熱い、苦しい、ここはどこだ?
そこに広がるのは瓦礫と死体の山、何故自分がここにいるのか……そうだ任務だ。ある男を殺せと今その男を捜しているところだと。
燃え盛る炎の中から1機のKMFが姿を現した。 1機の無頼の左肩が赤く染められていた。 その無頼は次第に人の姿になりその男は銃を自分に向けて撃った。
「うわあぁぁぁぁぁ!!」
「エリス、どうしたの?」
ガラス越しの部屋から様子を見ていたジョディが問いかけた。
エリスは自分に付けられた機器、見慣れた部屋、ここが研究室だとすぐに理解し息を整えた。
「はぁ、はぁ……、なんでもない。」
「………そう、だったら調整を続けるわよ。」
「どうだい、彼女の様子は?」
兄のドリーが部屋に入ってきてコーヒーをジョディに渡した。
「兄さん、またあの子うなされていたわ。」
「う~ん、またか……。身体に異常は?」
「まったくない。 例の時だけ脳波が少し乱れるだけ。」
ドリーは腕を組みジョディの隣に座った。
「この前あった戦闘で流崎アキラの姿を見た時もかなり動揺していたようだね。」
ドリー達はエリスのグロースターに搭載されてあるカメラから確認できた。
「あの男が生きていたなんてね。 私、エリスの件も流崎アキラが関わってると思うけど。」
「ありえない話じゃないね。 カゴシマで初めて接触してからだからね。」
「あと一つ……。」
そう言うとジョディは右手の人差し指1本出した。
「流崎アキラを1人の男として意識している。」
それを聞きドリーは鼻で笑った。
「馬鹿馬鹿しい、何を根拠に。」
「女の勘かな。記憶処理をした彼女が唯一思い出したのが流崎アキラ。だったら彼を意識するのはおかしくないと思うけど。」
「技術者のお前がそんなこと言ってどうする。もしそれが正解なら彼女はPSとして欠陥品だよ。」
「でも戦う為だけに作られたパーフェクト・ソルジャー、そんな彼女が人間らしい感情をもったら面白うじゃない。」
ジョディを見てやれやれと首を振ったドリーはある事を思い出した。
「今度、閣下がこちらへ来ることになったけどゲストを用意しているみたいだよ。」
「へぇ、誰?」
「ふふっ、それは……。」
アルダイ高地での戦闘から2週間過ぎた。 あれからアキラの容態は回復し今では外に出られるまでになった。
復帰後の任務は首都ヤールンからの南東450kmにあるトンモという都市で人口が3万人弱の小さな街だがそこでブリタニア極東軍の政府要人達が集まるという情報を手に入れた。 そこでサドナ王国政府はブリタニアとの交渉材料としてトラウトマン義兵団に要人達を捕らえる命令を出した。
その作戦が数日後に控えている今日、アキラは坂口の付き添いとしてあるところへといた。 そこは首都からだいぶ離れたところにある外れの小さな町の古びたバーがありアキラは坂口の車の中で待機していた。
しばらくして帽子を深く被った坂口と数人の男を付き従った2人の男が店から出てきて別れた坂口はアキラが待っている車に戻ってきた。
「おうアキラ、だしてくれ。」
坂口から言われアキラは車を発進させた。
「悪いな、人が足りなくてな。お前にこんな仕事させちまって。」
「どうだったブリタニアのお偉いさんとの会合は?」
「ふんっ、あいつら自分達に疑いの目がかけれているからって言ってここできて怖じきづきやがって。 それとだな、ちょっと面白い話を聞いてきた。」
「話?」
「ハバロフスクの軍基地にナイト・オブ・ラウンズの1人が来るらしいぜ。」
「ナイト・オブ・ラウンズ!?」
-ナイト・オブ・ラウンズ- 皇帝直属の騎士であり選ばれた騎士達には専用のKMFを持っておりその技術、実力はかなりのものだと言われている。
「ラウンズが何故?」
「なんでも陽炎のボスが来てくれって要請があったみたいでよ。 そのボスもハバロフスクに来るみたいだぜ。」
「……井ノ本!」
「それでだ、俺は今度ハバロフスクに行くことにした。 軍もそうだがどうやら政府の連中らの動きがきな臭せぇんだ。。」
