SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

133 / 151
第130話 「マザークラスタ」

「私の名はベトール。木のマザークラスタ。以後お見知りおきを。」

アフロヘア―のサングラスをかけた男は丁寧にお辞儀をした。

「ベトール…ベトール!? 確か、鬼才と呼ばれてるハリウッドの映画監督!」

ヒツギが目を見開き、アルを守りながらその胡散臭いニヤついた男を睨み返した。

ヤマト撃退戦が終わり、その後処理をシエラに任せオキはスレアの皆に現状と今後のアークスシップの動きを説明するため、圭子、琴音、美優らをはじめとするメンバーをペルソナのチームシップに呼び寄せた。

「…というわけで、あれが地球だ。」

「スレア…じゃないん…だよな?」

「ほんとそっくり。」

キリト、アスナをはじめ外から見た地球とスレアの姿がそっくりなことに皆が驚く。

現在地球のマザークラスタと呼ばれる組織がこのアークスシップに許可なく乗り込みアークスとして活動している事。

それが向こうではゲームの舞台だと思われている事。相手側が何を考えて行動しているか目的がはっきりしない事等、現在わかっている事を伝えた。

「ここはチームシップだから自由に動いてもらって構わない。スレアからの連絡船もここに直接乗り込んでもらうように手配したからまたいつでも来れるようにしたよ。ただ…。」

アークスシップにはいかない事。いつなにが起きるかわからないからだ。

「大丈夫。オキやユウキに会えれば。」

「そうよ。だから気にしないで。」

美優(ハシーシュ)、琴音(フィリア)は笑顔で答えた。隣に座る圭子(シリカ)も大丈夫ですと頷く。

「他のメンバーは、何か変わったことはあったか?」

オキは最近の地球騒動のためあまりALOやGGO等にログインできていない。今日も本当は皆を呼びたかったのだが、一部メンバーは来れなかった為、顔も見れていないのが残念である。

一応、圭子達とは渡してあるオラクルの通信用機器で毎晩おしゃべりしてはいるのだが、やはり直接顔を合わせたいものだ。

『オキさん! 今すぐ艦橋へいらしてください! 大変なことになってます!』

シエラからの通信が入る。オキは険しい顔をして壁に立てかけていたゲイルヴィスナーを手に取った。

「ハヤマン、ここ頼むわ。」

「え? ああ。わかった。」

ほぼ同時に準備を終わらせたハヤマはオキと共に出る気満々だったために一瞬驚いた表情を見せるも、すぐにここで何かあった場合の事を考え、残されたと察する。

「行ってくるよ。すまんな。せっかく来てくれたのに。」

シリカの頭を撫でながらオキは優しい顔で微笑んだ。

「いいえ。大丈夫です。怪我を…と言いたいところですが、アークスは日常茶飯事ですものね。無事に、帰ってきてください。待っていますから。」

美優や琴音も頷き、ユウキも親指を立ててアオイと一緒に肩を並べていた。

すぐさま艦橋へと移動するとモニター画面には爆破の映像が同時に流れた。

「うお!? いったい何があった!」

映像では学園正面の広場が映し出されており、そこにいるヒツギとアルの周辺が爆発していた。本人たちには影響がないものの、いつその小さな体が吹き飛んでもおかしくはない。

