SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第119話 「命の恩人」

オラクル船団、アークスシップの一つ。医療機関が集中した艦にオキはいた。

心配そうに見守る先にはいくつもの大型の機器が並び、厳重に管理されたカプセルが一つ。その中に一人の少女が入っていた。

「おい、これでいいのか?」

「ええ。そう。そのままゆっくり。」

フィリアに指示されながら、機器の一つにフォトンを注入していく。

眠っている少女の身体の周りを包み込むように、優しく、守るようにフォトンを展開した。

前日、惑星スレアの都心部にある病院屋上。

「では、よろしくお願いいたします。」

「ええ。後はこちらで。」

医師や看護師など、彼女を助けようと奮闘した人たちが、そして彼女の仲間たちが見守る中、木綿季はアークスシップへと向かうべく、キャンプシップに乗った。

「ほれ、手ぇふってやんな。」

「うん…。」

キャンプシップに乗ったユウキは屋上にいるお世話になった人や、仲間たちに手を振りながら空へと飛んだ。

『彼女の身体にはフォトンを扱う潜在能力が見られる。』

惑星スレアの医学界に大きな波紋を生んだ。国の上層ではオキの想像もつかない騒ぎとなったという。

フォトンを扱える以上、オラクル船団で過ごす必要がある。そのような情報を『流した』オキは、木綿季の病気を治すために、アークスシップへと彼女を連れだしたのだった。

「にしてもよかったんですか? あんな嘘を…。」

「しかたねーべ。ユウキだけ助けて他の人を助けないんですか? ひいきか! って言われたら面倒だし。」

ユウキ、彼女にフォトンが扱えるという情報は嘘である。オキはユウキを助けたいがために連れ出しただけで、他の人まで面倒をみるきはさらさらなかった。そのため、彼女をアークスシップへ連れてくる嘘としてこのような情報を流した。

軽い拉致である。

「ユウキの仲間の病気はユウキより軽いうえに、あっちに渡した技術で治すことが出来る。だが、こいつのはそうもいかんのだろう?」

「ええ。フォトンを使用する以上、こちらで治療するしかありませんし、その後の経過を見る為に、長い間こちらで過ごしてもらう必要があります。どのような影響があるかわかりませんから…。」

スレアの生態調査はキリト達のおかげでスムーズに行えている。ほぼオラクル船団の住民と同じ生体をしている為、治療可能と踏んだ。しかしフォトンを扱う以上、経過を見る必要がある。そのためにはこちらに住んでもらう必要があった。

すべての条件をのんだユウキはこうしてオラクル船団へ連れてこられたのだった。

数時間がたち、フィリア以下医療班による治療が行われ、オキはフォトン抽出が終わるとその場を彼女たちに託し、治療室の前でじっと待った。

「タバコ、吸ってくるか。」

100%の保証がされているとはいえ、やはり心配である。落ち着かない状態を抑える為に喫煙所へと向かった。

その途中、様子を見に来たマトイとアオイに出会った。

「オキ。」

「マスター。」

ペコリ小さくお辞儀をするアオイの頭を軽く撫で、マトイから大きな袋を受け取った。

「これは?」

「必要だからってシンキが渡してくれたの。」

袋の中身を確認すると大量の洋服が入っていた。

シンキは『女の子には大事でしょ?』と言っていたらしい。相変わらず彼女には頭が上がらない。あとで礼を言っておくことにしたオキはアオイに部屋へと持っていくように指示した。