「そうか、何か分かったら教えてくれ。」
「おう、まかしとけ。」
アキラは先日のアルダイ高地での戦闘後のトニーとの会話で義兵団のトラウトマン将軍がブリタニアと繋がっているのではないかと疑いだした。
まだ確信は持てないがここサドナ王国に根付く陰謀は暗く深いものだとアキラは感じた。
街の中にある坂口の自宅まで送り届けて別れた後アキラは街の中を歩いた。 今日も雪が降り積もりアキラ達には凍てつく寒さを感じていた。
早く体を暖めようと基地に戻り多くの兵士達で使用されている広いダイニングルームでコーヒーを飲もうと入った時ちょうどアレクセイと鉢合わせになった。
「アキラ、その格好を見るとどこかに出掛けていたな。」
「まぁな。お前はどうした?」
「あぁ、ちょっと友人から手紙が届いてな。」
アレクセイの手には手紙が握り締められていた。
「しばらく会ってなくてな。」
そう言うとアレクセイは近くの椅子に座り手紙の中身を読んだ。
『我が兄弟アレク、久しぶりに手紙を書く。 サドナ王国の事は中華連邦で聞いている。 ブリタニアに屈せず戦い続ける君に私も深い感銘を受けている。 今、国の事情で君達を助ける事ができず心苦しい思いだ。 だが私は忘れてはいない。お互いの夢、それを果すまでその命無駄にしないでくれ。 遠くながら君の健闘を祈っている。 黎星刻』
(星刻………)
数年前、サドナ王国と中華連邦は同盟関係にありサドナ王国内でも中華連邦の人間が行き来していたのだ。
まだ下級の役人に過ぎなかったアレクセイは軍の訓練場の1室で1人佇んでいた。
「はあぁぁぁぁ。」
アレクセイは大きく手を動かし口いっぱいに息を吸い込み呼吸を行っていた。
呼吸法によって体をリラックスさせアレクは突き、蹴りの動作をはじめた。実際相手がいないにもかかわらずアレクセイの額には汗が流れ落ちていた。
「相変わらず精が出るなアレク。」
「国王!」
振り返るとそこには各国政府要人と対談する時に着る衣装を少し崩した格好をしたマクシムがいた。
「アレク、もう仕事は終わったんだ。 そう呼ぶのはやめてくれ。」
マキシムは苦笑いをした。
「中華連邦との会合はもうお済で?」
「彼らと付き合うのは肩が凝るよ。 それよりお前に会わせたい人がいてな。」
マクシムの後ろに1人の男性が立っていた。長い髪に整った顔立ちからここの国の人間には見えなかった。
「紹介しよう、黎星刻(リー・シンクー)。今回、中華連邦の大宦官の方々の警護で共に来訪してきた。」
「マクシム国王、私のようなたかが下級の役人にここまでしていただくのはいささか……。」
星刻は戸惑いの顔を浮かべていたがマクシムは笑って返した。
「いいんだ。いつかアレクに君の事を紹介したかったんだ。 彼はアレクセイ・ヤゾフ。」
「黎星刻です……。 国王からあなたの事を聞いたことがあります。 古くからの友人だと。」
「そんな……。」
「失礼ながら先程やられた拳法は……。」
そう言われアレクセイは苦笑いをした。
「以前、国王が中華連邦を訪問した際随行した時、偶々街で稽古していた方々を拝見しまして何度か指導を受けその後自己流でこうして訓練で取り入れてみたのですがあなたから見れば素人同然の動きに見えますよね。」
「いえ、そんな事はありません。 動きにキレがありとても素人とは思えませんでした。」
2人の会話を聞いていたマクシムは優しく微笑んだ。
「やはり2人を会わせたのは正解だったな。」
「どういう事ですか?」
「アレク、星刻と初めて会ったとき彼がお前に似ているなっと思ってな。」
「俺にですか?」
2人は顔を合わせ怪訝な顔をした。
(ふふっ それからあいつと何度か話すうちに不思議と馬が合ってあいつから拳法の手解きを受けたな。)
アレクセイは思い出し笑いをし外の風景を眺めた。
「そうか、君はマクシム国王と。」
「あぁ、国王と共にブリタニアと闘いそしてこの国を新しく生まれ変わらせるんだ!」
