「……もうちょっとこのままいましょうよ」
と、あざとい後輩一色いろはがそう言う。偶然。本当に偶然が重なって一色は俺の股の間にすっぽりと収まる形で転けた。
自室のベットに座っていた俺はなすがまま。退かそうにも女の子の身体に触るのは気が引け、自分がそこから退こうとすると手首を掴まれて動けない。
「先輩、嫌……ですか?」
どうしたものか。背の高さもあり必然的に上目遣いになり俺を見上げてくる。だが何時ものような猫をかぶっている様子は無く、素でやっているのが見て取れる。
猫かぶりの達人において総武高の現生徒会長の一色いろは。頑張っていた。何より俺が生徒会長にしてしまったため少しばかり罪悪感もあり、彼女の頼みは断りにくいのだ。
「私はもっとこうしていたいです。先輩と、ずっと一緒にいたいです」
あぁ、やはり俺は弱い。誰かが俺のことを理性の化け物だと言った。だがそんな事はない。幾度となく繰り返される勘違い。だけど今は、今だけは勘違いでいいや。
「俺も、一緒にいたい」
後ろから抱きしめ、首筋に顔を埋める。気がある異性はとてもいい匂いがすると何処かで聞いたことがあるのだがその通りだと思う。現に一色からは爽やかで甘い、そんな感じの匂い。これを言ったらごめんなさい無理ですとか返ってきそうだな。そう思ったら何だが少し笑えてくる。
「チョロいですねー、せーんぱい、えへへ」
そんな軽口を叩きながらもニヨニヨと頬が落ち、ニヤけが抑えられていないだるだるの表情。案外一色の方がチョロいのかもしれない。
「……いろは」
彼女の耳元で囁くとビクッと身体が震える。ふぅ、と最後に息を吹きかければ背筋がゾワゾワしたのか小刻みに震えた。
「先輩卑怯です。仕返しします」
「あ、ちょ、おい」
左頬に温かく柔らかい感触。避けようかと思ったのだが避ける必要もあるまい。俺と一色の間には確かなモノがあるのだから。
それを俺が求めた本物かはわからない。だけどいつか答えが出るだろう。
「今度は先輩から……元気と言うか、たくさんの愛情を注いでください」
「………」
「私もたっくさん注いであげますから」
吸い寄せられるかのように俺は彼女の唇を奪った。愛の注ぎ方な分からないが、多分ちゃんと伝わっているはず。一色からはこんなにも伝わっているのだから。
「しちゃいましたね、先輩。えへへ、先輩先輩、せーんぱい」
彼女がそう言って笑顔を向けてくる。多分これが答えだろう。
ーーそして俺はまた彼女に触れた。