SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第123話 「小さな魔法使い」

百戦錬磨のアインスに対し、終始劣勢となったユウキ。アインスは本気を出していないものの、戦いの腕はあまりにも格が違った。

「つ、つよい…。」

歴然とした力の差。それはゲームのステータスや武器の強さではない。彼自身の強さを物語っていた。

それでもユウキは先へと進まなければならない。約束した彼と再び戦うために。

アインスもそれを承知で戦っている。自分が認めた男が認めた相手。再び戦いたいと願うその姿。

「燃えるじゃないか。」

微笑みながら彼女の姿勢を観察する。まだ諦めていない目。体に入る力加減。余力は残っている。

「ユウキ君。君は、オキ君の部屋に住むそうだね。」

「そうだけど?」

お互いの剣をぶつけ合いながら、アインスは質問する。

「彼はアークスだ。我々アークスはいつ死ぬかわからない。それを君は…。」

「わかっているさ。ゲームじゃない。リセットはできない現実の世界で戦う。」

振られる刃を弾き、アインスの問いに答えた。

「オキはいっていた。いつ死ぬかわからない。それでもついてきてくれるよなって。僕を助けてくれた。一緒にいてくれるっていうオキに僕は少しでも、恩返しがしたい!」

素早いサイドへの移動からアインスへと切りかかった。アインスはそれを軽々と防ぐ。

「彼が窮地に立った時。君はどうする。」

「…僕は信じる。オキがそうならない事を。」

彼女の目は初めから覚悟が決まっている目をしている。アインスはすでに答えを出していた。

「信じる、か。」

「それに、ぼくの知っているオキはどんな窮地でも笑いながら抜け出すもん! 隊長さんに比べれば、僕はまだまだ短い時間だけど、オキのくれた…助けてくれた時に、オキのしてきたこと、見てきたことが僕の中に流れてきた。やっぱりオキは僕の思った通りの、ヒーローなんだ!」

その言葉をきいてアインスはピタリと止まり、ゆっくりと構えを解いた。

「ふふふ。いい答えだ。」

そうして微笑みながら反転。ユウキを背にしてフィールドを自ら降りた。その行動に周囲がざわつく。

「ああ、キバオウ君。俺は負けでいいよ。」

唖然とする観衆に対し、ゆっくりと外側へと歩いていくアインス。

「な、なんかよくわからんけど…決勝に進んだのはユウキやぁぁぁ!」

キバオウの宣言により、再び歓声が上がる。

ユウキは、約束通り歩みを進めた。後はオキが上がるのみ。

「とはいえなぁ…相手がシンキかぁ…。」

はっきりいってやりたくない相手だ。以前、手ほどきを受けたがそれはもうボロボロだった。

昔の事を思い出しながらフィールドへと上がったオキが見たシンキの姿が、変わっていた。

身長が縮み、漆黒の羽は純白の羽へと変わり、グラマーな体が、スレンダーな姿へと。

「り、リリィ!?」

「おっきな私から遊んでおいでと言われたので姿を変えて参上しました。」

にこやかに杖を構えるシンキ(リリィ)に対し、オキは若干引き気味だ。

「なんやて!? あの可愛らしいのがシンキはんやて!?」

「確か、姿を変えられるアイテムがあるだろう。それを使ったんだと思われる。」

ALOではかなりの金額が必要になるが、姿を変えられるアイテムが存在する。シンキはわざわざそれを使用して、リリィを表に出したのだろう。

「さぁ、マスターさん? あ そ び ま し ょ う ?」

にこやかにほほ笑むシンキ(リリィ)だが、そのほほえみは天使なんかではない。死神そのものをイメージしたオキは即座に槍を構え直した。

「てやー!」

杖を振り上げ、思い切り振り下ろしたシンキ(リリィ)。オキがその直後に見たのは上空から振ってくる超巨大な火の球。しかも5個同時ときた。それくらいならオキじゃなくてもよけきれる。だが、問題はその後の話だ。

