SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第103話  「誰だと思ってやがる」

「ただいま! どうなってる!?」

座敷広間の襖が勢いよく開き、部屋の中にこだまするハヤマの声。

お広間の上座側には大きなモニターがいくつもの場面を映し出していた。

「おかえりなさい。お疲れ様。今ちょうどオキさん達がプレイヤーの一人を倒したとこだよ。」

キリトがハヤマ達に現状を報告する。

「おかえり。君たちも大変だな。」

ディアベルが苦笑しながら帰ってきたアインスに冷えた飲み物を渡した。

「ん、すまない。なに、早く終わらせたいからさっさとぶった切ってきたさ。」

ハヤマ達はアークスシップからの緊急要請で【巨躯】の襲来に対応していた。ハヤマ達がいなくとも対処は可能だろうが、今回は共に【敗者】も同時に出現したとのこと。

仕方ないのでハヤマ、コマチ、アインス、シンキらも出撃。ものの数十分の間に撃破された。

「まったく、君たちが戦っている相手のでかさを実際に知っていると、すぐ横に現実で本当に体を張って闘っている人がいるとは思えないな。…だが、それが事実だから余計に常識を考え直さねばならないのかもしれないな。」

ディアベルは難しそうな顔をしていた。

「おっと、しんみりしていても仕方がない。現状を説明しなければな。」

「たのむ。」

気持ちを切り替え、ディアベルはアインス達にオキ達の詳細を説明した。

オキ達は砂漠地帯をすすみ、途中見つけた夏候惇を強襲し撃破。残るはデスガン一人となった。

オキらはある地点を拠点に、砂漠のど真ん中でデスガンとやりあうことを決めたようで、その場にとどまったまま砂漠の真ん中にある洞窟にてデスガンを待ち構えていた。

 

 

 

 

「ふう。」

一服しつつ、トラックの荷台の上で双眼鏡をのぞくオキ。

「こねぇなー。ちょっと離しすぎたかな。」

「だいぶ飛ばしたからね。まぁ見えたらすぐにわかるよ。」

すぐ近くでクロが自分の武器の弾倉に弾を込めていた。

「シノン、大丈夫か?」

「ええ。大丈夫。今度は迷わない。」

その言葉を聞いて、トラックの運転席の屋根の上で伏せ、ライフルを構えるシノンの頭をワシワシと撫でたオキ。

「ちょ…! な、なにするのよ!」

「肩に力はいりすぎだ。ちったぁ抜け。な?」

ぽんぽんと頭を叩くオキに対し、シノンは顔を赤らめていた。

「うっさい…。シリカちゃんに怒られるわよ。」

ちらりと浮遊しているカメラを見たシノンだが、オキは鼻で笑った。

「なーに。あいつならこれが気を紛らわせる行為なのか、愛する人に対して行う行為なのか。それくらい遠目でもわかるさ。」

その言葉に面白くなさそうなシノンに軽く口を微笑ませているクロ。

「さて、来る前に再確認だ。シノン、本当にあいつのライフル壊れたのか?」

「ええ。間違いなく壊してやったわ。ついでに付けていた何かの装置もね。」

シノンの言葉に目を丸くするオキは眉をゆがませた。

「シノン、それまじ?」

「え? ええ。当たった時に、あいつの身体にノイズと背中に何かの光が見えた後、煙が上がっていたわ。間違いなく何かの装置が壊れた時のエフェクトよ。」

オキがそれを聞いてニヤリと笑った。

「よーし。よしよし! 面倒なのが壊れたとすれば…。楽になるぜ。」

「説明頂戴、マスター。」

オキの説明はデスガンが何かしらの姿を消せる装置を持っていたということ。それがわかったのはギャレットが撃たれた際に、そんなに暗くなっていない建物の中で一瞬で姿が見えなくなったという事。それらと今までのデスガンの出現時の状況を考えると、転移装置か、姿を隠す装置が考えられた。

転移装置なら、足で追いかけてくる必要はない。ならば後者だとオキは考えたのだ。

「そこでクロの力で倒すつもりで、どこにいてもわかるこの砂漠におびき寄せようとしたんだが…いらん心配だったか。」

「じゃ、じゃああいつは…光学式迷彩でもつけてたっていうの!?」

「ああ。しかもそれを利用して殺すと目安を付けた相手の住所を手にしたんじゃねーかとも思ってる。どうしてもひっかかったんだ。」

いくらデスガンが殺すにしろ、複数人でやったにしろ、殺すためには殺す相手の「体のある場所」を知る必要がある。

いくらかこの星のネットワークセキュリティを双葉に教えてもらった時があるが、相当なハックの力がない限り個人データはそう簡単に手に入らない。少なくともこの国にはそれが出来るハッカーは彼女以外にいないらしい。

