SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

136 / 151
第133話 「日と月と星と」

ヒツギがマザークラスタに連れ去られて半日が過ぎた。あの時、各自が大量の幻想種に対応しオキはマザークラスタの幹部とやりあっていたためにヒツギの事まで見ていなかったのだ。エンガも途中ではぐれてしまい、見つけた時にある少女の剣によってヒツギの身体を貫かれ、アルとのつながりからか不思議な現象が起き、一命は取り留めたものの、そのまま連れ去られてしまった。

「よし、状況をまとめよう。」

あらかた情報を得たところで、艦橋に集まった面々は各自の情報を出し合い、まとめに入っていた。

「一つ目。アルの正体だ。」

心配そうに地球を眺めているアルの頭をポンと優しく叩いたオキ。アルの姿はヒツギやコオリが選んだ洋服ではなく、黒と蒼と朱の洋装に変化していた。

その姿はまるでダークファルス。

「ヒツギさんが刺された時、強力なエーテル反応が発生。ヒツギさんの生命力が急激に増加し、結果として致命傷は回復。それによる身体への影響は大丈夫かと思われます。」

その時の映像をモニターに映す。禍々しい大剣を振り回す少女、コオリ。なぜ彼女がマザークラスタのオフィエルと共にいるのか。

エンガ曰く、コオリは元々マザークラスタの一人だという。そこでヒツギと出会い仲良くなったとか。

普段のコオリの様子とは別人のようだと語るエンガは、オフィエルが何かしらやったのだろうと予想しつつ妹を守れなかった悔しさで拳を強く握る。

「まぁそっちは助けに行くことを前提で話をまとめよう。問題はアルの正体だ。まさかダークファルスとはねぇ。」

今の所ダーカー因子の反応は一切ない。しかしこの姿と…

「元々アルが生まれた時の事を考えれば、大方の予想がつくと。」

「はい。アルさんが生まれた直前、ヒツギさんに乗っ取ろうとしたダークファルス反応。あの黒いモヤのようなアレがアルさんの正体だと思われます。」

初めてオキとヒツギが出会い、一緒にクエストへ出たあの日。オキを狙って出現したダークファルスはヒツギへと目標を変更。直後にオキによって浄化された。しかしその浄化された直後、強制的にヒツギの身体は地球へと転送。それに引っ張られる形でアルは浄化されたダークファルス、アルとして顕現。今に至る。浄化されたことにより記憶を失っていたが、ヒツギの命に係わる状況からアルの強い想い『ヒツギを助けたい』という気持ちからかつての力を復活させた。だが、浄化されたダークファルスとしての力はエーテルを浸食、それによりヒツギの身体は助けられたという事だ。

「いやはや、浄化されれば体はそのまま。ダーカー因子も無くなるってのはユク姉の件でわかっちゃいたが。」

ユク姉。オキやハヤマと同期のアークス、アフィンの姉でありダークファルス【若人】として【双子】に弄られた存在。現在はアフィンやオキにより元より少なかったダーカー因子を浄化され、原初の【若人】アウロラと共にアークスとして活動している。

「問題がないのならいいのだが。」

「そうだね。初めて聞いたときはちょっと驚いたけど。」

アインスとハヤマもアルの正体に驚きつつも、現状問題が無い事を聞いておとなしくしている。

「次だ。こいつが一番厄介だな。さっきも言ったがヒツギの拉致だ。」

一命は取り留めた事を確認できた直後、オフィエル、コオリの二人によってヒツギはどこかに連れ去られてしまった。

「連れ去られた後、反応をたどった結果、彼女が今いるのは『月』になります。」

ヒツギの反応はオキとつながっている為追うことが出来た。場所も特定している。

「ベトールから情報を得た結果と一致する。月にはいくつかのエーテルを排出する施設があり、その使われていない施設を利用していると聞いた。」

エンガもアースガイドで得た情報を開示してくれた。以上の事からヒツギの救出作戦を決行することにしたオキはメンバーを指示した。

月へ向かうはオキ、エンガ、そしてクロ。アークスシップにはハヤマ、アインスらが残る事に。

「はっきり言ってヒツギを連れ去った理由がいまいち納得できん。アルを捕まえる、ならマザーが必要としているからになるだろうが、ヒツギはあくまでも保護者。となるとこちらをおびき寄せる罠の可能性が高い。」

