SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第107話 「おかえりなさい、さようなら」

【双子】の『内的宇宙』から脱出したオキとマトイは気が付けばオラクル船団、アークスシップのオキの部屋にいた。

すぐさまシャオの下へと行き、皆を驚かせた。

「まったく、一時はどうなる事かと思ったよ。」

「ほんとです…無事でよかった…。」

ダークファルスに食べられた、と聞き焦ったハヤマが圭子まで呼び寄せていた。

「だってそりゃ呼ぶでしょ。万が一も考えろというのがオキさんの考えでしょ。つーか無事でよかったわ。」

医務室で検査を受け、結果を待つオキ。ハヤマと佳子で状況を共有していた。

「あいかわらず君は唐突だね。ほんとに。」

シャオが呆れ顔で部屋へと入ってきた。

「検査の結果は問題なし。むしろ元気なんじゃない?」

「あ? あぁ、たしかに力が湧き出てくるから今にでもスクナヒメんとこに行きたいんだが。」

不思議そうな顔をするオキ。

「この話はちょっと・・・ね。」

ハヤマや佳子をちらりとみてシャオは目を細めた。

だが、オキは隠し事はしない。どうせ話すことになるのだからといって二人をその場にとどめた。

「わかった。君は…今までダーカーやダーカーの影響を受けたエネミーをどれだけ倒してきたか、覚えてる?」

首を横に振るオキ。そりゃそうだ。今までに食べたご飯の量を答えろと言ってるようなものだ。

「答えは…。」

これだけだといってデータを渡してきた。そこにはかなりの数値が書かれていた。

「ほうこんなもんか。数年でこんなもんって…はやまんどう思う。」

「さぁ。俺も覚えとらん。」

もともとの比較が無いため、これがどれくらいヤバイのかがわからない。

「いいかい? 君とマトイ…もちろんハヤマやミケ達もだが、戦いすぎている。アークス以外がダーカーと戦ってはいけない理由。それは知っているだろう?」

もちろんオキもハヤマも承知だ。ダーカーを倒しても残滓が残り、それが体内に蓄積。やがては侵食されてしまう。

ナベリウスやアムドゥスキアの原生生物や龍族。果てにはリリーパの機甲種までもが侵食され、襲ってきた。

ハルコタンには神子であるスクナヒメの加護があるから侵食はされにくい。だが万能ではないとシャオは語る。

だが、アークスは体内にあるフォトンがダーカー因子を中和するため、何も問題がない。

「けど、それにしたって限度がある。」

つまり、無理をするな。それがシャオとフィリアの共通の見解らしい。

その時だ。

「オキ君大変だ! ハルコタンのスクナヒメが!」

アインスが部屋へと飛び込んできた。

「なんだって!?」

アインスの話ではスクナヒメが一人で【双子】のもとへ向かったという情報が入ってきたようだ。

「まずい。俺とマトイがまだ捕まってると思っているんだ。はやく伝えないと!」

オキはベッドがら飛び起きて、近くにあったオキの相棒、エルデトロスとゲイルヴィスナーを手にした。

「待った。いま話したばかりだよ。」

シャオが部屋の入口で通せんぼをした。

「どけシャオ。」

「どかない! わかっているのか!? 死ぬかも知れないんだぞ!? 【巨躯】【敗者】【若人】、そして【双子】の内的宇宙すら食い破った! いつ爆発してもおかしくない!」

シャオは珍しく怒り、オキを止めようとしていた。今までにこのようなことがなかった為に、オキは少しだけとどまった。だが、結論は変わらない。

「だからって、見捨てるのか? あ?そんなもんどうだっていい、守るもん守らないでどうする。てめー可愛さで身を守ってちゃあ、守りたいもんなんかまもれやしねーよ。それになんかありゃウチの面子が一緒に頑張ってくれるさ。」

「…その言い方は、卑怯だ。」

俯くシャオの肩を叩いたのはアインスだった。

「なに。私やハヤマ、皆がいる。オキ君だけじゃない。私たちがいる。安心していい。」

アインスはオキをみて、コクリと頷きあった。

「佳子、少しだけ。待っていてくれ。すぐもどるよ。」

微笑みながら佳子の頭を撫でるオキに、心配そうな顔をしていた佳子も覚悟をきめた。

「はい。待っていますから。」

そう言ってオキはアインスたちと部屋を出ようとした時だ。

「オキ! …いいかい? 僕はアークスの管理者だ。いざという時は、容赦できない。それだけは覚えておいて。」

「なーに。いざとなったらこいつらが止めてくれるさ。俺の信頼する一番の仲間たちがな。」

ふっと笑うハヤマとアインスはろうかを走ってくるマトイと一緒に合流した。

出て行った皆を前に歯を食いしばるシャオ。

「どうか…無事で。」

 

