「ハヤマさん、ミケさん、キリトさん。おつかれっス。」
タケヤとレン、オールドが23層の宿に戻ってきた。ハヤマ達は同階層にある迷宮区攻略を行っており、丁度先ほど帰ってきたところだった。
「お疲れなのだー。」
「お疲れ。みんな無事だね。」
「はい。レベルも上がったし、好調です。」
オールドもハヤマに頭を下げる。どうやら問題はなかったようだ。
「あれ、マスターはどこっスか? コマチさんも見あたらねっスね。」
「オキさんは確か20層の奥にある森エリアでレベル上げって言ってたかな。あそこはレベル上げにもってこいだし。コマチは…たぶんどこかで武器振り回してるよ。」
「相変わらずどこにいるのかわからないのか―。」
オキはいいとしてもコマチは相変わらず好き勝手にどこか戦っては戦利品をどっさり持って帰ってきて、また潜りに行くという行動をしていた。
「あの人大丈夫なんですか?」
「いつもそうだよ。昔からね。」
ハヤマ達は苦笑するしかなかった。
「やぁ!」
森の中でシリカの声が響く。オキもそのフォローにはいる。
「はぁ!」
シリカのダガーが動物系エネミーを切り裂き、オキの片手剣がとどめを刺した。あらかた一掃したために周囲にはエネミーは見当たらない。
「ふぅ…。シリカ、どんな感じ?」
「そうですね。目標には達しました。」
「おし、空も暗くなってきた。今日は帰ろうか。」
「はい。」
シリカのダガー熟練度とレベル上げを兼ねてクエストを行う為にオキ達は20層の薄暗い森のフィールドで狩りを行っていた。20層の奥にあるこの森エリアは他のエリアよりも高レベルのエネミーが出やすく、且つポップも早いため効率のいい狩場の一つとしてコマチから聞いていた。ただ、エネミーレベルの幅が広く、高レベルエネミーだと数層上クラスのエネミーも出てくる上、一番厄介な部分は森の区画が一定時間ごとに動く事で『入口付近で戦っていたのが気が付いたら一番奥でした』というのはザラであり、危険区域の一つとして余りプレイヤー達は利用しない。
オキ達が狩りを始めてから日は傾き、元々薄暗い森だったのが余計に暗くなってきている。
挙句、このエリアだけ夜になるとポップするエネミーが変化する仕様で高レベルエネミーも増えるとオキは聞いていた。森の木々の隙間から自分のいる位置を確認する為にオキは薄暗く光る迷宮区の塔を探し見つける。
「方角からすると塔の西側にいるな。さっき動いたから暫く森が動くことは無いからさっさと出ちゃおう。」
「そ、そうですね。薄暗くなって少し不気味です。」
シリカはいつも以上にオキに近づいている。どうやら不安のようだ。
「大丈夫だ。俺がついている。ピナもいるしな。怖かったら服掴んでてもいいぞ。」
「きゅる!」
はっはっはと笑いながら進むオキ。ピナも主人の感情を読み取ったのか肩に降り立っている。シリカは少し黙ってから、ゆっくりオキの服の裾を掴み一緒に歩いた。
不自然な歩き方になるが、何故かオキも心が落ち着いた。
『なんだかこういうのもいいもんだな。暫く共に組んでいたが、シリカもやるものだ。思った以上に上達が早い。何より俺の動きにしっかり合わせてくれる。』
数か月、共に行動してきたためか、元々相性が良かったのか、オキとシリカは双方の動きに合わせエネミーに攻撃、防御、回避を言わずにできる程にまでなっていた。
『本来ここまでの上達をするにはかなりの時間が必要だ。まだ粗はあるが、もしシリカがアークスならば、下手な奴より全然動ける。小さいのによーやるよ。全く。』
そんなことを考えながらオキは後ろについてくるシリカを見た。見たことに気づいたシリカは目が合い、はっとして直ぐにうつむいてしまった。オキはすぐに前を見直す。
『ただまぁ…。くすぐったいな。なんかこう…うん。』
心地よい気持ちでありながら、なんだかくすぐったい。こういうのを嬉恥ずかしというのだろうかと考えながら、エネミーを索敵しつつ、余計な戦闘を回避し出口を目指した。
