SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第129話 「オーバード・ウェポン」

ヤマトの表面武装を地上部隊が粗方破壊した直後。その異変はすぐに起きた。

 

「エーテル反応拡大! 地上部隊の皆さん! 逃げてください! 変異しようとしています!」

 

シエラからの通信で地上部隊はヤマト甲板からそそくさと氷の地面に降り立った。

 

「いそげ!」

 

「にげろやにげろ。」

 

「全員逃げたか!?」

 

地上部隊のメンバーが全員逃げた事が確認された直後、ヤマトは轟音と共にその巨体を宙に浮かせた。

 

「おいおいまじかよ。」

 

空を飛ぶオキもその姿を目で追った。まさか空中に浮いてくるとは予想していなかったからだ。

 

「地上部隊全員に通達。武蔵含めすべての海上にいる面々はすぐさま撤退せよ。繰り返す海上の部隊はすべて撤退せよ。A.I.S部隊、仕事だぞ。」

 

ミケのドラゴン・フォートレスに乗っている今回のメインとなる決戦部隊へ通達した。

 

「ああ。すでに準備はできている。」

 

A.I.Sの稼働を確認し、各項目をすでにチェック完了したアインスが目を光らせた。

 

空中へと飛び上がったヤマトはドラゴン・フォートレスへと目標を定め、前進を開始。アインス以下A.I.S部隊はオキ指揮のもと迎撃へと出る為、格納庫より飛び出した。

 

背中のブースターを煌々と光らせ、ヤマトへととびかかるアインスの機体は、腕部に持つ巨大な刃をヤマトへと振り下ろした。

 

「む、硬いな。」

 

ヤマトの防御シールドが復活していた。

 

更に光り輝くヤマトの船体がさらに上空へと飛び上がり、船体が横回転し始める。

 

『さぁ、平伏したまえ。懺悔の時間だ。』

 

ヤマトより響くハギトの声。解析結果から本人ではなく、ハギトの思想を盛られ作られたエーテルそのもの。

 

船体の下部へ宇宙ステーションを連想させるように並んだ2門の衛星兵器が出現。

 

ヤマトは徐々に降下しながら衛星兵器を反時計回りに回転させ、レーザーの連続照射を行った。

 

しかしそんな攻撃なんのその。容易に回避したメンバー各位は反撃へと移る。

 

「敵…シールド分析…うぷ…完了…モニターに…表示…あとは…まかせた…ガク。」

 

「クロが死んだ!」

 

「「この人でなし(なのだ)!」」

 

乗り物酔いにより、クロ早々に撤退。各機体のモニターにはシエラが観測し、クロが分析した結果がそこに映し出されていた。

 

更にオキは上空に大量発生したゼロ戦とのドッグファイト状態が再度展開されていた。

 

「側面のコアからエネルギーが出ているようだな。」

 

「ならそこを壊せばいいだけだ!」

 

ハヤマの⑨・セラフが人型形態から巨大ブースターを唸らせ超加速し腕部に付いた青色に発光する刃をヤマトの船体側面に光る出っ張ったコアに走らせる。

 

「私もハヤマ君に負けないよう、叩き切る!」

 

アインスの斬艦刀がコアへと突き刺さる。巨大な一撃はその余波で海の表面まで影響した。

 

「すげぇな隊長の剣…!」

 

「さすが鬼の隊長…。海まで真っ二つかよ!」

 

「あの赤い機体すごい速いわ。目で追いつかない…。」

 

撤退した地上部隊は大気圏外に脱出したキャンプシップ内でその状況を映像で見ていた。

 

アインスが突き刺し、振るった巨大な剣はヤマトのコアだけでなく、海さえ切り裂いた。ハヤマの乗る赤い機体は素早い動きと急速な転回を多用し、打ち出される弾幕をものともせず、残る砲台を切り裂き続ける。

 

魔改造されたたった二機のA.I.Sにめった切りにされるヤマトはたまらないと思ったのか海に逃げる為、船首を海へ下降し始めた。

 

「おおっと。にがしゃしないよ。」

 

大空に群がるヤマトから出現した多くのゼロ戦を叩き落とし続けていたオキの戦闘機はヤマト後部をとらえた。

 

ヤマト上空から急降下し、後部にあるはずのスクリュー部に光る結晶体をヘッドオン。

 

「おらぁプレゼントだ!」

 