「ユウキちゃん、大丈夫?」

「ああ。フィリアさんに任せてあるからな。フィリアさんに任せとけば何とかなるだろ。」

マトイもフィリア達医療班の腕はよく知っている。だからこそ納得した・

「ユウキちゃんが退院したらオキの部屋に住むって聞いたけど。」

「まぁな。あんだけ広い部屋なんだ。一人くらい増えたって問題ないだろ?」

ユウキは途中経過のために一時病棟に入るが、その後はオキの部屋に住むことになっている。

その為今オキのマイルームは大改造中である。

「そういえば、最近なんかあわただしく動いてるが、なんかあったのか?」

マトイをはじめ、アークス上層部がなにやら忙しく動いている気配があった。

急を要する話じゃないのは知っているが、詳細まではオキまで伝わっていない。

ウルク曰く

「もう少ししたらわかるからちょっとまっててね。」

と笑顔で話していた。

「んー。まだ内緒だって。あ、でも一つだけ。」

小悪魔のように笑顔になったマトイの顔が少しだけ曇った。

最近、アークスに登録されていないアークスが増えているらしい。今の所問題は起きていないらしいが、不気味である。

マトイはその先陣として調査を行っているらしい。

本来、アークスは生まれながらにしてフォトンを扱える能力があって初めてアークス訓練学校へ、そして卒業してアークスとなれる。オキもその道をたどった。卒業した時点でアークスとして登録されるのだが、その登録がされていないアークスがシップ内をうろちょろしているらしい。

マトイはまだ調査段階で、実際に見たわけでもないのだが、履歴には残っているという。

「ふむ。アークスに登録されてないアークス…ねぇ。」

「不思議な情報だな。」

「ふーん。」

マトイと別れ、喫煙所へと向かう途中アインス、シンキに出会ったのでタバコを吸いながら話をすることにしたオキは先ほどの話を二人にした。アインスは軽く目を細め不思議そうにしていたが、シンキは何かを考えている様子だった。

「シンキ、何か知ってるか?」

「いいえ? ただ、嫌悪感…かしら。そんな感じがしただけよ。」

シンキが嫌悪する相手ということだろうか。珍しいシンキの表情を首をかしげてみていると不意に笑顔になり別の話題を持ってきた。

「ところで…。例のコロシアムの件、参加するメンバーの名前、登録してきたわ。」

「ああ、コロシアムか? 今回参加は誰だ?」

オキとユウキは約束を果たすために、すでに登録済みである。期日は1か月後なので、順調にいけばユウキも参加できる体調に戻っているだろうと予測した。

「俺と、ハヤマ君、シンキ君にクロノス君だ。」

「ミケは?」

「興味ないそうだ。」

はははと笑いながらいうアインス。シンキはうきうきしながらどうやって闘おうかなと言っていた。

そんな最中、オキへフィリアから連絡が入った。

「目が覚めたって!?」

「…! オキ…?」

病室に入るとフィリアがユウキの状態を確認している所だった。

「よかった…目が覚めたか。ほんとによかった…。」

「大丈夫よ。安心して。副作用も見当たらない。状態良好。まだフォトンの力が抜け切れてないから怠く感じるかもしれないけど、すぐよくなるわ。」

メモを取るフィリアはオキの肩に手を置いた。

「それじゃあ私は部屋を出てナースセンターにいるから、いい? 治ったからといって無茶しちゃだめよ?」

「え? あ、はい。」

何か勘違いしていないだろうか。まぁそんなことはどうでもいい。

「よう。元気か?」

「うん。なんかすごく元気。こんな感じ、久しぶりな気がする。」

オキはベッドの横まで歩いていき、ユウキの近くに座った。

「あれこれ言っておきながら結局心配だったなぁ。全く、すまない事をしたな。」

「ううん。大丈夫。オキの事、信用してたから。だから怖くなんかなかったよ。それにしてもすごいね。フィリア、さんだっけ? 聞いたら本当に悪い菌、全部無くなっちゃってるっていうんだもん。ねぇ、嘘…じゃないよね? 僕、もう自由に歩けるんだよね?」