ある程度歩いた頃だ。オキの索敵に反応があった。
「ん? エネミー…いや、プレイヤーか?」
キリトに教えられ最近になって索敵スキルを上げだしたオキはそこまで広範囲に索敵はできない。だが、それに反応があったという事は近くに誰かがいるという事だ。
「誰かいるのですか?」
シリカは周囲を見渡す。日がほぼ沈んでおり、森の奥は真っ暗になっていた為シリカには見えなかった。
「誰かいる。おい、誰かいるのか?」
オキの声に反応したのか、少し先の木々の間から数名のプレイヤーが出てきた。
「よかった。エネミーじゃなかったか。おい、出てきな。他のプレイヤーさんだ。」
「あー助かった―。もうだめかと思った。」
「よかった。人か。」
「助かったー。」
女性一人に男性三人のPTのようだ。
「あんたら、どうしたんだ? そんなところに隠れて。」
「いや、すまない。驚かしちまったか。あたし達、ここにレアアイテムがあるって聞いたから来たんだけど、迷っちまってさ。出るに出れなかったんだ。」
女性プレイヤーが状況を説明した。どうやらPTリーダーらしく、オキ達をエネミーだと思ったらしい。
「なるほど。どれくらいここで迷ってたんだ?」
「大体1日そこらかな。人もいなくてねぇ。いや助かった。あ、一応聞いておくけどあたしらと同じ迷子…じゃないよね?」
腰を曲げて上目づかいをしてくるお姉さん。なるほど。こいつらはこの色気についてきた感じか。ってか胸でけぇ。つか、ちけぇ。あ、やべ。シリカが変な目で見てる。いかんいかん。
「大丈夫だ。俺ら、ここでレベル上げしてて丁度森を出るところなんだ。しっかしよく1日も迷子になって無事だったな。情報はもってたのか?」
「いやー…。レアアイテムと聞くとつい。で、丁度街にいたこいつらが一緒に行きましょうとか言ったんだけど、情けなくって。」
「…面目ないッス。」
どうやらかなり恥をさらしたようだ。かなり落ち込んでる雰囲気だ。
「あははは…。まぁいいや。よし、旅は道連れってね。出口まで一緒にいくか。」
「ありがたい! あたしの名前はロザリア。よろしくな。」
「オキだ。よろしく。こっちはシリカ。」
「シリカです…。よろしくお願いします。」
「きゅるるる…。」
それぞれ挨拶をしている時にピナがシリカの肩の上でロザリア達に対して警戒している。
「ピナ…? どうしたの?」
「その子は?」
オキがその異変に気付くがすぐにあえてスルーした。
「ピナっていってね。下の層でシリカがテイムしたんだが人見知りのようでね。俺も慣れてくれるまで時間がかかったもんだよ。」
その言葉にシリカも異様に感じる。オキがそんなことを言うはずがない。オキはシリカを見ている。何かを察しろというのだろか。
「…そ、そうですね。この子、人見知りするんですよ。ほらピナ、おちついて。」
「そうかい…。なんだかモフモフしててかわいいからできれば触らせてほしかったのだが…。」
しょぼんと肩を落とすロザリア。
「しかし珍しいね。モンスターをテイムしたなんて聞いたことないんだが。」
「んー。まだ情報が流れてないのかね。ま、遅くなると厄介だしさっさと行こうぜ。」
オキは先頭に立ってシリカの手を握り横に近づけた。
「きゃ…! え、と。…オキさん。」
「大丈夫。俺がついてる。」
にっこりと笑うオキ。シリカは急に手を握られて真っ赤になる。ロザリアはそれをみて大いに笑った。
「はっはっは! あんたら面白いねぇ。いいねぇ。そういうの。おねーさん大好きだよ。」
オキは後ろをちらりと見る。おなかを抱えてオキとシリカのやり取りで笑っているロザリア。そして取り巻きの3人の男も笑っている。
「…。」
オキはそのまま出口を目指した。
「んー。方角からしてこっちだな。」
出口が近い事を確認し、入ってきた時の方角から二股の道を右に曲がった。
「そろそろ出口かな?」
「そうだな。そろそろ終わりだ。」
オキが道をまっすぐ進み、曲がり角を曲がる。するとそこは行き止まりだった。
