SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第108話 「俺たちを信じて進め」

ダークファルスはある一体を残し、確認されている脅威となるモノはすべて倒された。しかし、その代償は大きかった。

マトイが【深遠なる闇】となり、シャオはどうすれば彼女を助け出せるかの演算を、自らの能力をフル活用して行っていた。

アークス全体ではいつでも【深遠なる闇】との戦いがはずまるかわからない状況でもある為、各シップではその準備等でばたばたしており、ピリピリとした空気が漂っていた。

そんな中、オキ、ミケ、シンキ、クロはナベリウスへと降り立っていた。ある人物に会うためだ。

「この先にいるのだなー。それじゃミケはここでお昼寝してるのだー。」

そういって岩の上に茣蓙を敷いてそのうえでミケは丸まってしまった。

「シンキ、クロ。ここから先は俺が。頑張って説得してみるけど、あまりにも頑固に拒んで挙句逃げようとしたならば、捕まえてくれ。わりぃけど鎖、貸してくれ。」

「…ええ。オキちゃんが頼むならば。」

「マスターに任せる。」

こくりと頷き、ナベリウス森林のある一角、静かな木々の隙間にある小さな木陰広場。そこにオキの会おうとしている人物がいた。

最後のダークファルス、【仮面】だ。

「貴様…やはり無理だったようだな。」

「はん。まだあきらめちゃいねぇよ。ここからさ。」

ドカリと近くにあった岩に腰を下ろしたオキ。その言葉に【仮面】は怒りを見せた。

「まだそのような事を言っているのか! 見ただろう彼女を! ああなってはもう助けられない! 何をやっても無駄なんだ! なぜそれがわからない! 彼女は苦しんだ。何度も何度も…。もうたくさんだ!」

普段感情を見せない【仮面】がここまで感情を見せるのはオキの前だけだった。

「何をやっても無駄『だった』。だろう? 何度も、何度も、頑張ったんだよな? 気が狂うほど回数をこなし、苦しむ彼女を見てきた。そりゃそんなもん見せられたら、いくら俺でも、ダークファルスになっちまうわ。なぁ俺よ。」

オキの言葉に【仮面】は、自らの仮面を外した。そこにはオキと全く一緒の、うり二つの顔。

「クロちゃん、知ってた?」

「もちろん。どーりで、マスターと同じ時間のはずだよ。シンキだって、初めから知ってるんでしょ?」

木々の影から覗いていたシンキとクロ。特殊な力を持つ二人は【仮面】の正体を知っていた。

ダークファルス【仮面】。その正体が時空を超えた、オキである事。

【深遠なる闇】になってしまうマトイ。この事象を何度も回避しようとしてきた。何度も時間を飛び、何度も回避を試みた。だが、それらすべてが失敗し、彼女は【深遠なる闇】へと変貌してしまう。そして、その苦しむ彼女に見るに堪えれなくなった彼は、マトイを『殺した』。

「もう殺してしまうしか彼女を助ける方法はない。大好きなみんなを、彼女の手で殺させるというのか? 否! 彼女にそんなことさせるわけにはいかない! こうなってしまうのが必須であるならば、私はそれを止める。」

「だから殺すってか? バカも休み休みいえやボンクラ。」

オキがギロリとにらんだ。だが【仮面】も引き下がらない。

「ボンクラはどっちだ。まだわからないのか! ならば、わからせるしかあるまい!」

【仮面】はゆっくりと手を前にかざし、黒いダブルセイバーをその場に出した。

「っは! 逆に頭冷やせや!」

オキもダブルセイバーを手に取った。白く輝くゲイルヴィスナー。お互いに譲れないとその場で刃を打ち合った。

「だぁぁぁ!」

「おおおお!」

素早く振り回されるお互いのダブルセイバーがぶつかり合う。

「だぁりゃ!」

飛び上がったオキは【仮面】の頭上へゲイルヴィスナーを振り下ろす。後退し回避した【仮面】を追いかけ、体を回転させながらさらに地面へ振り下ろした。

二人がやりあっているのは狭い広場。広場の真ん中には大きく生えた大木。周囲は入り口以外は小さな崖があり壁となっている。その壁まで追い詰められた【仮面】は壁へと反転。壁を登った。

「ちぃ!」

壁を蹴った【仮面】はオキへと黒きダブルセイバーを突き立てようとする。

オキはそれを回避しようと横へステップ。オキへと向かっていた黒きダブルセイバーは地面へと突き立てられた。直後に【仮面】はオキへと顔を向け、横薙ぎに武器を大きく振った。

ガキィン!