時は過ぎ、雪が降り積もった景色を眺めながらアレクセイと政務で来ていた星刻は酒を片手に談笑をしていた。
「アレク、私の国もいずれブリタニアに狙われる。だが今、国は大宦官達によって腐りきっている。このままではあっという間にブリタニアに飲み込まれてしまう。 それではてん………ゴホォ、ゴホォ!」
星刻が咳き込み苦しみだした。アレクセイは慌てて星刻の背中を摩った。
「天子様との約束を果たせない…だろ。」
「………あぁ。」
「冷えてきたな。もう休め、お前が死んでしまったら誰が天子様に外の世界を見せるんだ。」
星刻は自分の右手でアレクセイの右手を強く握った。
「アレク、私は今、死ぬわけにはいかない!」
「……それは俺も同じだ!」
アレクセイも強く握り返した。
「天子様のために!」
「国王のために!」
『己の忠義のために!!』
(義兄弟の契りを交わしたのもあの時だったな。)
アレクセイは外の景色を眺めた雪は絶え間なく降り続いている。
(命を無駄にしないでくれ……それはお前もそうだろ、兄弟。)
余命幾ばくもない友を思いアレクセイは不安な顔を浮かべ外を見ていた。
数日後、ブリタニア軍ハバロフスク基地にて1機の軍用の輸送機が降り立った。
基地の兵士が待ち構えている中輸送機から1人の日本人の男が降りてきた。
「井ノ本閣下、お待ちしてました。」
「サドナ王国の状況はどうだ?」
ここ極東での陽炎の指揮を担当している部下に聞いた。
「シュナイゼルのおかげで近い内にエリアに入るのは時間の問題かと…閣下、サドナ王国の政府軍の中に。」
「流崎 アキラの事は聞いている。 今回、彼をヨーロッパから呼んだのも流崎の事も関係してある。」
井ノ本に続いて降りてきた男はラウンズの証であるマントを羽織って降りてきた。
「彼は流崎 アキラの名前を聞き直接確認したいと希望した。」
3日後、アキラ達は輸送機の中揺られながら目的地のトンモへと向かっていた。
『ブリタニアの要人達はこのビルに14:30頃会談を始めるとの予定だ。 我々は先にトンモに潜入させた部隊からの合図でヘリでビルの四隅に展開し、部隊を投下ターゲットを確保したら早急に撤退させる。 作戦時間は約1時間とする。』
「はっ、らくな作戦だな。 こんなんなら基地に帰ってゆっくりしてぇぜ。」
説明を聞いたイゴールは愚痴をこぼした。
「だからと言って気を抜くな。トンモはブリタニアの占領地だ。作戦が長引けばこちらが不利になるんだ。」
アキラ達も投下部隊の中に入っておりアキラはライフルのチャックをしていた。
『こちら、G-2。14:25、ビルの前にターゲットが乗っていると思われる車が来ました。』
先に潜入させた部隊からの報告に作戦司令部も緊張の色を隠せない。
「映像を見せてくれ。」
部隊から配信された映像で車から出てきた人間達の姿を確認した。
「間違いない、ターゲット達だ。」
「投下部隊の準備も完了しております。 吹雪も落ち着いているところです。予定通りに…」
「………2分後、作戦を開始する。各自持ち場につけ!」
アキラ達はライフルを構え時間まで待機した。
・
・
・
・
・
・
・
『こちらG-2、大きな変化なし。予定通り会合は開かれるようです。』
まもなく作戦開始時刻となり街郊外にて待機していた奇襲用のヘリ4機がプロペラを回し浮上を開始した。
「残り10秒」
・
・
・
・
・
「……作戦開始!」
アキラ達を乗せたヘリは街へと向かって行った。
先程までの吹雪は落ち着きヘリの移動には支障はなかった。
ヘリは妨害を受けることなく目標のビルの真上まで到着した。
アキラ達は降下するためのロープにフックをかけ降りる準備をした。
他の兵士たちが次々に降下しアキラも続けて降下した。
最上階の部屋から制圧していきブリタニアの政府要人達を拘束していった。多少の抵抗はあったものの目的の人物達を全て確保する事ができた。
敵の追撃前に早々に撤退をしなければならずアキラ達はヘリに乗り込んだ。他のヘリの最後尾にてアキラ達を乗せたヘリは撤退していった。
