SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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今回から書き方を少しだけ変えました。今後も少しずつ変えていくつもりです。よろしくお願いします!
ではどうぞ!


第12話 「幸せの瞬間」

25層での問題点、『なぜヒューナルがここにいたのか』は現状では調べる事ができずそのままに、俺達は攻略を進め順調に上層を目指した。

そして1年。ゲーム開始から1年経った。このままのペースでいけば順調に攻略できる。そう思った。特に問題もなかったし。この1年の功績から俺たちイレギュラーズ無しでは攻略は難航しただろうという話が常識として成り立ち、実際犠牲者も少ない。だが、どうしても無茶をするプレイヤーは出てくる為にこのゲームからいなくなったプレイヤーは『あくまでも少なくない』となっている。攻略組の面々もできるだけ無き様にとあちこちで見かけるプレイヤー達を手助けしては注意するようにしているのだが、難しい点である。

できるだけ被害が無いように無茶をしない程度のスピードで駆け、42層まで上り詰めた。

そしてたどり着いた一向は42層の美しさに見惚れていた。下層でも美しいフィールドは多数存在したが、ここは群を抜いている。

41層からの出口は街のすぐ近くにある丘の上にあり、見渡すとあちこちに桜が咲き誇り、月夜がフィールドに流れている小川をきれいに照らし光り輝いていた。エネミーは周囲に見当たらない。どうやら街までの道はエネミーが出ないようだ。

奥の方には巨大な塔、迷宮区がそびえ立ちその周囲を囲むように他の桜の木の何倍もある巨木の桜が目に映っていた。

「すげぇ…。こんなフィールドもあるんだな。」

座り込み、その景色をずっと眺めていたいくらいの気持ちになり、気づけばすぐ隣にシリカも座り込み一緒に眺めていた。

「きれいですね。」

「ああ。心が落ち着く。こういうのもいいもんだな。」

シリカと一緒にじっとその景色を眺め、夜風に吹かれる中、心地よい気持ちになっていた。

「よし、我々は街をアクティベートしてくるとしよう。今日はみんなお疲れ様。各自好きなように動くといい。オキ君、アインス隊長、今回の反省会と今後の課題については明日以降落ち着いたタイミングでいいだろう? 今日はゆっくりしたまえ。」

ディアベルは気を利かせたつもりなのか、俺を見ながらニヤケておりそのままメンバーを率いて街へと向かって行った。

「それじゃオキはん、ゆっくりしていきーや。」

キバオウも後ろから背中をたたき、同様ににやけている。おめーらどういうつもりかわかってんだろうな。

「そうだな。ハヤマ君達も疲れただろう。ゆっくり今日は休もう。それでは俺も邪魔にならないように早々に立ち去るよ。」

「そうだねー。邪魔しちゃ悪いもんねー。」

「だな。そうしよう。」

「みんないくのだー。」

キリトやアスナもなんだかいい雰囲気になって気が付けば二人で歩いて丘を降りていた。

ハヤマ達もそういって競争だとか言いながら全員で走って降りて行った。残された俺とシリカはぽかんとするほかなかった。

「あの野郎ども…。気を利かせたつもりか。」

「キュルゥ?」

ピナは苦笑する俺と赤面になってうつむいている主人を見ながら首をかしげていた。

「あ、あの。オキさん。」

「んー? なんぞい。」

シリカは立ち上がり笑顔で手を伸ばした。

「街へ向かいましょう。」

「ああ。」

シリカの手を掴んで立ち上がり一緒に街へと向かった。

街は和風の家々が立ち並び、あちこちで着物を着たNPCが歩いていた。

「ふむ。街の名前はサクラというのか。そのままだが、いいもんだな。」

「オキさんのいた宇宙でも桜ってあったんですか?」

隣を歩くシリカが顔を覗いてきた。

「ああ。とはいえ、人口だけどな。フォトンの力を使って活性化させ人工的に咲かせている。4月付近になると春の祭りとしてアークスシップのロビーに大量の桜が咲き誇る。」

自分でいってて懐かしい。早く帰らないとな。じゃないと、みーんな心配してるだろうし。

「へぇー。見てみたいですね。」

「ゲームが終わったら見に来るか?」

「ふふふ。じゃあその時は。」

冗談に聞こえたのだろう。そりゃそうだ。本来シリカは住んでいる場所が違いすぎる。そもそもアークスシップに他の星の住民って乗せていいんだっけ? マトイの件があるから、登録すりゃ客としていけるかもだが。シャオに相談してみるか?