「マザークラスタです。ヒツギさん達が襲われています。助けに行ってあげてください!」

「任せろ。キャンプシップ回せ!」

肩に羽織ったロングコートをマントのように翻し、キャンプシップへと足を急がせた。

ヒツギの周りでは相変わらず爆発がやまない。さらに風も吹いてきた。

「アル…大丈夫?」

「う、うん。あ、お姉ちゃん! あれ!」

アルが指さした先。そこには巨大な扇風機が何台もこちらへ強風を送っていた。先ほどまでなかったものだ。

「ふっふっふ。さぁさぁ! どうしますか? このままでは死んでしまうかもしれませんよ?」

折り畳み椅子に座り、足を組み、そして空中に浮いたビデオカメラでヒツギ達を撮っている。

その時だ。巨大な異音と共に扇風機が前に倒れ、破壊された。

「やれやれ。マザークラスタとやらは、俺達に休暇すらもくれない気なのか?」

「オキ!」

「おにーちゃん!」

肩にゲイルヴィスナーを担ぎ、パチパチと乾いた拍手をする男にオキが近付いた。

「おっちゃんだな? この子らに手ぇ出してんのは。」

「いかにも。私の名はベトール。木のマザークラスタ。以後お見知りおきを。あなたを待っておりました。」

丁寧にお辞儀をし、挨拶を交わすベトールを睨み付けたまま、ちらりとヒツギ、アルを見た。怪我はして無さそうだ。

すぐさまキャンプシップに移動させたいところだが、先ほどの爆破がいやでも目に焼き付いている。

乗った直後に爆発させられては助ける手立てがない。

「ああ、君たちはもう大丈夫ですよ。私は、この方に用があったのでね。少し、驚かせてしまったことをお詫びいたしますよぅ? 如何せん、いい表情だったものでつい、カメラを回してしまいました。」

オキはその言葉に眉を歪めた。ヒツギ達が目的ではないのか。そしてこの男はオキ自身に用があると言った。マザークラスタの男が一体何の用だというのだろうか。じっとベトールの動きを観察する。しかし動くそぶりはない。

「警戒させてしまってますねぇ。彼女たちを利用したのはあなたを呼ぶ目的でしたが、罠でもありません。いくつか要件があったものでして。」

そういってベトールは白と黒の縞模様の道具をカチコンと鳴らした。直後にその場へ椅子が3つ現れる。

「座ってくれたまえ。なに、警戒を解いてくれとは言わない。だが、罠でもない事は信じてほしいね。」

オキは細目でベトールを見た後に椅子へと座った。ヒツギ、アルは椅子には座らなかったものの、オキの背中の後ろに二人で並んだ。

「で? ベトールとか言ったな?」

「ええ。しがない映画監督をしております。これ、私の作品でして、ぜひご友知人と一緒に…。」

そういって封筒をオキへと投げた。封筒を開くとそこにはオキが以前観た『ザ・ライナー』の招待券が数枚入っていた。

「これ、おっちゃんが作ったのか! まじで! 俺見たよこれ! くっそ面白かった! サインくれ!」

「おっと…。これはこれは恐縮です。」

オキは椅子から立ち上がり、どこからか出したザ・ライナーのポスターにベトールからサインをもらった。その光景に目が点になるヒツギと笑顔になるアル。

「あれさぁ。2でないの? すっげぇ楽しみなんだけど。後さ、今度はSLで頼むよ。最近の車両ばっかだったろ。古いのも出そうぜ。」

「ふむふむ。そういう意見もありましたねぇ。ぜひ参考にさせていただくとしましょう。」

作品の感想をオキとベトールがあれやこれやと話した後に再び椅子に座る。

「で? 要件って何?」

「ふっふっふ。それはこれからお話いたしましょう。」

お互いが先ほどまでの無邪気さとは正反対に格好つけて話を始めた。

「今更恰好つけたって遅い!」

ヒツギの嘆きの言葉がその場に響いた。

「さて、まずはマザークラスタの一人としての言葉を伝えるとしよう。」

ベトールはハギトの暴走からマザーに指示されアルを捕獲する命令を受けて日本に来たという。しかしその命令を聞く為に来たはずがオキ達のヤマト迎撃の姿を見てまず自分では勝てないと予測した。

ハギトはマザークラスタの他メンバーと連絡を絶ち、現在逃げているという。

「本来マザーはこの地球を愛しているお方だ。それを壊そうなどと言語道断。君たちにも迷惑をかけた事、ここに非礼をわびる。」

軽く頭を下げたベトール。オキはその姿にマザーとはなんなのか、そしてその幹部たちマザークラスタという組織の面々が本当に何を目的に動いているのか。正邪を見極めなくてははならないと改めて認識した。

「私は、その子供が一体何者なのか、どんな存在なのかすら聞いていない。私がきいたのは少年を捕獲せよ。この一言だった。だが、君たちに対し私には勝算が全くない。私は夢をかなえられないまま死にたくはないのでね。…さて、辛気臭い話はここまで。私は私の夢のために君たちにお願いをしに来たのだよ。」

