呼び出しを受けアキラをはじめ義兵団の兵士達は皆集合した。
皆が集まったのを確認したトニー大尉は大きな声で説明を始めた。
「南西30kmの国境沿いにブリタニア軍の侵攻が確認された。至急敵部隊を叩く、各部隊準備ができ次第出動せよ!」
各自、自分のKMFに乗り込んだ。 ブリタニア軍の前世代主力KMFグラスゴー、EUのKMFパンツァー・フンメルなど各国のKMFが肩を並べており統一されていないように見えるが全機とも機体の装飾が雪原迷彩となっていて脚部には雪上走行用のソリ状の走行補助装置が装備されていた。
アキラもグラスゴーに乗り込もうとしたとき後ろから誰かがアキラの左肩を掴んだ。
「待て、流崎 アキラ。 お前の機体はあれだ。」
肩を掴んだのはトニーであった。トニーの親指が指したのは中華連邦製KMF鋼髏(ガン・ルゥ)であった。
この機体単体ではサザーランド等敵KMFと戦うのは下向きである。
「機体が足りなくてな。すまんがあれで我慢してくれ。」
ニヤっと笑った顔を浮かべアキラに伝えた。
「………了解。」
トニーの顔を見てムッとしたがアキラは素直にグラスゴーから降り鋼髏の傍に近づいた。
鋼髏の機体の様子は所々キズ、汚れが目立ちかなり年季のある機体だとアキラは思った。
機体を大型の雪上車に載せアキラ達は目的地へと向かった。
『目的地は現在警備についている友軍が応戦している。我々は友軍の救援を行う。』
国境沿いに近づき銃声と爆音が聞こえてきて目的地へとたどり着いたのだとわかった。
『よし、全機発進!』
トニーの指示でアキラ達は雪上車から出て戦場へと向かった。外は吹雪が止んでおり視界に問題はなかった。
「敵はサザーランド……グロースター。 陽炎は……いないようだな。」
敵のKMFは雪原迷彩の色をしたカモスーツのようなスーツを着せていた。
坂口から陽炎の部隊がここでもいることを知り、アキラは気にはなったが今敵の中にはいないようだ。
『流崎、お前は先に行って味方の援護に行け。』
「自分、1人でですか?」
『ここにも敵がいる。これ以上の進撃は塞がなければいけない。 そんな数はまわせん。はやく、行け!』
トニーの指示にアキラは黙ったまま現場から少し迂回し先に進んだ。
着いた国境沿いの最前線では敵味方が一進一退の攻防を繰り広げていた。
鋼髏単機で戦闘をおこなうのは難しいのでアキラは敵と距離を置きキャノン砲で狙撃を開始した。
アキラの砲撃に気づいた敵KMFサザーランド1機がこちらへ接近してきた。 鋼髏では接近戦ができないためアキラは後退する。後退するアキラを追ってサザーランドは追撃をはじめた。
サザーランドのライフルの攻撃は左右に動きながら避けてはみたが鋼髏では思うように動けず凹凸のある足場に躓き転倒してしまった。
サザーランドが近づきアキラはマシンガンを地面にむけて発射した。発砲の衝撃で雪煙が発生し視界が遮りアキラの鋼髏の姿が見えなくなった。
サザーランドが辺りを見回っている隙にアキラはサザーランドの背後をとり体当たりの形でサザーランドを転倒させうつ伏せになっているサザーランドのコックピットに向けマシンガンを撃ち、サザーランドは爆発を起こした。
一方、トニー達も敵と交戦しており押し返しつつあった。
『大尉、敵が撤退しつつあります。 今のうちに我々も味方と合流を。』
「うむ……そうだな。」
がその時1機の味方機が敵の砲弾を浴び撃墜された。
「敵!? どこだ?」
『南東300、こ、これはまさか!?』
トニー達の目の前に現れたカモスーツで全身を覆った戦車部隊であった。
だがトニー達を発見したのを合図にカモスーツを脱ぎ、黒のカラーリングの戦車が姿を変え始めた。
前輪のキャラピラを残し上体が上がり下半身が2つに割れ、脚の形となった。