「あっけなかったな。」
イゴールがライフルを肩に乗せのんびりとした感じでいた。
「さっさと帰って一杯したいぜ。」
アキラがふと窓の外を眺めていると何か光ったことに気づいた。それがこちらへ向かっていった。
「っ!?」
次の瞬間ヘリは大きく揺れた。
「お、おい! なんなんだ!?」
トニーは大きく狼狽している。
「て、敵の攻撃です!」
「みんな!何かに掴まるんだ!!」
アレクセイは冷静に皆に伝えてヘリが落ちていく中振り落とされないようアキラ達は手すり等に掴まった。
ヘリはバランスを崩しながらも着陸できる街の広場で不時着した。
「み、みんな無事か?」
「お、おう。」
着陸の衝撃で皆、意識を失ったがすぐに起き上がった。
「こ、こちら第7部隊。応答しろ。」
トニーは他の部隊と連絡を取ろうとしたが外から味方のヘリも敵からの砲撃で墜落するのが見えた。
「敵が隠れていたようだな。」
ジェノムは外を警戒しながらライフルを手に取った。
「外の様子を見てくる」
そういうとジェノムはライフル片手にヘリから出た。外を見るとヘリが落ちてきた事で近くにいた住民達が逃げ惑っていた。
アキラは操縦席に向かったがパイロットの2人が怪我をして身動きがとれずにいた。
アキラはアレクセイと2人のパイロットを動かし操縦席のモニターを操作した。
「こちら第7部隊、応答せよ。」
『こち……ら……第2ぶ………たい。』
ノイズにより正確には聞き取れなかったが味方が無事だったようである。
『敵の…こう………げきにより撃墜。 死んだ人間もいる。』
アレクセイは今自分達がどこにいるのか確認した。 先程作戦のあったビルが見える方向を見た。
「我々は今先程のビルからおそらく南西約6キロ程のところだ。」
「こちらは………噴水のある広場にいる。………おそらく南南東8キロのところだろう。」
アキラはモニターで場所を検索をした。
「……おそらくシンブナ広場だろう。」
「第2部隊と合流するしかないな。」
「お、おい2人共かなりヤバイ事になってるが………。」
イゴールは先程戻ってきたジェノムからの話を聞き苦笑いをした。
「敵の部隊がこちらへ向かってくる。のんびりはできない。」
ジェノムの報告を聞きトニーは顔が真っ青になった。
「救援の連絡を…。」
「隊長、それより今はここから離れる事が先決です!」
アレクセイは必要な機材を運ぶ準備を始めた。
アキラと岸谷は負傷者を運び、イゴールとジェノムは銃器の運搬の準備をした。
「こちらにKMFがない今、敵に見つかればひとたまりもありません!」
「そ、そうだな。」
アレクセイの忠告を聞きトニーもここを離れることにした。
「殿下、これを」
ところ変わりブリタニア本国にて政務に勤しんでいるシュナイゼルにカノンがある報告をしてきた。
「トンモで政府軍が作戦を開始しました。 結果、拘束された我々の要人もいます。」
「それで彼らはトンモを抜け出したかな?」
「全部、奇襲によりトンモに取り残されました。」
「ふふっ、予定通りだ。 じゃあこのまま続けてくれ。」
「イエス・ユア・ハイネス。」
『アキラ、敵は?』
アキラはアレクセイとは別行動で敵の動向を探ろうと別の建物に入りヘリが墜落した現場に集まった敵の部隊の姿を確認していた。
「KMFが6機、陸戦艇2機が少し離れて待機している。」
『そうか……ジェノムのほうは?』
「4機確認した。」
『了解、2人とも戻ってきてくれ。』
アキラ達との通信を終えたアレクセイの横でトニーが大きな声をあげ味方と連絡を取っていた。
「すぐには救援には来れないとはどういうことだ!! ブリタニアの領内で我々は丸腰で一捻りで潰されてしまう! 何………4時間だと!? そんな悠長な…将軍のご命令だと!? いや………ちょっと待て!!」
通信が切られトニーは肩を落とした。
「救援部隊は約4時間後だそうだ。それまで持ちこたえてくれと。」
「4時間だと!? 冗談じゃねぇぜ! KMFもねぇってのにどうやって持ちこたえてくれって言うんだ!」
