SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第135話 「マザー絶対ぶち殺すレディ」

オキはクロノスと共にアークスシップへと帰り着き、疲労等々で眠っているオークゥとフルをクロノスに託し、オキは未だ襲撃を続けているマザークラスタメンバーの所へと急いだ。

オキが中央ホールへ向かうと白いキャストがホール中央に陣取り目の前から絶えず襲ってくる幻想種を数多の武器で防いでいた。アサルトライフルやランチャーは勿論の事、彼が古くから所持していると言っていた数多くの兵器を背負い幻想種を迎撃している。両手にランチャーを構えスフィアレイザーを放ったり、両肩に取り付けられたミサイルポッドからは多数のマイクロミサイルが射出されたりと、そこはさながら小さな戦場と化しており、あちこち床や壁が爆発や弾丸で崩れている。それでも最小限に抑えてくれたのだろう。彼が本気を出したならこんなのでは済まないからだ。

「来たな首輪付き…。遅かったじゃないか。」

小さく開いた口からは低い男性の声と女性の声が同時に聞こえ、白い吐息が吐き出された。本来口部の無いロボットのようなキャストではあるが、彼の口部は唇の無い歯茎と歯がむき出しになった不気味な口がついている。機械だけの金属骨格のみで構成されるのがキャストなのだが、彼には生体部品が取り付けられている。

その理由をオキは聞いたことがない。だがそんな小さな事くらいで気にすることもない。どこから来たのかわからない奴らがオキの周りにうじゃうじゃいる為だ。

「苦戦してい…ないか。尻は貸さんぞ。」

彼と出会ってからのお約束となったやり取りを交わし、状況を確認した。数は減ってきたものの相変わらず絶えず向かってくるという。幻想種を動かしているマザークラスタの幹部がどこかにいるという情報も他のアークスから聞いたようだ。

ここは任せたと伝え、オキはマザークラスタの幹部がいるというショップエリアへと走った。ショップエリアには黒い煙と爆発音が鳴り響きその戦闘にオキも参加した。

「面白いことやってくれるじゃないの。俺も混ぜてくれよ。」

「「オキ!」」

二人のクラリスクレイスの声にウィンクするオキは優しい微笑みから険しい顔へと変化させた。目の前にいるオフィエルという男に微笑む必要はない。

「貴様…。」

「ほう。おぬしがここにいるという事はオークゥもフルも失敗したという事じゃな。」

巨大な金色のハンマーを背中に担ぐアラトロンは長く白い眉を八の字にし上を見上げた。オフィエルは苦い顔をしている。どうやら彼らの思惑とは違う結果になったらしい。それを見てオキは小さく口を歪めた。しめた。ざまぁみろ。オキの心情は愉悦を感じていた。

今回の襲撃でアークスシップを乗っ取り、最終的にはオラクル船団を手中に収める計画だったのだろうが、計画には無かったマトイとクラリスクレイスの迎撃。攻撃手段の無い一般アークスだけと考えていた者達の徹底抗戦。念を入れた防御態勢をとったオキの勝ちである。

「ふん。今回は我らの負けを認めよう。だが、まだ終わりで無い事を知るがいい。」

なにを言っているんだか。オキは逃げようとするオフィエルを逃さないよう武器を構えた。だが、それはアラトロンとオフィエルの言葉にさえぎられる。

「おぬし。ここで油を売っていいのかな?」

「なに?」

「負けたのは我らだ。だが、マザーは目的を達したようだな。」

苦い顔をしていたオフィエルが今度は笑っている。なんのことだとオキは思考を巡らせる。油断させる罠か? いや、そもそものマザーの目的を考えろ。

マザーの目的はなんだ。狙っていた者は。

「まさか!」

オキが駆けだすのとオフィエルが笑いながら空間へ消えていくのは同時だった。

オキが艦橋へと駆け出し、途中アインスそしてハヤマと合流した。聞けばだれもとおってはいないという。オキは嫌な予感がした。急に現れたというオフィエル達。どこでも現れることが可能だったとしたならば。できれば思っている事が外れていてほしいと願いながら艦橋への大扉を開けた。