街を歩いている最中、前からハヤマが全力疾走で走ってきた。

「オーーーキーーーさーーーん!」

なんだ? 急にはしってきて。何かあったのだろうか。

「どうした? そんなに走って。面白いもんでもみつかった?」

「いいからきて!」

「?」

シリカと顔を見合わせハヤマに連れられて街の東側へと歩いていった。

「こ、こここ。これは!?」

そこにはオラクル騎士団メンバーが集まり、ある建物を見ていた。大きな和風建屋で高さから考えて3階建て。

詳細をコンソールで確認してみると、どうやらプレイヤー用の建物らしい。

「ね? すごいでしょ? ギルド拠点にどうかなって…。」

「温泉付き。和風建屋。商店、鍛冶屋付のなんでもござれの良物件。」

ハヤマとコマチが説明する。なるほどそういう事か。

「ほうほう。値段は…。ふむ。ポチー。」

目の前に購入完了の文字が浮かぶ。そして建屋の壁に星形のギルドマーク、俺たち「アークス」のマークがついた旗が貼られた。ギルドメンバーには『マスターがギルド拠点を購入しました』というメールが同時に届いた。

「はえーよ!」

ハヤマが突っ込む。

「はっはっは。買わずに後悔、買って反省! 今日からここが我らギルドの拠点だ!」

「「「おおー!」」」

「おい! 中にはいってみよーぜ!」

「ちょっと! まずはギルドリーダーからでしょ!」

タケヤが早速扉を開けて中に駆け込み、そのあとをツバキが追う。レンとサクラは笑いながらそれを追い駆ける。

「いいって。好きにしな。」

「オキさん。かなりの高額だったのでは?」

シリカが首をかしげながら聞いてきた。

「あー。問題ねーさ。無くなった分はまた貯めればいい。」

実際あまり残額は残っていない。だが、それに見合うものだと確信して買った。後悔はしてない。

それに俺らは攻略組の中でも1,2を争うトッププレイヤー達だ。攻略している最中に嫌でもお金は入ってくるしな。

「…私も鍛冶場みてくる!」

最近鍛冶職人として動きだしたリズベットも中へと入る。血が騒ぐのだろうか。

「私達もいきましょ。キリト君。」

「ああ。」

「おれも見てみるか。」

アスナ、キリト、エギルの旦那も歩いて中へと向かった。

「よし、俺らも中にはいろーぜ。」

「はい!」

「きゅる!」

シリカ、そしてアークス達も中へと入った。

建屋は母屋の鍛冶場、商店が一階。2階がギルド運営として使用できそうな会議室や道場。そして3階が住居施設とかなりの大きさになっている。また、別館に温泉があり、実際に見てみると露天風呂となっていた。ちなみに男女別である。

粗方確認した後で、メンバーを会議室に集めた。

「さて諸君。ギルド拠点、お待たせしました。中の施設は好きに使っていい。3階の部屋割りも好きにしろ。温泉はどうやら常時入れるそうだ。あ、男性諸君。もし覗きをやった場合、世にも恐ろしい光景を見ることになるから気を付けるように…。アークスのサンドバックになりたくなかったらやめとけよ。」

