SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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今回はハヤマ視点でご覧下さい


第13話 「運命の人?」

「見つけたぞ! 運命の人よ!」

43層の街をオキさんと歩いていた俺はある少女に指を刺されながら叫ばれた。またこの子か。

「…ハヤマん。諦めろ。」

ニヤけながらオキさんは肩をたたく。一体なぜこうなったんだ?

 

(1日ほど前…)

 

43層の森林フィールドを走り、ある場所を目指していた。

「エネミーか。」

ゴブリン種のエネミーだ。剣を振り上げ、こちらに駆けてくる。

持っているカタナを構え、攻撃してきたところを見計らって側面に回り込み振り上げたカタナを一気に振り下ろす。

「せい!」

25層で手に入れたカタナはまだまだ充分すぎるほどの火力だ。一撃で雑魚エネミーを倒せる。だが、物足りない感がある。

だから俺はリズベットに頼み、別のカタナを作成してもらった。火力自体は「多々良長幸」より全然低いが、こいつがなかなか手になじむ。

「とっと…。」

二発目を入れようとしたところ、武器を振り回され近寄れない。後方からは増援のエネミーもわいてくる。

「ふん。」

周囲殲滅に範囲SSを放ち、囲ってきたゴブリン達を一掃する。

再ポップ時間が来る前に移動しよう。目的の場所まではもう少しだ。

森を抜け、目的の場所が見えてくる。

「ここかな?」

村のように見えるが、実はそこはゴブリンの集落のようだ。

「あーきたきた。すまんね。ハヤマん。」

オキさんとシリカ、そして一人の少女が近くの岩陰から出てくる。

「おくれた。すまん。で? 状況は?」

「一人は自分で脱出してきたらしいんだが、それが悪かったのか情報以上の数がポップしてる。俺とシリカとこの子だけじゃきつくってな。」

たはは、とタバコに火を付けながらオキさんは苦笑している。オキさんがこの仕草をするときは大抵いい状況ではない。

「お初にお目に掛ります。態々来て頂き有り難う御座います。ツキミと申します。以後お見知りおきを。」

一緒にいた少女が深々と頭を下げてきた。俺もつられて頭を下げてしまう。

「あ、いえ。ハヤマです。ども。」

ツキミは綺麗な長い黒髪をしており、顔立ちもアスナやシリカ達に負けないほどの美女だ。

オキさんからヘルプの連絡を受け、丁度暇だった俺が呼ばれて来たわけだが…。どうやらこのフィールドでプレイヤー達がゴブリンに捕まり集落内の牢屋に閉じ込められるという事件が発生しているようだ。

ツキミという少女はもう一人のPTメンバーとフィールドを散策中に大量のゴブリンに襲われ、命は助かったもののそのまま集落へと連れ去られた。ツキミはもう一人の連れのおかげで逃げれたらしく、丁度近くを通りかかったオキに助けを求めたというわけだ。

「どうか、我が主をお救い頂けないでしょうか。」

「オキさん。」

シリカもオキさんを不安そうに見ている。何とかして助けてあげたいのだろう。もちろんオキさんの事だ。

「任せろ。ハヤマんが来てくれたからな。俺が集落の中に入るから、合図を確認したら囚われたプレイヤー達をハヤマんとシリカ、ツキミさんで助けてやってくれ。」

そういうと思った。

「オキさん。俺が囮役をやるからオキさんが囚われた人を…。」

「ハヤマん、ハヤマん。」

ニッコリしながら肩をたたく。あ、これだめなパターンだ。

「命・令♪」

親指を立てながらニッコリして俺にオキさんは命令する。こうなったらオキさんは絶対に折れないな。しかたない…。

「わかったよ。で? 合図って?」

「中がドンパチ、賑やかになったらだ!」

それ別作品のセリフ…。

 

 

 