相手側はアークスシップに簡単に出入りすることが出来る。現在も一般アークスエリアまでではあるが地球の人々がゲームとしてログインしてきている。

マザークラスタのメンバーがこちらに来てもおかしくない。そして万が一にもオキとクロが失敗した場合の事も考える。

万が一にも失敗した場合、ハヤマ、アインスが残っていれば被害はオキ達のみとなり最小限に抑えることが出来る。

「まぁそんなことは絶対ないと信じているがね。」

「一番死にそうにないリーダーが何言ってんの。」

ハハハと笑う3人と苦笑気味のシエラとエンガ。そして相変わらず心配そうに地球を眺めているアルだった。

 

 

 

 

 

月面基地。地球の見える面の反対側にある使われていない基地。かつてはエーテルを地球へ送るための基地だったそうだが、現在は使用されていないらしい。

「というのが表側で、裏側ではマザークラスタが使っている。」

オキ達が降り立ったのはがらんとした長い通路。ヒツギの反応はそのずっと奥にあるという。誰一人として見当たらない長い長い通路は異様に無音だった。

シエラ曰く、ジャミングがかけられており、先が見えない場所があるという。どう見ても怪しい場所という事で、そこを目指すことにした。

どう見ても怪しいその通路の先をにらむエンガ。どうやってぬるか。何かあった場合どう抜けるか。それを頭の中で考えていた。

じっと奥を見つめるエンガの横でタバコに火を付けた後にずかずかと進みだしたオキとクロノスを見て目を丸くした。

「お、おい! オキさんまってくれ!」

「あ? 禁煙だったかここ。そりゃすまん。」

口をへの字にしながら煙を吐くオキにエンガは首を振った。

「あ、いや。罠がどこにはられているかわからない状況で進むのはどうかと…。」

それを聞いてニヤりと笑ったオキは親指でクロノスを指さした。

「大丈夫だ。そのためにこいつを連れてきたんだからな。それに最高のオペレータまでついているんだ。」

「安心して。何か見つけたら、すぐ教えるから。急ぐんでしょ?」

自信満々のオキ達にエンガは自分の顔を手で叩き気合を入れ、首を縦に振った。

3人がそうして進む長い通路は相変わらず不気味なほど静寂を保っている。コツコツと靴の音と煙を吐くオキの息が通路に響き渡っていた。

「ん。」

「…進むぞ。」

クロが急に立ち止った。しかしオキは気づいて気づかぬふりを通せと目で合図を送る。直後に幻想種が10体ほどオキ達の目の前に現れた。

「さぁて準備運動と行きましょうか?」

オキ、クロ、エンガはそれぞれの武器を構え、現れた幻想種の迎撃を開始した。

暫く戦った後に、再び通路を歩きだした3人。そしてクロが再び立ち止った。オキも眼を細くして周囲を見渡す。

「どうかしましたか?」

「エンガ。君、さっきの幻想種何体倒した?」

クロが先ほどの戦闘に対して質問した。しかし何のことかと首を傾け、まだ戦っていないぞとエンガは答えた。

オキはそれを聞いてクロへと目で合図をする。コクリと頷いたクロは背中の白き羽を輝かせ、宙に羽ばたいた。

「…。」

クロは普段半分しかあけていない目を力強くあけ、手を翳した方向に輝く羽を飛ばした。飛ばした翅は空中の『ある場所』へと突き刺さり次第にひび割れ空間が崩れて行った。

「おお!?」

それを見て驚くエンガにオキがタバコの煙を吐きながら説明した。

「俺とクロが感知したのは時間の戻る感覚。俺は何度か過去へ戻る事を繰り返したから慣れてるし、クロに至っては…。」

「時の女神の使いだから。ふん。こんなもの、子供だましにもならない。」

だってさと鼻で笑うオキは口を歪ませ笑い、割れた空間の先にいる少女二人を睨み付けた。

「ななな…なんで!? ありえない! 120%ありえない!」

「私とオークゥで作った時間ループの隔離空間をこんなにあっさり…。」

驚く少女たちにオキは武器をしまい、手を広げてゆっくりと近づいて行った。