ニッコリしながらオキは男性メンバーへと怖い事を言う。言葉自体が本当に起こりそうなのでしっかりと心に刻んだ男性陣。

「はいはーい。一つ質問なんだけど、この建屋と、別館。そしてもう一つ家があったんだけど。」

「ん? そんなのあったのかそりゃ見逃したな。」

ハヤマの言ったことから建屋の地図を再度確認する。確かに温泉とは反対の方、敷地内の端に小さな離れが一つあるようだ。

「そこなんだけど、オキさん使いなよ。もとはオキさんのお金で購入された場所なんだから。」

コマチが手を上げて発言する。

「いいのか? 俺は別にどこでも…。」

「いいって! ね! みんな!」

アスナも同意し、全員が頷く。感謝するしかないなこりゃ。

「すまない。それじゃその離れはおれが使わせてもらう。」

頭をさげ、先ほど温泉を見たときに思ったことをみんなに告げた。

「ああ、そうだ。これは俺からの提案なんだが、温泉だけは他のプレイヤー達にも使わせていいかな? 温泉とは誰もが心温まる場所であり、それに入る事を誰であろうと拒むことはできず、それでいて交流の場であり、なによりその…。」

「ストーップ! オキさんの温泉好きはわかってるから。いいよね? みんなも。」

ハヤマがオキの温泉について語りだした言葉をすぐさま止める。始まり付近で止めたものの、内容を考えるとたぶん止まらないのだろう。実際そうだ。皆は頷き、同意したと同時に俺の温泉好きがどこまで好きなのかを把握したらしい。だっていいじゃん。温泉。実際温泉ってのは温まるだけじゃなくてその効能だとか…(略

後程、アインス、ディアベル、リンド、クライン、そしてアルゴ姉を呼び状況を説明した。

「と言うわけで、日中ならどのギルドであれうちの温泉には入っていいとする。ただし、ギルドメンバーの誰かに許可は得る事。まぁ誰かしらロビーにいるはずだし。ギルド連合外のメンバーについても同様。アルゴ姉に関してはこの情報を流してもらいたい。」

「フムフム。問題ないヨ。ギルド外ってことは、俺っちも入っていいってこト?」

「うん。いいよ。アルゴ姉は問答無用で好き勝手にはいって。いつも助かってるしな。」

「なるほどナ。感謝するヨ。」

言葉ではサラリと流したが、顔に出ているぞ。すごくうれしそうだ。

「私のところにも伝えておこう。」

「だな。しっかしオキも太っ腹だねぇ。」

クラインが嬉しそうに話す。

「ああ、言い忘れたけど。もし覗きをした場合、女性はいいとして男性の場合…アークス全員よりなんと豪華な制裁が待っています!」

にこやかに言ったが、内容は地獄そのもの。アインス以外の男性陣は真っ青になっている。

「ほうほう。ちなみにその豪華な内容を聞いてもいいかな?」

興味を持ったのかアインスが質問してきた。

「ききたくねぇ! …けど一応聞いておこうか。」

クラインが涙目になりながら俺の方を向く。そんな顔で見るな。

「やる人はクジで決めるんだけどね。決まったアークスの得意な武器で使用する全フォトンアーツを豪華5本立て。ああ、隠れても無駄だよ。すでに覗きが可能な位置は全て把握している。射撃職やっていると嫌でも目に入るんだよねー。隠れそうなとこ。」

アインスはそれを聞いて笑っている。

「ははは、それはいいな。ちなみにそのアークスの中には俺も入っているのかい?」

「もちろん。隊長が覗きなんかするとは思えないし。うちの面子がそんな事するはずないしな。ハヤマんはそんな度胸は無いだろうし、コマッチーは覗く暇あるならダンジョンに潜る。ミケはしらん。あいつはそもそも性別不明だし、なにより女性陣からは人気高いから文句は言われないだろ。ま、覗きもしないだろうが。あ、分からない人がいたら困るから説明するけど。以前下の層でフィールドボスに対してSS無しの全PAの動きのみで討伐をやったことがある。」

「ああ、あのときか。全部やる前にフィールドボスのHPが溶けたんだったな。たしかオキ君、ハヤマ君、俺で止まりだったか。」

「武器種1個しかできなかったけど、全部やりたかったなぁ。やらないと流石に1年もPA出してないから忘れるんだよねぇ。」

「だな。俺も久々にカザンナデシコでぶった切りたい。」

いくらフィールドボスとはいえ、ボスはボスだ。SSでの攻撃力補正は必須だ。だがアークス達はそれを通常の攻撃だけで終わらせている。いくらアークスがつかう技を真似ても動きだけだ。一体どれほどの技と動きをするのだろうか。本当のアークスの動きと力を考えるだけで身震いがする。皆が口々に言っていた。ん、アルゴ姉が手を上げているな。

