第106話 「復活のあいつ」
惑星ハルコタン。オキ達がSAO内で暴れている最中に見つかった星。白の民や黒の民と呼ばれる2種族の原生民が住んでいる。
白と黒の勾玉を組み合わせたような形をしているのが特徴で、さらに特徴的な形状の輪を持っている。
この輪はかつて悪神『禍津』を封印した石が砕け散って環状となったものである。白の民が住む白ノ領域と黒の民が住む黒ノ領域、そしてその狭間に永涙の河という場所が存在する。
アークスと白の民は現在友好関係にあり、マガツや黒の民が白ノ領域に対して攻撃し混乱状態にある中で、ダーカーの浸食をアークス達共々防いでいるのが現状である。
鬼を思わせる姿をしている白の民に対し、黒の民はいびつな形をした、さながら『妖』と呼ばれる類の姿をしているモノたちが多い。
そんなハルコタンで活動し始めた理由としてダークファルス【双子】がこの星にて出現しているという情報をシャオがつかんだ。
オキ達のいないなかで、マトイやクロ等チームペルソナを中心に【双子】襲撃による悪神『禍津』の一部復活や白の領域侵攻を『杯の巫女』と呼ばれ、白及び黒の民すべてから神と扱われ信仰されているスクナヒメ、その守り人コトシロと共に防いでいた。
「ふーむ。ん? おお、おぬしらか。」
白と黒の髪を束ね、同様に白と黒交互に混ざった衣を纏った額から一本の角が生えている女性。スクナヒメ。
「どもっす。」
「どうしたの? 難しい顔して。」
軽く頭を下げたオキとスクナヒメの顔を覗くマトイ。これじゃよこれと手に持った書物のようなものをオキとマトイにひらひらと見せた。
「白の王からの書状でございます。」
「小生意気な小童を討ち取る為の手紙じゃ。あの小童どもが黒の民をたぶらかしておるのは間違いない。やつを討ち取れば全てが終わるであろう。ゆえに次の手は決まっておる。わらわが直接出て、あの童を討ち取ればいい。とはいえ、いまはマガツによる影響でわらわの力は衰えておる。かつ、被害は最小限に抑えたい。よって白と黒の王に手紙を送ったのじゃが・・・。」
「中身は一言目には挨拶に始まり、二言目からはいかに黒の民が醜悪かを並べ立て、天罰を期待していると…。」
大きな盲目の鬼。スクナヒメの守り人であるコトシロがオキとマトイに説明してくれたが、中身はあってないようなモノらしい。
「元から腰抜けとはわかっておったが、ここまで腑抜けとは思ってもみなかったわ。」
スクナ姫ははるか昔より生きる白と黒の民の唯一の混血。それからという長い年月の間、両領域のトップに立つものとは即位の際に対談を行うらしい。その時から今代の白の王は術の使いとしてはかなりの力を保有しているものの、性格は事なかれ主義であり、極度の臆病だと言っていた。
「黒の王からの返事は…いかがですか?」
黒の民が住まう黒の領域。そこには黒の王が白の王同様にいる。
「あやつは聡明である。ちと傲慢なきらいはありはするが、なに可愛いものじゃ。で、あるが、どうも動くのが遅すぎる。返事はまだないと。…仕方ない。わらわが直接向かわねばならぬかのう。」
ため息をつくスクナヒメ。本来ならば、向こうがこちらへと来て、頭を垂れるのが基本だというスクナヒメ。
黒の領域には白の民であるコトシロはいくら灰の巫女の守人だとしても入るのは無理だ。
そこでマトイの提案でマトイ、オキの2人が付き添いで向かうことにした。アークスとしても挨拶をしておきたいという。
アークスの二人が付き添いであれば心配もないだろうとコトシロも太鼓判を押してくれたため、3人は黒の領域へと向かった。
