SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第118話 「選択」

マイルームのチャイムが部屋に鳴り響き、サポートパートナーのアオイがそれに対応した。

「どちら様でございましょう。ああ、ハヤマ様でございますね。少々お待ちください。」

アオイがロックを解除し、ハヤマとコマチを引き入れた。

「こんにちはアオイちゃん。」

「ドーモ、アオイサン。コマチです。」

ぺこりとアオイもお辞儀をして、はっと何かを思い出したかのように、ルームのほうへ顔を向けた。

ハヤマはそれを察し、ルームの中を軽く覗いた。

「リーダーは?」

「それが…。惑星スレアからお戻りになられた後、すぐに部屋へとはいられまして…。」

ハヤマとコマチは顔を見合わせ、オキの部屋の扉を叩いた。しかし、返事は帰ってこない。

「倒れてるとか無いよね?」

「いえ、先ほどもお茶をお渡しいたしましたが、なにやら調べものをされているようで。」

んー、と首をかしげるアオイ。内容はアオイにも伝わっていないらしい。

ハヤマとコマチは入っていいかの確認をアオイにとり、誰も通すなとも言われてないため、部屋へ通した。

「リーダー。いる?」

ハヤマとコマチが部屋へ入ると、オキが机に向かって何かを読みながら、何かを書いては消してを繰り返しているところだった。

「リーダー!」

「おおう!? なんだ、はやまんと…コマッチーか。久々じゃねーか。」

オキは時計をみて休憩かなとつぶやき、二人をテラスのテーブルに案内した。

「どうだ? そっちは落ち着いたか?」

オキは背伸びをして、休憩がてらテラスでタバコを吸いながら久しぶりに帰ってきたコマチに近況を確認した。

「まぁな。だがすぐにたたなきゃならん。帰ってきたのも補給とアークスの更新のためだ。」

ずっといなくなったままでは行方不明状態になってしまう。そのために長期間ほかの場所で活動する場合、不定期でもいいから帰ってくる必要があった。

コマチはファータ・グランデ宙域と呼ばれる場所で起きた異変の解決に尽力してもらっている。そちらもそちらでいろいろ起きているらしく、せわしなく飛び回っているそうだ。

「おっと、時間だ。それじゃあなリーダー。次帰ってくるときは子供の顔、見せろよ。」

「うっせ。つーか、そんなに長い間留守にするんじゃねーよ。」

オキの言葉を背中に受けながら、コマチは笑いながら部屋を出て行った。

「ったく。いくら向こうが大変だからってこっちに顔ださねーのは何とかならんか。」

「仕方ないよ。あれがコマチだもん。」

「あら? お茶の準備が整いましたのに…。コマチ様はもう行かれたのですか?」

身体の横で手を広げて首をかしげるオキと苦笑するハヤマ。

「ところで、何を唸りながら書いてたの?」

「ああ、あれか。」

オキがハヤマに資料を渡した。そこにはハヤマの予想を上回る内容が書かれていた。

「ちょ、これまじでやるつもり!?」

「アークス史上実例無し。とはいえ、マトイちゃんの件もあるし、一人や二人、増えるのは問題ないだろう。だが問題となるのは相手側だ。」

オキがやろうとしている事。アークス史上、そのような事があったわけでもない。しかしアークス発足の前、フォトナーがいた時代。星間同士で交流があった時代には『あったかもしれない』と、ある人物からの話だった。

フォトナー最後の生き残りにして最初の『若人』。アウロラ。

惑星リリーパにて復活したDF『若人』本体の再度封印を手伝い、現在ではアフィンの姉、ユクリータの相棒としてくっついている。彼女に相談したオキはかつてのフォトナー達の時代の話を聞いて、それを報告書にし、アークス側には納得させた。

「というか、無理やりお願いしてきたんだけど。」:

