今年もよろしくお願いします
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サドナ王国の北部にあたり北極に近い地点にあり現在吹雪により視界がかなり悪い状態である。
その中1台の車両がある場所の前へと停まっていた。
巨大な深い割れ目をしたクレバスがその広い口を広げていた。
数名の隊員達がロープをつたってクレバスのしたへと降りていった。
一番下まで降りたところには更に横穴が存在しまわりの白銀の氷が不気味に穴を映し出していた。
「ブリタニア本国、中華連邦、そしてここ。これで三ヶ所目の遺跡です閣下。」
ゴーグルを外し井ノ本寛司は時計を確認した。
「お前達はここで待て。」
「閣下1人で!?危険です!ここはまだ調査を終えておりません。」
「命令だ。」
部下の心配を他所に井ノ本は1人穴の奥へと進んで行った。
氷のトンネルを進んでいくと氷河が無くなり、かわりに巨大な遺跡が姿を現した。
そこの広い空間だけは氷河の下とは思えぬほどの暖かさであった。
だがビルにも似た建造物、アスファルトで舗装された道、遺跡とは言えるものではなかった。ついこの間まで人が住んでいたのではないかと思えるものであるがここには人1人いない。今はここには井ノ本だけがいる。
「流崎アキラ、そしてギアス。この2つが世界に存在する意味。世界の裏の末端を今………。」
井ノ本はゆっくりとその遺跡の中へと入っていった。
アキラ達は先程の戦闘から移動ルートを変え現在迂回する形で首都ヤールンを目指していた。
「俺達の動きが敵にばれた今まっすぐヤールンに向かうのは難しい。この東シベリア山脈を越えてヤールンに潜入しようと思う。」
「だがこんなトレーラーで山を超えられるのか?」
これだけの重装備をしたKMFを4機載せたトレーラーで山脈を超えるのは難しいのではないかとアキラは思った。
「心配ない。俺達が行く場所は山の中でも低い土地だ。道の整備もされていてトレーラーが進むことはできる。だがもうすぐ陽が落ちる。夜、登るのは危険だ。どこか隠れる場所で一晩過ごそう。」
「ふん、バカな連中だ。死にいくようなもんじゃないか。」
手錠をかけられた岸谷が鼻で笑った。 その態度にイゴールは胸倉を掴んだ。
「一緒に戦ったよしみで助けてやったんだぞ。別の言い方があるんじゃねぇのか!」
「事実を言っただけだ。敵のど真ん中に突っ込むようなバカな事をしてどう考えても死ぬさ。そんな事よりさっさと逃げよう。今なら中華連邦に行けばなんとか……。」
「今、逃げたところで俺達に戻る居場所はない。だったら居場所を奪い返すまでだ。」
「アレク、こいつはどうする?」
ジェノムは岸谷の処遇について問う。
「ひぃ、まさか殺すんじゃないだろ………?」
アレクセイは黙って岸谷を睨んだ。
「おい、アレクまさか逃がすとか言わねぇよな。こいつを逃がすと俺達の居所ばらす気だぞ!」
イゴールは声を荒げて異議を唱えた。
「ここの土地に疎い岸谷が無事に戻れると思うか?それにイレブンの彼を保護してくれるとは思えない。」
アレクの言葉にイゴールはある疑問が出てきた。
「おい、イレブンのお前がなんでまだ義兵団にいるんだ?義兵団は軍に取り込まれたんじゃないのか? それとも鉄砲玉にでもされたのか?」
「ち、ちがう! 俺は将軍と話しを………っつ!?」
おもわず口が滑ってしまい岸谷は口を抑えた。
「将軍と?てめぇ将軍と何か取り引きしたのか!?」
「違うんだ!!俺はただ………。」
「やっぱりこいつは今ここで!」
イゴールが拳銃を岸谷に向けた。
「や、やめてくれ!俺はただ流崎を……。」
「アキラ………?」
岸谷が自分の名前を口にし先程まで黙って様子を見ていたアキラが岸谷を睨んだ。
「………俺のことを探っていたのか?」
「ひぃっ。」
静かな口調であったがどこか怒りも篭った様子でアキラは聞いた。
「た、ただ……俺はお前が作戦でどう戦って生き残ったか報告しただけでそれ以上の事は何も……。」
アキラは黙って睨みつけた。
「ほ、本当だ!それだけだ!」
-自分の戦いを報告。トラウトマンの背後にはブリタニアがいる。今俺に関係があるとすると井ノ本しかいないがトラウトマンとは関連がないように思える。だとすると誰が?-