機体下部より出てきた4本の細長いミサイルが放たれ、すべてスクリュー部のコアへと命中。損傷させることに成功した。

 

ほぼ同時に船体に出現していたコア部のほぼ全てが破壊される。スピード、破壊力。何もかもがハギトの、ヤマトの想定を上回っていた。

 

『ぐぅぅ!? ならば…!』

 

急激に船体を光らせ始めたヤマト。その状況を観測していたシエラが通信先で叫んだ。

 

『あれを止めてください! ものすごいエーテル反応です! なにかをしようとしています!』

 

「言われなくとも!」

 

「間に合うか!?」

 

アインス、ハヤマがブースターを燃やし猛スピードでヤマトへと刃を切りつけた。しかし…。

 

『殲滅シークエンスへと移行、一瞬で塵にしてくれる!』

 

二機の刃は惜しくも間に合わず。防御フィールドを展開したヤマトはそれと同時に巨大なミサイルを上空に何本も出現させた。

 

『強力なエーテル反応!? あのミサイルは危険です! すべて排除してください! しないと…大変なことになっちゃいます!』

 

シエラのあわてる声が通信に響く。上空から振ってくる10本の巨大なミサイル。アインスやハヤマ、オキによるミサイル迎撃行動はどう見ても足りなかった。

 

「ちっくしょー!魔改造A.I.Sの邪魔になるからと人数減らしたのが裏目に出たかー!」

 

アフターバーナーを全力でふかし、音速をも超え、持てる武装全てを使ってもそのミサイル全てを破壊することは時間的に不可能と見えた。

 

 

ドゴオオォォォォォン…

 

 

「うわったぁ!?」

 

オキの機体をかすめ、狙っていたミサイルに巨大な何かが当たり、ミサイルは弾け飛んだ。

 

『この反応は…コマチさん!?』

 

「こまっちー!? ったく…遅かったじゃないか。」

 

にやりと笑うオキははるか遠く。オキがヤマトの目の前に落とした氷結弾頭ミサイルの作った氷山の上に反応がある事を知った。

 

『いやぁ。ちょっとお手伝いをね?(…不明なユニットが接続され…停止して下さ…システムを…)』

 

オキの通信機にコマチの声が届く。語尾に「www」と大量につきそうな口ぶりだ。その後方で小さくアラーム音とところどころ途切れて聞こえてくるアナウンスが聞こえてきた。

 

『止まるんじゃねぇぞぉ…?』

 

途端にアナウンスとアラーム音が聞こえなくなる。コマチは手元でアラームを無視するように設定解除したのだ。

 

黒く不気味に光るA.I.Sと、その機体の大きさに不相応な長く巨大で無骨な銃型の武装が腕に直接つながっていた。

 

甲高くチャージ音が鳴り響き、そして巨大な弾丸が再び放たれた。

 

『愛してるんだぁぁ! 君たちをぉぉぉぉ!!! フハァハハハハハ!』

 

「HUGE CANNON」。そう名付けられたあまりに強力で危険すぎると研究部門最奥に封印をされるほどの代物をオキが引っ張りだし魔改造A.I.Sを作るきっかけになった5つの武器の一つ。

 

膨大なエネルギーをチャージして拡散型フォトン弾頭を放つ超大口径砲。A.I.Sの右肩に折りたたまれた巨大な砲身を背負い、左肩にジェネレーターのようなパーツを装着する。起動すると装着された砲身を展開後に二脚銃架と左腕で保持される。チャージ時は構えをとるが、非常に長い射程を誇るうえに着弾時の爆風も強烈で、遠距離から対象を破壊する飛んでも兵器。

 

「あの野郎…むちゃくちゃしやがって!」

 

放たれる弾頭がこちらにあたる事はないと知っていながらも、その巨大な砲弾はミサイルを破壊しつつ各自の機体をかすめ取っていた。

 

『そうだねぇ。危なかったねぇ。…で? なにか問題?』

 

ニヤリと笑うコマチの機体の後方。巨大な浮遊する船が現れた。

 

「団長! なにやってんだ、団長!」

 

舵を持つ一人の男が叫ぶ。

 

「はわわ! すべて破壊しちゃいました!」

 

「さすが俺の相棒だぜ!」

 

蒼髪の少女は驚き、小さな空飛ぶ生き物は満足そうにしていた。

 

『そら、後はあんたらに任せたよ。』

 

