SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第113話 「クローリング・ナイトメア」

オキとユウキが再会し、スリーピングナイツと共にボス攻略を行うための準備を始めてから一週間が過ぎた。

連日オキの指揮による戦闘を繰り返し、個々人の動き、癖を徹底的に覚えて行った。

ユウキは戦闘能力が高く、攻撃は勿論、防御、回避と先陣を切る最前線で戦うスタイルだ。しかし、戦いながら指示を出すことに慣れておらず、慣れさせるには時間がかかるとふみ、オキが行うことにした。

26層ボスは隊長やハヤマが叩き切った為、27層ボスを目指す事に。フィールドのエネミーを倒し進みながら、個々人の動きを後ろから見ては動きを覚えて行っていた。

27層のフィールドを突き進み、迷宮区の手前にある村へとたどり着いたオキ達はひと段落ついたので、宿で休憩を取っていた。

「にしてもオキさんってすごいねー。どんな状態でも的確に指示してくれるから。」

「ふふん! オキはすごいんだ!」

「なんでユウキが威張るんだよ。」

「でもこの間のボスの時もすごかったじゃない? あんなの初見じゃ倒せないよ。」

スリーピングナイツのメンバーは先日の26層エリアボスの話をしながら、今日までのオキやアーク’sメンバーの話で盛り上がっていた。

26層のエリアボスは巨大な目玉が宙に浮いているゲイザー種の大型。攻撃力は高いものの動きは遅く、見た目が気持ち悪いという点を除きSAO時代ならHPが大きく、当たらなければどうということはない獲物だった。

だが、HPゲージのラストゲージとなった直後、短かった触手がいきなり伸び、先端に口をはやして皆に襲い掛かった。

壁際にいたオキ達にもその攻撃は届き、オキは軽く逸らしたが、スリーピングナイツのメンバーは大慌て。

本体は相変わらずのスピードだったが、触手の速度が尋常ではないほど早く、届く範囲も広いときた。

とはいえ、それくらいでへこたれる『アーク’s』メンバーではない。

大口を開けて襲い掛かる触手を軽くあしらい、見事討伐に成功した。

その時の話をまるで先ほど見たかのように話すスリーピングナイツメンバー。

「ふーむ。」

オキが悩む声を上げるとユウキが近寄ってきた。

「どうしたの? なにかあった?」

「いんや? こうもバランスのとれたメンバーなのに、一人も指揮する人がいないってのは珍しいなと思ってね。」

オキの言葉にピタリと静まった。その光景になにかいけないところに触れたのかとオキはすぐさま謝った。

「すまん。いらんとこ気にしたか。なかったことにしてくれ。」

「ううん。大丈夫。以前までこのチームにいたリーダーが指揮担当だったんだ。でも、もういなくなちゃった。」

そうかとオキはそれ以上、その内容に触れない事を心の中で決めた。あまり触れていい内容ではないと雰囲気で分かったからだ。

次の日、迷宮区を突破。27層のボス部屋前までたどり着いた。

「いよいよだね。」

ウキウキしているユウキに、緊張しているメンバーたち。オキは相変わらず一戦前の一服を皆に許可をもらい離れて吸っていた。

「さーてどうすっかねー。動きを注視するか。それとも最初から本気出していくか…。相手がなにか次第だなー。」

「オキも楽しそうだね。」

ニコニコしながら近寄ってきたユウキがオキの顔をのぞいた。

「お? わかるか?」

「うん! なんかオキって僕に似てるとこ多いよね。戦うときに楽しんでるとか。」

「強いやつと戦うときは死にもの狂いだけど、なんか楽しい。」

「うんうん! わかるわかる!」

「二人とも? お楽しみ中悪いですが、そろそろ行きませんか?」

注意されたオキとユウキは二人して微笑み合った。

大きな音を立てて閉じた大扉。そして目の前に広がるいつもの広い大きな柱が何本も立つ大部屋。そこにいたのは黒い影を纏った、目の無い大きな獣がゆっくりと歩いていた。

「こんどはシャドウ種か。目が無いってのがこえぇな。」

ボス『クローリング・ナイトメア』。シャドウ種と呼ばれる獣種だ。普通のシャドウ種は体の大きな四足歩行の獣でスピードとその大きな体躯を活かして攻撃をしてくる。こちらの攻撃を避けることも多く。下手な攻撃を行えばカウンターを喰らい痛い目を見る。

