『聞こえてくる。深く沈むような、後悔の声が。
好きな人を犠牲にしてまで、作り上げた世界が間違ってて
うん。…辛かったよね。』
『聞こえてくる。
湧き上がるような怒りの声が。
存在を奪われて、弄られて
狂わされて、自由はなくて…
うん。…苦しかったよね。』
『聞こえてくる。
そのみを揺るがす、不安の声が
自分が誰なのか、わからなくて
耳を塞ぐことしかできなくて
うん、…悲しかったよね。』
どんなに強い人でも
心の中には、辛さ苦しさ悲しさがいっぱい、溢れてる。
だから、そういうの全て、私が抱え込んで消えれば。
みんな、幸せになるはず。
惑星ナベリウス、壊世地域最奥。その広場の中央付近に佇むマトイは異形となっていた。紅くそして黒く巨大な羽のようなモノが背中から生え、目からは紅い血が流れている。
「・・・なのに、なんでだろう。ね、オキ。なんでだろう。どうしてだろう。みんなの分を、抱え込もうとしてるから? 私はそうするために生まれてきたはずなのに、どうして、こんなにさみしいのだろう。」
マトイはわからなかった。自分の中に渦巻いている感情がなんなのか。
覚悟は出来ているはずだった。だが、オキの声が聞こえる。
みんなの声が、聞こえる。
そんな声を聴いているさなかに、わからない感情が胸の中で渦巻いて、わからなかった。
最奥へとたどり着いたオキは空へと立ち上る6本の光の柱を見た。
「…これは。やったか!」
六芒と2人の力。それが巨大な力となり、大きな結界をはった。
目論見通り、マトイを、【深遠なる闇】を束縛することに成功したのだ。
「六芒は無事、結界を紡いだ。シンキやクロの力もそれに上乗せした巨大な束縛結界だ。これで【深遠なる闇】をこの地に束縛したはずだ。」
シャオからの通信が入り、直後に六芒達からの言葉もオキへと入る。
「オキ、我ら六芒は結界の維持に全力を尽くさねばならない。」
「見せ場にあんたに譲るってことだ。さすがにこっちも疲れたしね。」
「三英雄に至っては、紛い物とはいえダークファルスと戦ったんですから、まぁ大目に見てください。」
レギアス、マリア、そしてカスラからの通信だ。カスラの言うとおり、三英雄に対して【深遠なる闇】が何もしてこないわけではなかった。【深遠なる闇】は三英雄に対して、まがい物とは言えコピーとはいえ、【巨躯】【敗者】【若人】をぶつけてきたのだ。だが、それも彼ら彼女らの活躍により撃破。ほかのメンバーもチームペルソナメンバーや、ミケ、アインス等多数のアークス達により守られ、今に至る。
「オキ! 私は、先代といろいろたくさん、話をしてみたいことがあるんだ! しっかりしないと…帰ってこないと、許さないからな! 必ず、連れて帰って来いよ!」
「右に同じ。おねーちゃんには言いたいこといーーーっぱいあるんだから。」
クラリスクレイスとサラ。クラリスクレイスにとってマトイは先代。サラにとっては十年前にマトイに守られた小さな少女。そんな彼女らが話したいことがあるというのだ。約束を守らねばなるまい。
「さて! 俺からいうことは…なにもない! なぜばなる! 何事も!」
「ま、俺たちがケツもつから、気軽に気楽に頑張ってこい。」
こわばるオキの顔をみて、力むオキの緊張をほぐそうとヒューイにゼノは励まそうとする。
「オキ。惑星スレアの人たちからも伝言をもらっている。」
シャオからの通信が帰ってきた。