「ほう? 戻ってきたようだな?」

静かに浮かぶ少女。蒼く長い髪。白く輝く肌に長いまつげが綺麗な整った容姿。後から追ってきたマトイも息をのんだ。

姿かたちは小さくなれど、その雰囲気と姿は似ている。

「シ…オン…。」

そんなはずはない。彼女は過去と未来の自分、【仮面】と共に深遠なる闇の中へと行ってしまった。ここにいるはずがない。

「シオン、か。我が元となる名前。何度聞いても不快だ。」

こちらを睨み付ける少女はゆっくりとオキの近くへと降り立った。

「わが名はマザー。ここへ貴様が来たという事は…わが従者たちの襲撃は失敗したという事か。」

マザー。彼女はそういった。あまりの衝撃にオキは呆然とした。そして彼女の言葉とその姿にある方式が当てはまってしまった。

シオンの姿に酷似した少女。本来外部から許可した者しか入れないこの艦橋へ直接乗り込むことが可能な能力。そして元となると彼女は言った。

ならば彼女は…。

「…アルを、どこへやった。」

アインスの言葉に我に返ったオキは周囲を見渡した。たしかにアインスの言葉の通り、アルの姿が無い。あるのは今にも泣きそうな顔をしているシエラだけだ。

「あの少年なら我の中に吸収させてもらった。フォトンとエーテルの融合体。これをもって、もう一つ目的を達するとしよう。フォトナーを出せ。」

マザーはオキをにらんだ。しかし出せと言われても今現時点で存在するフォトナーはいない。いや、厳密には一人だけアークス側に存在する。

名をアウロラ。過去フォトナーがもと最も反映した時代に生きていた人物にして原初の【若人】。現在は【双子】によってダークファルスと改造された元【若人】、アフィンの姉ユクリータの武器として共に戦い償いきれないその罪を償おうと奮闘している。

もう一人、ここにはおらずフォトナーと言われ最もオキがイメージするフォトナーもいるにはいるが、彼は現在深遠なる闇と融合した【双子】のお腹の中だ。

「いるわけねーだろ。何千年前の話だと思っている。」

オキの言葉に少しだけ寂しそうな顔をしたマザーの表情をオキは見逃さなかった。だが、その表情もすぐに元の無表情に戻る。

ならばとマザーはこちらに手を翳し、オキ達をにらんだ。

「フォトナーに関係する貴様たちへと、この怒りをぶつけるとしよう。これは復讐だ。」

ハヤマとアインスが武器を構え、対抗しようとする。だがこんな狭い場所で戦うわけにはいかない。オキはこちらに気を取られているマザーの隙をみて、シエラに目で合図した。

「…っはい! 任せてください! 強制…転送!」

「しまった!」

シエラの超高速の端末操作にオキ達に気を回していたマザーは行動が遅れ、一瞬にして艦橋からいなくなった。シエラはすぐさまアークスシップの防御壁を強化すると共に、今回の襲撃で傷ついたアークス、スタッフ達の手当の依頼と壊れた箇所の補修を手配した。

「すみません…。私、何もできなくて。」

「いいってことよ。しかたねーさ。とりあえず皆が無事でよかった。アルに関しては…残念だが起きてしまったことは仕方ねぇ。」

黙り込む一同だが、とりあえず最悪のケースにならずに済んだことをオキは奮闘してくれた皆に感謝した。アルを連れていかれた事が唯一の悔やみだが、これからの動きで取り返せばいいだけの事。

オキはすぐさま状況を整理するべく思いついたある事柄を頭の中でまとめていた。ある事柄を。

「まさか直接乗り込んでいたとはな。」

「ごめん。全然気づかなかった。」

頭を下げるハヤマの肩を叩くアインスは仕方ないさと自分も含め気づかなかったことを悔やんでいた。

「本来ならば来れるはずのないこの場所ですが、どうして乗りこめたのでしょうか。防御壁は普段よりも強固にとオキさんより依頼されてより強くしたはずなのですが…。」

シエラも端末を操作しながら首をかしげる。その答えにオキが答えた。憶測でしかないが、間違いなくそうだろうと思っている。そういった直後にシンキが艦橋に現れた。

「オキちゃんは答えにたどり着いたようね。私が答え合わせしてあげるわ。」

後ろにはコマチ、クロノスもついてきている。ミケはいつの間にか来ており相変わらずどこから取ってきたのかわからない骨付き肉をあぐあぐと食べていた。

オキは一同を見渡しコクリと頷くと、オキの思いついた予想を皆に伝えた。

以前、ルーサーは言った。『フォトナー達の作ろうとした人口の全知全能の一つがフォトナー達の負の感情を受けて深遠なる闇になった』と。アウロラは言った。『かつてフォトナー達は管理者を作ろうとしていた。最初の一つは優秀だったが制御不能だった為に異空間へポイした。』

オキの予想ではこの異空間へポイした最初の制御不能だった人口の全知全能がマザーじゃないかと皆に伝えた。そのあまりにも身勝手な行動と屈辱からフォトナーへの復讐をもくろんでいたと考えられる。シンキを見るとその通りと帰ってきた。

「つまり俺達にとっては八つ当たり。くそ、ルーサーいればそのまま引き渡しておしまいだったのによ。」

オキの悪態に苦笑するハヤマとアインス。この後どうするというクロノスの質問にオキは、まず一部破損したアークスシップ内の復興と連れて帰ってきたオークゥとフルから本部の位置情報を得る事、得られた場合は直接乗り込むことを伝えた。