だが、このシャドウ種は何かがおかしい。

「違和感がある。前に出すぎるなよ。」

以前戦ったことのあるシャドウ種はもっとはっきり見えたが、このシャドウ種は黒い靄のような影を纏っており、本体がその陰でよく見えない。

「オキ、足元…。」

ユウキがじっと見つめるボスの足元を見ると床面と足もとの境目が影に覆われ見えなくなっている。

『グルルルルル…。』

「いかん。見つかった。」

大きな遠吠えを放ち、こちらへととびかかってきた。

「散開! ユウキと俺以外は離れてこいつの動きをしっかりみろ! 必ずパターンはある! 隙あらば攻撃! だが無理するなよ。 ユウキ、反対側!」

「了解!」

真っ先にウォークライでヘイトを取ったオキはまずユウキと一緒にヘイトを向けさせることに専念。ボス攻略を開始した。

「っちぃ! いやな影だな。まとわりついて気持ち悪いぜ。」

オキの振り上げから思い切り切り下げた槍を軽々と避け、目の無い顔に唯一ついた口を大きく開けてオキへとかみついた。

真っ黒な体についた唯一色の付いた部分であり、獣の『それ』ではなく、人の口に近い歯を持っていた。

「ほんと気持ち悪いなぁ。」

獣の体に黒い煙のような影を纏い、目の無い顔には人と同じ口が大きく開いている。ダーカーにもこれほど気味の悪いエネミーはいないだろう。

「でぁぁぁ!」

オキへと攻撃をしている間にユウキが側面から攻撃。スリーピングナイツメンバーも攻撃へと加わる。

『ゴァァァァ!』

HPのゲージは4本。今のところは問題はない。これはただの獣型のモンスターだ。

しかし強化されたボスがこれだけでは済まないのはオキもユウキもメンバー全員がわかっている。油断はできない。

ユウキの縦横無尽な攻撃スタイルにオキの相手からの攻撃を弾く防御型のスタイルで後方への攻撃はほぼ無いに等しい。

ゲージもこれで2本削れた。

『グルルルル…。』

ボスは一声喉を鳴らし、身体に纏っていた影をより濃いく纏い、姿を消した。

「どこいった!?」

「どこ!?」

オキは精神を尖らせ、周囲の警戒を強くした。直後だ。

「ぐぁ!?」

「きゃあ!」

後方側で援護していたメンバーのど真ん中に上空から降り立ってきたボスが体を回転させ、長い尻尾で皆を攻撃したのだ。

「こんにゃろ!」

オキがすぐさま反転。ユウキもそれに続いて走る。攻撃をいれようと武器を振るったその先にはすでにボスはいない。

「あんにゃろう…。」

ボスは素早く飛び跳ね、柱へと鋭い爪で張り付いたのだ。

『ゴァァァァ!』

空中からの強襲。3ゲージ目での変化が攻撃パターンの変化だった。

「散開! 固まるな! 受けたダメはすぐに回復しろ!」

「追いかける!」

ユウキが素早い走りから柱を登り、ボスへと攻撃をしようとした直後だ。今までオキへとヘイトが移っていたボスは後方へと攻撃を転換。そして今まさにダメージを受けたメンバーへと飛びつこうとした直後だ。柱を縦に走るユウキにその顔を向けたのだ。

「戻れ!」

「うわぁ!?」

まとっていた影を収束。それを鎌として多数の斬撃をユウキに浴びせたのだ。

「まさか…。」

オキもそれに続き、柱へと走った。そして足を着いた直後だ。

ユウキに向いていたボスのヘイトがすぐさまオキへと向き、多数の鎌をオキへと向けたのだ。

「こんちきしょう!」

オキは槍を頭上で回転させ、風の魔法を展開。小さな竜巻のように周囲に防御壁を貼ったのだ。これは攻撃にもなるオキの得意技のひとつ。だが。

 

ガキキキキ!