「た、頼む。もういいだろ。は、はやく。」
岸谷の体から汗が流れ手も震えはじめた。
「あ、あれを………ほ、欲しい!! だ、誰かぁ。」
「お、おいどうしたんだこいつ?」
岸谷の奇妙な動きにイゴールは戸惑った。
「おそらくこいつだろ。」
ジェノムは袋に詰められたあるもの白い粉をテーブルに置いた。
「な、なんだこりゃ?」
「こいつが乗っていたコックピットを探ったら出てきた。昔流行っていた薬物だ。」
「なっ!?とうの昔に廃絶されたと聞いたが。」
アレクセイは驚きの顔を浮かべた。
「か、返してくれ!」
岸谷は奪おうとしたがジェノムが取り上げその拍子に転げ落ちてしまった。
「相当侵されているな。こいつはもうだめだ。こうなったらリフレインより始末が悪い。」
「なんだよぉ………。お前らよって多寡って俺が何したっていうんだ………。」
地面に這い蹲り岸谷は嗚咽を吐きながら涙を流していた。
「俺はただ日本に帰りたいだけなんだぁ。こんなところで死にたくねぇよ………ここは地獄だ………。」
涙、鼻水を流しながらも岸谷はつぶやいていた。
「俺は日本を守るために命懸けで戦った。だが戦いに負けてここへ逃げたらここの連中が俺達を見て負け犬だと笑うんだ。ここの暮らしを守るために義兵団にも入った。だがあいつらは俺達日本人を捨て駒のように扱うんだ!!
スクラップ同然のKMFで無謀な作戦に参加させられて日本から一緒に逃げてきた仲間達が1人1人日増しに減っていくんだ。」
だいぶ落ち着いたのか岸谷は過去を振りかえながら話を続けた。
「最後まで生き残った奴がいた。そいつは俺と歳も近かった。あいつと参加した作戦で被弾したあいつのKMFの脱出装置が作動しなくなったんだ。KMFが爆発しそうだったから脱出しろと促したがハッチも開かないから閉じ込められたんだ。俺は外から開けようとしたけどダメだった。KMFに火の手がまわってもうどうすることもできなかった。あいつは無線越しで言うんだ。見捨てないでくれ!こんなところで死にたくない。日本に帰りたいって!」
項垂れるように岸谷は座り込んだ。
「無線から聞こえるあいつの声が頭から離れられないんだ。もう全てのことを忘れたいと思って俺は………。」
身を縮めるを岸谷の姿にアレクセイ達は何も言うことができなかった。
だがアキラは岸谷を無理矢理引っ張った。
「なっ何を!?」
「死にたくないならまず頭を冷やせ。」
そう言うとアキラは仮眠できるスペースがある個室へと入れしばらくすると岸谷が奇声をあげる声する中アキラが部屋から出てきた。
中の様子が気になりイゴールが中を覗くとベッドに縛り付けられて暴れている岸谷がいた。
「気休めだがあれで少しはマシになる。」
「だがこの程度で禁断症状は………。」
「アレク、あいつを病院に連れて行くしかない。」
現実に目を背け快楽を求める者、アキラにはリフレインで中毒者になったカレンの母親と岸谷が重なって見えた。
-首都ヤールン-
総督府の近くのビルの一角の部屋にカノン達がサドナ王国の近況を確認していた。
「カノン様、小規模でありますがテロリスト達の反乱が続いておりデニス総督が手を焼いてるようです。」
「でもエリア11に比べれば小粒なものよ。制圧に時間がかかるようじゃあデニスやトラウトマンもその程度の男ってことね。」
「それと潜らせた者からの報告でこれを…。」
部下が操作しディスプレイからある文章が映し出された。
「流崎アキラの! ………これで裏は取れたということか。 デニスとトラウトマンはやりすぎたようね。」
「では……。」
「いえ、まだ早いわ。私達はここには非公式で入国している。無駄に動いては殿下に泥を塗らせることになるわ。」
-流崎アキラの動きが確認できたら僕に報告してくれ。追って指示はするよ。-
シュナイゼル殿下は流崎アキラが行動を開始したら指示をだす。今からはあの男の動き次第で自分達がどう動くべきなのか決まる。
(流崎アキラ、どう動く。信管が壊れた不発弾のままかそれとも全てを飲み込む………。)
岸谷を閉じ込めてある部屋から彼の叫び声がなくなり静かになったところでアレクセイはアキラにあることを聞いた。
