「8年振りにお兄様の顔を見ました。それが人殺しの顔なのですね。おそらく私も同じ顔をしているのでしょうね。……人を撃った時の感触がまだ……」
ナナリーの銃を握る手もガタガタと震えている。
「お前ギアスの……。では、やはり今までのフレイヤはお前が?」
「はい。 シュナイゼルお兄様の本当の目的も……。流崎アキラさんを止めるために!お兄様が死ぬことになったとしても。ですからお兄様にダモクレスを、このフレイヤの鍵をお渡しすることはできません!」
ナナリーはルルーシュに銃を構えたままあるボタンを押した。
「コーネリアお姉様、ナナリーです。今司令室を抑えました。すぐに来てください」
ダモクレス艦内で呼びかけるとナナリーは別のボタンを押すとダモクレスの速度が上がりだした。
「ナナリー!?お前……!」
先程の呼びかけがコーネリア達にも聞こえた。
「トウキョウ戦後、捕らえられた私はナナリー様のご配慮で命を助けていただきました。しばらく身の回りの世話してたのですが……私は見ました。ナナリー様が一瞬、瞳を開いている姿を……」
長い間ナナリーと共にいた咲世子は彼女の変化に見逃さなかった。
「ナナリーは……私達が決起するのを知っていたのか…」
「シュナイゼルお兄様達の目を盗んでこのダモクレスについて調べてました。今、アキラさんを追ってワイズマンのところへ向かっています」
「どうするつもりだ?」
「フレイヤをワイズマンに撃ちます!お兄様、アキラさんもこの世界を手にする資格はありません。ゼロを名乗って人の心を踏みにじってきたきたお兄様には」
「では、あのまま隠れ続ける生活を送れば良かったのか?暗殺に怯え続ける未来が望みだったのか?お前の未来のためにも」
「いつ私がそんなことを頼みましたか?それがお兄様の願いだとしても私は否定します!人の不幸の上に成り立つ幸福は…いらないです!」
ダモクレスが急加速で移動していることにスザク、カレンは気づいた。
「ダモクレスがっ!? ルルーシュやったのか?」
「何!? どうして?」
制圧に成功したのかと思われたがダモクレスは速度を緩めずこちらへ近づこうとしている。
事態が収束する前に急ぎ彼に追い付かなければならない。カレンは前方を走るアキラ、ティルヴィングを目撃し呼びかける。
「アキラ!! それに乗ってるのアキラでしょ!!」
「………」
「アキラ帰りましょう!あなたの居場所はそこじゃない!」
「……俺の…邪魔をするな!」
アキラはカレンの呼びかけに冷淡にかえす。
「ワイズマンの後継者になりたいの? そんなもんになったら世界中からあなた狙われる!もう…安息できる場所がなくなる」
「お前には関係ない。ここから出ていけ!」
「この…分からず屋!!」
ティルヴィングに向け撃とうとした時背後からランスロットの砲撃が襲いかかりカレンは回避する。
「スザク……!」
「カレン、どうしても邪魔をする気か?」
「スザク!あんた達何の目的でこんな事をしてるの?」
「何⁉︎」
「やり方は違うけれど、あんたはあんたなりに日本のことを考えていると思っていたの。でもこれは何‼︎ まるで世界中の憎悪を一身に集めて……」
「………」
ランスロットからのエナジーウイングの攻撃を掻い潜りながら紅蓮は左腕からガトリング砲を展開させ迎撃する。
「自分は、俺とルルーシュにはやらねばならないことがある」
「そう、そんなに力が欲しいの?……だったら」
2人が対峙している隙にアキラはワイズマンのもとへ行こうとするがc.c.が立ち塞がる。
「悪いがお前を通すわけにはいかない」
「………」
アキラ……、彼もギアス、ワイズマンに運命を狂わされた男。そしてアキラはワイズマンの後継者となるべくルルーシュと敵対する。
「………お前が俺を止められるか」
「……そうだな。だが少しでも足止めしてみせる。でないとアイツとの約束があるからな」
C.C.のランスロットの銃撃を回避するとティルヴィングの蛇腹剣が鞭のようにしなやかにランスロットの左腕、左脚を切断させ動きを止めようとするがC.C.はそのままアキラに突撃し地面に激突した。
「くっ!」
アキラは離そうとするがC.C.は組みついたまま離そうとしない。
斑鳩に突入した星刻達は天子達の救出に向かう途中ガタイのいい大男が立ち塞がった。
「道を開けてもらう!!」
星刻は持っていた刀を振りかざす。男は寸前に避けると星刻の両腕を掴み動きを止める。