「オキさん。惑星スレアの、オキさんの仲間の代表として私から…。本当は私じゃなく和人さんのほうがいいといったんですが、皆が私がいいって。…大変だとは思います。みなさんから、無事ではすまないかもしれないと聞いています。ですが、私は信じてます。大事な人を守るあなたは強い。何事にも負けない優しい方だと、知ってます。だからマトイさんと一緒に帰ってきてください! 必ず…一緒にです。あなたを愛するマトイさの気持ちはよくわかります。だから…。一緒にみんなでまた笑いましょう!」
佳子からも励ましの伝言だ。彼女もアークスシップにて見てくれているのだろうか。
皆も来ているのだろうか。
「オキさん。」
「オキちゃん。」
「オキ君。いってこい。」
ハヤマ、シンキ、アインスからも『いってこい』と言葉をもらった。背中を優しく押された気がした。そう。俺の背中には彼ら彼女らがいる。負けるつもりはない。誰ひとり、犠牲なんか出さない。必ずマトイを連れて帰る。そう誓いながら、マトイの待つ広場へと走った。
「マトイ!」
広場にはマトイの、変わり果てた姿があった。その内側からは巨大な闇の力が溢れ出ているのを感じた。
「…。」
だまってオキをみるマトイ。その後ろに突如、アンガ・ファンタージが現れた。
「!?」
構えるオキに対し、アンガはマトイへと吸収されていく。
アンガを吸収したマトイは更に異形と化した。
腕は大きく変異し、紅くそまった体。その姿はダークファルスと重なる。
アンガを吸収したマトイはオキへと襲いかかった。
「マトイ! 俺だ! わからねーのか!?」
「…。」
マトイは大きな腕を振りかぶり、オキへと攻撃を繰り出した。
「ちぃ!」
マトイのうしろへと回り込んだオキはマトイに近づこうとするが、大きな腕をさらに巨大化させ振り回しオキを突き放した。
「…いいだろう。わからず屋にはおとなしくなってもらおうじゃねーか!」
「漆黒よ。」
マトイはじめんに地場を作り、オキの体はそこへと引き寄せられる。
大きな爪を空中へと飛ばし、それらはオキめがけ降ってくる。
「こしゃくな!」
オキがなんとかそれを避けると、マトイは大きな腕をまるで大砲のような形に変化させこちらを狙ってきた。
「あっぶね!」
マトイの真横に移動したオキはエルデトロスで巨大な腕へと攻撃を入れる。
『この目のような場所。ダークファルスやダーカーにあるコアと一緒? ここを攻撃すれば!』
執拗に攻撃してくるマトイはサマーソルトでオキを狙う。だがオキにとっては遅い。
避けた直後にさらに紅い玉へと攻撃を狙う。
パキン!
「よっしゃ!」
一個は壊れた。だがひるまずに、さらに背中に紅き粒子のような羽を出すマトイ。
「全て、終わらせる。」
力を貯めるマトイは両腕を広げ、多数の小さなビームをオキへと降らせた。
直後に大きな力の塊を飛ばし、それがオキの近くで爆破する。
「っが!?」
逃げようとするも、背中にその衝撃が襲いオキは吹き飛ばされる。
「いい加減に…目を覚ませ!」
オキは立ち上がった直後にジャンプ。攻撃の反動で動けないのかマトイのもうひとつの腕にある壊れていない紅い玉めがけてエルデトロスを振り下ろした。
「おおおおお!」
パキン…
玉が壊れた拍子にようやくおとなしくなったマトイはその姿を元に戻した。
ゆっくりとオキの目の前で浮遊するマトイ。その中にはまだ【深遠なる闇】は残っている。
オキはゆっくりとエルデトロスをマトイに向けた。
目をつむった直後にある光景が思い浮かぶ。
【仮面】とつながったパレスで見たあの光景。
マトイを、刺した。殺した時の光景だ。
オキは目を開き、ゆっくりとエルデトロスを下ろした。
「おれは、倒しに来たんじゃない。助けに来たんだ。帰ろう。マトイ。」
マトイはゆっくりと歪な形をした剣のようなものをオキへと向ける。だが…
「…ほんと、オキは優しすぎる。」
