29層ボスの攻略法を見つける為にボスへ挑んだスリーピングナイツとオキ、クロは下階同様にゲージ変化での攻撃に苦戦した。
だが、次の攻略でボスの討伐が可能であることを確信し、態勢を立て直すために一度リタイアをした。
「いやー。なんとかなりそうだねー。」
「ええ。今回こそは倒しましょう。」
「やるぞー!」
1層のポータルで復活した面々だったが、ユウキがオキに無言で肩をつかまれた。
「ほえ? どうしたの?」
オキは無言を貫いたまま、親指でこっちにこいと示した。メンバー全員がそれについていく。
ポータルの見える建物の影に隠れたオキはじっとそれを見つめながらユウキ達に説明した。
「ここ最近、誰かにつけられている気がしたんだ。今回、クロを連れてきたのはそのためだ。」
直後、ポータルから二人の男性プレイヤーが現れ、周囲を確認しなにか焦っている様子を示した。
「くそ…もういないのか。おい、黒鉄宮の方はどうだ?」
「いねぇ。まずいぞ。もう攻略いったんじゃんねーか? 今回特にあの朱槍、かなりいいところまで行ってたからな。」
「絶剣も息あってたしな。このままだとクリアされかねん。ボスに急いで報告した方がいいぞ。」
そういって二人は再度ポータルに入って行った。
「今の…は?」
ユウキが心配そうにオキの顔をのぞいた。
「クロ、間違いねーな?」
「うん。あの二人。ずっと僕たちの後ろにいたよ。」
「ええ!?」
「うそ!?」
「全然気づかなかった…。」
オキはあの二人がボス部屋で戦っている最中にずっと壁際で透明魔法で隠れていたことをクロに確認していた。
「あいつら、どーもここ最近俺らが戦った後にボスぶったおしてるやつらの一味っぽい。ある情報屋から教えてもらってな。なーんか怪しい事やってるらしいと聞いてな。あれこれ調べてクロに同行してもらって確定したわ。あいつらこっちの戦い覗き見て情報得てやがる。あとは人数集めて数の暴力よ。」
ユウキ以下メンバー達は唖然としていた。自分たちが一生懸命戦っているのを横からかっさらわれていたのだから。
「いつもならここで一度解散しているが…この後突破されかねん。時間あるならこのままもう一回といけるが、どうする?」
スリーピングナイツメンバー全員が力強く縦に頷き、オキは準備を怠らずに短時間で補給を行うように指示。
クロには二人の後を追い、捕まえるように指示をした。
「おめーなら時間認識で追えるだろ。引っつかまえてふん縛れ。」
「ハトやのメロンパン5つ。」
「焼き立て3つで我慢しろ。ミルクパンも付けてやる。」
それを聞いてコクリと頷いたクロはポータルへと走って行った。オキには走っていくクロが嬉しそうな顔をしていたように見えた。
その後、オキは再び迷宮区へと走った。
「ところでどうしてクロは透明になったあの人たちが見えたの?」
「スキルかなにか持っているのですか?」
走っている最中にユウキに質問された。
「ああ、あいつはモノの動いている時間とその空間の認識が出来る。普段はこんなことお願いしないんだが、今回横から俺の獲物かっさらわれた上に、卑怯な手使ってきたからな。こっちも使える手を使ったまでさ。」
「時間…て?」
ユウキが首をかしげた。
「あー。難しい話になるからまた今度な。簡単に言えば、そうだな。クロが俺やユウキを見ると持っている時間が目で見えるそうだ。生まれてきて、今いる時間。そして終わりの時間が決まった瞬間にそれも。」
「終わりの…時間。」
ユウキの声のトーンが一瞬下がった。オキはユウキが何を連想したのかを察した。
「まぁそれが今わかるわけじゃないからな。決まった瞬間、抗うことのできなくなった瞬間らしいから、普段は滅多に見えないらしい。とはいえ、まぁそういうところだ。」
「…。」
走るユウキは何かを考えているのか、黙り込んでしまった。