甲高い金属音が森林内に響きわたる。オキは横薙ぎに振るわれた武器を回避できないと判断。自分の武器の柄で防御した。が

防御ごと力任せに振りかぶった【仮面】はオキをそのまま壁へと叩きつけた。

「がっ!?」

叩きつけられた地面の壁は大きくヘコみ、オキの口からは血が少し垂れた。

間を入れずに【仮面】はオキの体へと刃を向け、突っ込んできた。オキはすぐに体勢を立て直すため叩きつけられた地面から抜け出し、軽く上へとジャンプした。

そこへちょうど突き刺してきた【仮面】のダブルセイバーの刃が足の裏スレスレをかすっていく。

刃へ乗ったオキはそのまま【仮面】の顔面部へ全力で蹴りを入れた。

「っしゃぁおらぁ!」

吹き飛ばされた【仮面】はゴホッと咳をした。顔面部にあるバイザーで守られているとはいえフォトンでの一撃。ダークファルスの体にはかなりの負担がかかっている。

しかしふらりと立ち上がった【仮面】はまだ立ち上がる。さらに武器をソードへと変更してだ。

「エルデ…トロス!」

オキも手に力をともし、武器を変更する。

「おおおおお!」

「あああああ!」

二人が力一杯走り込み、お互いの武器をぶつけ合おうとしたその瞬間だった。

ギシリ!

お互いの体が一瞬で止まる。目の前にはクロが一瞬で現れ、手をオキ、【仮面】の二人の顔の前にだして止めている。

更にいうとお互いの体が自由に動かない。空間が金色に光り、鎖がそこより現れ、二人の体をつなぎとめていた。

「はーいそこまで。」

シンキが手を叩きながら二人の横に現れた。

「マスター、熱くなりすぎ。当初の目的わすれてる。」

しまったすまんと言いながら力を抜くオキに対し、いまだに力を抜かずにギシギシと鎖から逃れようとする【仮面】。

「やめときな。この鎖はシンキの鎖。『天の鎖』だ。神すらも捕まれば逃げられぬという逸話のある鎖らしい。一度捕まったが最後、逃げられん。諦めろ。」

「…。」

暫くガチャガチャと力を加えるも、ムダだと判断したのか、ようやく【仮面】はおとなしくなった。

「頭、冷えたか?」

「…これが、お前達の力か。」

【仮面】は不思議そうに鎖を、そして目の前にいるクロの白き翼を目にした。

「そうか、お前は…。」

オキは思いかえす。彼がこうなった理由の一つでもある原因。それは『仲間を頼らなかったこと』。

【仮面】となる前のオキはシンキやクロだけでなく、ミケやハヤマ、はてにはアインスにすら出会わなかった。

いや、会ってはいたのだろう。しかしすべてを一人でこなそうと誰にも頼らず、すれ違っていた。

今のオキはハヤマと共に歩み、ミケと出会い、偶然現れたアインスと知り合い、コマチと言い合いながらも共に過ごし、そしてシンキに気に入られ、クロが興味を見せた。

反面、【仮面】は彼ら、彼女らに力を借りずにすべてを行おうとしていた。

だから彼女たちの力を見るのは初めてだった。

「フォトン…いや、違う。お前たちは…なんだ?」

シンキとクロは顔を見合わせ、フッと笑った。

「ただの魔神と。」

「ただの使いさ。」

ニタリと笑うシンキにむすっとした顔で答えるクロノス。

【仮面】はオキをゆっくりとみて、下を向いたまま言った。

「なぜだ。彼女自身も死を望んでいる。だからこそ、10年前も自ら命を絶った。だが貴様は、私は・・・諦めないというのか!」

オキはシンキに鎖を解いてもらい、タバコに火を点け一息吐いた。

「ああ。おれは諦めない。」

「目の前に…その結果があってもか? 何度も助けようともがき、苦しみ、それでもなお、彼女の事を助けられなかった。それが私だ。それが貴様だ! 私は助けられなかった。殺すしか…できなかった。私ではそれしかできなかったというのに、貴様は、私はそれを覆せるとでも言うのか!? 否! それは私がよく知っている! 貴様ではできないと!」

オキは再び煙を吐いた。

「うっせぇなぁ。それくらいわかってるよぉ。『俺一人では何もできないことは』な。だから現に【深遠なる闇】になりかけているマトイがいるんじゃねーか。」

「ならば何故! 貴様は、私は諦めないと言い切れるのか!」

オキは【仮面】の言葉を聞いたあとにゆっくりと後ろを親指で背中越しに刺した。

「こいつらがいるじゃねーか。なぁ?」

コクリと頷いたシンキとクロ。彼女らだけではない。オキが示すはさらに後ろで昼寝をしているミケ。オキのかわりにハルコタンの後処理をしているハヤマやアインス等。

彼ら、彼女らを示している。

「俺一人ではそれしかできない? 当たり前だバーカ。てめぇ一人で奮闘してもそりゃ力不足だろ。だからおれはこいつらの力を借りる。躊躇なくな。」

「…!」

息を呑む【仮面】。

「ぴーぴー言ってないで分かりなさいロリコン変態野郎。」

シンキが煽る。

「おいシンキ。その言葉俺に刺さるやめろ。」

「ロリコンのど変態ー。」

シンキの言葉に胸を押さえるオキ。

「まぁ、俺だけじゃダメだ。そりゃお前も俺も嫌というほどわかってる。自分自身だからな。だからこそ、あいつらこいつらの力を借りる。皆快く貸してくれるって言うしな。」

ニカリと笑うオキをみて【仮面】は少しだけ笑ったような気がした。

「…そうだな。懐かしい記憶だ。そういう考えをするのは私だったな。」

「救おう。かならず。」

頷き合うオキと【仮面】は、準備のために一度別れた。

 

