SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第105話 「大当たり」

パレス内部でシュピーゲルこと新川恭二のシャドウと戦うオキ達の表では、予想通りシノンこと朝田詩乃の家に恭二が訪れた。

「優勝おめでとう、詩乃さん。」

「ありがと。」

祝いのケーキを買ってきたという恭二を家の中に入れた詩乃はテーブルをはさみ、ずっとしたを向いていた。

「あの…詩乃さん? お話って?」

「あ、ごめんなさい。その…。」

詩乃は恭二をなんとか説得し、自首させようと考えていた。捕まるよりも自首した方が罪は少しでも軽くなる。確かに彼は許されない行為をした。それは分かっている。しかし、彼は詩乃の数少ない友人。できる事なら、穏便に済ませたい。

「ケ、ケーキたべよっか。」

彼が無理に笑っているのがわかる。ゆっくりとケーキを切っていく恭二の手を見ながら、詩乃は白い猫のぬいぐるみとなっているミケをギュッと抱きしめていた。

「ねぇ…。なんで殺したの?」

詩乃の言葉に恭二の手がピタリと止まった。

「な、何のことだい?」

「ふざけないで。全部知ってるんだから…。ねぇお願い。自首して? 今ならまだ…。」

バシ!

恭二の手が詩乃の頬を叩いた。その勢いで詩乃は倒れ、猫のぬいぐるみは少し遠くへと飛んで行った。

「そう。やっぱり知ってたんだ。」

そういいながら恭二は詩乃へとゆっくり近づいていく。

「ごめんなさい。でも、オキさんは…。」

「オキ…ああ。あの男か。ああ、何度聞いても腹が立つ! すべてうまくいくはずだったんだ! あの男が現れるまでは! なんで僕の邪魔ばかりするんだ! 一体何様のつもりだあの男は! そうだろ? 詩乃さん…。あの男さえいなければ、僕と君はうまくいっていたかもしれないんだ。」

倒れている詩乃は恭二の顔を見たまま動けない。あの優しい青年が、顔を歪ませ笑っている。このような顔を見たのは初めてだ。

「詩乃さん…詩乃さん詩乃さん詩乃さん詩乃さん! ああ、動かないで…。この手に持っているのがわかる? これで皆を殺したんだ。僕を貶めた悪いやつらを…。そう僕が正義なんだ。僕が正しいんだ。」

馬乗りになりつつ、動けない詩乃の身体を舐め回すように、目を見開いて見ている。

彼が持っているのは間違いなく注射器だろう。形は一般的に知れ渡っているモノではないが、針穴が見つけにくくなる特殊な奴だと言っていた。間違いなくソレだろう。

『大丈夫だと…思ったのに…。』

何とかなると思った。だが、結果的に恐怖で何もできない。

「もう僕のモノだ。君は僕のモノになるんだ。もう離さない…。ん?」

恭二は詩乃の上に馬乗りになったまま固まった。誰かが見ている。そんな気がした。詩乃だけがいるはずのこの部屋に何かがいる。そしてじっとこちらを見ている。その時ふと横を見た。

「じーーーーーーーーーーーーーーーーー。」

恭二の視界には白き猫の少しにやけた微笑む猫の顔がいっぱいに広がっていた。

恭二が詩乃を襲う数分前。

「はっは! どうだ!」

「他愛もない。」

「うーわー…。はたから見たらいじめにしか見えないよ。」

ナビのあきれた声を聞きながら、オキと【仮面】はジョーカー達の援護の下、シャドウシュピーゲルをめった切りにしていた。

くるくると縦に回転させ、地面にライトニングエスパーダを突き立てたオキは、今一度シャドウシュピーゲルの姿を確認した。

両手に持っていた銃と大鎌はすでに壊れ、腹部にあった檻は怖され、中にあった鎖でつが慣れたシノンの姿もすでにない。

「あと少しだ。一気に叩くぞ。」

「指図するな。」

オキと【仮面】はシャドウシュピーゲルの周りを時計回りに回りだし、対角線上になった直後、お互いの方向へとシャドウへ剣を突き刺した。

『ぐうううう! オオオオオ!』

突き刺された剣をそのままに体を回転させ、オキ達をほおりだしたシャドウ。

突き刺さった剣はそのままである。

「おらぁ!」

「ふん。」

オキは足の裏で蹴りこみ、【仮面】は持ち手を掌底でさらに差し込んだ。

勢いが強かったためか、【仮面】の武器はオキへ、オキの武器は【仮面】の方へと飛び出してきた。

にやりと笑ったオキは【仮面】のダブルセイバーを空中で受け止め、黒いダブルセイバーを振り回した。

また、【仮面】の方へと飛び出したオキのライトニングエスパーダは【仮面】が受け取り、横に縦にとそのままシャドウへと攻撃を入れた。

「合わせろ【仮面】!」

「指図するなと言ったはずだ。」

【仮面】はそういいながらもしっかりとオキの攻撃とタイミングを合わせた。

「クロス…カリバー!」

ザン!