 

「なに!? がっ!?」

鎌は風の刃をすり抜け、オキへ斬撃をいれた。

「ちっきしょう…。」

「いてて…どうしよう。」

魔法無効の影。攻撃の届かない柱の側面にへばりつく本体。オキはどうするかを考えた。

その隙に体力の回復とバフを積み直したメンバーの魔法がボスへと向かう。

火炎、闇の玉、氷の氷柱。だが全てそれらは影の鎌によって相殺される。

『ゴァアアア!』

再び後方から魔法を撃ったメンバーへと飛びつくボス今回はオキの走りが間に合った。

「ユウキ!」

「ダァァァ!」

ユウキの直剣がボスの体の側面へ振り下ろされ、ようやく攻撃が入る。

『グルァァァァ!?』

ボスは再び飛び上がり、柱へとへばりついた。

「なるほどな。遠距離からの魔法は影で相殺。攻撃をしてきた一番遠くに居るメンバーへのヘイト転換。近づこうと柱を登れば鎌の斬撃っと。」

分かってしまえば敵ではない。だが、これでようやく3ゲージ目だ。ここで変化をしてくるとなるともう一段階あってもおかしくはない。

だが、引き下がるわけにも行かない。

「ユウキ! 今の連帯! もういっちょいくぞ! 今度はでかいのぶちかませ!」

「OK! みんな! 行くよー!」

「「「おおおー!」」」

オキの目測通り、ボスのパターンは予想通りの展開だった。後方からの攻撃を相殺した後にそこへと強襲する。だがそこに待ち構えていたオキが攻撃を防御し、ユウキの大火力と近接による側面攻撃。これにより3ゲージ目も削れるようになった。

オキの防御のダメージも0ではない。だが、受けた瞬間にヒーラーからの回復と防御バフによりそれが容易になる。

大人数いればその強襲がどこに降り立つかがわからない。しかし少人数だからこそできたやり方だ。

「3ゲージ目…これで! おわり!」

ユウキの直剣にソードエフェクトがかかり最後のゲージを解放する。

4ゲージ目突入。それは、目の前に広がる巨大鎌の降り注ぐ広範囲回転攻撃でオキたちの陣は崩された。

 

 

 

「くっそー! あと少しだったのにー!」

「ごめん、よけそこねちゃった…。」

「しかたないさ。あんな攻撃しらないとよけれないよ。」

オキたちは最後のゲージ開放時の大技で壊滅。オキ、ユウキは持ち前のスピードでそれを避けるも、他メンバーは壊滅。目の前にいるは巨大な影の鎌を多数振り回しながら突進してくるボスの姿が目の前に広がっていた。立ち直しに時間がかかったユウキがモロにくらい、オキ一人となる。数度刃を交え、武器から伝わるその重さに、この攻撃は受けるべきではないと悟ったオキは逆に鎌へと攻撃を入れる。少しでも攻略の情報を手に入れるためだ。クリアはせず、対処法を見つけてから帰る。正直目の前の強敵を倒したいと思う悪い癖が出ているが、目的を忘れてはいけない。

鎌の側面に攻撃を当てた瞬間、鎌は槍へとなり、オキの頬を掠めた。一瞬の出来事ではあったがなんとか避けることはできた。そしてその槍を放つ際に『止まることもわかった』。オキは防御をやめ、自滅を選び皆の後を追った。

PTが全滅すると、1層中央広場に強制転移される。オキが最後のひとりとして転移された。

「いやー。惜しかったー。まさかあんな広範囲に攻撃をしてくるとは思わなかったぜ。」

「よくよけれましたね…。見えませんでした。」

ショボンとするメンバーたちにオキはニコリと微笑んだ。

「いやいや。よくやったよ。あと少しだ。あの攻撃は下をくぐればよけられる。問題はそのあとの大鎌をどう対処するかだ。作戦をねる必要があるな。」

「うん! 次は負けないぞー! 頑張っていこー!」

「「「おおオー!」」」

負けたことによる悔しさはあるものの、皆の気持ちは前を向いており、その意気込みをオキは高く評価した。

 

 

