SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

120 / 151
第117話 「ユウキのひみつ」

惑星スレア、ニホンの都心部からちょっと離れた団地のはずれにある大きな病院。そこでオキは惑星スレアの技術調査ということで、医療機関の調査依頼に出向いていた。

病院側にはすでに話がとおっており、基礎的な医療技術から、最新の先端技術まで教えてもらうことが出来た。

「ふーむ…。なるほどねぇ。発展した星にしては思ったより進んでんだな。」

会議室の一室を借りて、調査報告のまとめを行っていたオキは改めてこの星の技術力の高さを実感した。

まだまだアナログの部分は多く、オラクル船団のようなフォトンを利用した自然の力を使用したりだとか、体内に眠る潜在力を使うなどまでには至っていない。しかし近い将来、何かしらの発展した技術が出来るのも近いだろう。

ドアのノックが鳴り、看護師と医師の二人が入ってきた。先ほどからずっとオキに技術の話をしてくれている二人だ。

「いやぁ済まないね。」

「お待たせいたしました。」

午前中から話しをしてくれていたのだが、昼になって急に容体が悪くなった患者さんがいたらしい。

「いえ、こちらもお忙しい所にお邪魔してしまい申し訳ない。患者さん、大丈夫でした?」

「ああ。何とか落ち着いてくれたよ。」

白髭の付いた優しそうな顔の医師は額に付いた汗を拭きとりながら微笑んでいた。

何とかなったらしいが、本当に大変だったのだろうと思われる。

おおざっぱではあるが欲しい情報は手に入った。とりあえず、あまり長居しても仕方がないので、最後の調査対象の話を開始した。

「本日はありがとうございました。あまり長居しても仕方がないので最後に一つ。」

「はい。なんでも聞いてください。」

「こちらの資料にある『メディキュボイド』というモノについてですが。」

メディキュボイド。以前シノンこと、詩乃も使用していたと聞くVR技術を医療用に転用した世界初の医療用フルダイブ機器だ。

中にはあの『アーセナル・ギア』が組み込まれており、ベッドと一体化したカプセル状の箱の中に人が入り、その中で眠りながら治療される。説明によれば開発者は違えど、設計者があの萱場だということに引っかかりを感じる。いかんせん一度『アノ』力を手にした男だ。彼自身はすべてを『カーディナルに使用した』と言っていたが、その『カーディナル』がコピーされALOに使用されている。今の所ダーカー因子は皆無ではあるが、どこでなにが起きるかわからない。注意はしておくべきだと踏んだ。

「では実際に見に行ってみましょうか。青野君。よろしく頼むよ。」

「はい。ではこちらに。」

会議室を後にし、病棟を移動したオキと青野という看護師。まだ若い女性だ。実はこの看護師さん。オキが以前、コンビニ強盗を退治した時に助けた車いすの少女と一緒にいた看護師さんだ。

木綿季(ゆうき)ちゃんもこちらにいるので、もしよかった会ってみてくれますか? ふふふ。」

木綿季(ゆうき)という少女はオキが助けた少女だ。どうやらこの病院にいるらしく、看護師さんからお願いされて仕事が終わった後に合うつもりでいたので、ちょうどよかった。

スモークガラスの貼られた大きなセキュリティドアを抜け、あるフロアに移動した。

通路からガラスの向こう側、広い部屋となった場所に多数の機器とカプセル状の大きな機械が並んでいた。

「あれがメディキュボイドです。こちらにいらっしゃる患者さん達は長い闘病生活を余儀なくされる方々です。あちらにいるのが木綿季(ゆうき)ちゃんです。」

車いすに座り、ちょうどメディキュボイドの中にあるベッドに二人の看護師さんに助けられ横になろうとしている最中だった。

「手を振ってあげてください。」

「ん。」

ひらひらと手を振るオキに対し、彼女がオキを見るなり驚いた顔をしてそっぽを向いてしまった。

「おや、嫌われたか。」

「ふふふ。いいえ。恥ずかしいだけと思いますよ。…実は彼女、木綿季(ゆうき)ちゃんはこの間まで元気だったのですが、また症状が悪化しまして…。先ほどの件も彼女なんです。」

メディキュボイドが閉まる様子を見ていた青野は心配そうな顔をしていた。

調査の最中に聞いた話では彼女、紺野 木綿季という少女はかなりの重病を患っている。

出生時に輸血用血液製剤からHIVという病気に感染し、15年間闘病を続けてきた。両親と双子の姉はAIDSというものによりすでに他界しており彼女一人だけとなっているらしい。今は他の患者や看護師などがいるとはいえ、たまに寂しそうな顔をするという。