へらへらと笑うオキに対し、ハヤマはオキのお願いがどれだけ無理やり通したかを呆れながら認識した。

「問題は向こうさんだ。一人助けるとなるとほかの人も助けなければならんとか言ってきそうでな。」

「たしかにねー。」

技術がある。そうなるとほかにも病気の者がいるとお願いされる可能性もある。

うーん、と唸っている最中にミケがお茶と菓子をあぐあぐしながら一言ほおり投げた。

「なんでバカ正直に言うのだ? てきとーにでっちあげればいいのだー。」

「でっちあげる? あ! それ俺の菓子!」

はははーと笑いながら逃げて行ったミケ。何しに来たのだろうと首をかしげるハヤマ。まったくと言いながらタバコに火を付けた瞬間だった。オキの脳裏に一つの案が生れた。

「そうか…その手があったか。」

「え?」

オキは再びメモを走り書きにし、それをガリガリと書き始めた。

ALO、とある山奥の庭園。ここには各種族長が使用する会議席が設けられている。

普段は族長がそれぞれの領域の問題、課題を話し合う場ではあるのだが、そうめったに使用しないのと、エネミーも出没しない場の為、他のプレイヤーはめったに来ない。

そこにオキはユウキとスリーピングナイツメンバー、アークスメンバー(ミケ除く)、そして今回この場を貸してくれたシルフの長、サクヤとケットシーの長、アリシャとで訪れた。

「いやぁ、今回の場をお貸ししていただき、ありがとうございました。」

「いやいや。君たちアーク‘sには、こちらも世話になってるしな。」

「そうそう。私たちと一緒に冒険できるト、面白いものいっぱいみれるしネ。これくらいかまわないヨー。それじゃ、終わったラ、連絡頂戴ネ。」

掌をひらひらとさせながら翼を広げて飛んで行った長二人。そして残ったメンバーを席に座らせた。

「今回ここに集まってもらったのは他でもない。ユウキについてだ。」

言葉を聞いてビクリと体を震わせるユウキが心配そうにこっちを見た。

「安心しろ。ここにいるメンバー全員アークスだ。おれと一緒で空の彼方から来た猛者どもよ。」

話は知っていると説明し、今回この場に集まってもらったのはオキが今後やらかそうとしている内容を共有し、本人の意思を確認するためだ。

オキは初めにアークスである事、ここにいるメンバー全員がオラクル船団の住民であり、日々命を懸けて戦っているモノだというのを改めて説明した。そして今回の大題を話した。

「これから話す内容は本人の意思による決定で開始されること前提だが、オラクル船団、及び惑星スレアにとってかなり大きな話となる。それを心に入れておいてくれ。冗談で話しているつもりは一切ない。俺がこれから話す内容は本当の話であり、その準備もできているということを先に知っておいてほしい。」