「そうだ。こまっちーが作ってくれたチャンスだ! やっちまえー!」

 

コマチの最後に放った弾丸はヤマト艦橋へと防御フィールドを突きぬけてぶち当たった。機能が低下したのかその場に停止。会場へと再び落下したヤマトにオキ達は最後の攻撃を仕掛けた。

 

「ロックオン…フルバースト!」

 

「ターゲット確認…排除開始!」

 

オキの放てるすべてのミサイル、弾丸を連続で発射。そこにハヤマの⑨・セラフが同時にミサイルとパルスライフルをお見舞いする。

 

「隊長! その剣、ちょっと仕掛けがついてるからフォトン全力でおねがい!」

 

「了解した。」

 

剣をA.I.Sの真正面に両手で構えたアインスは機体を通してフォトンを流し込む。すると直後、綺麗にまっすぐ、縦へ真っ二つに剣の刃が折れたではないか。そしてそれが鍔となり、フォトンの刃が長く、長く伸びていく。

 

「ほう…。いいね。気に入った。」

 

アインスの構える長い巨大なフォトンの剣は空高くに伸び上がった。

 

「オラクルのため…アークスのため…そして、私自身の為! 我に切れぬもの無し。 おおおおおお!」

 

振り下ろした刃はヤマトを綺麗に半分へと切り分けた。もちろんただでは済まない。爆発音と共に沈みゆくヤマト。だが…。

 

『まだだ…だま終わっていない…! 私は復活する! 何度でもだ! ヤマトは…不滅だ!』

 

アインスの眉がピクリと動く。オキはアインスからの機体から放たれる異様なオーラを感じた。

 

「隊長…?」

 

アインスは更に横へと切り払い、十文字にヤマトを斬った。

 

「貴様がその言葉を言う価値はない。沈むがいい。何度でも…叩き切る!」

 

復活を企てるヤマトに対し、なにかの地雷を踏んだのかアインスが怒っている。普段温厚な彼がだ。

 

空間すら揺るぐ程怒りを露わにするアインスのさらに上空に黒い影が現れた。

 

「なんなのだ。まだやっていたのかー?」

 

アグアグと皆が戦うその姿を肴に、ずっと食事を取っていたミケ。途中眠くなり昼寝をしていたミケ。そして起きて間もないミケはまだヤマトと戦う彼らの姿をみてしびれを切らしたようだ。そして…ミケの目が光る。

 

「そんなに壊したいのならミケにお任せなのだー!」

 

ミケが叫ぶと同時にドラゴン・フォートレスの口が大きく開き、光り輝きだした。

 

「まずい…!」

 

「やっべ…。」

 

「撤収!」

 

アインス、オキ、ハヤマはそれを見て悪寒を覚えすぐに撤退をし始める。すでに撤退していたコマチは共に来ていたグランサイファーの甲板上でそれを見ていた。

 

「あーあ。死んだな。」

 

光が頂点に達し、その光は咆哮となって嵐のようにヤマトへと降り注いだ。

 

 

「滅びの 爆裂疾風弾(バーストストリーム)!!!」

 

 

ドラゴン・フォートレスから放たれた白き光の咆哮はヤマトをエーテル反応ごとまとめて吹き飛ばした。あまりにも強力であまりにも危険なその咆哮はミケの気まぐれにより放たれる。少なくとも味方である以上はアークスへの被害を最小限に。そして敵対した相手には最大限に効果があると踏んだオキは任せた結果である。

 

「フハハハハ! 粉砕! 玉砕! 大喝采! なのだー! フアハハハハ!」

 

爆発と炎に満足したミケは笑いながら各機体を格納されている事も確認せずに空へと舞いあがって行った。

 

 

 

 

「これは素晴らしい! 面白い…。やはり、彼らは…。」

 

その光景を見ていたひとりの男性。椅子に座り、手にメガホンを持ち、反対にはカメラを持つ。

 

戦いの最後を見届けた彼はずっとビルの上で笑い続けていた。




皆様、ごきげんよう。
やぁぁぁぁっと書けた…。誰だよ! 年度末にこんなに仕事入れた奴!
大真面目に大忙しですはい…。死んだ目をしながら書き上げました。
ようやっとひとり目のクラスタ編が終わり。次回はあのフリーザ様のお声をもった監督に会ってきます。まだまだ書くのに楽しみな部分が多く残ってます。早く終わらせたい。
では、また次回にお会い致しましょう。

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