「お前、黒の騎士団か!?」
「っ!? だとすれば??」
「俺はジェノム、お前らに用がある」
大男、ジェノムからの申し出に星刻は距離をとり刀を構える。
両者の間に緊張の張りが詰める中その空気を壊す間の抜けた声が響いた。
「ジェノム〜! 連れてきたぜ!」
「玉城!? 生きていたのか??」
消息不明だった玉城の姿を見て星刻は戸惑いの色をのぞかせる。だがそれと同時に…。
「星刻!!」
そこには囚われていた天子がこちらへ駆けていく姿が見えた。
「天子様!? ご無事ですか!?」
「あの方達が助けてくれたのです」
そこにはロイド、セシルが神楽耶ら人質達を連れてきた。
「星刻様、私達はあなた方の味方です」
「ルルーシュを裏切ると?」
「私達は脅されていたのです。しかし、ルルーシュがいなくなった以上は」
「少なくとも、独裁者を是としないという意味では信じてよいかと」
「神楽耶様……」
「はやくしろ。この艦はもうすぐ沈む」
星刻はジェノムを睨む彼の容姿を見てブリタニア本国の先住民インディアンだと思われるが何故この場にいるのか疑問であった。
「我々と行動を共にすると?」
「俺はここから早く出たいだけだ。連中達の茶番にいつまでも付き合ってられない」
「どういうことだ?」
「………」
「いいだろう。まずはここから出る。 藤堂、天子様各首脳の人質の救出に成功」
「わかった。では次の行動に移る」
斑鳩に戻っていた藤堂は扇の元へといく。
「扇、星刻らが人質を救出した」
「そっそうか!これで障害がとり…」
「黒の騎士団は急ぎ区域から離脱するんだ」
「何っ!?」
「今の戦力で戦闘続けるのは無理だ。撤退し戦力を整えるのが先決だ。これ以上シュナイゼルに利用されることはない」
「違う!!利用しているのは俺たちだ!! この状況を利用しシュナイゼルとルルーシュが共倒れしてくれれば俺達がワイズマンの力を手にすることができる! それが日本を…俺達が大事なものを守ることができる!!」
「扇……」
藤堂は扇に対し怒りではなく。哀れみにも似た感情で彼をみた。
「しかし、現実は様々なものによって支配されている。抗うことは必要だ。だからこそアキラをワイズマンの後継者として認めるわけにはいかない」
「お兄様もアキラさんも……私から見れば同類です。人の心を捻じ曲げ、尊厳を踏みにじるギアスを使ってどれだけの人々を殺めてきたのですか!!」
「ふっ、ならナナリー、お前は自分の手でシュナイゼルを撃った。お前も俺達と同類じゃないか」
その指摘にナナリーは苦悶の表情を浮かべる。
「……そうです。私も人を殺めました。だから……憎しみはここに集めるんです。皆が明日を迎えるために」
「何!?」
「ダモクレスもワイズマンも全ての憎しみと共に滅び去るのです!今日ここで!!」
「ナナリー……!」
「お兄様、私と共に死んでください!!血塗られた一族の歴史を終わらせます!」
(そうか……ナナリー)
引き金を引くナナリーを見てルルーシュは不敵な笑みを浮かべる。銃口を向けられているのにもかかわらずそんな態度にナナリーは不気味に感じた。
「ナナリー様!!」
背後から咲世子が飛び出し瞬く間に手刀でナナリーが握っていた銃を落とした。
「よくやった咲世子」
咲世子によって抑えられたナナリーを尻目にルルーシュは転がったフレイヤの起動スイッチを拾った。
「ナナリー、お前程度にギアスを使う必要はない」
「お兄ぃ…様」
ナナリーはキッと咲世子を睨む。
「咲世子さん!なんで…私はこれ以上お兄様に罪を重ねてほしくなくて……」
「ナナリー様……」
「お兄様……、お兄様は卑劣です!!」
『皇帝陛下、ジェレミアです』
「ジェレミアか、ダモクレスを掌握した。コーネリアは?」
『アーニャに任せてます。それよりたいへんなことが』
「何!?」
『ダモクレスに自爆装置が作動しています。あと15分経てば……』
「っ!? 解除できるか?」
『無理です。解除できる時間を過ぎました。おそらく我々が突入した直後作動させたのではないかと』
ルルーシュは倒れているシュナイゼルの遺体を見る。まさかと思い…。
「シュナイゼル…!やってくれる!!」
ダモクレスが制圧されることも予測した上での行動だったのか。自分を道連れにしてでもワイズマンのために尽くそうとしている。
ワイズマンに心酔しているのはわかっていたが……。
