SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第104話 「欲望の城 パレス」

目をさまし、自分のベッドから起き上がったオキはすぐさま準備に取り掛かった。

「マスター。こちらを。」

小さなパートナー、アオイはすでにオキの着替えから装備まで準備を指示されており、それを完了してスタンバイしていた。

「サンキュ。アオイ。」

普段の服装、黒のジャケットに合せた色のズボン。そしてその上から白のコートを羽織った。

装備は金色に光り輝く大剣と、リボルバー式の大きな双銃。

「今日はラサハディスをお持ちにならないのですか?」

ラサハディス。オキのメイン武器の一つ、『エルデトロス』と同じ素材から作られたツインマシンガン。

普段と違う装備に疑問を持っていたアオイは首を少し傾げてオキに聞いた。

「ああ。あまり強力なモノ持って行っても仕方ないからな。今日は別にダーカーとやりあう事はしねーからよ。これくらいで十分だ。」

なるほど、とつぶやいたアオイの頭を軽く撫で、オキは自室を後にした。

アークスロビーへとたどり着いたオキは、クロがキャンプシップ搭乗口にいることに気づいた。

「クロ!」

「準備はすでにできている。行って、マスター。」

「ありがとさん。」

すれ違いざまに頭上で掌を叩き合い、オキはキャンプシップ内部へと入り込んだ。

パチパチとスイッチを入れ、自動操縦から手動へと変更する。

『こちら、アークスシップ総合ブリッジ。キャンプシップS-58620へ。手動操縦へと変更。発艦許可…確認完了。むちゃしないでくださいねオキさん。』

通信の先からオペレーターの「」から注意の声が聞こえた。

「あーよ。ちょっといってくらぁ! キャンプシップS-58620。目的地スレア。出発!」

ジェット噴射を吐き出しながら、オキの操縦によりキャンプシップは惑星スレアへと飛び立った。

「双葉の連絡だとこの辺だが…。」

キャンプシップのスクリーンにはナビから送られてきた情報をもとに入れた位置が記されていた。今はその上空を一般の人に騒がれないようステルス機能で姿を隠しながらゆっくりと飛んでいる状態だ。

「あぁ。いたいた。」

ジョーカー、双葉の姿を確認し、オキはキャンプシップの操縦をオートモードに変更。キャンプシップ後方へと移動した。

『オートモード起動。自動帰還システム作動まで後60秒です。』

機械口調の女性の声がキャンプシップ内にこだまする。それを聞いてオキは後方にある出口へと飛び込んだ。

飛び込んだ先の水のような膜が張られている場所に足がついた途端、体は吸い込まれ、すぐさま外へと移動。

そのまま空へと落ちて行った。

ズシャ!