黒の領域に入った3人はゆっくりと大きな山を登りだした。
あちこちにある崩れそうな大きな銅像。赤や黄色オレンジと色とりどりの草木。そこに流れる透明の川。
通常時ならその美しさに目を奪われるオキではあったが、今回は違った。
「オキ? どうしたの?」
「ああ。いや、なんでもない。」
難しい顔をしていたよ? と首をかしげるマトイに対し無理やり笑顔を見せるオキだったが、マトイとスクナヒメがしゃべりだした直後に再び目を細め、マトイを見つめながら二人の後ろを歩いた。
ジョーカー達と潜ったパレスであった【仮面】との意識の接続。その時に見えた景色の一つがこの黒の領域とうり二つなのだ。
何があってもいいように、オキはハヤマ達にキャンプシップでの待機を命じてある。
『あの意識と【仮面】の記憶が正しければ…ここで。奴は何をやっても無理だった。』
【仮面】の正体。【仮面】の過去。それはダークファルスになる前の彼の姿。それが今でも目をつむれば目に浮かぶ。
場面場面は断片的ではあるが、それらすべてにマトイの姿が映っている。そしてある瞬間から、彼女を殺すことに執着しだした。その理由も今ではわかる。
『必ず阻止しなければならない。問題は…。』
オキはあれやこれやと考えながら二人の後を進んだ。
『俺ならどうするか。』
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気が付けば黒の領域の頂点、王の間へとたどり着いた。黒の民は一匹たりとも出なかった。
「ふむ。気持ち悪いのう。ここまですんなり通すとはな。」
「誰も…いなかったね。」
どう考えてもおかしい。灰の巫女であるスクナ姫ならまだわかるが、部外者であるアークス二人までついてきている。隠れて監視しているようにも感じない。
黒の王の間は趣味の悪い黄金の巨大な像が多数置かれ、奥に黒の王と思われる一際大きな鬼がこれまた巨大な椅子に座っていた。
「黒の王よ! 久しぶりじゃの! なぜわらわがここに来たか、理由はわかるな!?」
スクナ姫は笑顔ではあるが、額に漫画で見るような怒りのマークがついているのがわかるくらい怒っている。
ゆっくりと立ち上がり、近づいてきた黒の王の様子が変だと気付いたオキがスクナ姫の前に出るのと、黒の王から何度も見た黒い靄がでて消えていくのは同時だった。
「スクナヒメさま…申し訳ありません…にげ…。」
黒の王が消えたその後ろには黒い衣を着た小さな子供が一人、宙に浮いていた。
「ダメだよ。ダメだよ? コピーが勝手にしゃべっちゃぁ。」
ニタリと気味の悪い笑みを浮かべる子供に対し、構える3人。
「【双子】!」
ダークファルス【双子】。今このハルコタンで暴れる玩具系ダーカーの頭。人の子供と同様にはしゃぎ、楽しむ姿を見せるが、傍若無人にして残虐。【巨躯】【敗者】そしてここ最近話題に上がっていた【若人】とは違うダークファルスらしいダークファルス。
そして、弱っていたり、すでに倒された死体であったとはいえ、【敗者】を『食べ』、話には【巨躯】すらも『食べた』モノでもある。また食べたモノは何でもコピーするという能力を持ち、二つのダークファルスがいなくなった今でも、コピーによるオラクル船団ダークファルス襲撃は止まらない。
「貴様ら…黒の王を!」
「食ったな? 黒の王を。」
オキが背負っていたダブルセイバー。ゲイルヴィスナーの刃先を【双子】へと向ける。隣ではマトイもクラリッサを【双子】へと向けていた。