「いや、手はある。」
アレクセイは地図を取り出した。
「生き延びた部隊からの報告によると撃墜されたヘリは全て街に墜落したと聞く。その中の第3、5部隊にKMFが配備されていたはず。 だったらそこまで行きKMFを確保する。」
「お、おい待てよアレク、その部隊に連絡しようにも繋がらないんだぞ。乗ってる奴らが全員死んでKMFもオシャカになってるかもしれないんだぜ。」
「KMFが1機でもあれば少しでも生き残れる確率はあがる。現に俺達の手元にはライフルしかないんだ。」
アレクセイの言うとおりアキラ達の武器は白兵戦での対KMFの為につくられた大型ライフルと自動小銃のみでこの武装で敵と対抗するのは困難であった。
そんな中、アキラとジェノムが戻ってきた。
「アキラ、外の様子はどうだった?」
「また少しだが数が増えてきた。」
「考える時間はねぇって事か……。」
「……みんな、二手で別れて行動しよう。俺と…」
「アレクセイ、勝手に指示を出すな!隊長はこの俺だ! 俺が命令を出す。 全員ここで待機だ。」
「っ!? 待ってください! 味方の救援隊が来るのは4時間、ここは敵の領内。敵の増援がいつ来てもおかしくはありません。 でしたら自分達で脱出するしかありません!」
「ならん! 動けば敵に見つかってしまう。 ここは大人しくして待っていればいい。」
「し、しかし……。」
トニーは懐から拳銃をとりだしアレクセイにむけた。
「俺の言う事を聞けないなら軍法会議だすぞ!」
場の空気が張り詰めた中アキラが黙って大型ライフルを肩に背負った。
「貴様、命令違反する気か?」
「アレク、指示をだしてくれ。俺は誰と組めばいい?」
「貴様っ!」
トニーはアキラに銃を突きつけたがイゴールがトニーの銃の上に手を置き制した。
「まぁまぁ、隊長。ここはアレクに任せましょうよ。アレクはサドナ王国の人間ですからここから首都までの近道は知っているはずでしょ。」
イゴールの言葉にトニーは言葉が詰まった。
「アレク、俺はお前の指示に従う。」
ジェノムはアレクセイの左肩に手を置いた。
「………皆、行こう。 俺とイゴールは第5部隊、アキラとジェノム、岸谷は第3部隊だ。」
「おっしゃ! やってやる!」
イゴールとジェノムは大型ライフルを背負った。
「お、おい待て!」
「隊長はここに残って負傷者を見ていてください。 車を確保次第連絡してこちらへ戻り負傷者を乗せて脱出します。」
「なっ!?」
他の者が動く中自分1人だけあたふたした格好となってしまったトニーであった。
「よしっ皆、行くぞ!」
「てめぇら、死ぬんじゃねぇぞ。」
アレクセイ、イゴール、岸谷と別れアキラとジェノムはKMFを手に入れる為第3部隊が墜落したと思われる場所へと向かった。
首都ヤールン、義兵団軍事基地。
「……以上でトンモで撃墜された部隊です。」
トラウトマンはブリタニアハバロフスク基地にいるデニスと連絡をしていた。
『これで殿下のシナリオ通りになったな。』
「しかし、シュナイゼル殿下は何故流崎アキラに拘るのでしょうか?」
『それだけ奴の能力に惹かれるものがあったのだろう。』
「例のですか?私には信じられませんが……。」
『だがこれが事実だとすればこちらも利用する手はない。奴を使い殿下に取り入れれば貴族、あばよくば伯爵だ。 引き続き奴の監視を怠るな。』
「はっ、お任せを。 鼠は既に奴の近くにいますので。」
アキラ達は第3部隊と合流しようと身を隠しながら進んでいった。
墜落現場までもう少しのところで爆発音が聞こえた。第3部隊の墜落現場から聞こえアキラ達はもしやと思い走り出した。
アキラ達が見たのは敵と交戦している味方であった。 グラスゴーで応戦しているが多勢無勢5機のサザーランドに2機のグラスゴーはやられてしまった。
ヘリから出てきて逃げる兵士を敵がライフルで撃ち殺していった。
「遅かったみたいだな。」
「おそらく味方は全滅しているだろう。」