「よう。元気だったか嬢ちゃん。まぁ相手が悪かったなぁ。わりぃけど、通してくれねーかな。」

「…っ。」

何かを言おうとしたオークゥだが、言葉を飲み込みオキの顔から眼をそらしてしまった。それを見ていたフルはオークゥの前にでて、武器と思われる本を空中に広げた。

「あなたですね? オークゥを助けてくれたって人は。」

ああと返事をしたオキにフルは続けた。

「大事な友達の命を助けてくれたことには感謝しています。あなたのコートはクリーニングして所持品と一緒にオークゥが大事に持っています。」

「ちょ、ちょっとフル!」

顔を真っ赤にしてフルの身体を揺さぶるオークゥ。しかしフルの顔は険しいままで変わらない。

「この戦いが終わったら、必ず返します。ですが、生きたままそれを受け取れるとは思わない事です。マザーの為。マザーへの恩を返すために! 私は戦います。クゥ、つらいかもしれない。だから無理しなくていいからね。」

フルの先ほどまでの険しい顔がオークゥの顔を見ている時だけ優しく微笑んだ。それをみてオークゥも踏ん切りがついたようだ。

「…フル。ありがとう。でも大丈夫。マザーの為。必要としてくれた、マザーへの恩返し。それを忘れちゃいけない。だから…。」

オークゥは手に三角定規を光らせながら具現化させた。

「日の使徒、オークゥ・ミラー!」

「月の使徒、フル=J=ラスヴィッツ!」

マザークラスタの紋章を光らせ名乗った二人を前に、オキはタバコを携帯灰皿へと入れ、エルデトロスにフォトンを加える。

「わかった。後悔すんなよ! アークス、オキ!」

オキも名乗りを上げ、日と月と星の戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

「二人は首尾よく時間稼ぎを開始できたようだな。」

「そうじゃな。おかげさまでこのように楽に侵入できたワイ。」

アークスシップのショップエリア。アークスとは違う、異様な雰囲気を出す二人が姿を現した。

直後に七三分けの男が手を挙げた。それと同時にその後方から幻想種が大量に現れ、アークスシップ内へと進みだした。

マザークラスタ水の使徒、オフィエル・ハーバートと土の使徒、アラトロン・トルストイ。

二人はオークゥ、フルを陽動作戦とし、本隊をアークスシップへ直接送り込む作戦だった。

「アークスは、驚異的だ。パワー、スピード、技量。すべてにおいて人間を超える戦士。だが、弱点はある。」

アークスの弱点。それはアークスシップ内でフォトンを使った武器の使用が許可されていない事。武器が使用できない以上、攻撃はできない。

アークス達は何もできずに逃げ惑うしかない。それを見てオフィエルは高笑いでアークスシップ内をゆっくりと歩き出した。

「むん!」

アラトロンがオフィエルの前に金色の巨大槌をだし、どこからか放たれた攻撃を防いだ。

「ばかな。アークスシップ内で攻撃できるアークスはあのオキという者以外…いや、もう一人英雄がいたな。」

土煙の舞う中、ゆっくりと姿を現す銀色のツインテールの少女。オキに助けられ、アークスに手助けされ、今彼女はアークスを助ける為に力強く創世器・明錫クラリッサⅢを光らせ、二人をにらむ。

「アークスの中でも守護輝士と呼ばれる特殊なアークスにして、アークスの英雄。マトイ!」

マトイのテクニックがいくつもの光を放ち、幻想種を倒していく。

「最初は警告。でも、これ以上続けるというなら私はあなた達を許さない。」

再びテクニックが飛び交う。オフィエルを狙ったイル・グランツは、空間を瞬時に移動したオフィエルには届かなかった。

逆に、マトイの周囲に大量のメスが出現する。

「なめるなよ小娘。」

今まさにマトイへとメスが飛びかかろうとした瞬間だった。いくつもの火柱がマトイを守り、メスを弾き飛ばした。

「なに!?」

「ばかな…他にも動けるアークスがいるというのか?」

「ふふん。先代へは指ひとつ触れさせんぞ。

 