「うわぁ!? お、落ちてくる奴があるかばかぁ!」

上空高くから落ちてきたオキはそのまま綺麗に着地。目の前には双葉とジョーカーが目を見開いて立っていた。

「これがアークス流の降下方法だ。きにすんな。ジョーカー。」

「ああ。この先だ。」

ジョーカーの案内で進むオキと双葉。その先にはすでにスカルにパンサー達も待機していた。

「初めてこのパレスに潜ったとき、驚いた。」

ジョーカー達はオキがBpBで戦っている中、この『パレス』と呼ばれる欲望の世界で戦っていた。

『パレス』。それはある欲望を持った人物が『ある場所』を『どのように』認識しているかで姿の変わる認知の世界。

ジョーカー達はその世界で1年近く戦ってきた。その話はまた別の物語。

「欲というのはパレスに大きく影響する。そしてそこの主である人物がそこをなにと考えているか、認知しているかで姿が大きく異なる。」

猫のような、猫じゃないような。二足歩行の見たこともない小さな生き物がしゃべった。

「その声…モルガナか!?」

「そういえば、モルガナのこっちの姿を見るのは初めてだったけ。」

他のメンバーも姿が変わっている。皆が仮面をかぶり、そして服装がまるで違う。

「学校がお城だったり…。」

骸骨の上半分の黒い仮面をつけたスカルに、胸元の開いた赤のボディスーツを着た身体のラインがはっきりわかるパンサー。

「アトリエであったボロ屋が巨大な美術館だったり。」

狐のお面を装着したフォックス。

「街全体が銀行になったり。」

ライダースーツにげとげした肩パット。無骨な仮面のクイーン。

「いろんな場所を見てきました。」

フランス銃士のような服に羽根つき帽子。黒いアイマスクのノワール。

「国全部を欲望の海に沈めた奴もいた。」

サイバースーツに暗視ゴーグルをつけたナビ。

「そして今回は…。」

オキが見た風景。それは周囲一帯が先ほどまで見ていたゲームの中の世界観と同じ。

「この建物、GGOの中と同じ?」

黒のロングコート、白のドミノマスクをつけたジョーカーを見た。

コクリと頷いたジョーカーはある一点を指さした。

「その通り。そして奴は最上階にいる。」

高く飛びえ建つ巨大な黒い、窓の一切ないビル。GGO内にある中央管理塔。それが静かな住宅街のど真ん中に建っていた。

パレスの攻略法は、パレスの最奥にあるというそこの主の宝を盗むことにより、パレスを崩壊させ、膨れ上がった欲望を罪悪感に変えることが出来るという。宝とはいろんな形があるらしく、人それぞれであり、金メダルや絵画、中にはおもちゃのお札、思い出のある品等いろいろあるらしい。

「シャドウ? 本人じゃねーのか。」

「その通りだ。シャドウとはその者の裏の顔。欲望が主に出てきた顔だと思えばいい。ただの人間じゃねぇ。ふつうなら俺たち以外の人を入れることはないんだが。」

「なーに安心しろって。化け物との殴り合いなら慣れてるってもんだ。」

背中にある黄金に光る巨大な剣を親指で指差しながら笑うオキ。コクリと頷いたジョーカーを先頭に、パレスへの唯一の入り口へと向かって行った。

ジョーカーから入り込み、最後のオキが足を踏み入れた瞬間だった。

『きた…きた! きたきたきたきたきたきたきたきた! 僕の邪魔をするもの! 僕から奪ったもの!』

どこからか声が聞こえてきた。とても大きく、入り口となっている大ホールの壁がびりびりと震えるほどだ。

「完全にオキを警戒してるね。」

ナビがオキを心配そうに見る。

「すげえプレッシャーだぜ。こんなの久々だ。オキは大丈夫か?」

モナもビリビリと震えるほど押しつぶされそうなプレッシャーを感じているようだが。

「え? あ、俺警戒してんのこれ。」

タバコに火を付けるオキはケロっとしている。特に問題はなさそうだ。

実際なにも問題はない。この程度のプレッシャーでは冷や汗一滴かきやしない。

「頼もしいね! このまま進んで、奥のエレベーターに乗って! そのまま最上階へ一直線だから!」

ナビの指示通りにすすみ、エレベーターへと乗ったメンバー達はそのまま最上階へ。

最上階は真っ白な部屋。エレベーターのある反対側の壁は一面モニターとなっており、その少し前に階段の付いた大きな椅子がおかれていた。そこに座っていたのが、シュピーゲル。

エレベーターから降りたジョーカーたちとはさんで広い広い部屋の真ん中に光り輝く何かが巨大なガラス玉のような何かに囲まれ置かれていた。

「見えたぜ。オタカラだ!」

エレベーターの中で説明を受けたオキは先ほどのナビとモルガナからの内容を整理していた。

パレスの住人のオタカラは初めて来たときはぼやけていて何も見えないそうだ。触ることもできないらしい。しかし、外の世界、つまり現実の本人がそれを『盗まれる』と認識した時に、ソレは形を作り、認知の世界であるパレスにも影響が出る。

ジョーカー建はオキがGGOでデスガン=シュピーゲルと戦っている最中に、パレスに侵入。オタカラを盗む経路を確保し、ナビ=双葉のハッキングよって、シュピーゲルがログアウトした直後、ヘッドギアの画面いっぱいにジョーカー達からの『予告状』を見せる事に成功したという。