周囲は土の壁で囲まれており、道幅は狭い。正しい道に戻るしかないのだが…。
「行き止まり…だね。間違ったのかい?」
「いや、あってる。わざとこっちに来たんだよ。」
「きゃあ! えっ? え!?」
オキはシリカの手を引っ張り、壁と背中の間に挟む。ピナはシリカの肩より飛びあがり、オキの隣でロザリアを見つめながらうなっている。先ほどからそうだ。オキもロザリアに向かい合って睨む。
「…どういう意味だい?」
「あんたらの仲間だろ? そっちの陰にいるの。隠れても無駄だよ。俺の索敵スキルにしっかり反応してるぜ。」
「…くくく。はははは! なんだい。ばれてたのか。おい。」
ロザリアが合図をするとゾロリとプレイヤーが森から出てくる。プレイヤーの頭の上のアイコンはオレンジ色に光っていた。6人、7人…。8人目で終了したが、オキはまだいると用心した。
「それで最後か? まだいるだろ。」
「いや、これで最後…あんた、まさか今のブラフだったのか!?」
「あーってことはそれで最後か。わざわざサンキュー。」
「くそ。思ったより頭が回るね。」
「え? え?」
状況が把握できていないシリカにオキは説明をした。
「こいつら、オレンジプレイヤーだ。頭の上のアイコン。オレンジ色だろ? 本来グリーンに光ってるはずなのがオレンジになっている。つまり普通のプレイヤーを攻撃し、傷付けた犯罪者だ。で、おねーさんがブラフだって言ったのは、俺が他の仲間に気づいていたと見せかけて、実はまったく気づいていなかったってこと。まぁやり口から考えて他のメンバーがいるとは思ってたからかましてみたらビンゴ。やっぱり隠れてやがったってことだ。」
周囲の男たちは武器を構える。ロザリアは口では笑っているが目が笑っていない。
「よく気付いたね。あたし達がオレンジプレイヤーだって。」
「だあほ。おめーら演技下手すぎ。まぁ最初に気づいたのはピナだったが、そのあとの行動。どう考えても1日もここで迷っていたようには見えない。人間どんな奴でも1日以上迷いかえる道が分からなくなれば衰弱するはずだ。何度も見てきた。だがお前さんたちは笑っていた。ニヤニヤとな。」
「くく…ははははは! こいつはたまげたなぁ。こりゃあたしもお手上げだよ。ばれては仕方ない。あんたらの持ってるアイテムと金。全部だしな。そうすりゃ命だけは助けてやる。」
「…断る、といったら?」
「さぁてねぇ。どうしようかね。」
ロザリアのメンバーが全員武器を構える。無事じゃ済まないだろう。
「シリカを守れる配置にしてよかったぜ。」
ボソリとオキはつぶやいた。
「え?」
「…なんだって?」
オキは装備していた片手剣を槍に変え、アクティブ化。そして構えた。
「おめーらこそ、ただじゃ帰れねーと思えよ。俺とシリカを狙った事、今迄行ってきた犯罪。全て悔いろ。おら、おめーらの相手してやるよ。かかってきな。ただし、俺だけにな。」
その姿、その言葉。すべてが何故か重く感じた。先ほどまでのカップルのような青年には見えない。どこか戦いに慣れている。ロザリアはそう感じた。
『なんなんだ。この男は。おびえるそぶりが全くない。むしろ…わらってる!?』
「く、くそ! やっちまえ!」
「「「おおー!」」」
オレンジカーソルのついた8人の男がオキの方へ駆ける。だが道事態が狭く、オキを囲むにはその半分もいかない3名ほどが限界だった。
「ふん!」
オキの槍が駆けてきたオレンジプレイヤーの肩に刺さる。そのまま引き抜き、オキは前方の足元を薙ぎ払った。その為、オキの前にいたプレイヤーは全員槍によって足払いを喰らう。
「ぐああ!」
「くそ、こいつつぇ!」
予想外の動きを見せつけられたオレンジプレイヤー達は最初の勢いが一気に下がり、オキの武器の範囲内に入る事が出来なかった。
「おめーら遅すぎ。加えて馬鹿正直すぎ。こんな狭いところでまっすぐ突っ込んでくりゃ、そりゃ槍の餌食になるのは当たり前だろ。ちったぁここつかえ。」