「どうやって殺す相手の居場所、住所を手に入れたか。ナビはハックとかで手に入れたとは思えないと言っていた。そこであの姿を消す装置を使えば簡単だった。俺ならそうする。」

そのとき、クロとシノンが同時に少し遠くに移動してくる人影を確認した。

「「来た。」」

「噂をすれば…。到着したら種明かしだ。シノン、いいか? あいつを倒したら速攻でログアウト。ミケと合流しろ。どうせ部屋のどこかで寝てるか飯食ってるから。何かあったらあいつを盾にしろ。危険なものに投げても構わん。」

「え…え!?」

「そんくらいで怪我したり、ましてや死ぬミケちゃんじゃないしね。」

ため息をつきながら次第に近づいてくるデスガンを見失わないようにじっと見つめるクロ。

「いいか? これは命令だ。ミケ以外信じるな。俺が到着するまでな。おびき寄せて、ミケをけしかけろ。じゃなきゃ…お前がやられるからな。」

シノンは真剣な顔をしてコクリと頷いた。それを確認したオキはニコリとほほ笑みシノンの頭をポンと一回だけ叩いた。

「頼んだぜ。隙が出来たらデカイのお見舞いしてやれ。いくぞクロ。」

「あいさーマスター。」

近づいてくるデスガンに向かい、オキとクロはできるだけシノンの撃てる最高の距離で戦うことにしていた。

「よおデスガンさん。さっきぶりだな。あとはお前さんだけだぜ。もうあきらめて自首したらどうだ?」

 

ブシュー

 

金属髑髏の隙間から蒸気を吐き出すデスガンを気にせずそのまま話を続けた。

「ダンマリかい。なら、こちらから話をさせてもらうよ。お前さんの手口はもうばれてんだ。弾撃って一発あたりゃ現実の本体が死ぬ? トリックもいいとこだったな。…ま、俺が考え付いたんじゃねーけど。答え合わせと行こうじゃねーの。」

「…シネ。」

問答無用で突っ込んできたデスガンに対し、微動だにしないオキ。

 

ガキン!!

 

ピックのような長い針状の剣をオキへと向けたデスガンだったが、クロがその間に入り込みデザートイーグルをクロス状にそれを止めた。

「誰に断ってうちのマスターに手を出してるのかな…!」

そのまま蹴りを入れようとデスガンへと足を延ばしたが、すぐさま逃げられる。

「お前さんが持っていた姿を消す装置。高額…工学? なんだっけ。まぁそんな装置だ。どこかで手に入れたんだろう。」

続けるオキを狙いに再び向かってくるデスガンだが、クロが再びオキの護衛に入る。今度はグリップに星形のマークがついたハンドガン、黒星で狙ってきた。

 

ガキッ!

 

クロがピックの剣を止めたところに隙間を縫って空いた腕でオキを狙うデスガンだったが、オキはタバコに火を付けながら銃口を合わせた。

「ちったぁ話聞こうぜ。なぁ。」

諦めたのか再び距離を取って、オキ、クロの両名から離れたデスガンはピタリと止まった。

「いい子でよろしい。さて続きだ。そんな装置を使ってお前は何をしたか。この大会に必要な情報、データ。それを入力する選手の後ろから覗き見したんだよな? 間違ってる? あってたらなんか景品出してくれ。」

 

ガン!

 

間入れずデスガンは黒星を放った。しかしそれはオキの反射力で上半身をそらすだけで避けられる。

「おおっと危ない危ない。景品と思っていいのかなー? ふふん。で、狙った獲物、相手の所へ仲間を向かわせ、どうにかこうにか家の中に入り…薬物で殺す。あんなでかい十字架描く仕草もその合図だろ? で、撃つタイミングを見計らって現実でも薬物を混入。今のご時世、注射針の跡を残さない注射器もあるみたいだしな。なぁ病院の息子さん? ああ、名前はださねーよ。だが、そこまで知っている事は分かってほしいな。」

デスガンの金属髑髏のお面のせいで表所の見えないオキだが、これだけ煽ったのだ。相手が人であるならば少しくらい反応を見せるはずだ。

「なぁ一つ聞いていいか? お前さん、初対面時に俺を殺すと言ってラフコフのマーク見せたよな。俺を殺したい気持ちは兄をつぶされたからか? それとも自慢の兄を倒されたからか? どっちだ。それが気になる。」