「違うよ違うよ。一人だけじゃさみしいでしょ? 僕が食べたのは全部だよ!」
笑顔で語る【双子】。その言葉にスクナヒメは目を見開き肩を震わせた。
「貴様…すべて…黒の民を! おのれ!」
怒りをあらわにするスクナ姫。オキやマトイも【双子】を睨み付けた。
「あれあれ? 僕たちとやるき?」
「知ってるよ? マガツとやりあって力、ないんでしょ?」
もう一人、同じ声が聞こえた。こちらは元からいた方よりも少しだけ甲高い少女の声。後方から【双子】のもう片方が現れたのだ。
「神様、やるき?」
「僕たちと、やる気?」
【双子】の双方はスクナヒメを挟み込み、腕についている大きな口をスクナ姫へと向けた。
「ま、もともとぼくたちは神様を食べたくて待っていたんだ。それじゃ、いただきます。」
腕についた大きな口はより一層大きくなりスクナ姫を取り囲んだ。だが、それを良しとしない二人がいた。
「あぶねぇ!」
「スクナヒメ!」
オキとマトイはスクナヒメを押しのけ、そして。
バクン
「っ!?」
オキとマトイは【双子】に食べられた。
「オキ? …マトイ? どこじゃ! なにも、感じぬ…。おのれ小童め!」
食べた方の【双子】を睨み付けたスクナヒメ。直後にその【双子】の片割れからもう一人がスルリとまるで分身したかのように現れた。
「呼んだ? 呼んだ? 僕の事。」
「驚いてる顔だね。でも、何もおかしくないよ? 僕は私。」
「私は僕。」
「「二人合わせて
双子のダークファルス【双子】はにこやかにスクナヒメへ笑顔を見せた。スクナヒメはすぐさま転移術で逃げた。
オキもマトイも【双子】に食べられてしまったのである。今の力では対立もできない。
「あーあ。逃げられちゃった。」
「…。」
片方の、オキとマトイを食べた方がおなかに違和感を感じていた。
「どうしたの? ちゃんと食べれなかった?」
首をふり、大丈夫だという相方。しかしなにか普段と違うようだ。
「そりゃそうだろ。そんな簡単に食われてたまるか。…にしても危なかった~。」
真っ赤な空。多種の瓦礫が漂う空中。地面も空に負けず紅く染まり、いたるところが崖となり、底が見えない断崖絶壁。
見たこともない空間に落とされたオキは隣で気を失っているマトイの肩を揺さぶった。
「マトイ、マトイ。起きろ。」
「うーん…お~き~…。」
甘い声を出しながら優しく胸にオキの頭を抱くマトイ。柔らかな胸にニンマリとするオキだが、我に返ってより強くマトイを揺さぶった。
「おら! おきんかい!」
「…あれ? オキ? おはよー…。」
目をこすりながら起き上がるマトイはようやく周囲の状況がおかしなことに気づいた。
「え? これ・・・なに!?」
わからんと首を振るオキ。その時後方からなつかしき声が聞こえてきた。
「これはこれは。懐かしいお客さんが来たねぇ。」
どこかで聞いた男の声。聞き間違えるはずがない。なにせついこの間久々に幽霊に出会ったのだから。
「この声…。」
地面から出ている椅子に座り、ゆっくりとその体を回転させこちらへと向く白い服の男。オキらアークスを長い間手中におさめ、オラクルを崩壊させる直前まで追い込んだダークファルス【敗者】そのもの。
「貴様は…ルーサー!」
シャキーン!
どこからともなく音が聞こえてきたと同時にオキはポーズを決め、その背後には【敗者】と文字が浮かび上がって見える。いや、実際ないのだが、目が点になってオキを見るマトイにはなぜかその文字が見えた。
「その通り。僕がルーサー、だ。」
シャキーン!