頭を指差しながらニヤリと笑う。
「く、くっそお…。」
「ぐうう、肩をやられた…。ポーションくれ! あのやろお!」
煽られ、完全に頭に血が上ってるオレンジプレイヤー。ロザリアはそれを危険と感じ一括した。
「あんたら! 少し煽られたくらいで切れんじゃないよ! 相手は一人なんだ! しっかり防御して武器を弾きな!」
『しかし、あの動きと落ち着き。本当にただ者じゃないね。なんというか、この状況に慣れている様な。一筋縄じゃ行きそうにないね。だったら…。』
「おい。」
「へ、へい。」
伊達に女でリーダーをやっているわけじゃないようだ。たった一言で周りのメンバーは落ち着きを取り戻し、機会をうかがう。そして一人のオレンジプレイヤーはロザリアから何かを聞いている。ここからじゃ聞こえない。
『こまったな。俺一人なら一気に叩き潰して逃げるんだが、シリカもいるし…。』
オキ一人ならこれくらいの状況はさほど問題にならない。ダーカー相手にするより断然ましだ。だが、今回はシリカがいる。どうするか。
「くらえ!」
「だから遅いって。」
一人の男がとびかかってきた。オキは振り下ろされた剣を避け、槍の柄を腹に突き刺す。刃の方ではなく柄の方なのでそんなにダメージは無いのだが、腹を一点集中で突かれた為に腹を押さえてのたうちまわる。だが男一人ではなかった。
「ばかめ! 俺もいるんだよ!」
そのすぐ後ろから別の男が腰を低くして突進してくる。どうやらオキの足を狙っているらしい。だが、それもオキには遅い。すぐさまオキは槍を男の頭に向かって振りおろし、叩きつけた。
「まだまだ!」
「しっつけえなおい!」
次々に襲ってくるオレンジプレイヤー。そんな時、違和感があった。オレンジのカーソルが付いたプレイヤーが7人しかいないのだ。そう先ほどのロザリアの近くにいたひとり。
『もう一人は…!? まさか!』
オキが後ろの壁を確認するのと、シリカとオキの間に消えたオレンジプレイヤーが降り立ち、シリカに抱き着き、後ろからシリカの喉元にナイフを突き立てたのが同時だった。
「きゃああ!」
「しまった!」
男は壁伝いに隠れてオキ達の裏に回ったのだ。
「へ、へへへ。これでどうしようもないだろう? こいつの命がほしければ、武器を地面に置きな! へ、へへへ…へ?」
「きゅるるる。」
男の顔面の前にピナが飛んでいた。そして口を開き…
「きゅるううううう!」
ごおおおぉぉぉ!
小さくもドラゴン種。男の顔面を焼くには十分すぎるブレスを吐き出した。
「ぐああああ!」
「ナイス! ピナ!」
オキは主人を守る為、ピナが男を焼いている隙にシリカの手を引いて再び壁と自分の間に挟んだ。今度は全員が分かる位置取りをして視野に入れる。
「大丈夫か!?」
「は、はい。ちょっと驚きましたけど、ピナが、オキさんが、助けて…くれたから…。」
顔は笑っているように見えるが、体は震えている。怖かったのだろう。一瞬でも喉に刃物を突き付けられたのだ。その恐怖は恐ろしいの一言では言い表せない。オキは後ろ手にシリカの頭を撫でて落ち着かせてやった。
「すまないな。守るべきモノを守れないなんて、失格だな。」
「いえ…そんなことは…。ありがとうございます。」
オキは一度目を閉じてロザリアたちの方にカッと目を開く。
「…ふざけやがって。」
オキは自分ではなく、シリカを狙った事に腹を立てた。そして守れなかった自分自身に。
「ふざけんじゃねーぞ。てめーらの相手は俺だろうが!」
オキは顔を焼かれ、髪の毛が焦げて地面を転がってる男の横腹を蹴って仰向けにした。
「ごはぁ!がっ!」
オキはそのまま皆が見える方向にころがし、男の胸の上に思いっきり足を乗せ抑える。
「な…なに…を。」
オキは完全に切れていた。地面に押し付けられている男は更に恐ろしい物を見る。オキの槍だ。頭を狙っている。そのあとに何をするのか明白だ。
「や、やめろ…やめ…!」
ドドドドド!