ハルコタンへとたどり着いたオキ達はスクナヒメが黒の領域へと向かったことを聞いた。コトシロはやることがあると言ってどこかへ行ってしまった。

「スクナヒメ。待っててね。私たちもすぐに行くから。」

マトイとオキ達は頷き合い、黒の領域を登り始めた。

 

黒の領域は【双子】のコピーした黒の民、そして眷属である玩具型のダーカーが行く手を阻んだ。

だが、それを蹴散らすかのようにオキらは進んだ。

「いた!」

「まずい!」

オキ達はスクナヒメを見つけた。だが、黒の民が振り上げる大斧は今まさに振り下げんと大きく振りかぶっていた。

「ちぃ…間に合わねぇ…。隊長おぉぉぉぉ!!」

「任されよう。」

アインスは走るオキの後ろへと付き、刀を大きく後ろへと振りかぶった。ジャンプしたオキはその刀の峰へと足を乗せ、力強く飛んだ。

「おおおおおおお!!!」

大きくスイングした勢いでオキは通常のジャンプよりも素早く、強く、黒の民へとまっすぐ飛んでいった。

「回転も加えてやらァ!」

ゲイルヴィスナーをもったオキは体を回転させ、黒の民へと突っ込んだ。

「っな!? オキ!? …マトイも! そなたら無事じゃったか!」

「無事じゃったか…じゃねぇよ!」

「全くだよ…ごめんね。心配かけて。」

後から到着したハヤマ、アインスの手によって囲んでいたほかの黒の民も倒された。

「お主らを助けるために…わらわは…。」

「無理すんな。俺らより力消耗してるくせして無茶しやがって。…ありがとな。俺たちのこと、思ってここまで来てくれたんだろ? コトシロさんから聞いたぜ。」

その時だ。オキとスクナヒメの間に5体の黒の民が現れた。

「まず!?」

「オキ君!」

既に攻撃態勢に入っていた黒の民がその棍棒を振り下ろそうとした時だ。

周囲に灰色の風が舞い、黒の民の体勢を崩した。

「これは…灰の転移!?」

その場に現れたのはコトシロだった。一瞬にして持っていたカタナで黒の民を切り倒したコトシロはゆっくりとスクナヒメへと近づいた。

「コトシロ!? どうしてここに!? それに今のは…。」

「白の王。秘伝の術です。仰るとおり、臆病ではあるものの、術の腕はたしかなようですね。」

コトシロはオキと別れたあとに、白の王、白の民へ喝を入れたようだ。その後、協力することを約束した白の王の力でここまで転移してきたという。

ちなみに術はスクナヒメが伝授したようだ。

「問題はそこではない。なぜ貴様がここに来たのだと問うておる!」

 

「あなたを、助けに来たのです。義母上(ははうえ)。」

 

その言葉に目を見開くスクナヒメ。直後にふらりと倒れそうになるスクナヒメだったが、すぐにコトシロが彼女の椅子となるように大きな手を小さな身体に差し伸べた。

「義母上、白の王より伝言です。『我ら白の民、微力ながらも、神子様と共に在り。』と。」

なるほどと微笑むスクナヒメ。先程から外に白の民の反応が現れているらしい。それと同時に黒の民の異様なまでの量も。

「なーる。黒の民のコピーつかってこっちを潰そうってか。【双子】め。軍師か何かになったつもりか。ハヤマん、隊長。スクナヒメとコトシロさん援護しつつ、待機させてるミケやシンキに頼んで黒の軍勢何とかしてくれ。」

「了解した。オキ君。無理はするなよ。」

どうやらオキのやろうとしていることは把握しているようだ。オキはこの最奥にいる【双子】を倒すために最小限の人数で向かおうと考えている。マトイもそう考えているだろう。間違いなく。そして彼女をここから戻すことは不可能だ。彼女の決意は固く揺るがない。何を言っても無駄だろう。

「お主ら…まさかお主らだけで!?」

「いいかいスクナヒメ。あいつらは、アークスが倒さなきゃならん。俺たちがな。」

オキをみたマトイはこくりと頷いた。

「頼んだぜ、二人共。」

「任せといて。」

「オキ君もご無事で。」

オキはマトイとともに、【双子】のいる最奥へと走った。

 