上体に収められていた両腕が現れ左腕にはガトリング砲、右肩が赤く染められていた。
主砲が縦斜めに傾き、主砲の横には頭部があるが3つのレンズらしきものがあるだけでそれといった特徴は見られない。
「か、陽炎………。」
主砲をトニー達に狙いを定めた。
「散れ!! 散開して応戦しろ!敵前逃亡は許さん!」
だが1機、2機と次々と味方が陽炎の砲撃の餌食となってやられていった。
味方部隊と応戦していたアキラにも陽炎が現れたとの連絡を受けた。
『トニー大尉の部隊がこちらへ来る。これじゃあ挟み撃ちされるぞ。』
『も、もうダメだ。撤退だ。』
その中、1機のKMFが突如現れた。
白のカラーリングに赤い右肩をグロースターのように見えるが他のグロースターとは違い機体は細身でライフルを装備していた。
「赤い右肩、陽炎!!」
そのKMFはライフルで味方を次々と撃破していった。アキラは両腕のマシンガンでライフルを撃ち落すことはできたが回避したため機体には直撃できなかった。
狙い撃とうとするが左右へと素早く回避し雪煙が発生してしまった。
辺りを見回しているが背後に気配を感じ振り向いた瞬間、白のKMFは体当たりを仕掛けバランスを崩しながらもアキラはマシンガンを相手に向け撃ったが至近距離にも関わらず敵は素早い動きで回避した。
(早い!)
敵が持っていたソードによってマシンガンが切り落とされた。
ランスロットのMVSと形状は似ているが刀身が赤くひかり、熱を帯びたような色をしておりマシンガンも熱で溶けたような切り口であった。
アキラは後退しようとしたが敵の回し蹴りで転がってしまい、その衝撃で鋼髏のコックピットハッチが開いてしまった。
「くっ…。」
態勢を立て直そうとしたが目の前に敵、白のKMFが立ちはだかった。
アキラはホルスターから水平二連のソードオフショットガンを取り出し構えた。
敵KMFはソードを持った右腕を振り上げたがアキラの姿を見て動きが止まった。
「!?」
右腕を降ろし突然コックピットハッチが開いた。
「女!?」
黒髪のショートヘアにつり目の鋭い目つきをした女性がコックピットから出てきた。
容姿を見る限りでは自分と同じくらいの年齢ではないかとアキラは感じた。
「………流崎 アキラ。」
彼女が自分の名前を呟きアキラは顔をしかめた。
「お前、何故俺の名前を…?」
アキラの名前をつぶやいた彼女もどこか戸惑いの表情を浮かべていた。その時、横からライフルの銃撃で女のKMFがバランスを崩した。
政府軍のKMF部隊がアキラの援護にやってきたようだ。
女は機体に乗り込み回避しながら後退していった。
『大丈夫か?』
トニー大尉からの回線にアキラは応答した。
「助けてくれたこと感謝します。トニー大尉。」
『今からここを撤退することになった。 機体は動かせるか?』
「……なんとか。」
「そうか……ふふっ、生きていたとはな。まぁいい、お前には帰ってゆっくり聞きたいことができたからな。あのKMFと何をしていたのかを。」
その言葉にアキラは苦い表情を浮かべた。
先ほどの戦闘で政府軍はブリタニアからまた1つ重要拠点が奪われることになった。
アキラ達が帰還したことを聞いた坂口はアキラ探していたがトニーに連れられてトラウトマンのところへ行ったと聞いた坂口はトラウトマンがいる部屋に向かった。
「おい、流崎アキラがここにいるって聞いたがどういうことだ?」
部屋の前にいる兵士2人に問うた。
「答えることはできません。」
「……それはトニー大尉の命令か?」
「いえ、トラウトマン将軍の命令です。」
「将軍が…?」
「俺は見た! お前が白のKMFの操縦者と話しているところをな!!」
部屋にはアキラ、トラウトマン、トニーの3人がいてトニーの怒声が鳴り響いた。