「もし得られなかったらどうするつもり?」

「そんときゃあの衛星をしらみつぶしに調べりゃ埃は出てくるだろ。それまでは各自様子見で。」

月にマザーのいる場所がある事だけは今までの情報からほぼ間違いないとにらんでいる。最悪の場合は人海戦術で虱潰しに探し当てればいい。

とはいえ、アルがさらわれた以上あまり時間をかけるつもりはない。オークゥとフルが情報を教えてくれることを祈るばかりだ。

「そういや二人の状態は?」

「しばらく安静にだって。体は勿論だけど、心にも傷、作っちゃったし。」

こうなると本当に暫くは様子見だろう。アルが連れ去られてしまったことをオキはヒツギ達へ伝えるとして、残りのメンバーはしばらく自由に動いてもらうことにした。

「シンキは…まだしばらく個別で行動するか?」

シンキはしばらく個人行動をとっていた。まだしばらく個別で動くのかと思いきや、シンキは首を横に振った。

「いいえ、そろそろ私も一緒に動くわ。相手も表舞台に立ったしね。」

その言葉にコマチは『マザー絶対ぶち殺すレディがついにそのエロい腰をあげると言うわけだ』とつぶやき、オキは爆笑した。

アークシップが安全である事が確認されたのち、ヒツギとエンガを自室に呼びつけたオキはマザーの強襲、そしてアルが連れ去られてしまったことを二人に話した。

「そう…。アルは、マザーに連れて行かれたのね。」

思った予想とは反し、アルがマザーに捕まった事を聞いてもおとなしいヒツギはアオイの入れたコーヒーをじっと見つめ静かにそういった。彼女はオキがアルを連れていない事、複雑な顔をしていた事からすぐに察したという。少し前ならばすぐに行動しようと考えるよりも前に体が動いていた彼女だが、今では少し落ち着いて考えることが出来るようになった。

「今回の件は俺達の油断から起きた事だ。絶対にアルは助け出すから安心して待ってろ。」

「うん。今の私じゃどうしようもないし…オキさん達にお願いした方が確実だもんね。」

「ヒツギ、お前…。」

エンガはヒツギが自分の気持ちを抑え込んでいる事に気づいていた。アルを助けに行きたい。でも、マザーのいる場所なんて知らない。だったらオキさん達に任せた方が確実だとヒツギは踏んだのだ。

オキはマザーの居場所が分かり次第、ヒツギもつれてその場所へと乗り込むことを約束した。

「ん? オキだ。なんじゃそりゃ。…わかった。とりあえずすぐ行くわ。」

オキに連絡が入った。ラスベガス地域で幻想種が再び大量発生しているという情報が入ったのだ。そしてシエラは今回初めて見るようでよく見る姿だけど幻想種という意味不明な事を言っていた。更にある情報がおまけつきで。

「ヒツギ、お前の友達がラスベガスで暴れているらしい。今度はちゃんとひっぱたけるよな?」

彼女の親友コオリが現れたという。その情報を聞き、今度こそ大事な親友を小機に戻そうと意気込んだヒツギは力強く頷いた。

「行ってらっしゃいませ。」

アオイの見送りを背に、超特急でキャンプシップを飛ばしラスベガスへと急いだオキはその不思議な光景を目の当たりにした。

ダーカーのダガッチャ、ランズ・ヴァレーダ、ボンタ・ベアッダが地球のラスベガスで暴れている光景だった。だが、何かが違う。ダーカーの姿をしているのにもかかわらずダーカー因子は感じられない。

『幻想種と同じ構成です。ダーカーの構成ではありません。姿かたちだけが似ているだけです。』

シエラのサーチで幻想種とほぼ同じ構成であると結果が出た。理由は一つだろう。マザーがアルを取り込んでしまったがためだ。

ダークファルスのアルは深遠なる闇から生まれ出でたモノ。他のダークファルスの眷属の記憶を持っていてもおかしくはない。それをエーテルで具現化させる。

「なるほど、コイツが目的を達成させる力ってか…。」

すでに交戦状態となっているアースガイドの構成員達を手助けするべくオキとヒツギ達はその戦火の中へと駆けこんだ。

 




皆様ごきげんよう。
デストロイヤーの姿はエヴァンゲリオンの量産型に近い姿です。それでイメージして頂ければ。さて、今回は次回に続くコオリ戦まで描くつもりでしたが、思ったより時間がなくここまでとなりました。次のコオリ戦はマザー絶対ぶち殺すレディが出てきます。お楽しみに。
では次回にまたお会い致しましょう。

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