アキラとジェノムは冷静に状況を確認しようとしている中岸谷は1人大型ライフルで敵KMFに狙いを定めた。
ジェノムは岸谷の手を止めた。
「やめろ。」
「敵は俺達に気づいてない。今の内に…。」
「すぐにやられる。まだ味方の生き残りがいるかも知れない。他の墜落現場に行こう。」
3人は敵に見つからないようその場から離れていった。
アレクセイとイゴールは第5部隊が墜落したと思われる場所へと向かった。
「おいアレク、あれじゃねぇのか?」
「よかった。まだ敵に発見されていないようだ。」
2人は周囲を注意しながらヘリに近づいた。
「こちら第7部隊。助けに来た。」
アレクセイの言葉を聞きヘリの扉が開いた。
「よく……来てくれた。」
「大丈夫か?」
「俺は平気だが……。」
ヘリの中は数人の隊員達が倒れていた。
「俺とこいつ以外は全員死んでる。こいつは足が動けない、助けてくれ。」
もう1人の隊員は足を怪我しているようでイゴールが肩に隊員の腕をまわし立ち上がらせた。
「KMFは?」
「動けるのは3機だけだ。」
隊員がKMFのコックピットに上がった。
「おい!無理をするな。」
アレクセイは止めようとしたが隊員は笑って制した。
「動かすだけならできる。」
そういうとKMFに乗り込んだ。
「アレク、早くしねぇと敵が来るぞ。」
「わかった。イゴール、使える武器を運んで行こう。」
「あったぞ。」
アキラ達は別の墜落現場へとたどり着き、周囲を警戒しながらヘリの中に入っていった。
ヘリの中は隊員が倒れていた。 アキラ達は確認したが味方は全員死亡していた。
「おい、見ろよ。これ標的だったブリタニアの要人じゃないか?」
岸谷が発見した死体は隊員ではなかった。
「おい、これを見ろ。」
アキラはその死体の胸元を見た。
「撃たれた跡がある。」
胸元には撃たれた銃跡があった。
「おい、それって。」
それを見た岸谷は察した。
「誰かに撃たれたということだな。」
「ま、まさかここはもう……!」
「みんな逃げろ!!」
ジェノムの大きな声でアキラ達は急ぎヘリから出て行った。
その瞬間ヘリは爆発を起こしアキラ達はその衝撃で吹き飛ばされた。
アキラ達はすぐに体勢を起こし物陰に隠れた。 敵はサザーランド1機と装甲車1台それと歩兵数名おり、アキラは大型ライフルで応戦した。
「アキラ!!」
反対側にジェノムがおりアキラはジェノムのほうへ移動した。
「嵌められたな。」
「ジェノム、岸谷は?」
「わからん、はぐれてしまったみたいだ。」
「そうか……探そうにもあのKMFが邪魔だな。」
「アキラ、手伝ってくれ。」
そう言うとジェノムは大型ライフルの銃身の下に金属の杭のような物を装着させた。
「俺が人型を潰す。」
「奴らは何処に行った?」
サザーランドのパイロットは周囲を捜索しているがアキラ達の姿は見えない。
「んっ!?」
その時、前方で走り去っていく後姿が見えた。
「ふふっいたか。」
アキラは追ってくるサザーランドの姿を確認しながら逃げていった。途中ライフルで応戦しながらアキラは狭い路地へと入っていった。
KMFがギリギリ入れる路地でサザーランドもアキラを追って入った。
アキラが行き着いた先は行き止まりになっていた。
「これで3匹目だ。」
トリガーを引こうとしたときコックピットパッチの上に何かが落ちてきた音がした。
「な、なんだ?」
パイロットが顔を上げた瞬間、コックピットの装甲を打ち抜きこちらへ降りてくる杭を見た。
ジェノムは近くの建物の非常階段からサザーランドのコックピットへ飛び移り大型ライフルに装着してある杭を中にいるパイロットに向け杭を打ち抜いた。
打ち抜かれたサザーランドは力なく倒れていった。
ジェノムの杭にはパイロットのものと思われる血がこびりついていた。
「あとは装甲車だな。」
「あぁ、行こう。」
「奴らはどこだ?」
残りの敵もアキラ達の捜索を続けていた。
「だがサザーランドがまだ戻ってこないぞ。」
「まさか、やられた……。」
「馬鹿言え。向こうはたいした武器を持ってないだ。」