「そりゃー!」

気の抜ける可愛らしい声で杖を振り、魔法陣を次々と作り上げるシンキ(リリィ)。

そのたびにあちこちから氷塊が降ったり竜巻が現れたり、水が流れてきたと思いきや、巨大な木々が生え突き上げてきたり、雷が降ってきたりと近づくに近づけない。

「うそだろおい。」

明らかにシンキの戦い方とは異なる遠距離での魔法攻撃連発。それに大魔法だけではない。中には小さな魔法を使い、時には魔法攻撃の間に休んだりと動きが明らかに違う。

「こいつは驚いた。あの嬢ちゃ…じゃなかったシンキはん。ものすごい効率的な戦い方しとるな。」

キバオウもそれを見抜いた。

それもそのはず。シンキは元々アルゴル原初の英雄、一通りマジックが使えながら剣術を嗜んだアリサのクローンとして生まれ、更にそこへ英雄の一人、ルツの記憶を組み込むことでよりマジックの適性を高めた。その結果が彼女の背中にある6枚羽だ。

現在のシンキは宇宙船アリサⅢに移動した時点で失った、光と闇の複合精神体の穴を埋めるべく性欲関係に人格が傾いた為、肉体のホルモンバランスに変化が生じ、アリサ本人の慎ましいスレンダーな体ではなく、豊満な体に成長した。

リリィは傾く前。中間に位置するバランスのよい、生まれたばかりのシンキと言える。そのためマジックの適性が現在のシンキよりも高い。

結果、マジックと似て非なる魔法も同様。

「とやー!」

再び杖を振り上げるリリィ。そのたびに攻撃魔法がオキへと降り注ぐ。

「ちぃ。MP効率をしっかり考えてやがる。近づけやしねぇ。」

大魔法の隙をついて近づこうとすれば小さな魔法で遠ざけられ、遠くなったら大魔法が飛んでくる。

この動き方はのちにALOでの魔法職の基本的な戦い方となるのは後の話である。

「さーてどうやって倒すべ。」

口をへの字にしながら楽しそうに魔法攻撃をするリリィの動きを見るオキは、何としてでもここを突破しなければならない。

そのへの字にした口が次第に逆向きへと変わり、彼の姿勢が低くなった。

「!」

リリィもそれを確認したのか、詠唱に入る。並のプレイヤーとは違うスピードの詠唱呪文展開。

それを見ていたオキが右に左にと走り始める。

リリィが魔法陣展開を完了したと同時にオキがリリィへと近づく。しかし、何本もの巨大な竜巻によりリリィの周りは塞がれる。

その隙間を縫うように走り込んだオキだが、再び小さな魔法で威嚇。オキは隙をつけなくなり後方へ移動。

リリィは素早い魔法陣展開で大量の水で流しにかかる。

なんとかそれを避けたオキは再びリリィへと近づくが二度目も同じ。それを数度繰り返した。

「何度来てもむだですよ! マスターさん!」

数度にわたる攻防。直撃は避けているがジリ貧となっているオキ。再び大魔法の展開のために呪文詠唱を開始する。

『天空満るつ処に我はあり! 黄泉の門開く処に汝あり! 出でよ、神の雷!』

金色に光り輝く魔法陣が上空に作り上げられる。それを見たオキは大きく口を歪ませて上空へと飛び上がった。

リリィの放つ魔法は雷属性最上位魔法。魔法陣の真ん中から放たれる雷は地面に近づくにつれ傘状に広がり、広範囲に放たれる。

「これで最後です!」

リリィが杖を振り上げ、振り下ろせば魔法陣の中央、その真下にいるオキを、その雷はまっすぐに貫く。

上空に飛び上がったオキは体をひねり、大きく伸ばした腕の先に持った朱槍を思い切り、投げた。

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!!』

『インデグネイション!!』

ほんのわずか。オキが槍を放つのが早かった。投げた直後に槍の端。柄の部分に風の魔法をぶつけたオキは空中で、その勢いで少しだけ後方にずれる。

 

ドゴォォォン!