「貴様、もしやブリタニアのスパイではないか?」
「……違う。 敵が勝手に降りてきたんだ、それだけだ。」
「ふふふっ、俺達が何も知らないと思っているのか。」
トニーはある書類を取り出しアキラに見せた。
「日本開放戦線第13戦略特殊任務班 陽炎。 お前がレッド・ショルダーにいたことがもう知っているのだ。 これでもまだシラ切るつもりか?」
アキラは黙ったままトニーを睨みつけた。その態度にトニーは腹が立った。
「貴様っ!!」
「トニーもういい。」
「しょ、将軍、しかし……。」
「では話してもらおうか、君が陽炎を抜けて黒の騎士団に入った経緯を。」
トラウトマンの問いにアキラはしばらく黙ったが口を開いた。
「わかった、話す。」
アキラはギアス、C.C.の件を隠しながらもあの作戦であったことを説明した。
「ではお前は味方から裏切られたということか?」
「そうだ。」
「貴様、嘘ついてるんじゃないだろうな!」
「まぁ、待て、トニー。 エリア11のゲットーでの騒ぎを起こしたのが彼なら黒の騎士団にレッド・ショルダーがいた噂は本当だという事だ。 大尉、流崎にあれを見せろ。」
「えっ? は、はぁ。」
トラウトマンの指示でトニーはある写真をアキラに見せた。
写真に写っていたのは先程の戦闘で遭遇した白のKMFであった。
「このKMFは一ヶ月前に陽炎の部隊と共に現れるようになり味方の被害が拡大していったのだ。」
写真を見ながらトニーの説明を聞いたアキラは静かにつぶやいた。
「流崎、このKMFについて何か知っていることはあるか?」
「……知らないな。」
だがアキラはあることを思い出していた。
シンジュクゲットーでの戦闘で治安警察と戦っている時に現れた謎の部隊、そしてカゴシマで岡村達と戦った時に出た謎のKMFらしき機体。
同一あるとは言い切れないが陽炎と何か関係があるのではないかとアキラは思った。
「……では元レッド・ショルダーから見てこのKMFはどう感じた。」
「………おそらく、操縦者はかなり熟練した技術を持っていると思う。それも人間離れした腕だ。」
その答えにトラウトマンは暫く黙ったが落ち着いた口調でつぶやいた。
「わかった、もういい。帰りたまえ。」
「将軍!」
トラウトマンはトニーに右腕をあげこれ以上喋らせなかった。
「疑いは晴れた。この話はこれで終わりだ。 下がれ。」
アキラは敬礼し部屋を後にした。
「将軍、奴は怪しいです。きっと何か隠してます!」
「…トニー、お前の部隊に奴を入れろ。」
「わ、私の部隊にですか?」
「そうだ。それと流崎の作戦時の行動を逐一報告しろ。どんな些細なことでも構わない。」
「わかりました。 しかし、何故……。」
トラウトマンはトニーを鋭い目つきで睨みつけた。
「りょ、了解しました。」
トニーが退室したあとトラウトマンは煙草に火をつけゆっくりと煙を吐いた。
「これであの方が探していた兵隊(ポーン)を手にいれた。あとは………。」
「じゃあ、出てきたんだな陽炎は。」
尋問から戻ってきたアキラは坂口の車に乗せられた。今は雪は降ってはいないが積もった雪の上を車で街に向かっていた。
「俺の前に現れた白いKMFの事を聞かれた。あんたは何か知ってるか?」
「あぁ、陽炎と一緒に出てくる謎のKMF。そいつが現れてから義兵団の死者が増えたもんだから死神とか言われる。」
「おそらく、奴は俺がシンジュクで戦った奴らと何か関係があるかもしれない。」
「そうか、だがお前も上官2人に目つけられたのはまずかったな。 特にトニーは気に入らない奴を最前線に送って殺すような奴だ、気をつけろよ。」
「ところで何処に行こうとしてるんだ?」
「へへっ、兵士の疲れを癒すのは酒と女しかないだろ。」
「興味ないな。」