雑談をしている中1人が背後から口を塞がれナイフで喉を斬られた。
「っ!?」
それに気づいた残りの1人が声をあげようとしたがアキラが背後をとりナイフで喉を切り裂いた。
「てっ敵!!」
装甲車の中にいた隊員が車を動かそうとしたのでアキラは腰のホルスターからショートショットガンを取り出し窓越しから撃ち敵を沈黙させた。
「アキラ、後ろには誰もいない。」
「急いで合流ポイントに向かおう。」
アキラは死体を外に出しキーをまわした時、大きな叫び声が聞こえた。
「おい! 待ってくれ!!」
「岸谷、生きてたのか。」
「こっちは逃げるのに精一杯だったんだよ!」
「早く乗れ。」
岸谷と装甲車に乗り込もうとした時ジェノムはふと空を見上げた。
「………吹雪になるな。」
「天候が悪化する?」
カノンからの報告でシュナイゼルはチェスの駒を動かそうとした手を止めた。
「まもなく、トンモ及びサドナは発達した低気圧により強風域に入り吹雪になる模様です。」
「この状況で天候の変化……あの部隊は予定通りに出発するのかい?」
「はっ……予定時刻に出撃しました。あと彼がご同行するようです。」
「ふふふっ……皆、流崎アキラに惹かれてトンモに集まってくる。」
シュナイゼルは手に持っていたチェスの駒、ポーンを面白そうに眺めている。
-合流ポイント-
アキラ達は合流ポイントにしてある小さな工場にたどり着いた。
「アキラ、皆無事だったか。」
先にアレクセイ達が着いていた。
「すまない、KMFは確保できなかった。」
「いや、俺達も車を探してたんだが調達できずに困ってたんだ。この装甲車も兵員輸送用だったからよかった。負傷者をKMFの手の上で載せたままにはいかないからな。」
「だが多いな。」
ジェノムの言う通り結構な数のけが人が横になっていた。
「いける所の場所は全て行った。 アキラ、ジェノムちょっと気になることがあるんだが……。」
「もしや敵の捕虜か。」
「やはり他のところもそうか。最後に行ったところに捕らえた敵の要人達が乗っていたが全員死んでいた。それも撃たれた跡があった。」
「同じか。」
「この作戦、何か裏があるんじゃないのか?」
敵は助けるはずの人間達を殺し、アキラ達への罠として扱った。自分達は何者かに嵌められたのではないかと思い始めた。
「できないとはどういうことだ!?」
奥からトニーの怒鳴り声が聞こえアキラ達はトニーのところへ向かった。
「この吹雪で出撃できない? だったら我々は……吹雪が止んだら行く!? その間敵の総攻撃をくらったら我々は………おい? まってくれ!!」
「隊長、救援部隊が来ないのですね。」
「この吹雪が止めば行くとはいうが……。」
トニーは力が抜けたように座り込んでしまった。
「冗談じゃねぇぜ!俺達に死ねって言ってるようなもんじゃねぇか!!」
「この吹雪は当分止まない。 ここには篭城するだけの武器はない。」
アレクセイは地図を見てこれからどうすればいいか思案した。
「トンモを出て首都まで帰還できる最短ルートは……。」
思案しているアレクセイにアキラが声をかけた。
「アレク、この吹雪はいつまで降るんだ。」
「………1日、もしくは2日。」
「だとしたら、敵の動きもこの吹雪で遅いじゃないのか? 今の敵の数ならまだ脱出できないことはない。」
アキラの提案にアレクセイは黙って腕を組んだ。
「…………西からのこのルートを出て幹線道路に沿って行けば一番近くの街、そこの近くに小さいが味方の基地がある。」
「なら決まりだ。」
「だが敵の注意を逸らさなければいけない。誰かがおとりに……。」
「俺がやる。」
アレクセイは驚愕の表情をした。
「グラスゴー1機使う。」
「アキラ!!」
「心配するな。 イゴールお前はアレク達を守ってくれ。」
「へっ、自分だけ見せ場作りやがって帰ったら一緒に飲もうぜ。」
「俺は飲まない。」
「そうだったな。ハッハハ!!」
イゴールの大きな笑い声に周囲も笑みをこぼしたりして和んだ。