マトイは仮面部を粒子化させ、素顔を現した。
「私は、もう覚悟してたのに、手が止まっちゃったじゃん。その優しさは、残酷だよ。」
マトイは剣をおろし、オキに微笑んだ。
「あなたの声はずっと聞こえてた。ハヤマさんも、シンキさんも、アインスさんも、ミケも、クロも…みんなの声が、聞こえてた。だから出てこれた。これが最後のチャンス。」
微笑みから悲しそうな顔に変わるマトイをじっと見つめるオキはタバコに火をつけた。
「もう止められない。【深遠なる闇】は私のうちに顕現してしまった。でも、今ここで私が死ねば【深遠なる闇】を閉じ込めることができる。それで終わり。それでおしまい。」
オキの方を背にし、マトイは剣を振り上げじめんに突き刺した。
「優しすぎるあなたができないなら…私が、わたしを!」
「!」
直後に強力な衝撃波が走り、オキを吹き飛ばした。
空中に闇の粒子が集まり、アンガ・ファンタージをマトイは召喚。今までに見たことがない巨大な力をアンガ・ファンタージは溜め込み、マトイへと放った。
マトイはそれで終わらると思った。だからゆっくりと目をつむった。
「ばいばい。オキ。大好きな、人。」
「させるかよ!」
マトイへと向かっていった巨大な闇の力の玉をオキは素手でおさえこんだ。
「ぐ…ぐうう…!」
思った以上に闇の力が強い。ゆっくりとオキの手を、腕を吸い込み押されていく。
「な、なんで!? この…わからずや! 邪魔しないで! これは…私が望んでやっていることなの!」
押し返そうと空中で踏ん張るオキに対し、マトイは叫んだ。
「私はなんで生まれたのかがわからなかった。なんで生きているのかがわからなかった。でも、みんなと一緒に、あなたと一緒にいてわかったの。あなたを、オキのいる世界を、守りたい。ハヤマさん、ミケ、クロ、シンキさん、アインスさん、それにスレアの佳子ちゃん達のいる世界。そして…あなた自身を、守りたいって。」
オキは口を歪ませニタリと笑った。
「っせぇな。望んでるだの私が死ねばいいだの。守りたいだの。結果論ばっか言いやがって。おめーこそ、優しすぎるんだよ…。ぐうう…。もっと、わがままに…なりやがれ!」
オキの押さえる闇の力はゆっくりとオキを蝕んでいき、とうとうオキの全身を取り囲んでしまった。
『ならば、何故泣く。』
「え?」
オキとマトイしかいないはずのこの場所で、声がした。その声の方をマトイが向くと、そこにはダークファルス【仮面】が、クラリッサをもってゆっくりとこちらに向かって歩いていた。
立ち止まった【仮面】はクラリッサを高く上げ、叫んだ。
「起きろ、クラリッサ! 否、シオンよ! 私たちの巡ってきた悠久の輪廻を、ここで終わらせる。そのために力を貸してくれ。」
『もちろんだ。オキ。』
クラリッサが光輝き、オキを囲んでいた闇の力が マトイの闇の力が、すべて【仮面】へとクラリッサを通して吸われていった。
「これは…。」
「一体…?」
『いくら器に適しているとは言え、きさまらはアークス。私はダークファルス。ならば、ダークファルスである私に闇が集うのは、当然のことだろう?』
さらに吸われていく闇の力を驚いた顔で見ながらオキは【仮面】へと叫んだ。
「おまえ…これ!?」
『貴様が気づかせてくれた。ただ一人を救いたいという強い意志。それを成し遂げるためにやるべきことを。私は彼女が救えればそれで十分。ほかには、何もいらない。』
マトイの闇の力はすべて吸い取られ、そして目の前が真っ白になった。
きすけば、周りは青く光る場所にいた。