「はっははは、わかってるよ。 飯がうまいところがあるんだ、今日は俺の奢りだ。」
車で移動する途中アキラは薄い肌着を着た日本人達が身を縮めながら歩いている姿を見かけた。
やせ細った女性、子供達が少しでも寒さを凌ごうとお互いの身を寄せていた。
歓楽街にはこの寒さにも関わらず人が大勢集まっていた。
物を売る者、派手な格好をした女が男を誘ったりと怪しげな雰囲気を漂わせていた。
アキラ達が入った店も既に多くの客で埋まっていた。
「いらっしゃい、今日はお連れもご一緒のようですね。初めて見る方ですが…」
カウンターにはドレスを着た金髪のストレートヘアーの女性が迎えてくれた。
「あぁ、俺が日本にいた時の仲間だ。 こっちに来たばかりでな。」
「じゃあ、いつものとグラス2つね。」
「いやマダム、1つでいい。こいつは酒が嫌いなんだ。何か飯を用意してくれ。」
「まぁ、ふふっ。わかった、ちょっと待ってね。」
そう言うとマダムはカウンターから離れて奥の厨房へと入っていった。
「特別に彼女が作ってくれるんだ。 結構うまいんだぜ。」
「とっつあん、あんたこのエリアのブリタニアの軍のことは知ってるか?」
「アキラ、俺がただKMFを売るだけしてると思ってるのか? ちゃんと向こうのお偉いさんの袖の下にちゃんと渡すもんは渡してるんだ。 そのおかげで義兵団にはグラスゴーたくさん置いてあるんだ。あれは全てチューンアップされたもんだからサザーランドに引けは取らないさ。」
坂口の不敵な笑みにアキラは苦笑いをした。
「陽炎のKMFについて何かわかることがあるなら教えてくれ。」
「おう、任せておけ。 俺に分かることがあれば何でも教えてやる。」
しばらくして、カウンターから戻ってきたマダムはウォッカ、シチューと2切れのパンを用意した。 この寒さにシチューの味はアキラの凍えた体に染み渡った。
アキラが食事をとっているなか店に1人の客が入ってきた。
「おう、マダム! 酒をくれ! 酒飲まねぇと凍える寒さだぜ。」
そう言うとアキラ達がいるカウンターの近くに座ってきた。
大柄の体系に無精ひげをたくわえ体のまわりには傷跡が多く見られ、腰には銃を収めるホルスターがありアキラと同じ義兵団の人間のようだ。
男はアキラの姿を見てハッっと思い出したかのような顔をしてアキラに近づいた。
「お前、確かさっきの戦闘で敵と内通してたイレブン。確か…流崎 アキラって名前だな?」
ズカズカよアキラの隣に座った。
「………なんだ?」
「ここでのんびり飯食ってる様子じゃあ疑いは晴れたようだな。」
アキラは特に構うことなく食事を続けた。男はカウンターのテーブルを強く叩いた。
「いいか、裏でコソコソ変な真似すんじゃねぇぞ! 突然後ろから撃たれるのはゴメンだからな!」
「そうだな。撃つとしたらお前みたいなバカからだな。」
「なんだとてめぇ!!」
男はアキラの胸倉を掴んだ。
「イゴール、やめろ!」
カウンターから少し離れた椅子に座っていた細身の男が声をあげた。肩まで髪を伸ばし整った顔だちをしていた。
「アレク、お前いたのか!」
「店に迷惑かけるな。それともまた営倉入りになりたいのか?」
その言葉にイゴールは苦々しい顔を浮かべアキラの胸倉から手を離した。
「けっ!」
イゴールはカウンターから離れ、1人テーブルで酒に手をのばした。
「あいつはイゴール、テーブルにいたのがアレクセイ、仲間からはアレクって呼ばれている。2人とも義兵団の中じゃあかなりの腕前だ。」
「2人はここの人間か?」
「アレクセイはそうだが、イゴールは西のEUのフィンランド出身だ。 あまり面倒ごとは起こさないほうがいいぜ。 アレクセイは元政府の役人だ。」
「政府の人間が何故義兵団に?」