「アキラ、さっきの岸谷がお前を監視していたと聞いたがアキラ、何か奴らから何か目をつけられるようなことをしたのか?」
「…………。」
その問いに暫く黙っていたがアキラは重い口を開いた。
「おそらく………。」
アキラは自分の身に起こったことをアレクセイ達に話した。
「なるほど、殺したと思ったお前が生きていてそれで今まで狙っていたということか。」
「だがよ、どうしてお前なんだ?井ノ本から何か恨まれるようなことでもしたのか?」
「さぁな、あの男から勝手に因縁をつけられただけだ。」
もっともそれだけじゃない、ギアスも関係があるはずだとアキラは推測した。
翌日
雲で太陽の陽を見ることはできないが僅かに青空を見ることができ行軍に支障は見られなかった。
「よし、すぐに出発しよう。」
そこには少し顔色の良くなった岸谷の姿がいた。
アレクセイの案内で東シベリア山脈を登ることとなりはじめは広い道であったが登るほど道が細くなりトレーラー1台がギリギリ通れる幅しかなかった。
「こ、こいつは……おい、アレクここは山頂から低い場所なんだよな?」
「あぁそうだ。」
イゴールが窓から覗くと左側は崖となっておりその景色にイゴールの顔は真っ青となった。
「ジェノム、頼むぜ。」
「わかってる。」
運転を任せられているジェノムは緩いスピードでトレーラーを運転している。
「なぁ、流崎。」
隣にいた岸谷がアキラに声をかけてきた。
「お前、日本に帰るつもりなのか?」
「………あぁ。」
「なら、俺も一緒に行く! こんなところで一生終えたくない。ゲットーでもいいから日本に帰りたい。」
「………好きにしろ。」
「お前、戻ってどうするつもりだ?」
「会いたい人がいる。そいつとまたブリタニアと戦う。」
「やっぱりお前はレッド・ショルダーだな。」
そう言われアキラは岸谷を睨んだ。
「知らないと思ったか、ほとんどの連中は日本の切り札とか言ってたが陽炎の噂は俺がいたの組織でも有名だったんだ。日本開放戦線の陽炎は日本を開放するための聖戦と称して人殺しを楽しむ異常者の集まりだってな。」
「………………。」
「俺はいやだ。戦争だからっといってお前達みたいな殺人鬼にはならないってな。俺は人らしい暮らしをただ……」
その時、進んでいたトレーラーが上下に揺れ崖のほうへと車体が傾いてしまった。
「なっなんだ!?」
「見てくる。」
ジェノムが外へ出て様子を見た。
「降り積もった雪が道になっていたんだ。」
「あ、あぶなかったなぁ。」
僅かに道を外れたらと思うとイゴールは冷汗をかいた。
「ウインチでどこかに固定して押すしかないな。」
「俺が行こう。」
アキラはウインチのロープを引っ掛ける場所を探しにサザーランドに乗り込み発進させた。
しばらくしてアキラは先程より広い道へと入りその先にあった巨大な樹木を発見しロープを巻きつけアレクセイ達に合図を送りトレーラーはアクセルを踏み前進を開始した。
アキラは周りを注意している中展開していたファクトスフィアが反応した。
「敵の反応!?」
『こんな時に!』
「いや待て………反応が消えた?」
アキラは反応があった方角を見たが敵らしき姿が見えなかった。
『誤作動でもあったんじゃねぇのか?』
変わった動きもなくイゴールの言うとおりなのかとアキラは不審に思ったが
「なっ!?」
その直後アキラのサザーランドとトレーラーの間に突如KMF1機が現れロープを切断しようとした。
アキラはライフルで応戦し謎のKMFは回避し後退した。
「敵だ!!早く上げろ!」
トレーラーは急発進で乗り上げた場所から脱出しアレク達3人もKMFで出撃した。
『なんだ、いきなり?』
『アキラ、お前どこ見てたんだ!!』
イゴールは怒声をはなったが、当のアキラも突然現れたKMFに困惑していた。
『俺も見たが突然現れた。』
運転していたジェノムも突然目の前に現れたKMFに驚いていた。
『気をつけるんだ。まだいるはずだ。』
4人共背中を合わせ周囲を警戒した。
『いた!!』
ジェノムの声で3人は敵がいる場所を見た。
敵KMFの形状は金色のカラーでサザーランドやグロースターとも違う見たことのない機体であった。
「ランスロット?いや………。」