男の頭の周囲を当るか当らないかのスレスレで素早く突いた。そのスピードはロザリアたちには見えていなかった。もしすべてが男の頭を貫通していた場合、その男はHPバーが無くなり、その直後に外の世界では頭を高出力電磁波で焼き殺されていたところだろう。
男の目から涙がこぼれる。
「やめ…やめて…くれ…たの…む。」
男は初めて死ぬと思った。それは冗談ではなく本気で。オキの顔は相変わらず先ほどの温厚な顔ではなく、怒りに満ちた恐ろしい顔になっている。
「死にたい奴…。」
「…何?」
オキがボソリとつぶやく。ロザリアたちには聞こえなかった。
「死にたい奴から、かかってこい!」
オキは泣きべそをかき、完全に戦意喪失している男をロザリアの方へと蹴って転がした。
「う…、うわぁぁぁぁぁ!」
一人のオレンジプレイヤーがオキに武器を振りおろし掛けてくる。オキはその武器を簡単に弾き返し、男の両膝に槍を突き立てる。
「ぐあぁぁぁ!」
男は立てなくなり、そのまま膝をつく。そこへすかさずオキは槍を振り回し、男の顔面に槍の柄をたたきつけた。まさに野球だ。
「っが!?」
男はそのままきれいに回転、地面に後頭部をぶつけた。HPバーは赤色まで減っている。このままでは死んでしまう。周囲のメンバーはそう思った。
「てめぇ! 殺す気か!」
オキはゆっくりと動き、槍を地面に突き立てる。
「あ? おめーら、ふざけてんのか? 人を騙し、傷つけ、襲い、物を奪う。そんなことをしてきた犯罪者が殺す気だぁ? 舐めてんじゃねーぞこら!」
オキの声はビリビリとロザリアたちに響く。
『一体…なんだんだ!? この男は! このあたしが…動けない!?』
あまりの迫力と威圧感にロザリアたちはその場を動けなかった。
「てめぇら。人を傷つける事をする以上、てめーが殺される覚悟がねーならこんなアホなことやってんじゃねーよ。バァータレが。」
ゆっくりと近づいてくるオキに対し、全く動けないオレンジプレイヤー達。オキは顔を抑えうずくまる男に近づいた。オキは槍を振り上げる。
「ぐうう…う? な、何を…やめ、やめてくれ!」
「…。」
振り下ろそうとした時だ。オキの後ろからシリカが抱き着き、それを止めた。
「オキさん!もう、もういいです! ほんとに死んじゃいます!」
「シリカ…。だがこいつらはお前を…。」
シリカは更にギュっと抱きしめる。
「いいんです。オキさんまで、オキさんまで犯罪者になってはだめです!」
オキはその言葉を聞き、這い蹲って命乞いをしている男を見る。
「…くっ!」
ドス!
槍は男の体をかすめて地面に刺さる。それにより腰が抜けた男は四つん這いでロザリアたちの方へと逃げて行った。
「く、いったん逃げるしかないか。」
ロザリアはオキの戦力を考えれば、下手をすれば自分の命も危うい。オキの強さが予想以上に強かった。いや、強すぎた。もしシリカがおらず、オキだけであれば混戦状態に持ち越され、自分も躊躇なく切られていただろう。
逃げようと後ろを向いた時だ。後ろの道はいつの間にか見知らぬプレイヤー達で埋まっていた。10名、いやまだいる。
「どこへ行こうというのかな?」
「だ、誰だ!」
「俺らはギルド連合アーク’sだ!!」
「オキ君! 大丈夫か!?」
ディアベルとアインスを筆頭に、オキが呼んだ助けがようやく来たらしい。
森を抜ける最中にオキは彼女らが犯罪者、オレンジプレイヤーだと気づきアインス達に連絡を入れていた。
「おせーぞおめーら。ったく。」
オキはシリカを抱きしめ、その場に座り込んだ。
「アーク’sって。あの攻略組の!?」
「その通りだ。ようやく気付いたのか。バータレが。」
振えるシリカの肩を撫で、落ち着かせるオキ。
「君たちの情報は聞いている。オレンジギルド「タイタンズハンド」。フィールドや迷宮区を探索するパーティに混ざっては手頃な獲物を物色し、誘い出してオレンジプレイヤーの部下に狩らせるという手口で、強盗や殺人といった様々な犯罪行為を犯しているという。そしてそのリーダー。ロザリア。」