「女性はいいのカ?」

「女性は別にかまわんよ。男は見られても問題ないだろ。女性の場合嫁入り前の体を人様に見せるもんじゃないしな。まぁ嫁に行っても一緒だが。俺はそう思っている。」

男性陣(主にクライン)から「理不尽だ!」とブーイングが出るが、にこやかに大剣を出すと静かになる。

「ま、そういう事で…。俺の話は以上!」

話は終わり、雑談タイムに移る。

「あぁ。オキ君。少し相談なのだが。」

ディアベルが手を挙げた。

「ん? なんぞい。」

「この会議室。今後の定期ギルド会議で使わせてくれないだろうか。」

そうだな。俺も思ってたし、いいんじゃないだろうか。あとでメンバーに言っておこう。

「いいよー。特に問題ない。俺もそう思っていたし。」

「感謝する。」

「ハイハーイ次は俺っちから質問。あ、これタイチョ―とクーランになんだけド。」

アルゴ姉が手を上げる。ちなみにクーランとはアルゴがクラインを呼ぶときの名前だ。

「ん? なんだい?」

「最近耳にしたんだけどナ、サーちんとクーランは付き合い始めたって本当カ? あと、それをタイチョーはしってるカ?」

その言葉にその場がざわつく。聞いてないぞ。そんな話。

「え、マジデ?」

「ほう…初耳だな。なかなかやるではないか。」

俺とアインスは驚く。確かにサラに対してかなりのアプローチをしていたのは知っていたが思ったよりも早すぎた。

彼女とは【巨躯】復活事件からちょくちょく彼女と一緒にシャオの依頼をこなしてきている。よく知っているからこそ彼女が男と恋愛事になるのは余計に驚く。

「へぇ…サラがねぇ。大変だったろ。」

「まぁ、何度もアタックかけたしな。」

クラインがニンマリしながら言った。

「そうだなぁ。これから大変だぜ。いろいろと。そもそも星間の恋愛とか聞いたことないぞ。物語じゃあるまいし。」

タバコに火を付けながら言う。超長距離恋愛とかそんな問題じゃない。まぁアークスならそんなことも問題もないかな?

よくよく考えてみればこのスレア星までそんな距離なかったし、最悪ちょっとワープ装置弄って…。

「そこは…まぁ課題という事で…。そんなこと言ったらおめぇもそうだろ。シリカちゃんとはどうなんだよ。」

「そこは俺っちも聞きたいネ。」

周囲のメンバーもうなずく。なんだよおめーら。興味深々だな。

「まぁオキ君がそこを考えてないとは思えないが。重要な課題だな。」

アインスも腕を組みながら俺を見る。たいちょう、あんたまでか。

「隊長まで…。まぁ考えてない、といえば嘘になるけどなぁ。だが俺は付き合ってないし。」

「またまたぁ。」

クラインが横腹を肘うちする。いてーなおい。

「痛いって。それよりクライン。星間での恋愛よりもサラの個人的な問題は知ってるのか?」

「え? なんだよそれ。」

どうやら一番の問題点を聞いてないらしい。

「あー…。どうやら知らないらしいな。こればかりは俺の口からは言えない。サラ自身から言われないといけないな。」

サラは身体的な部分である問題がある。シャオとの関係だ。だがこればかりは彼女の問題だ。今クラインに教えるのはいけない。

「気になるな。気になる! だけどなぁ。」

「クーラン。女の私から言わせてもらうけド、サーちんから直接言われないとダメだと思うゾ。だが、それを教えてもらうという事は、信頼されているという合図じゃないかナ?」

