SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

115 / 151
第112話 「スリーピングナイツ」

オキとユウキの戦いはなかなか決着がつかなかった。

「たぁぁ!」

ユウキが空中から下にいるオキへと両手で握った剣を振り下ろした。

オキはコンと甲高い音をたてながら背中側でそれを受けた。

甲高い音をたてながら打ち合う剣と槍。ミシリと地面にひびが入り、耐えられなくなった力でオキの足元が吹き飛び、同時にオキの体も吹き飛んだ。

オキの飛んで行った先は土煙で何も見えない。しかしあれで終わりではないのは、まだ結果が表示されていないのでいつなにが飛んできてもいいようにユウキは構えを解かなかった。

数秒後に土煙の中から紅い槍が回転しながら空中に弧を描きユウキの前の地面に突き刺さり、その直後にオキが土煙の中から出てきた。

「いやー。飛ばされた飛ばされた。まったく、以前より強くなってんじゃねーか。」

「君こそ、ALO来てまだそんなに経ってないんでしょ? アレは使ってないみたいだし。」

地面に刺さった槍を抜き、ニカリと笑うオキ。アレというのは『アークス限定解除』の事か『エルデトロス』の事か。

オキからすればどちらでもよかった。

「なーに。ここでアレは使う必要ないからな。」

「むー。また本気の君と戦いたかったのになー。」

無茶言ううなといいつつ、ユウキへと槍を数度突いた。そのスピードは普通なら見切れない。周囲のプレイヤー達の半数がほぼ同時に何度も突いたと錯覚するほどだ。しかしそれをユウキは小さく口元を微笑ませながら突かれた槍の刃先を剣先で逸らし、紫色のソードエフェクトを纏いながらオキの懐へ剣先を向けた。

「っち。」

舌打ちをしたオキは、自分も紅色のソードエフェクトを出して対抗。刃同士が打ち合った。

甲高い音と、振られる剣と槍の衝撃波が周囲に響き渡った。

もう少しでお互いのHPが削りきる瞬間、ユウキはピタリと攻撃をやめ、オキへ笑顔を見せた。

「うん! やっぱり君に決めたよ! こっち!」

ユウキはオキの手を取って黒い羽を大きく広げ、空へと飛び立った。

「お、おい! どこ行く気だ!」

「いいから! ついてきて!」

ユウキの手に引っ張られながら自分も羽を広げ、その後を追った。周囲のプレイヤー達は急に起きたその出来事にポカンとしながらも、普段見ることのできない戦いをまだ見ているかのように興奮した声で感想を言い合っていた。

「うーむ。どうするかな。」

「どうしたの隊長。オキさんが心配?」

いや、と首を横に振るアインスは申し訳なさそうな顔でハヤマに背を向けた。

「彼らの戦いを見ていたら体がうずいてしまってな。少し、戦ってくる。」

「なら俺も付き合うよ。」

アインスの背中を追いかけるハヤマに、一緒にいたシリカたちもオキの飛んでいく背中を見送ったのち、ハヤマアインスペアについて行った。

「ここが僕のギルドホーム! ようこそ! スリーピングナイツへ!」

ALOの首都へと降り立ったユウキは一つのギルドホームへとオキを案内した。ホームの中には数名のプレイヤーがユウキの帰還と、一人の見知らぬ男に目を見開いていた。

「おかえりユウキ。この方は?」

一人の女性が首をかしげながらユウキを見た後にオキを見た。若干の警戒はしているみたいだが、少なくともユウキが連れて帰ってきたならと複雑そうな顔をしていた。

「オキだ。えっと、ユウキとバトルして急に連れてこられたんだが…。」

「説明はこれからするよ。ほら、座って座って。」

ユウキの手に引っ張られながらホームの中心にあるテーブル席に座らせられたオキは周囲のプレイヤーに頭を軽く下げながら席に着いた。

「それじゃあ今後の動きをはっぴょーします!」

パンと手を叩き、スリーピングナイツのメンバー及びオキを交えた会議が始まった。

「こちら、オキさん。さっき僕とデュエルしてきたんだ。この人なら、アレを実行できそうだよ!」

「まじで? ほんとうに?」

一人の青年がユウキに驚いた顔を見せていた。

「あー。オキだ。ギルドはアーク’s所属でリーダーやっている。」

「「「アーク’s!?」」」

その場にいたメンバー全員が驚き、その言葉に満足したようにユウキは笑っていた。

「しかもリーダーって…。」

「もしかして『星の朱槍』!?」

「それは心強いわ。よく見つけてきたわね。」

驚きと喜びの声が上がる中、相変わらず状況がつかめていないオキは混乱し続けるしかなかった。

「えっと、紹介するね。左からジュン、テッチ、タルケン、ノリ。僕がリーダーで、みんなスリーピングナイツのメンバーさ。」

「よろしく。」

丁寧に頭を下げたオキに対し、4名も軽く会釈を返した。

「で? いまいっちょ状況がつかめんのだが。なんで俺がここに連れてこられたのか。説明を貰おう。」

「ユウキ、説明してなかったの?」

「いやー。嬉しくてつい。」

テヘっと舌を出してごまかすユウキの姿に、オキはクスリとほほ笑んでしまった。

「オキに、お願いしたいことがあるんだ。」

ユウキ、以下スリーピングナイツからのお願いだった。

現在攻略されている新生・アインクラッドのボスは25層まで。現在多くの熟練プレイヤーが26層突破をめざし、幾度も戦いを挑んでいるらしく、スリーピングナイツもその一つだ。