このままダモクレスが爆発されると内臓されてあるフレイヤが誘爆されるとこの区域にいる敵味方関係なく消滅する。
「急ぎこの区域から離脱する。咲世子はナナリーを連れて行くんだ」
「お兄様っ!!」
ナナリーは床に落ちてあった拳銃を拾おうとするが車椅子から転げ落ち
る。咲世子が抱き抱えるがナナリーは暴れて抵抗する。
「離して!!お兄様は私が!! お兄様!!」
「ナナリー、お前に見せてやる。俺が世界を手に入れる」
「ジノ、死にたくなかったら手をかして」
「アーニャ……」
今、味方がコーネリアのみとなった状態で抵抗は無駄死に思えた。ジノはコーネリアと視線を合わせる。
「今はここから脱出するのが先決です」
「また、生き恥を晒すか……。ふっ、いいだろう。 ルルーシュのつくる世界を見届けてからこの命散らせてやろう」
「トリスタンが格納庫にあります。アーニャ、それでいいだろう?」
「……わかった。ジェレミアがいるのを忘れないで」
脱出を試みるコーネリア、だがその心中は……。
(さらばだ我が騎士ギルフォード…。私もすぐに……)
離れた廊下には血まみれで横たわるギルフォードがいた。身体中を撃たれ事切れる寸前であった。
「ひめ……様…」
蜃気楼へと戻ったルルーシュはジェレミアと連絡をとった。
「ジェレミア、ナナリーと咲世子は?」
「はっ、無事保護しました」
「よし!お前はこのままダモクレスから脱出するんだ。そして兵達をダモクレス周辺に集結させる。黒の騎士団を引き付けていく。」
「陛下は?」
「俺はアキラを追う。ワイズマンと決着をつける。予定を早まるがゼロレクイエムを開始する!」
「……っ!? イエス・ユア・マジェスティ…」
ルルーシュ達がいなくなり静寂に包まれた中シュナイゼルが小さく声を枯らしながらつぶやいた。
「ワイズマン……間もなく流崎アキラはあなたのもとへ……」
するとゆっくりとこちらへ近づく足音に気付きシュナイゼルは上体を起こす。
「っ!? あなたは………!」
そこにはアカーシャの剣と共に消えた井ノ本寛二の姿があった。サングラス越し表情は伺えないが偽物には見えなかった。
「その命ワイズマンに捧げるか……。見事な忠誠心だ」
「何故…あなたが……?」
「私はワイズマンの目でもあり耳でもある。この闘いを見届ける役割をあの方に与えられた。そして今あの男がワイズマンの後継者となる。 だからこそ私は再び姿を現した」
そう、あの直後井ノ本はシャルルらと共に消滅されたと見られたが実際はワイズマンの手により転移させられ今まで事の成り行き
を監視していたのであった。
「そう…か……」
「君はここまでだ……」
「最後に聞きたい………。僕は…あの方、ワイズマンのお役に立てたのか……?」
「…………そうだ。君はワイズマン為に働きそして死ぬのだ」
そう伝えると井ノ本はシュナイゼルに背を向けこの場から去っていく。
「そうか……。僕は…初めて人の為に……生きていけたんだ……。はっ…はは………」
シュナイゼルの乾いた笑い声。そこには死への絶望はなく。誰かの為に生きた満足感で溢れていた。
「ダモクレスを中心にして敵が集結し前方を固めています」
黒の騎士団のほうでもダモクレスの変化が伝えられそれを見て扇が焦りを見せる。
「まずい、ルルーシュ達がダモクレスを制圧したんだ。すぐにでも攻撃を」
「扇、お前はまだ…!」
藤堂は千葉らに扇を退げるように命じた。
「離して…離してくれ! これは俺たちの責任で決着を…だから!!」
C.C.のランスロットを引き離し先へ進もうとするが背後からカレンが
猛スピードでアキラのティルヴィングへと激突し動きを止めた。
「カレン!!」
「アキラ!!」
対峙する2機にスザクのランスロットのヴァリスが襲いかかる。彼も追いついたのだ。
「カレン、アキラここで終わりだ」
3機は銃口を互いの相手に向け距離をとる。
「……」
「……」
「……」
3人は呼吸を整いながら相手の動きを伺う。どちらかが先にトリガーを引けば最後の闘いが始まる。そう思われたが突如眩い光が3機を覆った。
「「「っ!?」」」
その瞬間3人の視界は真っ白となった。
ダモクレスの消滅。これが最後の戦いの幕開けの狼煙となった。
いよいよ次回最終話です。長かったこの小説も遂に終わりです。
アキラを含め皆は何を得て何を失うのか次回確かめてください