恋愛物語集。   作:Aru96-

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さて、今回はガハマさんです。


お弁当。

 

 

春の麗らかな日々も過ぎ去り夏に向けて日差しが強くなる。特に今日は何時もより太陽が眩しい気がしなくもない。教室にいる連中は上を脱ぎシャツ一枚で過ごしているヤツもチラホラいた。かく言う俺もそのスタイルで腕まくりをしている。普段なら絶対にしないのだが慣れない暑さに頭がどうかしたのだ。

 

つまらない数学の授業、何時もなら寝ていて授業後に呼び出されるまでがセットなのだが、城廻先輩が卒業し、もう3年で受験生なため苦手な教科は嫌でも勉強しなければならない。学年が繰り上がる日くらいに愛しのマイシスター小町から眼鏡のプレゼントを貰い、

 

ーー受験生のお兄ちゃんに勉強頑張ってもらいたいと思ってプレゼントします、あ、今の小町的にポイント高い。

 

と言われ、その後思いっきり抱き着いて来てくれた。やべぇやる気出たわ。本気だそ。

思った矢先、終わりを告げるチャイムが鳴り、級長様が指示をして全員が起立する。ひとことお礼の言葉を言わされる。何でお礼なんて言わなきゃならないんでしょうね。キレそう。

 

昼食の時間。この学校には給食と言う鬼畜システムは無いため、持参した弁当やら何やら好きに食べられる。本当なんだよ給食と言う名の地獄。自由に食べてもいいじゃんかよ、なんで班を作らなければならないんだ。あの時俺をハブした挙句、結構好きだったハンバーグを横取りしてきた西山君を絶許。

 

アホ毛からつま先までブルーな気分になりながらベストプレイスに向かう。相模及びその取り巻きによる堂々とした演説の名の下ヒキタニバッシングはピークを通り過ぎていた。所詮噂も75日と言うし、それに根源は本当のことだから今更否定する必要もあるまい。

 

何時ものように階段脇に座ると珍しく母親が作ってくれた弁当を広げる。親父みたく俺に冷たい訳では無いので普通のお弁当で、それがちょっぴり嬉しかった。だけどタコさんウインナーは流石に無いと思います。

 

「やっほー、ヒッキー」

 

横からアホが考える挨拶が聞こえてくる。ご存知の通り由比ヶ浜結衣。ビッチっぽい処女でデカメロンを2つ装備して自前の計算なしの天然スキル持ちで何処までも優しい真っ直ぐな女の子。俺の知っているのはこれくらい。まだ見ぬ一面があるかもしれないがそれを知ろうとは思わない。勝手に期待して期待した以上にその人に幻滅する自分が嫌になるから。だからこそここぞという時に本能では無く、理性が真っ先に働く。長年戦い続けて身に付けたアビリティと言えばいいのだろうか。あれそれだけやっても此れだけしか会得してないって何やってたの俺ェ。

 

「おう」

 

「……今日お弁当なんだね」

 

太ももにに乗せてある俺の弁当を見て一言、少しだけ残念そうな顔をしながらそう言う。

 

「まぁな、どうかしたか?」

 

「いやっ、なんでもない! あははは……は…」

 

由比ヶ浜はいつもそうだ。何かある時はいっつも困ったような顔をしながら綺麗に丸められ頭の横に付けられたお団子ヘアーを弄る。

 

「取り敢えず座れよ」

 

顎で空いているスペースに向けて動かす。言われるがまま由比ヶ浜は俺の隣に座る。いやもうちょっと距離考えようよ。肩当たってるんですけど。あっ、いい匂い……

 

風に煽られ柑橘系の甘い匂いが鼻腔を擽る。多分これは由比ヶ浜の髪の匂い。一体何のシャンプーを使ったらそんなに強い香りを残せるのか不思議なところだが、嫌な感じはしなかった。ガサついた俺の髪の毛とは全然違うな。

 

「その、なんて言うか、ヒッキー、私もお弁当作ってきたみたいな……」

 

もしゃもしゃと母親の弁当を食べていたら横からとんでもない発言が聞こえる。

 

「弁当……だと……」

 

「うん、やっ、、でもヒッキーのお弁当よりも不恰好だし、正直美味しくないと思うし上手く出来てないから、その、お家帰って自分で食べるね……」

 

最後になるにつれてポソポソと小さくなっていく声だがしっかりと俺の耳に届く。よく見ると指には幾つも絆創膏が貼ってあり、頑張ったという証拠に心が揺れてしまう。

 

「えっと、でもやっぱりヒッキーのだから全部頑張りたいし、その、もっと上手くなってから食べてくれる?」

 

「……それよこせ、と言うかください」

 

「でも、ほらーー」

 

「一般の男子高校生は弁当一箱じゃお腹いっぱいになんないんだよ、だからください」

 

自分でも恥ずかしいくらいにみっともないと理由だと思う。笑っていて欲しかった。由比ヶ浜の笑顔はみんなを明るくして元気を与えるそんな感じ。なにより俺なんかのためにそんな顔をしないでほしい。

 

「ありがとう、ヒッキー」

 

むりくり由比ヶ浜から弁当を奪い取るとあとはもう勢いで食べる。

 

「うっ、ごほ、ごほ、、」

 

「あぁ、ヒッキー、はいお茶!」

 

「サンキュー」

 

ペットボトルを受け取ると喉につっかえてるものをお茶で流し込む。ものの数分で食べ終える。正直物凄かった。なんかもう川の向こうに別世界を見たもん。

 

「どうだった?」

 

不安そうに聞いてくが、その顔は少しニヤけている。器用な奴だな。正直に言うべきか言わないべきか、少し迷うのだが由比ヶ浜はもっと上手くなったらと言った。ここは言うしかあるまい。

 

「正直、美味しくは無かったな。塩が効きすぎて辛いのもあれば甘すぎるものまであった。見た目はそこまでひどく無いのにな。多分味付けを由比ヶ浜なりにアレンジしてるんだろ? アレンジする事は大事だがそれはキチン出来るようになったら試した方がいいぞ」

 

「うぅ、やっぱりかぁ、でもありがとヒッキー。なんて言うかすっごい嬉しかった。お弁当頑張ってみるね!」

 

由比ヶ浜が俺に向けて笑顔を作る。それが眩しくてそっぽを向く。しょうがないなぁと小声で呟いているのが聞こえ、右腕が包み込まれる感触。肩に少しの重み。不思議と嫌な感じはしない。むしろ心地よくこの時間が永遠に続けばいいと、この世界に2人だけだと錯覚する。

 

「その、なんだ、由比ヶ浜さえ良ければなんだが、一緒に作らないか? 弁当」

 

「うん、作る、作りたい。一緒にキッチンに立って、他愛の無い話をして、それでテーブルの上で小町ちゃんも入れて作った料理を食べるの。それ以外にも、もっともっとヒッキーと時間を共有したいなぁ……すぅ…すぅ…」

 

目を閉じて自分の将来の夢を語っているように由比ヶ浜は幸せそうな顔をしている。規制正しく寝息が聞こえる今もそれは変わら無い。

 

由比ヶ浜が言ったような事を一度頭で考えてみる。だがそれは俺にはむず痒くて眩しすぎる光景だった。

 

でも、少しだけ期待してみるのもいいのだろうか。

 






さて、どうでしたか?

ガハマさん可愛いですよね。好きです。

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