目の前にはシオンと、仮面をとりオキと同じ顔をした【仮面】。そして横では泣きじゃくるマトイがいた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…! わたしは結局、わたしはなにも覚悟なんてできていなかった。」
ゆっくりと【仮面】が近づき、マトイの肩を撫でた。
「君は知らないだろうが、私と君はひとつの約束をした。…なくな。笑え。」
「…うん。」
マトイは頷き、目をこすり、無理やり笑おうとした。
「【深遠なる闇】は、わたしたちが受け取った。これで、彼女は生き、あなたも生きる。だが、【深遠なる闇】もまた消し去ることはできていない。すぐに、形をとるだろう。新たにダークファルスを従え、現れる。新たなる【深遠なる闇】。人類の勝つ歴史を、わたしは知らない。」
マトイをみたシオンは微笑んだ。
「だが、彼女が救われた歴史も、わたしは知らない。オキ、ここからはあなた次第だ。全知の先に進み、新たな歴史を紡いでくれ。それがわたしたちの最後の願いだ。」
「ああ、任せとけ。そして見てろ。この先の新たなる歴史を。」
こくりと頷いたオキをみてシオンと【仮面】はオキ立ちを残し、歩いて行ってしまった。
また光り、気が付けば元の場所に戻っていた。空は青く染まり、普段の遺跡の姿に戻っていた。目の前には裸に等しいマトイが寝転がっており、オキはそっと抱き上げ、自分のコートを着せた。
「ん…。」
「起きたか?」
マトイは自分の姿をみてコートをぎゅっと掴み、抱き上げているオキの肩に抱きついた。
「うん。」
ふと前をみると、【仮面】の面をつけた紅く、黒く、マトイの先程までの姿をした闇の力をもったモノが浮遊していた。
「【仮面】、いやおれか…。」
ソレは何も言わず、何もせずに空中へと飛び上がり、消えていった。
「…ああいうの、ずるいよね。」
マトイがそれを見ながら呟いた。
「ありがとうも、いえなかった。さよならもいえなかった。ほんとうにずるい。…でも、笑っていることにする。約束したし。【深遠なる闇】もでてくるし。ダークファルスもでてくるし、ダーカーもなんとかしなきゃ。」
無理やり笑っているのが分かる。その顔をみてオキは黙り込んだ。
「ふふふ。やることがいっぱい。泣いている暇なんて、ないね。」
しかし、マトイの目からは大量の涙が溢れ出ていた。
オキはそれをみて涙をすくった。
「あれ? おかしいな。わたし、笑っているはずなのに…おかしいな…。」
「泣きたかったら…ないていいんだよ。」
優しく微笑んだオキに対し、さらに涙を流すマトイはオキの胸に顔をうずめた。
「いまその言葉は…はんそくだよ。ごめん…約束、守れそうに、ない。」
マトイの鳴き声は遺跡の広場に大きくこだました。
「マトイ、おかえり。」
優しく頭を撫でるオキに、マトイは涙を流しながらも、ニコリと笑った。
皆様ごきげんよう。珍しく涼しいコミケとなり、楽しいお祭りでした。
マトイ救出戦、はじめて進んだとき、マトイの裸に近しいシーンで吹き出しました。
あかんやろあれ(歓喜)
今回の内容を書くにあたり、ヒーローでストミとソロ花いったら楽勝で白目になりました。脆いけどしっかり避ければ大火力で吹き飛ばす。まさにヒーローですね!(ストラトス風)
さてバスタークエ、始まりましたがいろいろ問題が起きてますねぇ。今のところ自分自身にはそれらは降りかかってはいませんが、周りは阿鼻叫喚となっています。
クエ自体はたのしいんですけどねー。
さて、ようやくEP3のラストが見えてきました。
次回はファンタシー・スターの代名詞でもあり、最後のボスである【深遠なる闇】戦。
普段はできない、いろいろぶっとんだ内容を書きたいと思ってます。
では次回にまたお会い致しましょう。