「一度は良くなりかけたのですが、ここ最近また悪化しまして…。」

医師の見立てではもう長くないという。看護師の口からも言いにくくしていたが、彼女自身がそれを望んでいる節があると聞いた。

すでにメディキュボイドに入った彼女の顔をもう一度思いうかんだ。

『ん? どこかで…。いや気のせいか?』

何かに引っかかりながら、オキは仕事を完了させ、帰路に…

つくつもりった。気が変わりハシーシュこと美優に会いに行った。

シリカこと圭子とデートしたのちにフィリアこと琴音と美優は順番に個別でデートすることになっており、今回はタイミングが合ったので順番が回ってきた美優の番だ。

いつも通り表情のあまり出ない無表情に近い彼女だが、ぴったりと腕にしがみついており、どうやら嬉しそうだ。街中をあるきショッピングをした際、本屋に美優が買いたいものがあるといって立ち寄った。

美優を待っている最中、見つけた医療関係の本の中にある文字を見つけた。手に取りさらっと読んだときに見た独特の形のウィルス。

「HIV、AIDSか。」

どこかでみたと思い、アークスの資料を漁ってみたところ、マトイの定期検診中に暇だったから読んでいた資料にあったやつと酷似していたので、フィリアさんに確認を取ってみた。

「ふむふむ。」

直にフィリアさんから連絡が返ってきた。どうやらかなり昔、オキが生れるとかアークスが生まれるとかよりも前からあったものらしく、今ではその感染病も過去のモノとして消滅してしまってるほど。治療が可能かどうかも聞いてみるとフィリア曰く

「古い病原菌ね。今のオラクルの医療技術なら完全消滅させることは可能よ。ちょっと準備はいるけど。」

と帰ってきた。とはいえ、惑星スレアにこの技術を渡したところで扱いきれないのはオキでも分かる。なぜか。

「結局フォトンなんだよなぁ。」

と大きくため息をついているところに美優が戻ってきた。首をかしげる彼女に場所を移動することを提案した。

キャンプシップへと帰ってきたオキはゆっくりと空をとばし、夕焼けを窓からのぞく美優に先ほどの説明をした。

「HIV、AIDSというのは知っているな? こっちだとかなり有名な病気らしいが。」

こくりと頷く美優。

「この病気は治りにくく、闘病生活も長いと先ほどの本には書いてあった。まぁ俺達からすれば腕が切れるとか足が千切れるとかしない限り病院送りにはそうそうならんからイメージつかんが。ともあれ、治るのはごくわずかとみた。」

更にこくりと美優はうなずいた。無表情ではあるが、目は真剣にこちらを見てくれている。

オキが先ほどため息をついた理由は治療にフォトンを使うからだ。この技術を仮にスレアの医師達に教えたところで、フォトンの扱いが出来ない限り無理だ。

「あの病院にいたあの子、俺が圭子と一緒にいた時に蹴り倒した輩から助けた子だ。せっかく助けたのに死んじまうんじゃぁなんかいやでなぁ。とはいえ、助けもできねぇし…うーんって感じでね。」

美優は少しだけ顔を下に向けた。こういう時は彼女も悲しんでいる証拠だ。

「…すまん。話が重かったな。そういや、さっきの本屋、欲しいのは見つかったか?」

オキが話題を変え、美優はカバンから紙袋に入った本を見せた。

「ん。」

「おお、あったか。よかったな。で? 何買ったんだ?」

がさがさと紙袋を開け、中からたくさんの動物の写真が描かれた本が出てきた。

「フレンズ。」

眼をキラキラさせながらオキに見せる美優。確かに表紙の題名にそう書いてある。

「フレンズ…。」

眼を点にするオキ。その後めちゃくちゃ図鑑を見せられた。

次の日、ALOにログインしたオキはパーティのお礼をしてなかった為にユウキに会いに行った。

ギルド拠点の扉をノックして扉が開くのを待った。あけたのはジュンだ。

「オキさん。いらっしゃい。」

「ユウキはいる?」

そういった直後に中から大きな声が聞こえてきた。

「あー! そうだ! いかなきゃならないところがあったんだ! いってこなくちゃー! あ、オキ! こんにちは!」

「お、おう。」

ユウキがどたばたと外へと走っていき、空を飛んでどこかに行ってしまった。

「用事があったのか。しかたねーな。いつ戻ってくるか…わからんよな。」

オキの言葉に首を横に振るジュンをみて、日を改めることにした。

しかし、次の日も、また次の日もユウキはまるでオキから避けるように何かしらの理由をつけてはオキの前から消え、今日は偶然街中で出会ったところ、目があった瞬間にくるりと来た方向へ反転して走って行ってしまった。