オキはゆっくりとユウキに顔を向けた。そして優しく頭をなで、落ち着いて聞くようにと話しかけた。

「ユウキが重い病にかかっているのは皆知っているな? アークスメンバーは一部を除いて俺から話し、とある二人はすでに答えが見えていたと思う。」

ハヤマとアインス、クロはコクリと頷き、シンキはゆったりと座り、微笑んだままだった。

オキがアークスの仕事で惑星スレアの医療技術を調べ、ある病院に行ったときに、その少女をみた。

彼女はオキが偶然とはいえ、強盗から助けた少女。そして命が危ない状態まで病が体をむしばんでいる事も知った。

「せっかく助けたのに残念だと思ってた。だから俺は、ユウキを助けることにした。」

オキの言葉に、その場にいた一部を除いた者達は大いに驚いた。

「え? …え!?」

ユウキもオキが何を言っているのかを理解できていない。あまりにも突拍子すぎる言葉だった。

「ユウキの病気は治せる。オラクル船団でならな。」

惑星スレアの医療技術よりも発達しているオラクル船団。

スレアでは治療が難航する難病であろうと、オラクル船団でならそれを可能とする。

「うそ・・・じゃないよね? 本当なんだよね!?」

ユウキも目を大きく見開いてオキを見る。そりゃそうだ。もうすぐ死ぬ運命だと思っていた少女がいきなり提示された内容だ。

「条件はある。フォトンの技術…ああ、そっちのメンバーはフォトンがわからんか。簡単に言えば俺たちアークスが使う能力だと思えばいい。」

かなり大雑把に説明したが間違ってはいない。

条件はユウキが治療を受けるためにオラクル船団へと来ること。そして二度とスレアへは戻れないこと。

「つまり死ぬまで宇宙だ。あぁ、安心しろ。生活なら俺が援助する。ひとりや二人、人が増えたところで生活費には困ってないからな。」

スレア側にはすでに別方面から説明がいっている。オキの仕事はユウキにそれを伝え、どうするかを決めさせる。

「考えている時間もない。が、いきなり言われてもさすがに混乱もするだろう。猶予は1日だ。ゆっくり考えるといい。ほかに質問がある人は俺やここにいるメンバーが答えるぞ。」

オキが立ち上がり、いちど長テーブルを後にした。少し離れた場所でタバコに火をつけたオキはゆっくりと煙を吐き出した。

「思い切ったことをするわねぇ。オキちゃん。」

「別にいいだろ。好きでやっただけだ。それに、シンキはすでに先も見えているのだろう?」

「べーつにぃ?」

ふふふと微笑むシンキの顔をみたオキは何もかもわかっている顔だと判断した。

「そうそうオキちゃん! そんなことよりさ、これこれ!」

シンキがある情報をオキへと見せた。なにかのチラシのようだ。

「んー? なに?」

シンキが見せたのはとあるチラシ。

「ふーん。こっちでもやるんだ。でもなぁさすがに今回の件が…。」

「優勝したらどうなるか、みて?」

オキがそこに描かれていた商品をみてニヤリと口元を歪ませた。

シンキもそれを見て予想通りだと微笑む。

「オキ…。」

後ろから小さな声が聞こえてきた。ユウキが何かを決断したようだ。

だが、オキはそれでもこういった。

「まだ、考える時間はあるぞ?」

ユウキはその言葉を受けても首を横に振った。

「ボク、まだ生きていたい。この体が治るなら、なんだってやってみせる。メディキュボイドにだって、一番最初に被験者となったのも、お姉ちゃんを助けるためだったんだ。」

ユウキには姉がいた。だが数年前にユウキよりも早く同じく難病で死去。親も同様で、彼女にはもう家族がいなかった。

オキはそれを病院の資料で読ませてもらっていた。姉を助けるために、自分の体を利用して治療方法を探していた小さな少女。だが姉も父も母も既にいない彼女は生きる目標を失っていた。

だからこそ、オキがユウキを引き取る理由にもなった。

「その言葉が聞きたかった。」

生きていたい。ユウキの口からそれを聞くことが、今回の目標だった。

「ユウキ。必ず治してやる。そして、決着を付けよう。俺と、お前の約束だろう? また戦おうって。」

オキとユウキが初めて出会い、初めて剣を合わせた時、約束した。

必ずまた会おう。次こそは絶対に勝つ。次も負けないと。

その言葉を思い返し、ユウキはオキの見せたチラシを見て力強く頷いた。

オキが見せたチラシ。ALO全域のプレイヤーを対象にした大会、コロシアムの開催がそこに記載されていた。




みなさまごきげんよう。
風邪ひいたぁぁぁ。まさかあんなに辛いとは…。みなさまもお気をつけて。
とうとう来てしまった、今章の原作ブレイカー『ユ ウ キ 生 存 ル ー ト』。
フォトン万能説は伊達じゃない。気に入った人を目の前でみすみす死なせやしないのがオキです。更にはコロシアム回確定です。
今度はどんな戦いができるかな。楽しみです。
さて、話は変わり先々週に発売されたPS4ソフト『.hack G.U,』の復刻版。
懐かしすぎて涙出そうでした。SAOとは違ったオンラインゲーム『The World』を舞台にした物語。個人的にはSAOとどっちがいい? と聞かれると.hackを選ぶくらい好きです。
あっちもあっちで書いてみたいけど、時間がないですハイ…。
ではまた次回にお会い致しましょう。

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