結果、パレスのこの場所にオタカラが出現したということだ。

『なぜ貴様は…僕の邪魔をする。なぜ…貴様は僕の大事なものを奪っていく…。』

黒い靄のような何かを出しながらシュピーゲルはゆっくりと立ち上がり、階段を下りてきた。

「気をつけろ。大概この後デカイ化け物に代わって襲ってくる。油断するな。」

警戒をするジョーカー達。そしてこの言葉がオキへと送られている事に気づいた。

シュピーゲルがオキを指さしたからだ。

「貴様は! なんだ! なんなんだ! 許さない…許さない許さない許さない許さない許さない!!! やらせない…。」

だらりと首を下に向けたシュピーゲルは恐ろしい形相でオキを睨み付けた。

「やらせない!!!」

直後に黒い靄はジョーカー達を囲み、黒い靄から多くの化け物が現れた。

「シャドウ!? 10…20…40…80…まだ出てくる!?」

「なんだよこれ…。いくらなんでも多すぎだろ!」

「まずいわ。囲まれてる!」

取り乱すスカルに周りの状況を確認したクイーンは囲まれている事を知る。そしてナビはその数を数えたが、あまりの多さに絶句し、まだ出てくることを報告する。

「ぐ…ぐうう…。」

オキの身体に異変が走る。湧き出てくる力。体の中で暴れるフォトンを感じるオキは何とか抑えようとするも制御ができない。

「まずいよ! オキに向けてパレス全体から警戒されてる! 一点集中で止まらない! しかも変な力出てるし…。」

「こいつは…。」

モルガナはそのあふれ出る力がなんなのかを感じ取った。それは自分たちも扱っている力の源。

『やらせない…貴様にはさせない…貴様は…!』

そんなジョーカー達とは裏腹に、オキは頭の中がぐちゃぐちゃにかき回されているような感覚に陥っていた。

『貴様は…できない…。』

一度オキの目の前が真っ暗になる。誰かの声がする。聞いたことのある声。そして、見た事のある一人の少女がぼんやりと映し出される。白くて、何度も笑顔を見てきた、その少女が、二つの黒い影から何かを受け取った。

そして黒くなり、場面が変わり、そして、自分がその子を、貫いていた。

『貴様には…できない!!!』

「やめろ!!!」

オキが大きく叫ぶと、自分の感覚が戻ってきた。そして自分の状態を確認した。

黒い仮面に頭ごと覆い尽くされ、コートは黒くなっている。そして今見えた走馬灯のような一瞬の出来事を、本当に経験したかのような感覚になる。

『貴様は、できない。』

まだ頭に響く。今回は聞こえる声が違う。どうやら目の前にいるシュピーゲルが発した言葉、そしてこの異様な世界のせいでフォトンがざわめいたらしい。

おかげさまで『誰かさん』と繋がったようだ。

「うるせぇ…てめえに決める筋合いは…ねえ、よ!」

手を後ろに伸ばし、邪魔な仮面を取ろうとする。しかし何かに引っかかって取れない。

「うおおおおおお!」

バリバリバリバリ!

破くような音を発し、仮面を剥いだオキ。直後に目の前に何かが出てくる。黒い光を出しながら、異様な力を発して。

「ペルソナ!? でも、なにこれ…こんなの感じたことない…。」

おびえる声を出すナビはそれがなんなのかを見たことがない。

『…。』

ガキン!

「え?」

「はぁ!?」

ゆっくりと後ろを振り向いたその黒い姿をした人は、同じ色をした黒い両剣をオキへと振った。白いコートに戻ったオキは背中より金色に光る大剣でそれを受け止める。

「ばかな…! ペルソナが、自身を攻撃するなんて聞いたことねーぞ!」

モルガナが叫ぶ。ペルソナ。それはこの世界で抗うためのもう一人の自分。抗おうとする思いが強ければ強い程、それは強固となり、力を発揮する。この世界でしか発揮できない力ではあるが、この力のおかげで、ジョーカー達は国を巻き込んだ大事件を人知れずに解決した。自分自身の為、ペルソナが指示されない限り自分を攻撃するはずがない。だが、目の前の黒い仮面をつけた異様な気を発する『ペルソナ』は何かが違う。それはジョーカー達全員が感じ取っていた。