迷宮区をそのまま走ったオキはボス部屋のある階層へと到達。扉の前まで走り込んだ。そしてそこに5人ほどのプレイヤーが立っていた。
「む? 先客か。」
「げぇ!? …あ、いや。すまんな。こちらが先だ。」
中心にいた男性プレイヤーがオキを見るなり驚いた表情を見せたが、いまは冷静な装いをしている。しかしオキにはそれが何を意味しているのかがわかった。
先程、ポータルから出てきたオキたちを見ていた二人組のギルドとおなじ名前が表示されていたから。
「僕たちも今からボスに挑むんだ。そっちは5人で挑むの?」
「いや、これから集まる。それまで待って欲しい。」
「こっちは全員いる。集まるのが遅いなら先にやらせてもらうぞ。」
「何を言っている! こっちが先に来たんだからこっちが先だろ!」
「そうだそうだ! ルール守れ! ルール!」
ユウキたちと男たちのやり取りをだまって見ていたオキだが、最後に叫んだ男性側のプレイヤーの一人の言葉に反応した。
「ルール、か。だったら人のこと言えねーよな?人の戦い盗み見て情報漁ってた盗人はルールを守らなくてもいいのか?」
オキがギロリと睨みつけ、中心にいた男性がたじろいだ。
「な、なにを言うのかね。なんのことだかさっぱり…。」
しらばっくれる男のもとに、数十人のプレイヤー達が走って現れた。その先頭の一人がその男に向かって叫ぶ。
「ボス! 大変だ! アーク'sに偵察部隊が捕まった! …げぇ! しゅ…朱槍…!」
後ろ姿で気付かなかったのだろう。焦りもあったのだろうその男はオキたちアーク'sの名前をその場で叫んだ。
これにより、この目の前の男がオキたちと関係ある存在となったことを証明してしまった。
「ほーん。うちのメンバーに捕まった、ねぇ。うちのメンバーが何の理由もなしに誰かを捕まえることはしない。なーにがあってそうなったか…教えて欲しいもんだねぇ。」
オキがゲイボルグをじめんに突き刺し、ゆっくりと大勢のプレイヤーの前に立った。
「ぐ…くそ!」
先よりいた中心のボスと呼ばれる男がオキへと剣を振りかぶった。
「オキ!」
その時、オキはみた。壁を掛け、飛んでくる一人の女性がオキを乗り越え、その男へと足を向けていたことを。
「がっ!?」
男の顔面に足が下ろされ、そのまま踏み台となった。さらに追い打ちを掛けるように足元に炎をだし、男を燃やす妖異な女性。
「シンキ。おめーいままでどこほっつきあるいてたんだよ。心配はしてねーけど一言声くらいかけろよな。」
「ちょっとね、【敗者】が手を加えたSAOのコピーサーバーだからもしや、と思ってね少しヨツンヘイムにある空中遺跡に行ってたの」
彼女はいつもと違う魔術師のようなターバンから伸びた髪を弄りながら答えた
「まあその話は追々ね、今はその扉の向こうに進みなさい?ボスに用事があるんでしょ?ここは私1人で止めておいてあげる。」
「オイオイ、メイジ1人でこの大群を相手に出来るでも思ってんのか?こいつはお笑いだ!」
「いくらアーク’sのメンバーだからって舐めすぎにも程があるだろ!」
「メイジ一人くらい直ぐ倒してやるよ!」
オキ達の前に立って宙に浮かべたモタブの預言書の原本を捲りながら1人で止めると言うシンキに対して
数人のプレイヤーがヘラヘラしながら叫び、それに合わせて他のプレイヤー達も頷き、シンキを嘲笑い
それぞれ斧、剣、槍、杖を向けた
向けられた武器を前に、シンキの肩がプルプルと震えてるのが見えた
「シンキ?」
「フ」
そんな息を吹くような笑い声が聞こえた
「ふはは、ははははは!はははははははははははははははははははははは!
倒す!貴様たちがこの私を倒すだと!?オキちゃん、水差し!水差し頂戴!これはまずい、命がまずい!
あの阿呆どもは私を笑い殺す気よ!ここまでの最高峰の道化師共が大群で!