お互いにクロスで攻撃を入れた。これが決め手となり、シャドウは少しずつ崩れていく。

手にした武器をお互いに投げ、おまけとばかりにオキは双銃、M22 ミズーリを片腕で構えた。

『くそ・・・くそぉぉぉ! 死ねぇ!』

最後の悪あがきのごとく、触手のようになっていた腕を振り回し、オキのミズーリを吹き飛ばした。

「っち。」

舌打ちをしながら飛ばされたミズーリを手に取った【仮面】は、もう一つのミズーリを取り出したオキと同時にシャドウへと銃口を向けた。

「今回だけだ。付き合ってやる。」

「へへへ。決めの言葉はどうする?」

「決まっているだろう? 貴様の好きな言葉だ。」

仮面の向こう側、彼の顔は見えなくとも、オキは【仮面】が少し微笑んだ気がした。

オキがアークスになる前から好きだった伝説のダーカーハンターの物語。その者の決め台詞。

『『大当たり(ジャックポット)』』

同時に力を込めた弾丸を放ち、シャドウの額ど真ん中にぶち当てた。

どろどろと溶けていくシャドウの体は小さくなり、シュピーゲルの体に戻った。

「くそう…くそう。どうして…どうして僕ばかり…。」

「ばーか。こんな人を貶める行為やってりゃばちも当たるだろう。」

オキがこつんとシュピーゲルの頭を叩いた。

「そう、だよな。うん。僕が悪かったんだよな。独りよがりになっていたってわかってた。反省するよ。」

そういいながらシュピーゲルの体はゆっくりと消えて行った。

「…。」

「そんな目で見ないでくれオキさん。」

消えて行ったことに対して聞いてないと言わんばかりにジョーカーの方を見るオキ。

「これで…オタカラゲットだ! さぁ逃げるぞ! 全速力だ!」

ゴゴゴゴ

パレスが崩れている音がする。かなりひどい揺れだ。

「私はここで抜けさせてもらう。」

【仮面】が背を向け、消えようとした。

「おい【仮面】。ナベリウスで待ってろ。てめーの目論み、絶対阻止してやる。」

「できるものならやってみろ。」

ふんと唸り、【仮面】は消えて行った。必ず阻止しなければならない。オキはナビに引っ張られながらそう決意した。

「いいから逃げるぞぉぉぉ!!!」

「あ…えっ…?」

「じーーーーーーーーーーーーー。」

恭二の目の前に少しにやけ顔をした白い二足歩行の猫のぬいぐるみが立っていた。先ほどまでここにはいなかった。いや、詩乃が抱き着いていたヌイグルミなのを思い出した。

ゆっくりと手を挙げるヌイグルミ。

「え? ええ!? う…うごい…!?」

あまりの驚きに恭二は壁際へとゆっくり後退。

挙げた手の上にはパイが乗っかっていた。それをミケは。

「うらー! パイ食えなのだー!」

パーン!

全力で投げた。

直後、ガタガタと玄関の方角が騒がしくなり、リビングにオキが入ってくるのと、ミケがもう一つおまけで投げるのと同時だった。

「おまけなのだーーーー!」

「ってわけで、呆然としている彼はそのまま警察へと引き渡したのでしたっと。」

「めでたしめでたしなのだー。」

もぐもぐとケーキを食べるオキとミケ。そして静かに黙っている誌乃。

「なるほどねぇ。これが彼の…。これは参考物件として、こちらで預からせてもらっても?」

高級そうな店でケーキを頂くオキたちは菊岡へ報告をした後に、報酬として高級ケーキを大量に食べさせてもらっていた。

菊岡が持っているのはシュピーゲルこと恭二が宝物として持っていた『黒星』。

「事情聴取のときに参加させてもらったが、君の言うとおりだったよ。」

恭二は兄であるザザに対し、狂信的な憧れがあったそうだ。しかしSAOから帰ってきた兄は別人のようになっていたそうだ。

それもその筈。ザザ含め、ラフコフ幹部以下はオキらアークスに徹底的に力の差を見せつけられたのだ。

生きている世界が違う。叶うはずがないと。そのため恭二は兄は死んだと思い込むようになり、もともと引きこもりだったが、より引きこもるようになり力を求めるようになった。しかし、多額の金額をつぎ込んだキャラクターもゼクシードの一件で使い物にならなくなった。

別のキャラを作成し、なんとか立ち上がろうとした彼だが、偶然手に入れたレアアイテム『光学迷彩』。そのアイテムを発端に今回の殺しの件を考えついたらしい。彼が捕まったため、仲間であったゼクシードを恨む者たちも芋づる式に捕まった。

誌乃との関係は偶然にも出会い、話が合い、仲良くなった数少ない女性というのもあり、しかもどのような状況でも強く思う心に憧れを抱いていたらしい。

「そう…。」

「残念だったな。本当は助けたかったんだろ?」

コーヒーを飲みながらタバコをふかすオキにゆっくりと頷く誌乃。

「仕方ないわ。まさかあそこまでとは思ってなかったし。今回はミケがいたから 助かったけど…もしいなかったらと考えると…。」

オキは震える姿をみてぽんぽんと頭を叩いた。

「ま、結果よければだ。さって、誌乃。ここはおっさんのおごりだ。好きに食え。俺たちは用事がある。」

ガタっと立ち上がったオキの顔は先程までの優しい顔とは反転し、険しい顔つきになっていた。

「もう行くの?」

「なのだなー。オキがやりたいことがあるそうなのだー。」

コクリと頷いたオキはゆっくりと店を後にした。

【仮面】と繋がった際にみえた一部始終。それがもし現実になるのであれば。いや起きるのだろう。その結果が【仮面】なのだから。

「いくぞ。ハルコタンだ。」

                




みなさまごきげんよう。
せっかくの【仮面】登場なので、DMC3のあのシーンを再現したくて描きました。
さて、ようやくEP3と繋がりました。ここからはPSO2の物語、EP3の話となります。
EP3はあまり改変がないので、みどころは? と聞かれるとうーんとなりますが、みなさまにも楽しんでいただけるよう頑張りたいと思います。
では次回にまたお会いしましょう。

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