「っく!」
ロザリアは何とか抜け出そうと模索するがこの人数では抜け出せない。それ以前に、攻略組の最強を誇ると言われるギルド連合『アーク’s』に目を付けられたのだ。逃げきれても、隠れるほかない。
「やはり人を殺していたか。手口が慣れていると思ったよ。だがワリィな。越えてきた屍と場数、修羅場の桁がちげーんだよ。」
シリカの手をしっかり握り、自分の体で守りながらロザリアに近づくオキ。
「…そうか。そういう事か。イレギュラーズ。あんたがその一人だったんだな。納得したよ。降参だ。投降するよ。」
ロザリアはその場に座る様にメンバーに指示し、自分も手を上げて座り込んだ。
「隊長。」
「ああ。持ってきている。」
オキはアインスにあるモノを持ってくるように指示していた。
「こいつを使え。君たちは犯してはならない事をした。罪は償ってもらうぞ。」
アインスはロザリア達にむかって一つの結晶を投げる。
「回廊結晶…。」
回廊結晶。よくプレイヤー達が使う転移結晶は各層にある転移門に一人だけ転移させるが、回廊結晶は指定した位置を結晶に登録し、多人数を登録した位置へ瞬時に移動させるアイテムだ。
だが、転移結晶より値段が高く、簡単に手に入るモノでもない。ギルド連合でオレンジプレイヤーを黒棺宮の中にある犯罪者用の牢屋にどうやって送りつけるかを相談した結果、これに行き着いた。
オキ達は最前線で攻略している為、資金については特に問題なく、難なく手に入れることができる為、こうして使用している。
「黒鉄宮を登録してある。よく外の景色を見ておくんだな。ゲームクリアするまで、見る事はないぞ。」
「そうかい…。」
一度牢屋に入ってしまうと外に出ることはできない。本来はゲーム運営者がある一定期間を超えると出すようにするのだが、現状ではそれが出来ない為ゲームクリアするまで牢屋へ入ったオレンジプレイヤーは出ることができない。逆にグリーンプレイヤーは出入りが自由に効くらしい。
現在は黒鉄宮をギルド拠点にしている『アインクラッド解放軍』の長であるディアベルが管理している。ロザリアは回廊結晶を拾いオキに向いた。
「あんた、その子しっかり守りなよ。」
「わーってるよ。おめーらみたいのがいないのならもっと楽なんだけどな。」
「…増えるぞ。今後、まだ私たちのような者がな。ま、頑張りな。」
ロザリオは自分のギルドメンバー全員を回廊結晶で移動した。
オキはそれを確認するとその場に座り込んだ。
「ふぃ…。まったく困ったもんだ。」
「オキ君大丈夫かい?」
アインスが心配そうにこちらをみた。
「大丈夫。シリカは…。」
「私は大丈夫です…。その、ずっとオキさんが手を握ってくれてましたから。」
顔を真っ赤にしながら握られている手を見ている。オキもそれに気づき、すぐに手を離した。
「あ、えっと。わりぃ。」
「いえ、大丈夫…です。」
双方黙ってしまう。アインスはそれをみて笑っていた。
「はっはっは。仲がいいのは良いことだ。オキ君、いいところ悪いが後で少し今後の話をした方がいいかもな。」
「ああ。あいつの言ってたことは間違いないだろう。っち。またアークスの時と同じ様に騙し合い傷つけ合いが始まるのか。勘弁だぜ。」
二人はその場で上を向き黙った。森の木々から見える夜空がチラチラを顔を覗かせていた。
ペース上げようと思ったら急遽デカい仕事が入って結局同じ位かかってしまった…。しかも長いし。
初のオレンジプレイヤーとの接触ですよ。多対一の状況でも戦う事が多いアークスには問題はなかった。まぁ調子乗ってシリカを危険にさらしたり、それに対して切れるところはやはり人という事で。
今回のタイタンズハンドは本来もっと上の階層にある迷いの森をベースにして改変しました。今後もあちこち都合がいい様に改変していきますのでご了承ください。
さて、そろそろ25層のクォーターポイントです。ここでは物語の謎が更に追加されます。
次回も生暖かく見てくださいね。