をジッと見つめ、そして回答を出した。

『ふーん。そういうこと。何が目的か知らないけど…。』

シンキは目を細め、アースガイド、ではなくアーデムの不穏な動きを察知していた。

「うっし。そんじゃまシエラ!」

「はい! 突入地点の算出及び、敵勢力図の計測! それに合わせた突入の立案と承認! もろもろのバックアッププラン含めて一通りの承認、いただきました!」

シエラにできることはここまで。シエラはすべてをオキ達に任せた。

「オキさん、みなさん。いつもいつも、あなた方ばかり頼ってしまって、申し訳ありません。どうか、よろしくお願い致します。」

「任せろ。しっかりバッチリ終わらせてくるさ! いくぞ、野郎ども!」

オキ達の背中を見送り、無事帰ってくることをシエラは祈っていた。

 

 

月面からその地中へと潜り、マザーのいると思われる基地内へと侵入したオキ達とヒツギ、エンガ。月面の重力とは思えない、しっかりとした重力。地球と変わらない重力を感じながらゆっくりと進んだ。

「これはなかなかだな。地中にこれだけの施設を作り込むとは。」

感心するアインスと一緒につられて天井を見上げるハヤマやオキ。

シエラからの話ではアークスが【巨躯】と宇宙空間で戦う際に展開しているフィールドと同じ技術の可能性があるという。

確かにフォトンとエーテルはほぼ同質。それぐらい出来ても不思議ではないということだ。

「それよりもだ…。」

オキにはここの風景に見覚えがあった。

「マザーシップ。」

マトイの一言に周囲のメンバーが気づいた。シオンのいた旧マザーシップ。それと瓜二つと言えるほ似ている風景だった。

青い光が差し込み、通路、途中に見える塔、建物など。ほぼすべてが酷似していた。

「マザーはシオンさんの摸倣体。月に、マザーシップを作ろうとしている…ってこと?」

マザーシップの具現。それを行おうとしているのでは? マトイの一言に、ひとりの男性の声が帰ってきた。

「マザーシップの具現か。的を得ているな。娘っ子。」

白ひげをつけた老人。マザークラスタのアラトロンがそこに現れた。

「どけ…っつっても、引く気はなさそうだな? じいさん。」

「毛頭ない。とはいえ、頭に毛はないがの。ふぉっふぉっふぉ。」

アラトロンは笑いながら具現武装を取り出した。巨大な黄金のハンマー。それが彼の武器だろう。

「すでに我はマザーと共に歩むことを決めておる。それは誰がなんと言おうと曲げることはできん。」

オキが目を細め、彼の力を見定めようとゲイルヴィスナーを取り出すと、目の前に一本の刀が現れた。アインスのオロチアギトがオキの前を塞いだのだ。

「君は先に進むがいい。ここは、俺とコマチ君で相手しよう。」

「え? こまっちーはここに…。」

オキが目を丸くしていると、高い天井の上からコマチが飛び降りてきた。

「間に合ったか? 遅刻した。」

獣の毛皮をまとい鎧を身につけ、鉱石をそのまま削り出したような黒くも紅く光る直剣を担いでいた。

「なに、これからだ、さぁ行くといい。この武人は私たちが相手だ。」

オキはアラトロンとすでに臨戦態勢にはいっているコマチ、そして微笑んでいるアインスを交互に見て一息笑った。

「そうかい。あー、アラトロンのじいさんだったな。うちの武人が相手するってよ。悪いが俺たちは先に進ませてもらうがな。」

「ほうほう。このワシをおいて先に向かうと。いい度胸だ!」

アラトロンが巨大鎚を振り上げ、オキへと攻撃を繰り出してきた。だが、それをアインスが防いだ。

「貴殿の相手は私がしよう。なに、その曲げられぬ意思同様、こちらも曲げられぬ意思がある。それをわかってもらおう! いけ! オキ君! マザーを止めるのであろう!」

オキはこくりと頷き、残りのメンバーを率いて通路の先を走って去った。

「…そう言われてしまうと、仕方がないの。…若いの、名を聞こう。」

「若くはないのだがな…我が名はアインス。」

「…コマチ。」

名を聞いて満足したのか太い白い眉毛に隠れていた目を大きく開け、先程までの優しい顔から阿修羅の如き険しい形相となったアラトロンは自らの名を叫んだ。