ベトールは大きく手を広げ、椅子から立ち上がった。

「ぜひとも、君たちの戦いぶりをこの私の具現武装『クラッパボード』で撮らせてほしい!」

予想斜め上を行くお願いごとだった。まさか戦いぶりを撮らせてほしいとは。いや確かにアークスの戦闘シーンは迫力ものだろう。

ベトールは語った。この間のヤマト迎撃戦は素晴らしかったと。見た事もない兵器。動き、そしてその戦いぶりはまさに映像にすべきだと。

そして重要な言葉を口から出した。

「これからは間違いなくマザークラスタとの戦いになるだろう。ぜひともその姿を撮らせてほしい。」

口元をゆがませるベトールにオキの警戒度はより高まる。

「あぁ。私は戦うつもりはないよ。私が戦えば間違いなく君たちに負けるからねぇ。私は負ける戦いはしないのだよ。必ず勝つ戦いはするがね。…ん? 私のボードはどこに。」

気が付けばベトールの周囲を浮遊していた白と黒のボードが無くなっている。よく撮影現場とかで使われる『カチコン』というやつだ。惑星スレアにもあった。

「カット! カット! カットォォォォ! フハハハハなのだー!」

カチンカチンと音を鳴らし続けながら大きなクマにのり、学園の広場を走り回るまたまたどこから現れたのか、ミケの姿があった。

「ああ、私のボード…返してくれないか?」

「だが、断る。」

ミケは笑いながら相変わらずカチコンを鳴らし続け走り回っている。そしてそれが具現武装だというのがはっきりとわかった。鳴らせば鳴らすほどミケに続く動物が増えて行っているではないか。ライオン、トラ、鹿、小さなものはウサギまで。

「悪いが諦めろ。ミケの手に渡ったものはミケが飽きない限り帰ってはこない。」

「はぁ。まぁ私にはカメラがまだあるからいいですが…む? これは!?」

ベトールが急に険しい顔つきをして走り回るミケをカメラに映し出す。ベトールの目には百獣の王ですら従うその絵図に衝撃を受けた。

「ここがもし森林なら…ジャングルなら…サバンナであったなら! 全ての自然界にてアレはまさしく頂点に君臨するモノ。そしてそれにつき従うケモノ達…そうか。私はこれを映したかったのか!」

これぞまさに頂点に立つものの姿。ベトールの脳裏には瞬く間に数多くのシーンが描かれる。この時得たミケの姿の映像と、その後の彼が作りあげた一つの映像作品『ミケフレンズ』は世界大ヒットするドキュメンタリー作品となったのは別のお話。

ベトールがミケとケモノたちの姿を夢中でとらえている最中、オキは殺気を感じた。

「っち!」

空中から現れた大量のメス。それがベトールに向かって飛んできたのだ。オキはベトールの周囲に大きな竜巻を起こし、彼を助けた。

「…邪魔をしないでもらおうか。オラクルの者よ。これはマザークラスタの問題なのだから。」

ベトールとオキは空中に立つ一人の男を見た。そしてさらに周囲に数名現れる。七三分けの聴診器を首にぶら下げた男、白いお髭の老人男性。そしてまだ若い女性が二人。フードをかぶったモノまでいる。

「全員でって聞いたから来てみたけど50%幻滅。どいつもこいつも70%弱そう。今ここでやっちゃおうよ、フル。」

「だ、だめだよ、オークゥ。確かに弱そうだけど、私たちは挨拶に来ただけなんだから。」

女性の言葉に眉を歪めるオキだが、一つ聞き逃せない言葉があった。『全員で』といった。つまりそこにいる5人で使徒と呼ばれる幹部が集まっていることになる。

「おっちゃん…あれ、知り合いかい?」

「オフィエル・ハーバート…。マザークラスタの水の使徒だねぇ。世界的権威、神の手を持つ男と言われた天才外科医だ。そこに集まっているのは皆使徒だねぇ。何しにきやがった! オフィエル!」

マザークラスタの別の使徒。それが一堂に集まったのだ。流石のオキも警戒を最大限にあげる。何をしてくるかわからない。だが、これはチャンスなのかもしれない。

「ベトール。貴様はマザーの意思に背き、行動した。それは裏切り行為と見て間違いないな?」

「裏切る? っは! 何を言っているのやら。裏切るというのは最初は仲間であったのが大前提だよ。私はマザーに協力するとは言ったが、仲間になるとは言ってないね。ハギトもそうだ。彼の言葉を借りるなら、これはビジネスだ。あくまで損得利益しか求めてないのだよ。」