デスガンはゆっくりとオキの方を見た。

「…兄…関係ない。お前…邪魔。だから殺すつもりだった。」

しゃべり方が変わった。オキはその反応を待っていた。ニヤりと笑うオキはさらに続けた。

「殺したかったか…。まぁべつにそれは百歩譲って良しとしよう。殺せるものならな。」

口元が次第にこらえきれなくなるオキ。

「見つかるわけねーよな。だって俺とクロの身体は…。」

歯が見えるまで笑い、オキは空を指さした。

「お空の彼方にあるのだからな。普通じゃみつからねーよバーカ。ダハハハハ。だめだ…我慢できねぇ。おうどうした? 殺したい相手が見つからず、躍起になって探したけどやっぱり見つからず…あー腹痛。」

「マスター…。」

クロがあきれ顔になってこちらを見ているがオキは止まらない。

「そう…お前見つからなかった…。住所…。ふざけているのかと…。」

オキとクロが書いた住所は『オラクル船団』。

普通ならふざけているとしか思えないだろう。

「どちらにせよ、お前さんは俺を標的に選んだ。殺せるにしろ、殺せないにしろ、それは変わらない。だからあえて言おう。…俺を、俺達を誰だと思ってやがる。」

オキの顔が険しくなり、圧を放つのが近くにいるクロにも伝わった。クロに威圧はしていない。だが、それが標的ではないクロにもわかるほど、オキの威圧は溢れ出ていた。

「標的に選んだ? バーカ。逆だ。お前は選ばれたんだよ!」

その言葉を放った途端、デスガンのマントから数個の丸い物体が転がり出てきた。

「!?」

クロとオキはすぐさま離れた。直後にポンと小さな音がなり、大量の煙が辺りに立ち込めた。

「ちぃ! 煙玉か!」

立ち込めた白い煙は周囲を真っ白に染め上げ、オキの視界はほぼ0。どこから奇襲が来るかが読めない状況となった。

オキはじっとその場を動かず、音を頼りにデスガンを探した。クロもいる。下手に動かない方がいい。

直後、後方からの気配を察知したオキは手に持つM29をその方向へと向ける。だが。

「終わりだ。」

デスガンの黒星は既にオキの胸へと標準を合わせていた。

 

ガン!

 

 

オキの耳と目には、撃たれた音と共に目の前に広がる小さな背中が目の前に広がった。

「ふん。ボクを…忘れられたら困る…マスター。やれ!」

背中をオキへと託し、撃たれた場所、クロの小さな胸にヒビの入ったノイズが走っていた。

「おう。」

 

ドン! ドン!

 

2丁の大型拳銃の響く音が周囲に響き渡る。煙は風で流されようやく周囲の状況が掴めてきた。

2発。確かにデスガンの身体へと撃ち込んだ。クロはゆっくりと粒子となって消えていっている。

威力の高い大型拳銃で撃たれたデスガンはその勢いで後方へと飛ばされながらもまだその目は光っていた。

 

ドゴォォン!

 

砂漠の夕暮れに更に大きな1発の弾丸が、長いロングバレルから放たれた、巨大な咆哮を放った。

 

バキン!

 

甲高い音を出し、金属の髑髏の仮面が割れつつ頭を粉砕されたデスガン、ステルベン。

シノンのへカートにより、頭部を破壊されリタイヤとなった。

「あぶねぇ…まさか2発も喰らって生きてるとは。シノンに感謝だ。…クロ、リアルでそれやったらトマトの刑な。」

消えつつにこやかに笑うクロの振り上げる拳をお互い打ち合った。

「オキさん!」

走ってきたシノンが到着し、デスガンが消えていることを確認する。

「さて、ここからは時間の勝負だ。シノン認識を合わせるぞ。」

「分かってる。起きたらミケと合流。何が何でも守ってもらう。そして…捕まえる。」

その目を見ればわかる。普通なら怖いだろう。だが、シノンのソレは不安など一切ない事をオキは確認した。

「最悪相手に投げつけろ。そらくらいやっていい。…で? どうやってリタイヤすんのこれ。」

「これ? 死ぬしか無いわよ。」

「まじかい。」

口をへの字にするオキと対称的に、シノンは微笑みながらゆっくりと手榴弾のピンを外した。

「これで…最後ね。」

「あぁ。」

手榴弾の爆音が響き渡り、第3回BOBはオキ、そしてシノンの2人同時のダブル優勝となり幕を閉じた。




皆様ゴキゲンよう
2週間ぶりの更新ですお待たせいたしました!
いやぁ仕事での教育が2週間入り、何も作成出来ませんでした。地獄はまだ実践というものが残ってるがな!
さて、BOBは終わりました。さらっと終わりましたがここからがPSO2との絡みに繋がっていくお話となります。
もし宜しければEP3完了をお楽しみください。

PSO2本家では新職、ヒーローが来ますね。どこかでみたあの人も!?
楽しみです。いまはヒーローに向けて武器作成と勤しみつつ、FGOではアガルタも始まりました。上げるとこあげて落とすストーリーは流石ですね。

では次回にまたお会いしましょう。

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