最強を目指して   作:匿名希望ただの人

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月夜も照らさぬ闇夜に、それは2人の少年の前に突如現れた
黄金に輝く一本道、その光は色と反し禍々しく決して進んではいけないと本能が告げる
未知なる恐怖、だが少年達はその道を進んだ。炎で熱されたかのような、千切れるような、刃物を突き刺されるような体中の駆け巡る痛みという痛み、それに加え上からの重圧で押し潰されそうになる。それは歩く度に痛みが激しくなり常人なら途中で引き返すか、あるいはもう死んでいるか
だがその少年達は平然と歩き進み巨大な黄金の扉の前にたどり着く
少年達は片手で目の前の扉を開けると、そこから闇が放たれ少年達を阻む、入ってはいけないと警告するように
しかし、なんの躊躇いもなく中へ入っていった。




「やっと来てくれたね、運命の子よ。」



        俺は何を間違えたのだろう……。


普通が素敵

 

 

 

 

 

 

放課後

夕暮れの教室で担任と龍我は話し合っていた

「おい龍我、このままじゃ本当に留年するぞ、いいのか!?」

当然単位の話だ、授業態度も提出物もテストの点も平均よりも劣り、バイトで学校を休み過ぎている、出席日数も危うくあとあと少しで手遅れになる

そんな中、龍我は黙って先生に封筒を渡す、綺麗な字で退学届と書いてある

「…お前、学校をやめるのか?」

それを見た先生は顔色を変え見てくる、確かに自主退学の方が強制退学よりいい方だ、だがまだ間に合うこの時点で自らやめるのは勿体無い

「あぁ、もうここに留まる必要はなくなるからな」

だが、龍我は別の理由でやめるそうだ

「親は、なんて言ってるんだ」

「俺の道に、親は関係ない」

「これからどうするんだ、高校中退じゃまともな仕事はつけないぞ」

「いいましたよね、ここに留まる必要はないと」

「どういうことだ」

「詳しくは話せない、ただ俺の役目を果たす時が来たんだ」

「お前、まさか死ぬのか!?」

龍我が戦いに出ることは知っていた、死ぬから退学届?違う、龍我はそんな後ろ向きな考えをするやつじゃない

「桜義龍我は死んだんだ…15年前に」

「何を言ってるんだ」

「先生、俺は感謝してますよ。こんなダメな奴の面倒を見てくれてよ…それにここでやっと普通の学生ってのも味わえた……。」

「お前」

「あと、2週間…御世話になる」

そういい頭を深く下げ教室を後にする

「…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぇ!?」

授業中に響きわたる龍我の声

「セツナ、主の首に肘落とすなよな」

「授業中寝ている御主人様がいけません」

首に痛みが走り起きた龍我は涙目でセツナを睨む

ちなみにセツナはメイド服ではなく、聖蘭高校の制服を来ている。冬なのでスカートの丈を長い露出が少ないメイド服にしたのだがセツナが動きにくいと言われ、考えたあげく学校でも目立たない制服にしたのだ。男子からなぜかバッシングが来たが全て無視、お前ら関係ないやろが!