「隊長、この作戦で問題ありませんよね隊長。」
ワザとらしくトニーに話を振ったイゴールにトニーはバツが悪そうに答えた。
「あっあぁ、それで行こう。」
その姿を見てイゴールは馬鹿にしたように笑った。
「そうと決まれば怪我人を運ぼうぜ!!」
・
・
・
・
・
「これで全員か?」
アレクセイは装甲車に入れた怪我人の数を確認した。
「本当なら彼らも運びたかったが。」
アレクセイは横たわったままの味方の遺体を見つめた。
「ちゃんと葬ってやりたい。」
アキラはアレクセイの左肩に手をおいた。
「今は仕方ない。急ごう。」
「あぁ!! アキラ、頼むぞ。」
アキラはグラスゴーに乗り込み起動させた。
「くそう!敵はどこにいった!」
ブリタニア兵は焦っていた。
「敵は小規模ですぐに見つかると思ったがこんな時に吹雪が起こって。寒くて仕方がない。」
「そう言うなって。もう少ししたら援軍が来るらしいぞ。」
「こんな吹雪の中でか?」
「数は少ないがその中になんと……。」
その直後近くに立ってあったサザーランドが銃撃にあい倒れてきた。
「て、敵だ!!」
アキラのグラスゴーは装甲車を沈黙させすぐさま移動した。
「アキラが動いた。」
「よぉし、作戦開始だ。敵が流崎に目を向いている隙にさっさとズラかるぞ。」
調子を取り戻したトニーは指揮を行った。
イゴールはKMFで装甲車の警護、ジェノムはアレクセイが運転する装甲車の上に搭載してる銃座にて機関銃を構えており、岸谷はトニーが運転する装甲車の銃座にいる。
アキラは物陰に隠れながらもライフルで応戦し、味方達から離れていった。
「くっ。」
ライフルで狙い撃とうとするが吹雪により敵の姿がはっきり見えないのがアキラをイラつかせていた。
一方、アレクセイの方も順調に街から出ようとしたが途中に敵に見つかり応戦した。
『アレク、俺が相手をする。お前らは行け! すぐに追いつく!』
「頼む!」
「アレク、前方に車両が来る。」
ジェノムの忠告にアレクセイはハッと前を見た。 装甲車2台が前を塞ぎ待ち構えていた。
「ジェノム!!」
「分かってる!」
ジェノムは敵から銃弾の雨が飛ぶ中機関銃で銃座の敵兵を狙い撃ち沈黙させた。
「ぶつけるぞ!! みんな伏せろ!!」
アレクセイはアクセルを踏みスピードを上げた。
衝突により大きな衝撃を受けたが道は開かれアレクはスピードを上げ街から脱出した。
『アキラ、応答してくれ。』
「こちら流崎。」
『アキラ、こちらは街を脱出した。全員無事だ。 あとはお前だけだ。』
「了解、すぐに合流する。」
アレクセイからの連絡でアキラも撤退をしようとした時吹雪の中から1機のKMFが現れこちらへ接近してきた。
「こいつ、あの時の!!」
そのKMFは謎の女が操縦している白のグロースターであった。
「陽炎が来たのか!?」
グロースターは突き蹴りと繰り出しアキラはギリギリ回避したがいつまでも相手にするわけにはいかずアキラは距離を取り背を向け後退した。
このままアレク達と合流しようとした時空中から赤い閃光がアキラを襲った。
「っ!?」
アキラは反射的に回避したがその衝撃で転倒してしまった。
「なんだ……?」
アキラは顔上げ空を見上げた瞬間驚きの表情を浮かべた。
白いカラーリングを基調としたKMFが空に浮いていた。
「ランス……ロット………。」
「………間違いない。」
ランスロットのコックピットにいる枢木スザクはアキラのグラスゴーを見て静かな口調で呟いた。
「流崎アキラ、君だな。」
アキラ達が使っていたライフルはご存知OVA作品メロウリンクで使用されていた大型ライフルです。
どこかで出したいなと思い今回だしました。
あとある戦争映画のストーリーを今話に少し入れてみました。
ラストにスザクを出しましたが時系列で見ると亡国のアキト終了後の設定になってます。よって次回から亡国のアキトの話から大分矛盾する描写もあるかもしれません
まだ亡国が完結しておらず自分の勝手な設定になってしまいますがご了承ください。
ではまた。