 

 

再び訪れた黒の領域最奥。王の座。

「きたね、アークス。」

「きたね、バケモノ。」

ふわりと浮かび上がる二人のダークファルス【双子】。それはゆっくりと降りてきた。

「まさか、脱出してくるとは思いもしなかったよ。」

「うん。おかげでお腹の中ぐっちゃぐちゃだよ。おかげで気持ち悪くてげーげーしそう。」

ムスっと膨れる【双子】に口を歪ませながらタバコに火をつけるオキ。

「っは。背中さすってやろうか? ちった落ち着くぜ。」

軽口をいうオキに対し、静かに黙り込むマトイ。

「どうしたの? 静かだねぇ。」

「そうだねぇ。静かだねぇ。怯えさせちゃったのかな?」

クスクス笑う【双子】。ゆっくりと目を開けたマトイはクラリッサをゆっくりと、確実に、力強く構えた。

「この時に、こんな場でなんていうか知ってる気がする。不思議だな。…私に戦う気はない。私は、あなたを殺しに来たの。」

その言葉、オキは知っている。シャオとのぞき見たマトイの過去。『二代目クラリスクレイス』として12年前に見た彼女のダーカーへの口癖。

記憶が戻っているのだろうか。いや、ちがう。中にある彼女の心がそれを取り戻したのだろう。

にかっと笑った【双子】はゆっくりと中へ浮き、その真の姿を現した。

「いいよ? やろう?」

「いいよ? はじめよう?」

『どっちが勝っても恨みっこなし! バケモノ同士の殺し合い、はじめよっか!』

見るもの全てを恐怖に陥れる。そんな姿をする【双子】のヒューナル形態。玩具のようにツギハギで、バケモノと呼ばれるのふさわしい大きな口をした腕がカチンカチンと音を立てて牙を向いた。

「いくぞマトイ。」

「うん!」

アークスの牙が今、最後のダークファルスへとソレを突き立てた。

 

 

「…。」

黒の民を押しとどめるアインス達の中で黒の領域の頂点を見つめるシンキ。

「始まったわね。」

彼女は知っている。このあとどうなるか。彼女は知っている。このあとに起きた彼と彼女の未来を。

「どっちに転ぶか。『ここのあなたは、どうかしらね。』」

「どうしたシンキ君。」

アインスが心配そうに近寄ってきた。シンキはすぐにいつもの微笑みを見せる。

「いいえ。ただ、始またんだって。」

「…ああ。俺にもわかる。始まったな。」

その場にいたアークスの誰もがわかったその戦い。オキとマトイ、そして【双子】のぶつかり合い。黒の領域の頂点にある違和感がそれを示していた。

「クロ君!」

「なに? 隊長。」

白き羽をゆっくりと動かしながら空から降りてきた天使のような姿。クロノスはアインスのとなりへと降り立った。

「オキ君たちが心配だ。君の力なら、できる限りあそこへ素早く行けるだろう?」

こくりと頷いたクロは羽を大きく広げ、黒の領域の空へと飛び上がった。

「嫌な予感がする。当たらなければいいが。」

それを睨みつけるアインス。シンキはその後ろで誰にも見えないように微笑みを消し、同じように黒の領域の頂点を見つめていた。

 

 

「だァァっ!!!」

「ああああ!!!」

オキトマトイの全力の攻撃でその場にひざをついたダークファルス【双子】。二つの体はひとつとなり、さらに化物じみた体となっていた。

「ふふふ、ふふふふ。そうかそうだったんだ。」

「なにが、おかしいの?」

笑う【双子】に睨みつけるマトイ。

「これが、笑わずにいられるか、君たちはアークスだと思っているのだろう? アークスが、そこまで闇を抱え込めるものか。戦ってみて、やっとわかった。【巨躯】や【敗者】の力が吸われていたのも、本当なんだね。」