「御主人様、皆様は教科書43ページの問3と問4の問題を進めております。遅れてますので急いでください」

「へーへー。」

数学の授業中、セツナが言った問題をやる。

………なんだよ、この問題。

頭を抱え悩む龍我にセツナは疑問を抱いた

授業終わり

「…御主人様、本当は出来るのになぜやらないのですか?」

セツナは聞いてくる、それはとても不思議そうに

「知っているものを習うのはどうしてもやる気が失せちまうんだ」

「なるほど、ではここにいる意味はないのではないですか?」

「……普通を体験してみたかったんだよ。」

「普通…ですか?」

「もし、あの時あんなことがなければ…きっと俺は皆と同じように勉強して就職して…って生涯を送ってたとおもう」

あの時、もし一瞬でも躊躇ったら運命は、歴史は、時代は、全てはかわったのかもしれない

同然、セツナとも出会う事はなかった

「まぁ、裏で動いてたから無理か…。」

微かにある、幼少期の記憶…まだ人間だったあの時の事を思いだす………思い出したかねぇ。

「…そういや、お前はどうするんですか?」

「私ですか?」

「そうだ、事が済んだらお前は本当の自由になれる。大半の奴らは自分の場所を見つけている、今のうちに何をやるか考えておけよ」

「どういう事でしょうか?」

「メイドから転職するってことだ」

「申し訳ございませんが、私は死ぬまで御主人様と共にする所存でございます」

「メイドとしては100点だな、心の底から感謝したい」

「ありがとうございます」

「その忠誠を買って1つ頼もう」

「なんでございましょうか」

「帰れ」

「できません」

「おいこら、忠誠はどこへいった」

「これは御主人様の教育でございます。」

「くそが、俺の立場はいつ弱まった」

「今の御主人様は威厳がありませんから…その、えっと、とても可愛らしくなられて」

「ぶち殺す、解雇だ、クビだ、消え失せろ」

「うふふ、駄々をこねる御主人様も大変愛くるしいでございます」

「はぁ、まぁええや。でもコイが居るんだろ?そばにいてやれよ」

兄貴の代わりに面倒を見ていたコイが今朝、目を覚ました

だが虎我の所へはいかずなぜか俺のアパートにいる、そしてとても怯えている。あいつがあれほど怯えるなんてまずない、悲惨な拷問を受けたがそれでもあいつの心は強い、だが1つあるとすれば兄貴に怒られることぐらいだ、そんな大きな問題を隠す程コイはバカじゃない、それにハクロウもなんか悩んでいるようにもみえた

というか、兄貴に用があって来たのに会わないのがおかしいことだ

「…セツナ、他の世界で何かあったのか聞いてないか?」

「それといった事は私の所にきてません」

「そうか…それじゃ調べようがないな」

「お望みでしたら全て調べましょうか」

「いや、これ以上お前を動かしたら倒れちまうよ」

「御主人様の為ならたとえこの身が滅びようとも、命令に従います」

「じゃあ帰れ」

「それはできません」

「うおい!」

自分で言っておいてすぐに否定しやがった、矛盾してる。こんな所も主に似てしまったのだろうか

そんな完璧なメイドに頭を抱えながらも次の授業の準備をする、次はなんだ、総合の時間かよめんとくせぇ

総合の時間は、主に進学や進路の話を聞いたり調べたり話し合いなどをする、まぁ授業ではないな。

そういや、聖蘭もそんなのがあったな…あ、姉妹学校なんだっけ?だから取り入れてんのか

前にいた学校のことを思いだす龍我、あの時は話聞いてなかったから何したか覚えていない

おっと、思い出にふけてる場合ではない。クラスの奴らにまぎれ後をついていく

講義室では2学年全員が集まっている、セツナは座る所がないので後ろで立って待機している

「何を聞くんだろうな」

「就職の話だってよ」

「マジか、俺進学だからいいや」

「就職するやついるんか?」

「一応進学校だしな、少なくてもいるんじゃね?」

「でも、今日は就職した先輩の話だろ?」

「誰が来るんだろうな」

回りの生徒がコソコソと話している

なるほど、ここの卒業した先輩の話か…転校生の俺にとっては特に思い入れはないな、あったら怖いか

「滝山 望(たきやま のぞみ)さん、と、川谷 真司(かわたに しんじ)さんです」

先生に呼ばれ入ってくる女と男、それぞれスーツを着ている

「おぉ!?元生徒会長と元副会長だ」

「すげぇ人達がきたな」

その2人の登場にざわめきだす生徒達

反応から知っている人のようだ、つまり2つ上の台なのだろう…だとすればまだ社会人1年にもなっていない、それなのに呼ばれるとはよぼと優秀な実績を残したのだろうか、それともこの人しか空いてなかったか。どちでもええわ、知らん知らん

「株式会社アクエリオンから来ました、滝山望です」

黄色の髪を肩まで伸ばし、前髪を切り揃えてある、整った顔立ちに赤い眼鏡をかけた真面目そうな女性

「野原農林水産組合から来ました、川谷真司です」

緑色の短い髪、顔が傷だらけで特に右目に傷後が目を引く、体格がよく活気のいい男

…否、知っていたわ。

「私の会社は主に貿易をやっております、相手は主にネーシャルムーンとあまり知られていない国です、後はアルガド王国やレオルド帝国とも少しだけやり取りしています」

スクリーンに映しだされる写真と共に会社の説明をする、写真には打ち合わせや取引の場面だけでなく、現地の人との交流のものがある、中にはアリスと仲良く話しているものもあった