死ぬ!笑い死ぬ!ヒーッ!ヒーッ!」
少しでも心配したのが馬鹿だった。
無数の武器を前にして、シンキはあろう事が高、いや馬鹿笑いを始めたのだ。
これほどの煽りは他に無いだろう。
ひとしきり笑い終えたあと、まだ肩を震わせながら、彼女はこう続けた。
「いやいや、笑わせて貰ったけど、そうね…。来るがいい下郎共、今なら勝ち目があるかもだぞ?」
とシンキの周囲に黄金の波紋が開き、そこから無数の杖が現れた
「今の私は星の財宝の機能を制限してる、エアも使わないし、武器も射出したりしないわ、でもね…」
と、シンキが説明を始めた辺りで痺れを切らした大群の中の何人かのメイジが魔法を唱えだした
「「「Ek fleygja þrír geirr muspilli」」」
唱えられた炎魔法は速度を付けてシンキや、その後ろに居るオキ達に飛んでくる
が、シンキはハア…。とため息を付きながらモタブの原本のページを軽く撫で光る文字が本の上で踊った
それと同時にシンキの目の前の床に開いた黄金の波紋から5本ほど杖が飛び出しそこから火柱が上がり、杖が回転することで出来た炎の竜巻にメイジ軍団が放った炎の槍は、飲み込まれ、同化し消えてしまった
「まだ説明の途中でしょ、不敬よ」
と、オキ達と対峙していた大群を目の色が変わり、縦に瞳孔が入った蛇のような目で睨みつける
「さて、いつも足止めばっかりだけど、改めて言うわね、進みなさい。あなたにはやることがあるのでしょう?」
と、モタブの原本を持つ手とは逆の手に、サイコウォンドを握りながら
背を向けたままオキ達に言う。
「行くぞオメー等!」
シンキの言葉を受け、オキはボス部屋の扉に手をかけた
「ちょっと!?大丈夫なの!?いくらオキの仲間だからってメイジ一人であの大群を…剣士もいるんだよ!?」
ユウキが心配そうに聞く。が、
「大丈夫だ、寧ろシンキの相手をするあいつ等の方が心配なくらいだ。それに、シンキひとりじゃない。」
「え」
「おおおおおおおおおおおおおお!」
鬼の形相をした叫ぶ一人の剣士が、大勢のプレイヤーの後方から切り進んできた。
それと同時にいくつも上がる炎柱、空中に開いた黄金の波紋から出た杖から落ちる落雷、
シンキの周りから出たレーザーが、つい先程まで自分達と対峙していた大群を
紙くずのように吹き飛ばしているのを見てしまった…。
目の前にいた5名のうち1名はシンキが踏み潰し、残ってた通せんぼしていた4名も鬼の形相の剣士が叩き切ってしまった。
「いけ、オキ君。ここは任されよう。」
コクリと頷いたオキはユウキたちをひきつれ扉の中へと進んだ。
扉が閉まり、ボスが出る演出の最中
そうなるであろうことを予想していたオキは、軽く片手で頭を抱え、ため息をついた。
「あーあ。あいつらかわいそうに。ま、同情はしないがな。」
「あら。隊長ちゃんじゃない。」
「クロ君から話はきいた。俺も混ぜてくれ。」
囲まれたふたりはある程度暴れ立ち回った後、目の前には先ほどの大勢のプレイヤーは数分も経たずに半分となっている。
「お、鬼の隊長…鬼の隊長だ!」
「メイジのほうもよく見れば…魔神じゃねーか! 先頭の奴らなにやってんだ!」
先ほどまでの勢いは全くなく、逃げ腰の数十名が武器をこちらになんとか構えている状態だ。
「ふーん。あと30人ってとこね。10人くらい残してあげてもいいけど?」
「思ったより多いな。いいのか?」
「じゃあ5人あげる。」
そのやりとりを聞いて数名がシンキとアインスに走り出した。
「くそ! たった二人で…。」
「やられてたまるか!」
突っ込んでくるプレイターに対し、ニヤリと笑ったふたりは武器を構える。さらに数分後。大量の小さな灯火が目の前で消えていく通路をふたりは後にした。
寄生根性丸出しのプレイヤーたちをあとに、ボス部屋へと入ったオキたちの目の前には再び大蜘蛛ファントムが立ちはだかった。
『休憩は終わったか小僧! 遊びは終わりだ! 好き勝手暴れてやる!』
シャアァァァと吠えるファントムに対し、オキも大きく手を広げた。
「いいぜ、マジの戦い。やろうじゃねーか!」
オキの言葉を皮切りに、29層のボス攻略が始まった。
みなさまごきげんよう。
最近デレステの幸子が可愛くて仕方ありません。
どうでもいいですね(二週連続)
やばい。今週話題が一切ない。
うーん。よし来週に回そう。
そういえば急激に寒くなってきましたね。皆様も風邪をひかぬようにご注意を。
ではまた次回お会い致しましょう。