アキラはランスロットと思ったが細部が違っていた。
『なんだぁあのカラーは?目立って逆に外すのが難しいぜ。』
イゴールはライフルを向けたがその直後敵KMFが姿を消した。
『き、消えたぁ!?』
アキラ達が消えたKMFを探していると突如イゴールの目の前に敵KMFが現れた。
すぐさまイゴールはライフルを撃とうとしたが槍状の剣でイゴールのライフルを切断した。
アキラ達3人はライフルで応戦したが距離をとり素早い動きで回避した。
『まさか、ブリタニアの白き死神!?』
アレクセイは各地の紛争で現れ恐れられているスザクの呼称を口にした。
(確かに動きは素早いが………。)
アキラは落ち着いて敵の足下を狙い撃ち動きを止めた。
「あいつと比べれば遅い。」
追い討ちをかけようとしたアレクセイ達から離れた時敵はまた姿を消しその直後サザーランドの左肩が損傷した。敵はアキラのすぐ左にいた。
『アキラ!!』
アキラの援護へ向かおうとしたアレクセイ達であったが4機のサザーランドが現れ応戦せざるをえなかった。
敵KMFは肘打ちの構えでアキラに近づいたが瞬時に回避し肘からはランスロットのブレイズルミナスを思わせる光を発光させていた。
アキラはすぐさまライフルを撃ち敵は腕を十字に構えライフルの弾を防ぐとまた姿を消した。
「くっ、また。」
前、左右を見ても敵の姿は見えずアキラは後ろを振り返った。背後には槍状の武器を構えた敵KMFがいた。
すぐにライフルを向けようとしたがライフルは槍で弾かれ脚で蹴られ倒れこんでしまった。
敵はもう一つの槍状の武器を取り出し2つを組み合わせそれをアキラのサザーランドの胸部に向けた。
『アキラ!!』
その姿にアレクセイは大声で叫んだ。
止めを刺すのかと思ったのだが敵KMFは急に動きが止まりそのままアキラに刺す様子もなかった。
「っ!?」
アキラは敵の動きに怪訝に思ったがこの隙を逃さずスラッシュハーケンを打ち込んだ。
敵KMFは突如動きが俊敏になり回避したことで致命傷は負わなかったが左腕が損傷してしまった。
「ひっひぃ。」
トレーラーの中で岸谷を身を縮らせて震えていた。
「い、いやだ。死にたくない!」
岸谷はハンドルを震えながらも強く握った。
左腕を失ってから動揺したのか敵KMFは槍状の武器を振り回すように攻撃をしアキラは回避しながら距離をとった。
敵が飛び込もうとした時突如トレーラーが間を挟む形で走ってきた。
「岸谷!?」
突然現れたトレーラーに驚きながらもアキラはトレーラーが通りすぎた直後敵KMFに向かって体当たりを仕掛けた。
敵KMFもトレーラーの介入に隙がでてアキラの行動に対処できず激突し倒れてしまった。
倒れたKMFにライフルを向け撃とうとしたが敵はまた姿を消しアキラと距離をとった。
また攻撃があるのかとアキラは構えたが敵KMFは背をむけ後退をした。
アキラは一息つきながらも
「岸谷っ………。」
岸谷の行方を追った。
「岸谷、どこ行く!? 戻れ!!」
アレクセイは勝手に動いた岸谷に連絡をとった。
『帰る、帰るんだ!!』
「岸谷?」
逃げる岸谷が乗るトレーラーを見て敵のサザーランドはライフルを撃ちコンテナ部分に命中しトレーラーはバランスを崩し崖下へと落下していった。
「やりやがったな!!」
イゴールは押し出すような形で敵サザーランドを大型キャノンで撃破した。
「あいつは?」
崖下の辺りを見るとトレーラーが横転している姿を発見した。どうやら途中で止まったようだ。
「はぁはぁはぁ………。」
あの金色の敵KMFは戦場から離れ身を隠していた。
「はぁはぁ……早過ぎる。なんで……?こんな事は今まで。」
パイロットの呼吸は乱れ胸の辺りを押さえていた。そんな時通信が入ってきた。
『どうだった彼は?』
「はぁ……申し訳……ありません。」
『なるほど、君のその声を聞いただけで結果はわかったよ。それで他の連中は?』
「……おそらく、全滅かと。」
『…………仕方ない。次の機会だね。』
「…………。」
『君はエリア11に戻って彼の監視に戻ってくれ。』
「聞きたいことが、あの男流崎アキラは一体…。」
「余計なことは聞かなくていい。君は言われたことをやっていればいい。」