オキさんがゴブリンの集落に入る。周囲のゴブリン達はオキさんを囲みだした。

「オラ。てめーら。…かかってこいや!」

オキさんが槍を構え、叫ぶと同時に周囲のゴブリン達は一斉にとびかかった。だが、槍を何回転も頭の上で回転させゴブリン達を吹き飛ばす。

「おお。久々に見た。パルチザンのPA「スライドシェイカー」か。 さって、俺たちも行こう。」

集落の入口にいた見張りすらもオキの方へ集まっており、建物の陰に隠れていけば見つからないだろう。

「オキさん…ご無事で。」

シリカも心配そうに祈り、すぐさま俺の後ろについてくる。ピナは大人しく彼女の胸元に入り込んでいる。

「どこに囚われているかわかる?」

「いえ、私はこの集落に入る前に主が隙を作ってくれたので逃げれたもので…。」

つまり中の事はさっぱりっと。オーケー。やってやろうじゃない。

オキが奮闘しているのかあちこちの建物からゴブリンが出て行っている。とりあえずすぐ近くの建物の入り口を見た。

布の入口か。覗き見が出来そうだな。後あのデカい建物。たぶんボスがいるだろう。プレイヤー達を逃がしてからオキさんと合流してつぶすか。そんなことを考えて建物の中を覗いてみた。

「…ん。いた。」

建物の中には数名のプレイヤーが檻に入れられていた。小さな箱型の檻に詰められており少し窮屈そうだ。

「助けか!」

「助かった―!」

「まってて、今鍵開けるから。」

どこに鍵があるのだろうか。周囲を探してみる。

「キュル!」

ピナが壁に掛かっていた鍵を咥えて持ってきてくれた。

「サンキュー。これで…開いた!」

檻の扉を開けて外に出るプレイヤー達。

「…いない。」

「え?」

ツキミがボソリとつぶやく。どうやらツキミの相方はいないらしい。

「ああ。他の建屋にもプレイヤーが捕まってる。俺見たんだ。他の建物に連れて行かれるプレイヤーを。頼む! 助けてやってくれ!」

捕まっていた一人の男性が頭を下げてきた。なるほど。そういう事か。

「もちろんだ。そのつもりで来たのだからな。ただ、ここから出るのは少し待ってくれ。外で大立ち回りやってるうちのリーダーがいるんだけど、出てっちゃうとたぶん逆に邪魔になっちゃうと思うから。」

「ん? そのマーク。まさか、あんたイレギュラーズか!?」

マントのマークを見て別の男性が気づいた。

「うん。そうだよ。外で戦ってるのもそうだから、心配しないで。」

「ハヤマさん、外は大丈夫みたいです。」

シリカが外を確認してくれたようだ。背中で応援の声も聞こえた。親指を立てて、外に出る。

何度か建屋の中を探し、ほぼ全部の建屋を調べた。だが、ツキミの主が見つからない。

「どこに行ったのでしょうか…。」

「うーん。後調べてないのはオキさんが戦っている中央付近と、あのデカい建物くらいかなー?」

「中央広場には誰一人いなかったぜ。」

オキさんが建物の間から顔を覗かせて俺たちを見つけた。

「オキさん! 無事だったんですね!」

「おう。こん位防衛戦に比べりゃなんてことねーよ。…ふい。心配かけたな。シリカ。」

タバコに火をつけ、空いた手でシリカの頭をなでるオキさん。どうやらひと段落ついたらしい。っていうかあの数全て倒しちゃったの!?

「いやー。数多くってさー。槍一本折れちゃったよね。畜生。気に入ってたのに。片手剣も出したんだけどこっちも折れる一歩手前。大剣はあいつらの内デカいのがいたからそいつ切ったら折れちゃった。おかげで後は火力の無いメイス一本と曲刀一本、予備の槍のみだぜ。まーた買い足しだよ。ま、ドロップ品も回収できたし、トントンってところ?」

そりゃあの数とやり合えば耐久値も馬鹿にならないだろう。しっかしオキさんも変わらないねぇ。

「うわー…。それリズベットに怒られない?」

「正直怖い…。」

自分たちの武器の耐久度などの管理をリズベットにしてもらい、かなりの頻度で直してもらっている。そのたびに

『もっと優しく扱ってやれないの!あんたたちは!」

と、鬼の形相で怒られる。今回は特にオキさんの武器の損傷が激しい。こりゃ相当怒られるだろうな。南無…。

 