「さぁな。前に言ったがあの軍隊は訳ありな人間の集まりなんだよ。 お前だってそうだろ。」
「………」
一人で酒を楽しんでいるアレクセイは店の隅にいる1人の男を発見した。
「岸谷、君もここにいたのか!」
坊主頭の日本人が1人で酒を飲んでおり、顔立ちを見ると20代後半に見える。
「……なんだ?」
「1人で飲むよりみんなで一緒に乾杯しよう。」
「1人がいいんだ。気にするな。」
「おい、どうしたんだ? 顔色も悪いように見えるがどこか体の調子でも悪いのか?」
「うるさい!! ほっといてくれ!!」
岸谷の大きな怒声に店は静まりかえり皆、岸谷を見えていた。
「わ、悪い。もう帰る。」
料金をテーブルに置き岸谷は店を出て行った。
「岸谷……。」
「あいつは日本人か?」
怒声を聞き2人の様子を見ていたアキラは坂口に尋ねた。
「あいつは確か岸谷 晋二(きしたに しんじ)だな。 元日本軍の人間で、今じゃあ義兵団の数少ない日本人だ。」
「数少ない?」
「お前は知らないだろうが、義兵団が設立されたばかりの頃は日本人が大量にいたんだ。」
「どうしてだ?」
「高い給料で雇ってくれるのがそこしかなかったんだ。この国は日本人を保護してるがそれは方便で働き手が欲しいんだ。安い賃金でシベリア鉄道の建設労働、ヴィーシュナの採掘でこき使ってんだ。 その中で義兵団に入ればかなりいい金になるんだ。 もっとも生きて帰ってその金を手に入れられるのはごく少数だがな。」
「最前線送りか……。」
「そういうことだ。無謀な作戦に日本人の部隊を大量に送って捨石のように使ってきたんだ。俺が来る前はまともなKMFは支給されなかったんだ。あの岸谷はその部隊の数少ない生き残りだ。」
「……。」
「本当にいいのか?」
「あぁ、構わない。」
店を出た2人は宿舎に戻ろうとしたがアキラは歩いて帰ると言い出した。
「少し、歩きたい。」
「そうか……まぁ好きにしなよ。 風邪引くんじゃねぇぞ。」
坂口が乗る車を見送りアキラは1人街の中を歩いていった。
華やかな歓楽街であるがその外れにはごみを漁っているみすぼらしい姿をした日本人、街行く人にお恵みを求める日本人を見かけた。
-華やかな街の裏では日本人がうじ虫のように這いずり回っている。 俺にはここがあのシンジュクのゲットーとダブった。-
雪の上を歩いていると雪を踏む音とは違う音がしてアキラは足元を見た。そこには1枚のコインが転がっていた。コインを拾ったアキラであったが
「待ちな!!」
その声にアキラは振り向くとそこにはロシア帽を被った日本人女性が立っていた。見た目はアキラと同じ年頃の子に見える。
「返してよ、その金あたしのもんなの!」
「お前のか?」
「お金落としちゃってそこで拾ってたの。それをあんたが盗もうとして!」
女はコインを持っているアキラの右腕をとろうとするがアキラはそのコインを投げた。
「あっ!!」
女は宙に浮いたコインを凝視し落ちるコインをキャッチした。
「……拾っただけだ。」
「へぇ~、普通なら俺の物だって言い張るんだけど、あんたあまり見かけない顔だね。もしかして新参者?」
女はじっとアキラの顔を見るがアキラは鬱陶しく感じ顔を逸らした。
「何その顔? こんなところで同じ日本人に会えたんだよ。少しは嬉しそうにしたっていいじゃない。」
「金は返した、もういいだろ。」
そう言うとアキラは女に背を向け歩いた。
「何あいつ? 無愛想な奴。」
アキラに悪態をつけながら女も別方向へと歩いていった。
翌日、アキラはトニーからの呼び出しを受け格納庫まで来た。
「流崎アキラ、到着しました。」
「よし、流崎今日からお前は俺の部隊に転属になった。 皆にあいさつしろ。」
アキラはトニーと一緒にいる隊員にあいさつした。 1人を除いて皆昨日の酒場で面識のある者達であった。