追いかける暇もなく逃げられる姿をみて、偶然近くにいたシンキがにやけながら見ていたので、オキは不機嫌そうに口を開いた。

「なんだよ。」

「なーんにも? ふふふ。」

あれは何かを知っている。しかしあえて言わないのはいつも通りだ。

「何かやったかなぁ。」

「ふむ。私が覚えている限り、パーティの時は問題は見えなかったが。」

アインスにも一応パーティの時に何かやったかを確認したが、オキが何か変なことをやったという事実はない。それをアインスが保証してくれている。

つまり、あっていない次の日に『避ける何か』があったとしか思えない。

色々考えた挙句、なにも思いつかなかったので、再度ユウキに会いに行った。今度は逃がさないつもりだ。

何度訪れたか。スリーピングナイツの扉を叩こうとした瞬間。扉がちょうど開き、ユウキとばったりお見合いした。

「あ。」

「ユ…。」

ユウキいたのか、と言おうとした瞬間に、ものすごい勢いで真横をすり抜け、空へと飛びあがったユウキ。

「逃すか!」

オキも負けじと羽を広げ、空へと飛び上がった。

「まてよ!」

「やだ!」

一度夜空を高高度まで上がったのち、月をバックに急降下したユウキを追いかけた。

「にゃろ…!」

急降下し続けるユウキに、それを追いかけるオキ。自分の出せる最大速度をお互いに出している。

雲を抜け、目の前には湖。それを水面ギリギリで交わすユウキとオキ。水面を猛スピードで飛び、大きく水が跳ねる。

湖を抜けた先の森にそのままのスピードで飛び込む。木々が邪魔し、思うように追いかけれない。しかし向こうも同じだ。

先に根を上げたのは。

「ぎゃっ!?」

ユウキだった。小さな小枝に額が当たったみたいだ。そのまま枝をなぎ倒し、土煙を上げながら地面を転がるユウキ。

「ユウキ! 大丈夫か!?」

「…っ!?」

それでもまだ走ろうとするユウキの腕を握るオキ。

「なぜ、俺を避ける! そんなに嫌いになったのか!? 俺が何をした! 悪い事をしたなら…。」

「オキは…悪い事なんかしてない! 嫌いになってなんかない! むしろ…僕は…僕は…。」

顔を上げるとそこには涙を流しているユウキの顔が現れた。あの天真爛漫なユウキが涙を流したのを見たのはこれが初めてだ。。わんわん泣き出してしまったユウキを目の前に、オキはどうしていいのかわからず、彼女が落ち着くまで頭に手を置き、ゆっくりと撫でてやった。

しばらくしてようやく落ち着いたのか目を擦り、無理やり笑顔を見せてきた。

「落ち着いたか?」

「うん…。」

まだぐすりとしているユウキ。笑顔を作って入るものの、まだ不安を隠しきれていない。体が震えているからだ。

「無理はすんな。抱え込んでも仕方ねぇべ。さっきも言った通り、悪い事したなら謝るし、何かあったなら相談ものる。俺は大体なんでもできるアークスだぞ。」

それを聞いてユウキはクスリと、ようやく本心から笑ってくれた。

「ふふふ。そうだよね。オキはアークスだもんね。強盗だって簡単に倒しちゃう凄い人なんだもんね。」

「そうだぞー? って…あれ? 俺が強盗倒したって言ったか? あの時、動画になったやつは俺の顔は…。」

見えなくなっていたはずだ。スピードもそのように調整したつもりだ。

「うん。見えなかったよ? 動ニュースではね。僕は、あの場に居たんだ。助けてくれて、ありがとう。アークスさん。」

ペコリとお辞儀するユウキ。それをみてようやく合点がいった。

「おま…まさか!?」

「そう。僕はあの時の…そして今日見た木綿季(ゆうき)だよ。」

オキは目を見開いた。あの時見た時は気付かなかったが、今ならわかる。あの病院の少女と、一致した。




みなさまごきげんよう。
世間はハロウィン一色。ソシャゲもオンゲもイベント一色でどれから手をつけていいやら…。マスターに、提督業に、アークス…は最近やってないな。
手と時間と端末が足りません。
さて、今回は…そのままですね。強盗を倒したというところは第4章の番外編にて。
ユウキと木綿季が繋がりました。このあとどうするかが私のやりたいこと。やりたかったこと。自己満足を思う存分やりたいと思います。
今更? ではどうかお付き合いください。
それではまた次回お会い致しましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。