同感である。

「そうなんだよな。うっし、頑張ってもっと信頼されるようにならないとな!」

「ガンバレー。」

他人事のように言ったが、自分もそろそろ考えなければならない。シリカとの関係を。

優しきギルドメンバーから許可を貰った自分の家として使う為に、生活できるよう家具の配置を考えていた。

エギルの旦那が商店を開きたいと言ってきたから、早速足りない家具を頼んだ。かなり格安で手に入りそうらしい。

後でアルゴ姉に聞いたのだが自分で作る事も可能らしい。興味があるから情報を貰う事にした。

離れの中は2階建ての小さな家だ。1階にリビングやキッチン、風呂場やトイレ等がある。2階は2つの部屋があった。片方を寝室にして、もう片方は書斎にでもするか。

家の配置図をコンソールで弄りながら大体の大まかな配置を決めた。こんなものか。

一息つこうとタバコに火をつけたときにチャイムが鳴った。誰か来たらしい。

「はいはい。誰ですか?」

「わ、私です。シリカ、です。」

扉の向こうから声が家の中に響いた。結構聞こえるんだな。面白いシステムだ。これならどこにいても聞こえるな。

扉を開けてみるとシリカが立っていた。

「どうした? 何かあったか?」

「あの、そのちょっとお話があって。」

何か思うところでもあるのだろうか。俯いたままである。

「ふむ。まぁここじゃなんだから中入って。」

「お、おじゃまします。」

家の中はまだ最低限の物しかそろっておらず、人を招き入れるには少し早いが。まぁいっか。

和風の家には似合わない洋風のリビングにテーブルとソファーだけを置いてある。そこにシリカを座らせた。

ピナはシリカの座ったソファーの空いてる部分に飛び降り、眠いのか丸くなって落ち着いている。

「さって、どうした? 話したいことって。」

「その、私と初めて出会った時、オキさんは私に元気をくれました。そしてそれからずっと。この一年間、いろいろと教えてくれました。本当に感謝しています。ありがとうございます。」

どうやら礼を言いに来たらしいな。

「いいよ。別に礼なんて。むしろこんな俺に一緒についてきてくれてこっちが感謝したいね。」

「いえ、そんな。えっと…。そうでした。これを…。」

シリカはコンソールを弄ってビンを出した。中には液体が入っている。

「これは?」

「こちらに来る前にセンターさんからこれを持って行けって。二人で飲めばいいと。」

なるほど。そういえばあいつ、ドリンク作成系のスキルがあるとか言っていろいろ作ってたな。しかしこれは何だろう。

「なんでもおいしい物が出来たからおすそ分けだそうで。」

ふむ。まぁ丁度いいか。いろいろと。

「よしじゃあ飲むか。」

グラスを取り出し、シリカに飲み物をついでやった。

「1年間ありがとな。俺もいろいろと助かった。これからもよろしく頼めるかい?」

「いえ、こちらこそ。」

「「かんぱい」」

乾杯をして特製ドリンクを口に含む。なんだこれ? 不思議な味だな。だが、美味い。

「ん、美味い。」

「おいしいですねこれ。」

シリカも気に入ったようだ。センターには後でお礼を言っておこう。

「オーキーさーん。きいてますかー?」

「聞いてる聞いてる。」

前言撤回。こいつはあかん。ビンの中身をほとんど飲み干したシリカは今や絡みまくっていた。この世界、アルコールの入ったものは無いはずでは? 似たような味をしたものはいくつかあったが、まさか開発したんじゃないだろうな。

シリカが完全に出来上がってるぞ。気が付けばすぐ横に座り、ずっと腕に絡まり俺にくっついている。ピナ? もう寝てるよ。

「もー…。ちゃんと聞いてくださいよー? 私は、オキさんに、すごーく感謝してるんですからね?」

「わかってるって。何度もきいたから。」

先程からずっとこうだ。時折水を飲ませてはいるんだが、効果があるかどうか。

実際俺もこいつのせいなのかそれともシリカがすぐ横にいるからか分からない程体が熱い。

「うー…。おーきーさーん。」

「はいはい。なんだい?」

「えへへー。」

そんなににこやかにほほ笑みながらぴったりくっつくな。いろいろヤバイ。いやうれしいけど。

「全く…。」

頭をなでてやると途端に静かになる。心地いいように目を瞑りながらほほ笑んでいた。髪の毛サラッサラだな。

こういうところまで再現するとかほんとすげぇな。暫くしたらシリカも落ち着いたようだ。

「オキさん。」

「んー?」

「サラさんとクラインさんが付き合い始めたらしいのですが、どう思います?」

その話か。結構出回ってるな。アルゴ姉あたりがばらまいたか?