「……流崎アキラだ。」
「イゴール・グリンカだ。てめぇと一緒の部隊かよ、ついてねぇぜ。」
「アレクセイ・ヤゾフだ。 よろしく頼む。」
「岸谷 晋二……。」
その中で初めて会う人間がいた。この中では一番高い身長にこの寒い土地には似つかわしくない黒い肌、おそらく190はあると思う。
「ジェノムだ。 インディアンに会うのは初めてか?」
「インディアン? そうか、よろしくな。」
インディアン、ブリタニアの首都ペンドラゴンがあるアメリカ大陸の先住民族でブリタニアの侵攻により徴兵、強制労働させられたりしている。
シャルルが皇帝になった時シャルルの命令により大量虐殺が行われたことで世界各国へ大量の亡命者が発生した。
今回はKMF、武器、弾薬を極東のハバロフスクから運ばれ、サドナのアルダンから首都ヤールンまで護送する任務だ。
サドナ政府はハバロフスクからの輸送もブリタニアの監視を目を盗んでサドナまで運ぶしかないのだ。
KMF6機を大型車両に載せ発進しアキラ達は各KMFのコックピットの中で待機している。
『おいアキラ、突然裏切ってみろ。 俺がぶっ殺してやる。』
「そうか、じゃあブリタニアにお前のグラスゴーを先に撃ってくれって伝えておこう。」
『なんだと!』
『ふふっ、お前の負けなイゴール。』
アキラとイゴールの会話をアレクセイは苦笑いをして聞いていた。
『貴様ら、静かにしろ! もうすぐ合流地点だ。』
外を出ると大型車両が5台が列車を待っていた。
「大尉、お待ちしておりました。」
「敵に見つかっていないか?」
「はい、それは問題ありませんが……先程、ここの地域で軍が動き回っているとの情報が。」
「ちっ、見つかったらやっかいだ。 すぐに出発するぞ。」
武器、弾薬を載せた車両をアキラ達を乗せた車両が周りを固めて発進した。
外は吹雪のため視界が悪くスピードも出せずゆっくりとした速度で移動している途中、護送の車両1台が何かに躓き止まってしまった。
「大尉、すみません。 積もった雪のせいで道から外れてしまい乗り上げてしまいました。」
「ええい、こんな時に。 すぐに戻せ。KMF部隊も出して周りを見張れ。」
アキラ達はKMFを車両から出した。アキラ達のKMFは雪原迷彩のカラーリングのグラスゴーであった。
『くそう、吹雪で見えねぇぞ。』
『この悪天候だ。 敵が仕掛けてくるとは思えないが……。』
イゴール、アレクセイが思案している中 1人KMFのコックピットを開け直視で見ていたジェノムが声をあげた。
『何か光った!』
『何!? どこだ?』
『大尉、北東のほうに…。』
アキラ達はジェノムが示した方角を見たが敵らしき姿は見えなかった。
『何も見えないぞ。』
『ジェノム、見間違いじゃねぇのか。』
『だがイゴール、彼はアラスカ出身だ。 吹雪の中でもよく見えるのは知っているだろ。』
『でもよアレク……。』
『来た! 砲弾だ!』
ジェノムの叫び声に皆緊張が走った。 砲弾は車両の近くに着弾した。
『来たか。ジェノム、敵は?』
トニーの指示でジェノムはKMFに乗り込み、持っている大型ライフルに装着しているスコープで敵の姿を確認した。
『陽炎のタンクKMFが3機。 人型数機が近づいてくる。。』
『俺とジェノムで援護する。 あとの4人は敵をここへ近づかせるな。』
「きやがれ!! 俺が全部潰してやる!」
陽炎仕様のサザーランドを迎撃しながらアキラは先日遭遇したあの女が乗っているKMFを探したがその姿は見られなかった。
1機、2機と敵KMFを撃破していくが高台からの敵の砲撃がまだ止まなかった。
「ジェノム、まだかよ!」
イゴールは叫ぶように声をあげたがジョノムは静かな口調で返答した。
『あと少しだ。 我慢しろ。』