腕を広げ、空を見上げるルーサーも同じようにどこからともなく音が聞こえ、背中の後ろには【全知】という文字がマトイには見えてしまった。
『なんなのこれ…。』
ルーサーを見た直後に構えた普段輝きを放つクラリッサが、少しだけその光を落としたように見えた。
クラリッサを向けられたルーサーはポーズをやめ、マトイへと向いた。
「悪いが僕は君たちとやりあうつもりはないのだよ。もしよろしければ武器を下してくれないかな。お嬢さん?」
マトイは、頷くオキをみて渋々クラリッサを下した。
「ここはどこだという顔をしているね。教えてあげよう。ここは【双子】の中。かのダークファルスの『内的宇宙』さ。」
双子の中。彼はそういった。オキはこの周囲の光景を見た時に大体察していた。直前の状況。何でも食べつくす【双子】。そして何もかもがごっちゃまぜになったこの空間。足場があるのが唯一の救いだろう。
「【双子】は外で食べたモノをこの中へと仕舞い込み、そしてコピーし、外へと出す。僕もダークファルス【敗者】として食べられ、この空間に閉じ込められたけど、なかなかどうして慣れると楽しいもんだよ?」
ルーサーは片腕を広げ、先に広がる道を示した。
「さぁ、せっかくの機会だ。この中を案内しよう。さぁ来たまえ。」
ゆっくりと歩き出すルーサーについていくオキ。その後ろを不安そうについていくマトイは少しだけ笑っているオキの顔に気づいた。
【双子】の中、この空間は【双子】が食べたものがそのままコピーされ、うごめいているおもちゃ箱のようなものだとルーサーは語った。ルーサー自身も本物なのか、偽物なのか。気が付けばこの空間にいたようなので、わからないが、少なくとも自分は自分だと認識しているようだ。
そんな【双子】空間を進んでいくうちに【双子】が食べたと思われる多数のエネミーが3人の行く手を阻んだ。
「めんどくせぇな。おーらどかんかい。」
ゲイルヴィスナーを振り回し、強力な風でナベリウス原生種や、リリーパ機甲種、アムドゥスキア龍族等を切り刻みながらルーサーの後を追った。
「…お嬢さん。そんな怖い顔でにらまないでくれるかな?」
あまりにルーサーの背中を睨み付ける為、ルーサーが根を上げた。
「だって…あなたはシオンさんを…!」
ふむ、と眉をしかめ少しだけ立ち止った。オキもちょうど休憩がしたかったのと、ルーサーに言いたいことがあった為、話を聞くことにした。
「ならば何故、シオンは僕を止めなかったんだろうね。」
彼女、シオンは人智を超えた存在。ルーサーを止める術はいくらでもあった。しかし彼女は介入せず、むしろ彼女自身が究極的存在を作り出したほどだ。
そういいつつルーサーはマトイを見つめる。
「え?」
目を丸くするマトイに対し、オキはルーサーを睨みつけた。
「ま、そんなことどうでもいい。だが、これだけは忘れないで欲しい。」
アークスが作られなければ、すでにこの世界はダーカーの支配下にあったということを。
ルーサーはそう言いつつ、さらに奥へと進むように言った。
進むにつれ、玩具系ダーカーだけでなく、虫系ダーカーも混ざり始めた。
「ふむ。
ぼそりとルーサーが呟いた。眉を歪めたオキの先、虫系ダーカーを殲滅し終えた瞬間、褐色の肌をした黒き衣、ダークファルスの衣をまとった女性が現れた。
「やはりきたね
笑いながら襲ってくる【若人】へと攻撃を加えるルーサー。
『こいつは…アフィンの姉であるユクリータじゃない。あの時、SAOでみたという【若人】だ。』
オキは知っている。いま目の前にいる【若人】はオキ達がルーサーからオラクルを守った10年前、その時の【若人】襲撃事件。その際に『二代目クラリスクレイス』として活動していたマトイに倒されたはずだ。この【双子】の中にいるということは…。
「ともかくどけ。邪魔するな!」