ベトールの言葉を聞き、もう一度メスが飛んでくる。しかしそれをオキが叩き落とした。

「はいはいはい。あんたらの喧嘩はどーでもいいんだがね。こちらと巻き込まれた身なんだ。」

オキはゲイルヴィスナーをオフィエルに向ける。

「オフィエル、といったな。あんた。マザークラスタの中核だな? ふつういくら幹部同士でも、こうしてぞろっと集めて、その中心に居座り、大口叩いて同じ幹部をころそうなんざできねーかんなぁ。」

オキがオフィエルをにらみ、オフィエルの顔が少し険しくなる。

「ふぉっふぉっふぉ。こやつ、若いのにいい感をしておるの。」

「何笑ってんのさアラトロン爺!」

「笑うところじゃないかと。」

オークゥ、フルがアラトロンと呼んだ老人を批判する。オキが見た感じそこまで仲がいいとも言い難い関係のようだ。とにかくこちらは迷惑こうむってるみださっさと仕事を終わらせるとしよう。

「あんたらの部下か仲間かしらんが、こっちに何度も土足で入り込んでるようだな。何しに来てるかしらんが、こちらといい迷惑だ。やめてもらえないだろうか?」

「オラクルへの介入か。これはマザーの意思だ。やめるわけにはいかない。逆にこちらから言おう。私達がやっているのは駆除だ! 世界の病巣よ。いいか? 私たちの目的はアル、その少年だ。引き渡せば、地球の民の命は保証しよう。」

オフィエルはそういうとその場から消えた。オキがその気配を察知し、すぐさま行動する。出てきた先はベトールの背後だ。再びメスを大量に出現させている。

「おいおい。言いたい放題言ってこちらをほったらかしか? ふざけてんじゃねーぞ。」

「邪魔をするなといったはずだ。これは粛清なのだよ。」

お互いが睨み合い、いつどちらが動いてもおかしくない状態のその時だった。

周囲に銃声が鳴り響いた。その方向を皆が見ると一人の青年が空へ銃を撃ったことがわかった。

「兄さん!?」

ヒツギが叫ぶどうやら彼女の兄らしい。

「はい、そこまで。マザークラスタ。キサマらここは神聖な学び舎なんだ。出て行ってもらおうか?」

周囲にぞろっと他にも反応を感じた。

『10、20…。まだいます。完全に囲まれているようです。』

シエラからの通信が入る。オキにもそれはわかった。だが、その殺気はこちらではなくマザークラスタへ向けられているようだ。

「…ベトール。命拾いしたな。いいだろう貴様の命、しばらくあずけておく。」

「っは。勝手にするがいい。私は求める映像が撮れればいい。」

そういってマザークラスタの面々は消えていった。

「兄さん!? これはいったい…。」

「説明は後だ妹よ。さて、アークス、といったか。あんたらのことはとある情報から聞いている。俺たちはアースガイド。マザークラスタと対立している組織だ。」

アースガイド。新しい組織が出てきたわけだ。正直どうでもいいと思うオキはタバコに火をつけた。

「…聞きたいことはいろいろあるが、一つ質問いいか?」

どうぞと手を出したヒツギの兄。オキは一番聞きたいことの情報が得られることを望んだ。

「マザーの目的。一体それがなんなのかわかるか?」

ヒツギの兄はほかのマザークラスタと顔を見合わせ、困った顔をしながら首を横に振った。

 

 

 

 

空高く、エスカタワーと名付けられたエーテルを排出するタワーのてっぺんに一人の少女が立っていた。

「目的。それは復讐だ。それ以外でもなんでもない。これはわたしの復讐なんだ。」

夜になりつつある暗い空の中に一人の少女は消えていった。




皆様ごきげんよう。
私はかなりショックを受けました。EP1~3がなくなってる!?
しばらくPSO2の情報を得ていなかったので以前そういう情報が出ていたのを見逃していました。そして久々にストーリーを見直すためにログインしたらまさかEP1~3がなくなっていることになっているとは…。
少しの間、小説を書く気力すらなくなってしまいましたが、ここまで書いてしまった以上、書き上げるつもりです。あぁ、残念。本当に残念です。

とりあえず、気を取り直して。今回本作では犠牲者となったベトールは生き残らせました。
是非ともザ・ライナー2を作っていただきたいですね。
ああいうパニックものは大好きなんです。
さて次回はアースガイド、ファレグ、そしてEP4で一番好きなキャラオークゥが出てきます。さぁ改変しまくるぞー(ヤケクソ

では次回またお会い致しましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。