「のんびりしやがって、こっちは… うおっ!?」
砲弾がイゴールの近くに着弾しその衝撃でイゴールのグラスゴーが倒れてしまった。
「ちくしょう。」
イゴールは体勢を立て直そうとした時敵KMFがこちらを狙っているのを気づき機体を動かそうとするが右脚部分が動けなかった。
イゴールはやられると思ったが敵KMFは味方KMFの銃撃により撃破された。
味方KMFはイゴールのグラスゴーを引き摺るように腕を引っ張り岩場まで運んだ。
「だ、誰だ?」
『生きているな。』
「流崎、てめぇか!」
『死にたくなかったらそこでじっとしてろ。』
アキラはそう言うとその場から立ち去っていった。
アレクセイと迎撃を行っている中アキラはこちらへ近づくKMFに気がついた。
雪煙ではっきりと姿が見えなかったがあのKMFは見覚えがあった。
「きたか!」
あの女が乗っていた細身のKMFがこちらへ近づいてきている。
「アレクセイ、例のKMFだ。気をつけろ。」
2人はライフルで応戦するが雪の上でありながら素早い動きで回避し雪の中へと潜っていった。
「下に隠れた!?」
すると雪の中からライフルの弾がアキラ達を襲った。 アキラ達が怯んだ隙に敵KMFは下から出てきて襲ってきた。 アキラは寸前で回避しライフルを撃ったが至近距離ながらも敵は回避した。 敵はソードを構えアキラに近づいた。 アキラはライフルを斬られが敵KMFに組み付き脚部の雪上走行用のソリを出し組み付いたまま走り出し積もった雪へと激突した。
アキラのグラスゴーから離れようと押そうとしお互い鬩ぎ合いとなっている時地盤が揺れ2機がバランスを崩した。
ここは斜面だったらしく積もった雪のせいで隠れていたのだ。
2機とも転がるように転落したがすぐに立ち上がった。
お互い出方をうかがっているが敵KMFは突然後退しはじめた。
『流崎、敵は後退していった。 敵の数も少なかったから輸送車も無事だ。そっちはどうだ?』
アレクセイからの通信にアキラは応えた。
「こっちも無事だ。 すぐに戻る。」
-また、あの女が出てきた。 何故、俺のことを知っている。 陽炎とはどんな関係が。 このサドナ王国で何かの渦に巻き込まれる予感を感じていた。-
少し長くなりましたが、今回作品の中でオリジナルのKMFを出しました。簡単ですが説明させていただきます。
名称:グングニル
通常時は戦車の姿をしているがKMF同士の戦闘になった場合は戦車の後部が起き上がり前輪が脚部となり収納されている両腕が現れる。
雪上戦ではランドスピナーがぬかるみで思うように動けないことから陽炎部隊が独自で開発したKMF。 戦車の主砲で長距離射撃を得意としている。 キャラピラであるためランドスピナーほどのスピードはなく又接近戦の武装がないため援護射撃を重点に使用されている。
簡単に言えばKMF版ガ○タンクですね(笑)
あとエリスが搭乗しているKMFはグロースターの改良したもので軽量化するために脱出装置と余計な装飾も外しスピードアップしている。
それと脚部には雪上戦補助装置アイスブロウワーを装備してある。
※アイスブロウワーはボトムズ ペールゼンファイルズでキリコ達が使用した装置です。
ブリタニア軍のKMFはカモスーツを着てますがこれはダグラムでビッグフットというCBがカモスーツを着ていたのを思い出し使用しました。
あとはイゴール、アレクセイ、岸谷は20代、ジェノムは19歳という設定です。
参考に亡国のアキトを視聴したりしましたがどのKMFも派手ですね(笑)
自分の作品はボトムズのクロスオーバー作品なのでどうしても地味なKMFになってしまって…… まぁ陽炎独自で開発されたもので馬のような脚や派手な武器は作ったりしません(笑)
長くなりましたがこれで。