その幼い声の主の方をにらみつけたオフィエルとアラトロン。その堂々たる姿は少女とはいえ、ひとりの戦士だという事を瞬時に認識した。

「我、『六芒均衡』の『五』! 三代目クラリスクレイス! 悪いやつらはこの私が許さない!」

オフィエルは歯を強く喰いしばった。アークスの最大戦力であるオキを月に誘導。どういう形であれ時間が稼げればアークスシップへ乗り込み、強襲、制圧できると考えていた。さらにだ。

「まずいぞ、オフィエル。我らが放った幻想種が、次々に倒されておる。」

「なに!?」

冷や汗を流すアラトロン。彼がこのような状態になるのは滅多にない。そしてオフィエルも感じる。自分が放った幻想種が次々と倒されているのを。

少し離れたアークスシップ内のロビーエリア。この場所は多くのエリアへの入り口となる要所である。オフィエルもすぐさまここへ幻想種を向かわせていた。

しかしあるアークスによってそれは阻まれていた。

「アイムシンカートゥートゥートゥートゥトゥ・・・。」

口ずさみながら小さな声で歌う一人の白いキャストはアサルトライフルからランチャー、武器という武器、使えるものすべてを使いその場に現れた幻想手を殲滅していた。名をデストロイヤー。『採掘基地の守護神』とまで呼ばれた彼はシンキがアークスになった時代に知り合った古き友人でそのつながりでオキ達とも知り合った。普段は惑星リリーパの採掘基地にてダーカー襲撃を監視しており、襲撃の際には圧倒的な武力で防衛を行うアークスだ。

半ば楽しみつつ鼻歌交じりに幻想種を殲滅していく彼の姿を、シエラ達は艦橋のモニターで見ていた。

「さすがオキさんのお知り合いですね。」

「そりゃそうだ。デストロイヤーだもの。」

ハヤマは様子を見るために艦橋へ戻っていた。オキやマトイ、ペルソナメンバー以外にもオキは守護輝士を複数任命していた。その一人が彼だ。

間違いなく何かが起きると読んでいたオキの『念には念を』入れた準備が大当たりしたのだ。

おかげでオフィエルは楽だと思っていた襲撃が完全に失敗したことを悟る。

「んじゃ俺はまた外にもどるね。何かあったら呼んで。」

ハヤマが先程まで陣取っていた艦橋司令室への最後の扉前に戻っていった。アインスはその下階、艦橋へ続く唯一のエレベーターを守っている。

ここさえ守りきれば侵入されたとしても最悪は守る事ができると踏んだからだ。

だが・・・

「襲撃は失敗した。だが、作戦は成功だ。」

「!?」

モニターに目を戻したシエラの後方で、聞こえないはずの声が聞こえてきた。アル以外誰もいないはず。しかし声は聞こえた。

シエラが振り向くとそこには青色の髪の少女が一人、アルの前に浮いていた。

「ここまでやるとは思わなかったぞ。情報の修正が必要だな。だが、いまはその必要はない。」

「あなたは・・・。」

シエラはどうやればアルを守れるかを自分の演算能力を屈指して演算する。だが、少女の方が早かった。

「我が名はマザー。このモノ、我が預かろう。」

マザーがアルの身体に触れた途端、アルはどこかへと消えていった。

 




皆様ごきげんよう。
途中まで書いていたにも関わらず、保存に失敗して3分の1か消えてい事に気づいたのが土曜日の午前0時でした。
かなりいい感じに描けた内容がほとんど吹き飛んでました!(シッショー
さて、今回は二つの場所で戦いが起きています。
一つが月面基地。オキ、クロ、エンガとオークゥ、フルの戦い。
もう一つがアークスシップ。原作、PSO2では守護輝士は主人公である安藤さんとマトイちゃんだけですが、今作では守護輝士のリーダーであるオキが決めた人物は守護輝士となり、アークスシップ内での武器を使用したフォトンの使用が許可されるという設定を追加しております。
さて、とうとう出現したマザー。これからストーリーは後半へと進んでいきます。
では次回、またお会い致しましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。