「おいおい? いきなり現れて攻撃してくるとは。しかも…いや、たしかにペルソナだよな。なぁ?」

「…うるさい。黙れ。ここはどこだ。なぜ貴様がいる。」

唸るように小さくしゃべったその者の名は『ダークファルス【仮面】(ペルソナ)』。異様な世界のせいなのか、オキの力のせいなのか。誰もわからない。しかし出てきたのは紛れもなく【仮面】(ペルソナ)である。

そしてお互いに感じ合った『ソレ』は、【仮面】(ペルソナ)の正体であった。

『…うう…ああああああ!』

オキと【仮面】(ペルソナ)がつば競り合いをしている最中にいきなり唸り声が上がる。相変わらず黒いオーラを出しながらこちらを睨み付けているシュピーゲルが頭を抱えながら唸っていた。

「そういや忘れていたな。それとも、ここで決着つけるかい? 【仮面】(ペルソナ)。」

「ふん。それもそうだな。」

オキが彼を見た後に、【仮面】(ペルソナ)へと顔を戻した。

「シャドウ! くるぞ!」

ナビの言葉と同時に百体入るだろう大小様々なシャドウという名の化け物がジョーカー達を襲いに駆けはじめる。

「力を貸せ。お前は、『俺』なんだから。」

「…遊びは今回だけだ。」

ペルソナとして召喚されたからか、それともある『理由』からか。【仮面】(ペルソナ)はため息をついてオキから離れた。

そしてジョーカー達へ向かうシャドウへとそれぞれ正反対へと駆け、シャドウの軍団へと突っ込んだ。

ドン!

シャドウたちが勢いよく飛ぶ光景をジョーカー達は見た。

「イィヤァ! バスター! ってなぁ!」

「…死ね。」

円を囲んでいたシャドウたちを蹴散らしながら進むオキと【仮面】(ペルソナ)。その光景はまさに一騎当千という言葉が似合うだろう。

一瞬にして囲んでいたシャドウたちを蹴散らし、シュピーゲルを睨み付けた。

「次は貴様の番だぜ。さっさとお前倒さねーといけねぇ理由が出来た。」

「…。」

隣にいる【仮面】(ペルソナ)を睨み付けながらオキはシュピーゲルを煽った。

『うるさい…。うるさいうるさいうるさい! 渡さない…彼女は…僕が…僕が守るんだぁぁぁぁ!』

「シャドウ! 変化するぞ! この感じ、力を増している!」

黒い靄が大きくシュピーゲルを包み込み、更に、フロアの中央にあった光り輝く『オタカラ』が彼の居ると思われる黒い靄の中へと消えて行った。そして一気に黒い靄が晴れた。

「それがお前の欲望の姿…か。醜いねぇ。」

「人の事言えるのか…?」

オキに対し、隣の【仮面】(ペルソナ)がぼそりとつぶやいた。

「うっせ! ブーメランだぞ。」

同時に飛び上がり、巨体となったシュピーゲルのシャドウにとびかかった。

黒いフードマントを羽織り、デスガンの金属髑髏のマスクをした巨大な死神。マントの中にはシノンに似た女性像が鎖によって繋がれ、体の檻に閉じ込められている。左手には巨大な鎌をもち、右手にはあの『黒星』が握られていた。

『こんなところでまさか知るとは。さっさと終わらせて、マトイちゃんのところに…!』

オキは金色の大剣、ライトニングエスパーダを大きく振りかぶり、シャドウへと突っ込みながら【仮面】(ペルソナ)と繋がった際にみえた『あの状況』を受け止め、それを阻止するためにやらなければならないことを思い描いていた。




みなさまごきげんよう。
EP5が近づき、いろいろと準備が進む燃2弾4鋼11暑い日が続いております。体調にはお気をつけて。
さて、今回はP5の設定を使用してのお話となっております。(SAO関係ねえ)
GGO編で書いている最中に思いついた『ペルソナとして【仮面】をだす』というネタをやってみたかった。幸い、EP3につながる設定も同時に思いついたのでもともとのベースに付け加える形で今回を描きました。

さて、次回はGGO編の決着と、せっかく【仮面】だしたのでやりたかったことを思い付いたので、それを描きたいと思います。

ではまた次回にお会いしましょう。

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