いまはそれを考えている暇はない。とにかく先へと進むべきだ。
【若人】を倒し、さらに先へと進んでいくと今度は鳥系ダーカーだ。
「ふふふ。なるほど。ここで、こいつらを出してくるのか。なかなかいい趣味しているじゃないか、なぁ【双子】よ。」
ますます笑みを浮かべるルーサーに対し、マトイと頷きあったオキは次に何が出てくるのかを予想した。
「フッふっふっふ!」
甲高い笑い声を発しながら現れたそれはすぐ隣にいるルーサーそっくりの男。しかも3人ときた。
「きっしょくわるいなぁ。」
「ふむ僕の模倣とは見る目がある。それにしては随分と出来が悪いじゃないか? あとキミ、気色悪いといわれると、さすがの僕でも傷つくよ? あれでも僕のコピーなのだからね。」
うっせと言いつつゲイルヴィスナーをひとふりし、強力な風を吹いた。ダブルセイバーPA『ケイオスライザー』。そして、ダブルセイバーを体ごと回転させメッタ斬りにした。
PA『ラプリングムーン』で切りつけたあと、出てきたのは【敗者】のヒューナル形態。
『全事象演算終了…解は出た。』
ファルス・アンゲル。自身のコピーとはいえ、あの程度の捕食とはいえ、ここまで模倣できるとはと呟くルーサーに対し、早よ攻撃しとと叫ぶオキ。
模倣体だからか、すぐに決着はついた。
「この程度で僕の摸倣体と言われるのは腹が立つのを通り越して、さみしいね。」
「こんなんで俺を倒せると思ったか。本物呼んで来い本物。あ、隣にいたか。」
オキが口元を歪ませながらルーサーをみた。ふん、と軽く鼻で笑った直後にさらに進むルーサー。
それをマトイは後ろから見ていた。
『やっぱりオキはルーサーといることを楽しんでる? なんだろう。あの事件からなにか変わったような。』
「どうした? 進むぞ。」
「う、うん。」
考え事をしていたマトイは立ち止まっていたことをオキに指摘され、共に進んでいく。
『さぁ始めるぞ! 猛き闘争をな!』
さらに進むと今度は
しかし、その力は本物と戦った時と比べれば雲泥の差。すぐに倒された。
「必殺!
オキの振り下ろしたゲイルヴィスナーから放たれた雷撃により、崩れゆく【巨躯】。
「【巨躯】も食らった割には、質の悪い模倣体だ。…本当に君は全部食えたのかな?」
君以外に、喰われていたんじゃないのか? と空をみるルーサー。それをみてゆっくりとオキをみた。
そして、マトイをみた。
「おっかない顔をしているね、お嬢さん。」
「当たり前よ。あなたたち、フォトナーがダーカーを作ったんじゃない。」
そういうとため息をついてルーサーが説明しだした。
「だが、全てのダーカーの元となる【深淵の闇】の作成を認めたのはシオンなんだよ? お嬢さん。」
あの時、彼女は気づいていたはず。シオンの演算能力なら未来とてある程度は見えていたはず。
【深遠なる闇】が生まれた結果、どうなるか。結果はご覧のとおり。フォトナーは【深淵の闇】との戦いで力を失い、アークスが生み出された。
その後、【深遠なる闇】は封印されたが、ダークファルスが残された。
「そして、アークスとダーカーの戦いは今でも続いている。無駄な戦いをね。」
「ムダなんかじゃない!」
マトイが叫ぶが、ルーサーはそれを無駄だときった。
「ルーサー。【深遠なる闇】封印されているといったな。復活はあり得るのか?」
ルーサーは質問したオキをみた。
「ああ。【深遠なる闇】を手っ取り早く復活させる方法。それはダークファルス全てを喰らうこと。」
ここまでに見てきた
「君の考えているとおりさ。さすれば、同等のダーカー因子が集まり、やがては復活するだろう。」
すでにカウントダウンハ始まっている。ルーサーは微笑みながらそういった。
「なーに。その前に【双子】を倒せばいい。復活したらしたらで、それを倒せばいい。簡単な話だ。」