「単刀直入に言うと、僕たちだけでボスの攻略をしたい。」

ユウキの言葉は単純明快で、それでいて困難を極める内容だった。

アインクラッドのエリアボスは普通なら数十人で戦う必要のある強力な敵である。SAO時代ならその層にてNPCからの情報を得てから戦うのがセオリーだった。まぁそもそも戦い直しは『負け』を意味していたが。

ALOでは事前情報がないため、ぶっつけ本番となる。

一度ボス部屋に入るとそのプレイヤーは勝つか、HPが0になるのどちらかでしか外に出られない仕組になっている。

勝った場合、レアアイテムが手に入るのは変わらず(オキのゲイボルグもここで手に入れている)、更に倒したメンバー全員があの『黒鉄宮』の中にある巨大な碑、生命の碑に名前が刻まれる。

アインクラッド第1層、始まりの街に存在する黒鉄宮に設置されている金属製の巨大な碑。かつてはログインしていた1万人のプレイヤー名がそこに書かれており、光が失った場合その者がログアウトした事、つまり死を意味したモノだった。

しかし現在では物自体は残っているものの、歴戦の勇士をたたえるものとして復活している。

「そこに僕たちの名前を刻みたいんだ。僕たちだけで、倒した証を。」

オキはスリーピングナイツのメンバーを見渡すとオキを見つめていた。その目は覚悟の目をしていた。

「刻みたいのはわかった。で? 俺は何をすればいい。」

「僕たちを強くしてほしい。」

ユウキは強い。だが、それだけではかなわないのがエリアボスだ。

一人二人程度強いプレイヤーがいたところで、周りもそれ相応の動きをしなければ難しい。

フームと唸っているところにオキ宛へメールが届く。相手はハヤマだ。

「んー? ちょっと失礼。」

オキがそのメールを見たあとにぶつぶつと独り言をつぶやき始めた。

「丁度いいか。うん。よし。ユウキ、みんな、ついてきて。」

オキはユウキ達を連れてハヤマ達がいると連絡してきた26層のボス部屋前。すでにアーク’sメンバーがそろっていた。

「おまたー。」

「あ、きたきた。」

「さっきの子も一緒だな。」

ハヤマ、アインス、キリト、アスナ、シリカたち。更にディアベルにキバオウらとアーク’sのメンバーがほぼ勢ぞろいしていた。

オキは到着即座にシリカ、フィリア、ハシーシュを見つけ頭を軽く撫でた。

「今日は見学者付きか。恥ずかしい戦いはできんな。」

「なーにいつも通りやればええねん。それより、オキはん並に強いってほんまか?」

やいのやいのとオキの周りに集まり、オキがユウキを前に出すとユウキは照れくさそうに笑っていた。

「にしてもいきなりだな。」

ハヤマからのメールは26層のボスに挑みに行ってくるというメールだった。

丁度メンバーも集まっているということからハヤマ、アインス両名からの提案だった。

「なに。君と、彼女の戦いをみてな。ついうずいちまった。」

そこでせっかくだから強いやつがいいと思い、両名が拠点にしているキリトのロッジへと戻った際に、ログインしてきたディアベルキバオウらにばったりと出会い、そのまま芋ずる式でログインしてきたメンバー全員に声をかけ、今に至るという。

「シンキは?」

「少し用事が出来たそうだ。」

周りを見渡すとシンキの姿がない。ついでにミケと双子も見当たらない。

「ミケと双子なら22層の草原でお昼寝タイムだった。あまりにも気持ちよさそうだったのでそっと毛布を掛けてきたよ。」

軽い溜息をつきながらも微笑むアインス。オキはその昼寝姿が容易に想像がついてしまった。

「まぁ何とか何べ。んじゃ、アイテムもったか? 装備は万全か?」

アーク’sメンバーがその場で力強く頷いた。

「では諸君。今回の討伐は隊長とはやまんの疼きを解消するための戦いだ。なので二人が前線で盾となってもらう。邪魔されたくなかったら二人の近くにはいかない事だ。」

オキの言葉に数名からクスクスと笑い声が上がった。

「ついでに本日はチームスリーピングナイツのメンバーが見学だ。恥ずかしがって攻撃とか回避とかミスるんじゃねーぞ?」

笑いが起きる。

「ちなみに俺も今日は見学する。」

はたらけー! はたらけー! と周りからはやされるオキは目でディアベルに合図した。

頷いたディアベルは皆の前に立ち彼が扉を開けた。

「ユウキ、それからみんなは壁際に。説明しながら彼ら彼女らの戦い方を見てほしい。俺達はこの26層のボスを何も知らないで来ている。しかも『なんか強いやつと戦いたかった』という理由でだ。そんなあいつらが初見で倒し切るのを見ていてほしい。そして参考にできるなら、いろんな動きを見て覚えてくれ。」

オキがまずやり始めたものは強い者達の戦いを一度見せる事。お手本を見ずに自分の力だけですべてをこなせる奴はそうそうそういない。だからなにかしら手本とする。

『強くしてほしい。』その言葉を実行するには、まずはお手本を見せることだと順序を踏んだ。

これが吉と出るか凶と出るか。第26層ボス『スター・ナイト・ゲイザー』を取り囲み始めたアーク’sメンバーを真剣なまなざしで見つめるスリーピングナイツのメンバー達をみながらそう思った。




皆様ごきげんよう。
マザーズロザリオ編本格始動です。SAO劇場版も販売され、その一シーンにアスナ・ユウキが共にというのがあり、涙が流れました。
さてPSO2ではEP4の見直し中です。どこをどう改変しようかと思いながらいろいろ考察しています。
さてFGOではネロ祭りが開催! ボックスガチャだよっしゃまわせええ!
素材がうまい。

では次回にまたお会いしましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。