「そうだな。いいんじゃないか?」

「でも、オキさん達って宇宙を旅してるんですよね? それって…。」

その通りである。シリカが言いたいのは間違いなく距離の話だろう。

「そうだな。星々を巡って旅をする。それがオラクル船団。とはいえだ。多分来ようと思えば来れる距離だ。」

オラクル船団は銀河系をも飛び越える。今の所アークスがどこかの星の住人を好きになった、なんて話は聞いたことないが、実際はあったかもしれない。それにアークスの技術ならば距離すら関係ない状態に持っていきそうだ。

「それに、いいんじゃないか? そういう関係。俺は良いと思うぞ。今までいろんな物語を読んできたが、中でも惑星で生まれた男が、衛星で生まれた女性と出会い恋をする話と、異世界から来た男が、その世界の女性と愛し合う話は印象深いな。」

特に前者の物語は何度も読んだ。それくらい好きな物語だったな。アークスとして活動しだしてからも合間を見てはいろんな物語を探していたな。よくよく考えたらまだ読み終わっていない物がいくつかあったな。帰ったら絶対読もう。そうしよう。

「オキさんも恋愛物とか好きなんですね。」

「うむ。結構好きだぞ。甘えたり甘えられたりしている描写の部分はこう…なんだ、甘酸っぱいというかニヤニヤするというか…。」

言葉にするには難しいが、シリカはうなずいてくれた。伝わったみたいだな。

「わかります。私もこういう恋愛したいなーって思ったりもしましたし…。オキさんはどうですか?」

「そうだな…。俺もそういうのいいなぁって思ってたな。アークスの活動頻度が激しくなってからはそんなことも考える暇もなくなってしまったが。」

特に【巨躯】復活から忙しい日々が続いていた。そんな暇なく出回ってたもんな。

暫くシリカは黙り込んだ。そして何かを決意したようにじっと見つめてきた。

「オキさん…。あの、伝えたいことがあります。」

「お、おう。なんだい?」

「その、えっと。この1年。本当にいろいろと感謝しなきゃならない事でいっぱいです。ずっと一緒に居てくれて、いろいろ教えてくれて。守ってくれて。だから今日はお礼を言いに来たんです。」

まぁずっと感謝していると言ってたしな。なんとなくわかってた。

「そして、もう一つ…。途方にくれて何も考えられなくなたったあの日、オキさんは私に元気をくれました。それからずっと一緒にここまで来て、私はある事をずっと思ってました。」

じっと見つめてくるシリカの目を俺もずっと見ていた。この流れはあれだな。うん。多分間違いない。だからこそ聞かなきゃならない。

「その、す、好き…です。」

言った後に物凄い深呼吸をして落ち着こうとするシリカを見て俺も確信した。

「…そうか。そうだよな。うん。俺も好きだよ。シリカ。」

目を見開くシリカの頭をなでる。こりゃ今後が大変だな。

「その、私でいいんですか?」

「逆に聞こう。俺でいいのか?」

シリカは微笑み俺も笑う。

「これからよろしくな。シリカ。」

「はい!」

初めて、この人とずっとに幸せになりたいと思った瞬間だった。




皆様、おつかれさまです。
今回は一つの節目でどうやって主人公とシリカをくっつけるかに全力を注ぎました。
何度も書き直してようやくなんとかなったという形ですね。
さて、今後からはシリカといちゃいちゃできるということです。イヤッホー!
では、次回以降もよろしくお願いします。
次回はハヤマ視点で「運命の人?」。

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