「【深遠なる闇】はいわばダークファルスの親玉だ。無限にダークファルスを作り出せる。【双子】に苦戦している君たちに…勝ち目はないさ。」
そういながら手を振るルーサーに、タバコに火をつけて煙を吐いたオキが笑いながら言った。
「はん。苦戦なんかしてねーさ。戦ってすらいねーのに、苦戦もクソもあるか。腐ってもおれは、お前と、【巨躯】と戦い、勝利した。違うか?」
ふっと微笑むルーサーに対し、マトイは納得行ってない様子だ。
「わからない。【深遠なる闇】ってなんなの? どうしてそんなのを、作ったの?」
「【深遠なる闇】はシオンの模倣体だ。」
フォトナーが作り上げた人造の
「宇宙の全てを、滅ぼすために。」
なぜ作ったか。マトイの質問に対し、ルーサーもシオンにソレを聞いてみたいと言っていた。しかし今では彼女はいない。
「だが、今ではそれがすこし分かる気がする…。たぶん彼女は…。」
「さみしかった。そういうんだろうな。」
オキの言葉にルーサーがオキの方を向いた。
「さって、おいルーサー。話をごろっと変えて聞きたいことと言いたいことあるからいいか?」
どうぞと手をだし、オキへ話の主導権を渡したルーサー。オキは惑星スレアで起きた『SAO』での事件を簡易的に説明をした。
ルーサーの研究、設備。それにより起きた惑星スレアのネットワークへの強制接続。SAOで起きた事件とその結末。そして…。
「僕の分身? …ふふふ、そうか、アレが僕の意識を。ふむ。なかなか面白い。」
マトイは驚いていたようだ。それもその筈。あの時、ルーサーの意識体と出会ったのは説明していないからだ。
「満足そうに消えていったよ。おめーのコピーは。」
「そうかい。なら、僕の方は間違っていなかったということだね。」
ふっと笑ったルーサーは先の道をみた。
「さぁここがこの世界の端だ。」
楕円形の空間の亀裂。それがそこにあった。
「さて、ここまで僕は外の世界について説明してきた。【深遠なる闇】の復活。滅びは必定だ、ということを話してきたつもりだ。そんな苦しみしかない世界に…君たちはもどる気かい?」
オキはその言葉にふっと笑い、はっきりと答えた。
「その質問には迷いなくYESと答えるぜ。向こうに置いてきた仲間、そして愛する人、いろんな大事なもんがある。おれはそれを守らねばならない。そして…おれはそいつらを悲しませない為に、戻らねばならない。さみしがり屋だからなあいつら。」
ふふっと笑うルーサーはそれを滑稽だと鼻で笑い飛ばした。
「そうかい。クラリッサを構えろ。ダーカーを喰らい、力をこめろ。僕にはできないが、君たちにはできるはずだ。なにせアークスだから。」
マトイとオキはこくりと頷き合い、クラリッサを構えた。ゆっくりと力を込めていき、フォトンを活性化させる。
「さぁ、行ってこい! 『
そう言ってふたりが消える直前。オキはルーサーへと叫んだ。
「ルーサー! てめぇには悔しいがひとつだけ感謝しなければならない! 貴様のおかげであの星、あの世界、SAOに入れた! 貴様のおかげでクソみたいなゲームに参加し、最高の仲間と出会えた。それだけは感謝している。それだけは知っておけ!」
それを聞いてルーサーがどう思ったのか。光に包まれたオキにはソレが見えない。だが、ルーサーの笑い声だけが、オキの耳には聞こえていた。
みなさまごきげんよう。
PSO2のEP3後半。それを少しだけセリフと順序、そしてほんのちょびっとのSAO関連をいれ、【双子】の中に引きこもるルーサーとの共闘でした。
いまや地球でバイト店長をする彼は、どのルーサーなのでしょうね。
さて、ここまでくれば【双子】、そして【深遠なる闇】との決戦も近いです。【仮面】の悪巧みとは?(すっとぼけ)
EP3『深淵の闇』編はここから一気に進みます。
次回、『おかえりなさい、さようなら』
それではまたお会い致しましょう。