「となると残りはあそこか。」

「だね。」

集落の奥にあるデカい建物。どうやらそこにいるのは間違いないだろう。

「シリカ、ツキミさん。もうこの広場周辺にはゴブリンいないから、捕まってたプレイヤー達を逃がしながら外に行っててくれ。どうせハヤマんが『建物の中にいるように。外にいるおっかないおにーさんの邪魔になるから』とかいってまだ中にいるんだろ?」

バレテーラ。

「オキさん、無茶だけは。」

「安心しろ。お前おいて勝手にいかねーから。」

シリカの頭をなでるオキ。そばにいるだけでくすぐったい。というかこんなところでいちゃつかないで。

「主を、お願いします。」

ツキミが頭を下げてくる。大事な人なんだろうな。

「任せとけ。おっしハヤマん。暴れるぞ。」

「まだ暴れるつもりかよ! まぁいいけど。」

オキさんと二人だけで暴れるのも久しぶりな気がする。俺とオキさんは最後の建屋の中に入った。

そこは外にある小さな建屋と違い、中はとても広く綺麗な石の床に大きな柱で囲まれていた。そしてその中央にいるのは…。

「ゴブリンキング。ここの長かな? ん、奥に牢屋が見えるな。」

一際大きなゴブリンとそのお供が数匹。そしてその奥には牢屋が見える。

「ハヤマん。」

オキさんが目で合図してきた。はいはいわかってますよ。

「あいよ。じゃ、頼んだ。」

「よっしゃ! 暴れるか!」

オキさんの武器は残りは曲刀とメイス。そして予備の槍一本。耐久値が心配だ。その前に加勢しないと。

「よお、長老。あそぼーぜ!」

オキさんの曲刀が振り下ろされボス、ゴブリンキングとの戦いが始まった。周囲の雑魚は俺が引き受け邪魔にならないように牢屋方面へと近づきながらカタナを構える。

「お前らはこっちだ。よーしよし。」

3匹のヘイトが取れた。これでオキさんは心置きなく暴れれるだろう。

「む!? 助けか!?」

牢屋の中にいる一人の少女が鉄格子に近寄ってきた。

「待ってて。すぐに出してあげるから。この中にツキミさんの主さんはいるかい?」

「我だ! ツキミの主はここにいるぞ! そうか…ツキミが。」

どうやらその少女だったらしい。銀髪の長い髪にちょっと古臭い言葉使いが何故か似合う。そう思った。

「ハヤマん! 鍵! 椅子のところ!」

鍵をゴブリンキングのいた椅子のすぐ近くに引っかかっており、それを見つけたオキさんがボスの大剣をさばきながら叫んだ。

「そこか!」

3匹のうちの1匹を早々に倒し、鍵を手に入れる。そして素早く2匹目にSSを喰らわせて倒した。

「まだまだぁ!」

ハヤマはカタナの持ち方をアークス流に変え、PA『アサギリレンダン』(真似)を繰り出す。

前方へのステップから雑魚の攻撃を回避し、一気に詰め寄ってから6連続の剣戟をゴブリンに喰らわせる。

もちろんただの通常攻撃判定になる為攻撃力は切り付け6回分にしかならないが、それでも1匹の雑魚を倒すには充分な火力となる。

「よし。あとは鍵をっと。」

ちらりとオキさんの方を見る。ボスのHPゲージは半分になっている。これなら問題は無いだろう。牢屋へと駆け鍵を開けた。

「助かった!」

「どうなる事かと思ったわ…。」

これで囚われていたプレイヤーは全員だろう。

「あ、テメ! ハヤマ! そっちいったぞ!」

「え?」

オキさんが叫んでる。そっちを見た瞬間、こちらに大股で走ってきているボスの姿があった。

「くっそ!」

大急ぎでボスに対し攻撃をするもオキさんにヘイトが戻らない。ん? こいつ俺の後ろを見てる?