「そういや、【仮面】の時は見て見ぬふりしたシンキはもし、ここにいる俺自身が同じように諦めたらどうしてたの?」

「そうねぇ。もし、オキちゃんが立ち上がれずに、弱音を吐いてしまった場合は、アークス所か人として駄目になるほど甘やかした後マトイちゃんから因子だけ奪い取って、何処か別の宇宙へ平行移動をしてオラクル世界から消え去る可能性もあったかもねー。」

その言葉を聞いてオキの背中に冷たい何かが走る感じがした。

 

A.P.3/31 12:00

 

ナベリウス壊世地域。オキらアークス側は準備が整った。

マトイはその奥でおとなしく佇んでいるという。

「さーて始めますかねぇ。」

『オキ? 聞こえる? 情報のとおり、そこの奥でマトイは静かにしているみたいだ。【深遠なる闇】、その体はフォトンそのもの。倒してもすぐにたゆたい、復活する。だから、あの場に縛り付ける。」

シャオは策があるという。アークス総動員での作戦。マトイを、助けるためだ。

「だから、信じて。進んでくれ。」

シャオからの通信に対し、コクリと頷いたオキは一人、マトイの元へと突き進んだ。

『さぁて六芒のみんな。やることはわかってるかな?』

オキの走る姿を、少し小高い丘の上で見守る姿が6人。

「すみませんシャオ。おそらく、二名ほど分かっていないかと。」

「おー? 誰だ誰だ? わかってない奴は! 恥ずかしがらずに手を上げろ!」

カスラの言葉にヒューイが周りを見渡した。

「はいはーい!」

「なんだクラリスクレイス! お前わかってなかったのか!? 実はな…俺もだ!」

そのやりとりを見てカスラはゼノをジト目で見た。

「おい、カスラさんこっち見んじゃねぇよ。オレはわかってるっつうの。なぁそちらさんは分かってんだろ?」

六芒均衡の4人の後ろにいる2人。シンキ、クロノスだ。

「ああ。わかってる。だって発案はこちらなんだから。」

クロがゼノを静かに見た。

「おらおらぴーちぱーちくうるさいよ。緊張をほぐすにももっと上手くやりな!」

「…此度の作戦に、万一の漏れもあってはならない。シャオ、今一度説明願えるか?」

マリアとレギアスがその場に現れた。シャオはフフフと微笑み、説明を始めた。

六芒均衡の役目、それは結界役だ。マトイを縛るために、結界をはる。スクナヒメ直伝の束縛結界。それをシンキの宝物、クロの時の力をかけあわせたアークスオリジナルの特殊結界。

「スクナヒメの六亡陣。それを創世器を使って行う。原理は一緒だ。だけど、相手は【深遠なる闇】。足止め程度が関の山。そこで、彼女らの力をオキが頭を下げて借りたってわけさ。」

シンキの神すらも束縛する『天の鎖』。クロノスの『時の女神の加護』。その二つを六芒陣に重ね合わせて二重結界をはる。オキ達の自信の案だ。あとは彼ら次第。

「…安心して進がいいオキ。私が付いてるぞ。」

「うむ! 俺たちがついている!」

クラリスクレイスの言葉に、ヒューイも頷いた。六芒とペルソナメンバーは6つに別れ、シンキ、クロもそれに続いた。

 

オキの進む壊世地域。SAOのホロウエリアにも作られたナベリウスの裏の世界のような場所。黄色やオレンジ色がメインとなったナベリウスのもうひとつの顔。未だに謎の場所であるが、今回すこし謎が解けた。【深遠なる闇】の影響が大きい。それだけがわかっただけでもこのエリアは注意すべき場所だということだ。

 

「ちぃ。ダーカーが多いな。」

道中、各ダークファルスの眷属であるダーカーがわんさとでてきた。しかし。

「オキくん。我らに任せたまえ。」

「さっさといって助けてこい。」

「いってリーダー!」

「キマリ号にまかせるのだーー!」

 

「「「俺たちを信じて、行ってこい!!! 」」」

 

仲間たち、またその他アークス達の力添えにより、オキは先へと進む。まっすぐ、前を向いて。マトイのもとへ。

 




皆様ごきげんよう。
マトイ救出戦前半。さらっと終わりました。
いかんせん時間なくて…。
来週からバスタークエきますね。どうなるかが楽しみです。いろんな意味で。
ヒーローもおもった以上に面白く、2次職と言われる力を誇ってるのでなかなかいいと思います。強いに越したことないですからね。
できればダブセとかカタナとかほかの武器も使える職をどんどん実装して欲しいところです。
さて、FGOが二周年ですね! フェス行ってきましたがすごかったです。楽しかった人多かった。夏イベ楽しみです。(石貯め中。ガチャ回したい。

EP3終わったらSAOに戻ります。次は蒼いあの子がきますよ。お楽しみに。

ではまた次回にお会い致しましょう。
※来週コミケなのでお休みします。すみません。

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