「っつ………!わかりました。」
通信を切った直後次は懐にしまってあった携帯が鳴った。
「…………もしもし。」
悟られないよう息を整えて話をはじめた。
『あぁ、俺だ。………どうした、どこか体の具合でも悪いのか?なんか息が荒れているようだが?』
「ううん、なんでもないよ。少し疲れただけだよ。」
『そうか、突然お前がホームステイに行きたいからって………それでどうだ向うの家族に迷惑かけてないか?』
「うん……大丈夫だよ。」
『そうか、そっちでゆっくり楽しめばいいさ。』
「うん、ありがとう兄さん。」
『あぁ、ゆっくり休めよ、ロロ。』
ロロと通信を終えたV.V.は険しい表情をした。
「彼のギアスも通じないかぁ………。だめだ、これままだと僕達の計画どころかこの世界も…………。」
V.V.は大きな長方形の浴槽のようなものでその中には1人の人間が入っていた。その機械には、大小様々な大きさの管が接続されており、独特の機械音を発している。
「だがまだだ。この人間はまだ完全じゃない。流崎アキラ……彼を殺すにはまだ足りない。」
V.V.は中に入っている人間をじっと見てつぶやいた。
反転したトレーラーの中で岸谷は意識を取り戻し何が起こったのか慌てているとあるものを見つけた。
「よし、アレクいいぞ。」
アレクセイは崖の窪みに引っ掛かったトレーラーから岸谷を救出しようとイゴールがアレクセイのKMFのスラッシュハーケンを木に巻きつけアレクセイは崖へと降りていった。
「………岸谷。」
トレーラーはいつまた落ちるかわからない。すぐに救出しなければと思い無線で岸谷に声をかけた。
「岸谷、無事か?無事なら応答しろ!!」
いつまでも応答のない岸谷にアレクセイはKMFから降りトレーラーに飛び移ろうとした時トレーラーが下へと動きだした。
「っく、時間がない。岸谷!!」
無線越しから笑い声が聞こえた。
『ふっふふふ………はっははは!!』
「岸谷………!?」
こんな時にどうしたのかとアレクセイは不気味に思ったが無事を確認し岸谷に脱出を促した。
「そのトレーラーはもうもたない。俺のKMFに飛び移れ!」
『ふっふふふ、帰ったんだ。俺は帰ったんだ!!』
「岸谷?」
『日本に、日本に帰ったんだ。はっははは!』
「………あいつ、まさかクスリを。」
ジェノムの言うとおり岸谷の手には白い粉を握って恍惚な表情を浮かべていた。
「もう、もう戦争しなくてもいいんだな。」
『岸谷、はやくそこから出るんだ!!』
アレクセイの呼びかけにも岸谷は耳を貸さず今ある快楽を楽しんでいた。
トレーラーがまた動き今にも落下する恐れがある。アレクセイは危険を承知でトレーラーに乗り移ろうとした。
「アレクもうあきらめろ!!お前まで巻き込まれてしまうぞ。」
『あぁ親父、おふくろ、俺を待っていてくれたんだ。また会えるなんて………。』
イゴールやアキラ達の無線から岸谷の薬物の影響かうわ言ような言葉が聞こえている。
「いや、まだ岸谷!!」
アレクセイはコックピットのハッチを開き外へ出ようとした時トレーラーが窪みから落下した。
「っ!?」
トレーラーは崖の下へと消えるように落ちていった。
『あぁ、もう苦しいことはないんだ。寒いところにいることも人にこき使われることももうない。はっはははは…………。』
4人の無線から岸谷の声がまだ聞こえている。
「……………バカ野郎。」
イゴールはただ一言つぶやいた。
そしてその無線を最後に岸谷の声は聞こえなくなった。
「岸谷………。」
アレクセイは唇を噛み崖下を見つめた。
『………いい夢を見て死んだか。』
ジェノムは呟いた。
-岸谷は最後笑っていた。この結末にあいつは満足なのだろうか、だがわかっているのは俺達はまだ生きていてこの極寒地獄の中にいることだけだ。-
岸谷はある洋画の主人公をモデルにしました。
ホントはもっと掘り下げてみたかったキャラにしたかったのですが思うように描けず描写不足を否めないが自分の判断です。
それとロロも出しました。戦闘はアキラに軍配が下りましたが自分としては劇中、彼はギアスとヴィンセントの性能で暴れることができたと思ったのでアキラはそんな苦戦はしませんでした。
第1部もあと1,2話までのところです。では