「当たり前だ。アークスの技量なめんな。とはいえ、初めに話した通り、このアークスシップからは離れられないけどな。」

オキは窓のカーテンを少しだけ開けた。外には数々のアークスシップとその後方にマザーシップが見える。

「ねぇ、本当に宇宙なの? よかったら見せてほしいな。」

ユウキがこちらにわたってきたときはすでに眠っている状態で、そのまま医療病棟行だった。

そのため、ユウキは宇宙にいることを知らない。

「ん? りょーかい。」

ユウキは布団を取ってベッドの淵に座った。オキはユウキの体を持って抱き寄せた。つまりはお姫様抱っこだ。

「う、うわぁ!」

「びっくりしたか? おろした方がいいか? こっちの方が体の負担もないかと思ったんだが。」

「大丈夫。少しびっくりしただけ。えへへ。」

「そうか?」

ぴったりとオキに体を預けたユウキを見て、オキは少し安心した。窓の近くまで歩いていき、両手がふさがってるのでユウキにカーテンを開けさせた。

「えい! うわぁ! これがあのアークスシップ? すごいすごい! 本当に宇宙にいるんだ! あの大きなのは?」

「あれはマザーシップ。オラクルの中心であり俺たちの原動力。」

「きれいだねぇ。」

オキとユウキはしばらく外を眺めていた。その時、扉のノックの音が聞こえた。

「おっと。ベッドに戻すよ。」

「うん。」

オキはベッドにゆっくりとユウキを下した。

「どうぞ。」

ユウキが答えると扉が開き、そこにはシャオが立っていた。

「やぁ。君がユウキさんだね。僕はシャオ。

室内に入ってきたシャオはユウキに挨拶をした。

「どうした? お前が直接くるって珍しいじゃねーか。」

「うん。ユウキさんに少しお話があってね。」

コホンと咳払いしたシャオは話を続けた。

「さてユウキさん。君はここでフォトンを使って排除した、という説明は聞いたよね?」

シャオが空中に浮かべた写真を見せながら説明を始めた。ユウキはそれに頷く。

「うん。聞いたよ。すごいよね。本当はできるはずのない事なのに簡単にやっちゃうんだもん。」

シャオは今後の話を進めた。すでに了承済みではあるが、念のためである。

アークスシップは以前の、ルーサーの居た時代よりかは安定している。だが、惑星スレアよりも脅威はある。

ダーカーの襲撃、宇宙にいるという状態。それらすべてを踏まえ、再三の確認を行った。

「うん。大丈夫!ボクはオキと一緒にいたいんだ! だって、ボクの命を救ってくれたのは、オキなんでしょ? ボクの中の菌を排除する為にその、フォトンを使用したのって。だからオキは命の恩人。ボクの一生をかけてでも恩返しをするよ。」

「…。」

オキがフォトンを使ったことについては説明をしていない。それがわかるとは。オキは目を丸くし、シャオはそれを聞いて大爆笑だ。

「…あっはっはっは! ここまでとは思っていなかったよ。オキ、君はものすごい人と出会ったんだね。やっぱり人ってすごいや! あははは!」

普通の、ユウキのような一般人にはフォトンを感じることはできない。それこそ個人を特定することは不可能だ。

「マジカ。しかし、よくわかったな。俺の使用したフォトンだって。」

「うん。だって、わかるもん。眠っている間、ずっとボクのこと励ましてくれてたみたいで、ボクの事を守ってくれてる夢を見たんだ。そして起きてから実感した。やっぱりオキのだって。うれしかった。温かかった。だからすごく感謝してるんだよ?」

そういってオキの腕を引っ張って体を近づけオキの頬にキスをした。

「んな…!?」

「ひゅー。」

驚くオキに、にやけるシャオ。そして驚くオキを抱きして目一杯の笑顔で叫んだ。

「オキ、だーいすき!」

ユウキの体調はみるみるよくなっていった。しばらくは動けない状態だったがすぐに体も歩ける状態に回復。現在ではアークスシップの医療施設内だけでなく、オキ同伴限定ではあるが、アークスシップ内を歩けるまでに回復した。そんなしばらくたってからの事。

「どういう事か、説明してもらっていいですか? オーキーさん?」

「こ、怖いっす。圭子さん…。」

ユウキが回復したと聞き、定期船でアークスシップへ遊びに来たキリト達。そんな中シリカはナースたちからユウキがオキの部屋に住みこむという話を聞き、今オキは阿修羅のような形相をしている圭子達の前で正座をさせられていた。