武器を構えるも、自分を通り過ぎ囚われていた少女、ツキミの主へと向かっていた。

「な!?」

「あぶない!」

走りながら武器を振り上げるボスに対し、全速力で駆け出しツキミの主に飛びつきなんとか振り下ろされる大剣から逃れることができた。

「はぁ…はぁ…大丈夫?」

「う、うむ。問題は無い。」

もう一度大剣を振り下ろそうとするボスだが、オキさんが何とか守ってくれたようだ。後ろを振り向くと同時に振り下ろされる大剣を防いでいる。

「ハヤ…マん…。重い…。切れ!」

「あいよ!」

立ち上がりそのままボスの両腕を下からの切り上げでぶった切ってやった。それによりボスは怯み、オキさんから離れていった。

「ふう。どーも逃げた人を追い駆けるようになっていたようだな。」

「だね。大丈夫?」

「う、うむ…。」

地面に座り込んでいたツキミの主を立たせてあげた。どうやらダメージは喰らってないようだ。よかった。

「ハヤマ。まだ来るぜ。」

ボスは再びこちらに向かっている。今度はしっかりとこっちを見ていた。

オキさんが前に出て武器を構える。

「また同じようにあいつの獲物を抑えるから、ばっさり切っちまえ。」

「りょーかい。」

『オオオォォォ!』

雄たけびを上げながら武器を振り下ろす。ガキンと地面に突き刺さったところをオキさんが上から押さえつけ持ち上がら無いようにした。

「いまだ。やっちまえ。」

「はあああ!」

SSを無防備な胴体に喰らわせる。それと同時にピタリと止まり、結晶となって砕け散った。

「ふう…。」

「ナイスハヤマ。」

頭上で手を打ち合う。そのままオキさんと一緒に捕らえられていた人たちを先導し、建物の外へと向かわせた。

 

集落の外ではシリカとツキミ、そして捕らえられていたプレイヤー達が待っていた。

「オキさん!」

オキさんの姿を見るなり走りよってくるシリカ。オキさんはにっこりと笑い大丈夫だとシリカの頭をなでている。

周囲のプレイヤー達も感謝して頭を下げていた。

「主!」

「おお! ツキミか!」

ツキミの声が聞こえた方を向くと主とツキミがいた。

「遅くなり、申し訳ありません。」

「よい。こうして助けを呼んでくれたこと。感謝するぞ。そして、そなたも。先ほどは感謝する。」

主が寄ってきた。

「いいですよ。当たり前の事をしたまでですから。」

そう、当たり前の事。誰かを助ける事は今まで何度もやってきた。

「そうだ、自己紹介がまだだったな。我が名はシャル。お主のような者を探しておった!」

ん? 俺を探していた? どういう事だろう。

「ハヤマ殿と言ったな。助けてもらった時、我はお主が体を張って助けてくれた時に心ひかれた。ハヤマ殿! 我はそなたと会えたことを運命と思う! 我を貰ってくれ!」

周囲のプレイヤー達もそれを聞いて静まる。

「は、はい!?」

 

 

それから街に帰りつくまでずっと彼女はついてきては運命の人だの、貰ってくれだのと言ってきた。

確かに可愛かったけど、いきなり言われても困るし。そんな状況をみてオキさんは大爆笑してるし…。

「こ、今後少しずつお互いを知ってからね。」

と言ってその日は逃げるようにギルド拠点へと戻ったが、それからが大変だった。

どこから情報を経たのかギルドまで乗り込んでくるは、いつの間にかオキさんもグルになっているは、ギルドに加入しているはで急展開が続く。

何とか落ち着かせたものの、オキさんからの強制命令でシャル、ツキミと共に以後PTに組まされることとなった。

そして今日も…。

「ハヤマー殿!」

「はいはい。」

周囲からは満更でもないような感じに見えるらしい。気のせいだよ?




今回はハヤマ視点ということで書いてみました。
本人といろいろ話しているうちに浮かんだネタで面白がって書いたらこうなった。
今後もいろんな人の視点で書いていくことが増えると覆います!

さて、次回は作中ではクリスマスということで・・・。まぁどうなるでしょうかね。
では皆様、ごきげんよう!

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