 

目の前を光り輝く雷が体スレスレに落ち、風の魔法でブーストされた槍はまっすぐにリリィの小さき胸へめがけ飛んで行った。

「こ、この!」

リリィは素早く攻撃魔法を放った。しかし防げる魔法ではない。オキが先ほどからずっと同じことを繰り返し、その隙を突くだけの為の小さな攻撃魔法。ただ振られた武器ならば防げたかもしれない。しかし魔法でブーストされ、猛スピードで迫る槍の軌道を変える魔法ではなく、『つい』先ほどと同様の魔法攻撃を行ってしまった。

分かった時にはすでに遅く、小さな胸を朱き槍が貫いていた。

これによりオキの勝利が決定した。

「あー! 負けてしまいましたー!」

悔しがるシンキ・リリィ。近寄るオキは彼女を起こしてあげた。

「何度も同じことを繰り返し、慣れた目と体を利用し、しかも唯一真上から落ちる魔法の隙を狙ってから攻撃。流石です。しかし一つだけ質問があります。なぜ、私がインデグネイションを使うとわかっていたのですか? もしかしたら使わなかったかもしれないのに。」

リリィの言うとおりだ。オキは数度後にあの雷魔法が来ることを知っていた。なぜなら。

「いや、お前は使ったよ。だっておまえさん、律儀に属性順に撃ってただろ。」

「えぇ!? これ順番に撃たなくてもいいんですか!?」

後で聞いた話だが、やはりシンキ(大)に騙されていたらしく、律儀に属性順に撃っていた。

途中で見抜けたことで、今回は勝利となったが、もしこれが彼女の本気でしかも外の、現実の世界での戦いであったならば。

オキは背筋を凍らせた。

 

「さて、決勝開始! …の前に、決めなあかん勝負がもう一つあったな! 三位決定戦や!!」

キバオウのマイクパフォーマンスと同時にゆっくりと立ち上がる一人の男。

そしてそれについていくように一人の女性が立ち上がった。

そのまま二人はフィールドに立ち、にらみ合う。

「鬼の隊長! アインス! 挑むは魔神! シンキ!」

「元の姿に戻ってきたいみたいだね。安心したよ。あのままだったらどうしようかと。」

「たまには遊ばせてあげないとね。」

微笑むシンキに対し、アインスも笑う。そしてお互いが構えあった。

その瞬間、観戦者全員の声がピタリとやんだ。ピシッとした空気に皆が息をのんだ。

つい先ほどまで優しい穏やかな顔をしていた二人が、かたや瞳が蛇のように縦になり、光り片や険しい顔で、鬼のような形相となり。

 

『スタートや!』

 

合図とともに怒号の声を放ち、猛スピードでシンキに近づくアインスに

余裕ある顔をしつつもまさに魔神のような、背筋の凍りつくような笑顔で杖と本を開き空中へと飛び上がるシンキ。

再び英雄と呼ばれる二人の戦いの火ぶたが切って落とされた。




みなさま、明けましておめでとう御座います。
今年もよろしくお願いいたします。
年明けからバタバタで結局1週間あけての更新。もうしわけねぇ。。。

そろそろこの章も終わりにして次の話に持っていかないと。
さて、今回のネタをば。
隊長がやったユウキに勝たせたシーン。DBの天下一武道会の亀仙人のシーンですな。本人がこうやって譲りたいといったので。
シンキの放つ魔法はALOでのOSSシステムを使った組み合わせの魔法です。
原作にもあり、魔法と魔法を組み合わせて新しい技を繰り出すシステムですね。発動タイミングがシビアなのでふつうのプレイヤーは使えるかどうかとかなんとか。
次回にも沢山出るのでご承知おきいただけると助かります。
ではまた次回にお会い致しましょう。

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