「我が名はアラトロン・トルストイ! マザー・クラスタ『土の使徒』! いざ!」

アラトロンは金色に巨大鎚を光らせ、エーテルで巨人の如き金色の鎧を纏い、アインスとコマチにその咆哮とも思える声で名を名乗り二人に襲いかかった。

「参るぞ!」

「いっちょうやりますかー。…ごぉああ!」

コマチは対抗するように獣のごとく雄叫びをあげ、持っている武器『オメガスウォード』を振り回し巨大鎚よりも小さなその剣で防いだ。

「ほう…いい音をだす。その剣、隕鉄を使っているな。」

地質学者であるアラトロンはその剣が只の剣ではないことを単で見破る。だが、その剣はアラトロンが思っている以上の力を持っているファータグランデの武器だ。鼻で笑ったコマチは苦笑しながら言葉を吐いた。

「そんなもんじゃねーよ。なんかよくわからんドラゴンが落とした、何かよくわからん物質で鍛え上げた剣だ。頭痛くなるぜ? これ作るの。」

必要な素材を知ったときはゲロ吐きそうだったぜ。だれだこんなの考えた奴、とどこの誰に怒っているのか分からないコマチにアインスが感心しながらアラトロンへおオロチアギトを振るった。

「相変わらずものすごい武器を持っているな。これは俺も負けていられん!」

滾るアインスにニヤリとわらうコマチ。

「ふむ。面白い。面白いぞ若造ども。ならばワシのちからも見せようぞ!!」

金色に光る巨大鎚をバチバチと電撃で光らせアインスたちへと再びその巨大鎚を振るい、アインスとコマチはその金色の巨人とぶつかりあった。

 

 

 

 

オキ達の進む施設の道中はエスカダーカーの巣窟だった。

「多すぎだろこれ!」

「ぶった切って進みゃあいいだろ! ってかミケどこいった!」

「さっきめんどくさいって言っていなくなったわよ?」

「ミイイイイケエエエエ!!!」

ハヤマの怒りの叫びがエスカダーカーの叫び声と共に通路に響いた。

「マトイ、なんだか懐かしいな。」

「うん。シオンさんの…あの場所に似てるから…。」

オキとマトイは微笑み合いながら先へと進んだ。さらに進むとデコルマリューダの幻想種まで現れた。更に同時にダーク・ラグネの幻想種まで現れる始末だ。

「っち! ラグネまで出てくるか! 邪魔すんな!」

「オキさんは先に!」

「ここは私たちが抑えるわ。行きなさい。」

ハヤマとシンキはデコル、ラグネ双方に武器を放ちオキ達へ歩みを止めないように指示した。二人の行動を無駄にするつもりはない上、足を止めるつもりのもないオキは二人に任せ、更に足を進めた。

「倒しても倒しても出てくるなこいつら!」

「マザーを倒さないとダメみたいね。ここは、オキちゃんに任せましょう。それに、オキちゃんにはそれ相応の力を渡してあるから直ぐに終わるでしょう。」

ふふふとわらうシンキに目だけを向け、こくりと頷いたハヤマ。

だが、大量に出現するエスカダーカーに苦戦はしないものの、その数には目を瞑ることはできない。シンキはこのあとどうなるかを予想しながらオキ達が進む道を見続けた。

 

 

 

「ここが中枢か。」

青く光る巨大な蒼い門。その扉の向こうにマザーはいる。

マトイと一緒に頷きあったオキはその扉をくぐった。

「マザー!!」

青く光るその空間。かつてシオンのいた旧マザーシップの中枢と瓜二つの空間がそこに広がり、その中央にはマザーが浮いていた。

「待っていたぞ。八坂火継。そしてアークスの諸君。」

ゆっくりと振り向いたマザーはゆっくりと床に足をつけ、来たもの達を歓迎した。

 




皆様ごきげんよう。ようやくマザーへとたどり着きました。
さっさとこんな一つの星の事件を解決して深淵なる闇を倒さないといけませんね。
わがままなマザーという娘っ子はおしりぺんぺんです。
さて、次回マザー戦。どう描こうか楽しみです。
それではまた次回にお会い致しましょう。

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