「にしても死に戻りとか普段できねーからこれはこれで面白いな。」

「普段俺らは見つけたら倒さないと、負けは死だからねー。」

「サーチアンドデストロイなのだー。」

オキはALOをログアウトし、アークスシップに新装されたフランカ'sカフェでコーヒーを飲みながらタバコを吸っていた。ハヤマやミケも一緒だ。

「はい、とんこつラーメンセットおまち!」

フランカがオキのいるテーブルに注文された食事をもってきた。それと同時にアインスも合流した。

「いい匂いがするな。フランカさん。俺には鯖の味噌煮定食。」

「了解! ちょっと待っててねー。」

「やあオキくん。どうだい? 攻略はすすんでいるかい?」

ゆっくりと腰を下ろしたアインスはハヤマがいれた水に口をつけながらオキに話を聞いた。

「ああ。面白いボスがいてね。身体に影をまとって、その影が攻撃してくる獣型シャドウ種の強化エネミー。」

「ほう…。」

隊長の目が少しだけ光る。だが隊長、残念だが俺の獲物だ。とオキが笑いながらタバコの煙を吐いた。

「やはりこっちにはいない強敵がいるあそこは面白い場所だ。腕試しにもなる。」

「ねー。ふぁぁー。一日眠りっぱなしはさすがに身体がガッチガチになるな。温泉かマッサージでもいかねーとかーたこっちゃってねぇ。」

「仕方ないよ。オキさんは少しでもダーカー因子を浄化しないといけないんだから。」

「とはいえなぁ…。」

オキたちが『深淵なる闇』を討伐し、ひと段落着いた直後の話だった。

オキの体にはまだ深遠なる闇によって残されたダーカー因子が残っていた。マトイも同様だ。ダークファルスの闇の力を吸収したふたりはハヤマやアインスたちとは比べ物にならない量の闇の力が身体に溜まっていた。深遠なる闇になった【仮面】が大半を持っていったあとでもその力はまだ残留している。よってそれの浄化が必要だった。

オキは研究機関の知人たちと共に惑星スレアのVRネットワークと繋がる装置『ナーヴ・ギア (オラクル版)』を混み込んだ浄化カプセルを開発。眠っている間はVRネットワークに繋がることができるようにした。

オキ曰く眠りっぱなしだと面白くないということで開発したのが本音だ。

欠点は眠りっぱなしで動かないので体中がガッチガチに固まってしまうところだろう。

「自分の部屋ではいりなよ。」

ハヤマが行っているのはオキの部屋にある大浴場だろう。3つ使える部屋のうち一つを大改造して大浴場にしてあるのだ。

「ばかやろう。あんなの温泉とは言わねーよ。大自然を目の前に入るのがいいんだろうが。」

はいはいと呆れるハヤマに笑っているアインス。ミケは口いっぱいに頬張りもぐもぐしている。

「ん? ああああ! 俺のラーメン!」

「さっさと食べないからミケが食べてやったのだ! 感謝するのだ!」

チャーハンに、餃子、ラーメンに至ってはスープまで綺麗さっぱりだ。

「俺のラーメン返さんかーーーー!」

「食べないオキが悪いのだー!」

逃げるミケを追いかけるオキをみて、ちょうどアインスの食事をもってきたフランカとともに3人は笑った。

 

 

次の日、オキがログインした直後に聞いた情報は

『27層のボスが突破された』という悲報だった。

 




みなさまごきげんよう。
先週はお休みをいただきありがとうございました。
久々に一人での(日帰り)旅行に行ってきまして…。御殿場でさわやかのハンバーグと熱海の温泉に行ってきました。いやぁ癒された。温泉はいいぞ。

さて、まずここでひとつ皆様にご報告しなければなりません。
現在大炎上中のPSO2ですが、暫く休止することにしました。元々フレ達ががほぼログインしなくなり、私もプレイする気が起きずに今回の炎上まで発生しました。
何人かは引退も表明してしまい、どんどんフレがいなくなってしまいやってても面白くない状態です。集まって皆でワイワイしていた時代が懐かしいです。気が向いたらログインはするでしょうが、本格的にプレイするのはほぼないでしょう。誘われればやりますが。

とはいえSAO ~ソードアークス・オンライン~はまだ続きます。
このマザーズロザリオを終わらせてEP4で最終章としようかと。
その後は別の作品を描きたいと思っております。
それ含め、今後もよろしくお願いいたします。

ではまた次回お会い致しましょう。

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