くすくすと笑う【双子】の言葉に眉を歪めるオキ。

「だから、あいつら食べても【深遠なる闇】に、至ることができなかったんだ。」

納得納得とゆっくり腕を伸ばす【双子】。その腕はマトイを見据えていた。

「ぼくたちからの・・・ごほうび。ぼくを、あげよう。」

ダークファルスの力の塊。ダーカー因子の強大な塊。それがマトイへと向かっていった。

「っちぃ!」

オキは自らの体を盾に、マトイを守った。

「ぐ、ぐおおおおおお…!?」

体から湧き出る闇の力。フォトンで抑えようにも押さえ込めれない。どんどん湧き出てくる。

「オキ!? どうして!?」

「そっちがくるんだ…。まぁ、どっちでもいいけど。」

どっちでも良かったんだ。どっちが生きようが死のうが、結果は同じ。消えていく【双子】。力が抑えられずにうずくまるオキ。

「なんにせよ、これで完成…これで、出来上がり。」

 

 

『おめでとう。 おめでとう。 おかえりなさい。』

 

 

 

 

【深遠なる闇】

 

 

 

 

 

「おおおおおおおおおおお!?」

【双子】が消えると同時にオキから溢れ出る闇の力が立ち上った。シャオの言っていたダーカー因子を抑えれる限界。それがオキの体の中で、突破した。

「こいつは…予想以上…だな!? ちくしょう。なんとかなると、思ったのによお…!」

「どうして…どうして! それは私の役目なのに…!」

マトイは涙を流しながらクラリッサを構えた。

「お願い、クラリッサ…あの人を、大好きなオキを守るために…。力を…。かして!」

宙で回転しつつ、オキの体へと一直線に向かったクラリッサは闇の力をオキから吸い上げ、マトイへと流し込んだ。

「ごめんね。オキ。大好きだったよ…。」

ぱたりと倒れ、次第に意識がなくなるオキの目にはマトイの姿がゆっくりと黒く塗りつぶされていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「マスター! マトイ! …!?」

クロがたどり着いたその場には異様な力を発した、異形となったマトイの姿がそこにあった。

「あ、クロちゃん。オキを、その人を、お願い。私、もうダメみたい。」

クロがなんとか手を伸ばそうとするが、躊躇してしまった。

あまりのも膨大な闇の力。いくらクロが女神の加護を持っていたとしても、それを吸い取ることはできない。

「ごめんね…ごめんね…。でもみんなを…守るため、なんだよ?」

ゆっくりとその場で倒れ気を失っているオキをみてマトイは微笑んだ。

「オキ、ありがとう。オキからはいっぱい、いーっぱいいろんなものをもらった。だから、もう十分。十分だから。…さようなら。」

「マトイ!」

クロの叫びも届かず、マトイは消えていった。

 

「っは!?」

オキが目を覚ました時には目の前に、涙を流す佳子の顔があった。

「オキ…さん。」

「オキ!?」

抱きつく佳子の頭を撫で、その後ろにいるシャオが目を見開き驚いていた。ハヤマやアインス、クロ、シンキ達もその場にいた。

「すまんな。あいかわらず心配ばかりかけて…やっぱこうなったか。」

「え?」

シャオが不思議そうな顔をしていた。

「クロ、マトイはなんて言ってた?」

「…ありがとう、ごめんなさいって。」

「そうか。」

ゆっくりとベッドの端に座るオキは窓から見える宇宙空間を眺めた。

「少しだけ休んだら、聞き分けのねぇ、ばーたれ(バカタレの略)を説得しに行きますかね。」

その目はまだ諦めのついていない、そんな目をしていた。

「ミケならわかるだろ。ナベリウスのどこかにいるはずだ。【仮面】(おれ)がな。探し出せ。ナベリウスで、全てが決まる。」




皆さまごきげんよう。
私が倒したエネミー討伐総数は1,563,630体です(小並感
ヒーローですよ! ヒーローなんですよ!(ストラトス風
いや、予想以上に面白いですねヒーロー。もう少し準備をしっかりしていれば、武器に困ることはなかったんですがねぇ。(サボってた人
PSO2、EP5開始しましたね。いろいろ意見はあるものの、まずは盛大にずっこけなくてよかったと、ホッと胸をなでおろす私です。まずはなんとか。
これからが勝負でしょうから、できればこれを維持して少しでもいい運営をして欲しいところです。
さて、SAO本編ですがあちこち改変しました。というか端折りました。【双子】の戦闘まるごと端折ったり、おなかの中から出てきてすぐの状態だったりと。あ、サラとマトイの関係もこの作品では伝えきれなかったのでクロの代行お願いしました。
ま、【仮面】の正体どころかマトイが「こうなる」という事まで知っている時点で改変あるないとかいう問題ではないのですが。
次回、「俺たちを信じて、進め」
ではまた次回お会い致しましょう。

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