「いくら遠いとはいえ…説明を怠ったのはだめよねぇ。オキ?」

琴音(フィリア)、美憂(ハシーシュ)もそれに加わる。男性陣は遠くからそれを合唱しながら眺めていた。

「いや、そのいろいろあって…。」

「怠慢…ダメ。」

3方向からなる角の生えた彼女たちに囲まれ、暫く言い訳をするオキ。

実は今回の話、軽くは行っていたものの、オキの部屋に住みこむ話まではしていなかった。

理由は簡単。忘れていただけだ。これはオキが悪い。よって助け舟の無いままアークスシップのど真ん中でヒソヒソと周囲のアークス達に冷たい目で見られながら少女たちに怒られる姿はしばらく噂になる羽目になったのはしばらくしてからだった。

暫くして、ユウキがアークスシップに来てから1カ月がだった後。

ALOでは大きな祭が開かれた。中央区にある大きなコロシアム。これはSAOのアインクラッドにあるコロシアムよりも大きいものだ。そこでALO全域を対象にした闘技大会が開かれた。

「準備は?」

「万端!」

元気になったユウキ。その姿をみたスリーピングナイツメンバーは泣きながら彼女を再び迎えたという。

スリーピングナイツの重病者たちもその後、オラクルの技術によりその病気はよい経過を迎えているという。

内半分はもう少しで一般病棟に移ることも可能だという話を聞いてユウキは大いに喜んでいた。

ユウキはオキが使っているオラクル船団版のナーヴギアを使ってALOにログインし始め、そして今日。コロシアム開催の日となった。

参加者はオキ、ユウキ。そしてアインス、シンキ、ハヤマにクロ。キリト達も参戦することになっていた。

「今度は勝たせてもらうよ。オキさん。」

「っは。どれだけ強くなったか、試させてもらおうじゃねーか。」

打倒オキを目標にするキリトに、再びアインスに挑もうとするソウジ。

かつてのSAO討議大会のメンバーが半数以上そろっていた。周囲には予選に参加するプレイヤー達も大勢いる。

その中でわずかな人数が本戦のトーナメントに出場できることとなっていた。

枠は10人。アーク’sメンバーはその有力候補として、周囲にいるプレイヤーから言葉が聞こえていた。

そんな中、なにやら騒ぎがあった。運営側の人たちがなにやら騒いでいるのをオキが見かけたのだ。

「なんかあったんすか?」

「ああいや、実は実況者の担当が急病で倒れてしまって…今どうするかと。申し訳ない。騒がせてしまいましたね。」

運営の人は困った顔をしており、そのほかの人たちも忙しそうに何やらあちこちに連絡をしているようだ。

「ふーむ。もしお手伝いできるのであれば、うちから実況の経験者を一人出せますが。」

「ほんとかい!? 本当ならダメなのだが、緊急だ。こちらもそのように動こう。いやぁ本当にありがたい!」 おい!」

他の運営する係の人に話をし、オキはディアベルに連絡。キバオウを連れてきてもらうことに。

「なんやオキはん。実況ワイがやってええんか?」

「説明はさっきした通りだ。いつものようにやってくれ。」

ニカっとわらったキバオウはマイク片手に大きな舞台へと声を張り上げ、それを合図にALO大闘技大会がはじまった。




ユウキ生存ルート確定! これがやりたかった。
はい。好き勝手やりたい放題書いているSAOを見ていただいてる皆さま、ごきげんよう。
次回よりコロシアム編に再び入ります。戦い方もALOでの戦い方になるので、アークスの武器や能力は使えません。
だってアークスの力使ったらシンキの力で鯖落ちる…。
ちょっと違う作品からの参戦者もあるから少しだけコラボするよ。お楽しみに。
今度は前回と違ってさらっとメインメンバーのみを抜粋するつもり。
次の章が長いからね。今回途中でその先立ちとしてさらっと書かれています。アークスの皆は分かるはず。

さて、話は変わりどっぷりアズールレーンにはまった私やハヤマにミケ。FGOでのイベントもしっかり終えて
次の魔女裁判に対して準備万端。いやぁ楽しみですね。

では次回またお会いしましょう。

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