「まだ創業2年目で社長も20歳で社員も私を含めてまだ6人しかいませんが、これから大企業にします!」

その意思のある発言と覚悟に生徒達は圧倒される

「あれってネーシャルムーンって龍我につっかかってきたあのお嬢様の国だよな」

「レオルド帝国はあのエミリア姫様だよな」

本来なら会う事も声を聞くこともできない超お嬢様達と交流をしたことがあるのでその国の名前を聞くと反応してしまう

あれも姫華先輩が聖英と軍戦を誘ったから偶々出来た事だ、そう思うと凄いな、先輩

「可愛かったよな」

「あぁ、この目でお会いできて光栄だった」

「もっかい会いたいなー」

「聖英にいるんだろ?そこら辺歩けば会えるかな」

「さあな、やればわかるだろ」

そんな事は他所に話を進める滝山、社会人の苦労話やよかった事など、生徒達も静まり話を聞く

「私からは以上です。」

そうしてると話は終わり、続いて川谷が話だす

「我が野原農林水産組合は創業8年、主に農業と林業の2つをやっていたのですが、近年組合長が代わり水産業にも手を出しはじめました、映像を持ってきましたので見れば何をしているか一発でわかります」

そういいスクリーンから映像がながれる、組合長の野原大地、何を隠そう聖蘭高校の農業科の先生であり俺の先生でもある。そして流れる映像の中にバイトとして働いている俺や前にいた学校の友達、そして川谷が映っている

それには学年全員が驚きそしてなぜか爆笑している

「技能班、農業27人、林業23人、水産業18人と事務35人の計103名の組員で、とても飽きのこない楽しい仕事です。」

滝山と同じく会社のアピールをした後に社会人になってからの話をする

「以上です」

「続きまして、先輩達に質問がある人は挙手してください」

「じゃあ龍我さん、お願いします」

「は!?」

挙手が無かったのか、俺にふってくる先生。そして生徒がマイクを持ってくる

特に質問はないんだけどな、まぁ聞きたいことはあったからちょうどいいな

「お前ら、あの会社に入って良かったか?」

質問というより問い掛けだが気にするな

「とうぜん」

「もちろんです」

2人は先程見せなかった緊張した声で言う

「ならいい、未来ある仕事だ全力でやれ!」

「はい」

「頑張ります」

「その意気だ、俺からは以上」

そういいマイクを生徒に返し座る、2人は龍我に対して深々と一礼をしている

「他にいますか」

その後は何名かの生徒達は普通な質問をしてきてそれを返す、俺もそうすれば良かったな

生徒からお礼の言葉などやっていると時間はあっという間に過ぎていく

「以上で終わりとなります。生徒の皆さんは拍手でお見送りください」

拍手のなか退場する2人を見送り総合の時間は終わった

「あいつらも、立派になって俺は嬉しいぜ」

「左様でございます」

セツナも頷きながら賛同する

「あ、龍我さん」

「旦那、待ってましたよ」

俺の教室の前で待っている滝山と川谷、そう簡単には帰るわけないか

「お前ら、何をしてるんだはよ帰れや」

「いやいや、旦那に会ったら卒業したら組合に入れって野原さんから伝言授かってますんで」

「氷堂社長からもスカウトしてこいって言われまして」

「誰がはいるかよ、んな仕事!あの姉ちゃんのことだ、ブラックだろ?農業とか林業なんか辛い辛いやってらんねーよ」

「そんなことないですよ」

「またまたー、授業やらバイトやらでもう手慣れているんでしょ?」

「世界に顔が知れているんで、貿易もスムーズにできますよ」

「バカ野郎、貿易は自分の力でやるって姉ちゃんと約束したんだ。野原先生も、気が向いたら顔だしてやるよって伝えとけ」

「わかりました」

「んで、話はそれだけか?」

「語りだしたら長くなるじゃないですか」

「まぁな、立派になってくれて嬉しいよ、浩二郎も喜んでるだろうな」

「そうですね」

「川谷も、仕事だけじゃなくて、しっかり親孝行もしろよな」

「当たり前ですよ!」

もう、俺の助けはいらねぇな、そう思うと役目は終わったと安心する

「龍我さんも、死なないでくださいね」

「そうだぜ、旦那が居なくなったら寂しいからな!」

「はっ、それはどうかな。何があるかわからねぇし、俺には重大な役目がある…出来ない約束だ」

「そう、ですか」

「まぁ極力頑張ってやるよ」

「旦那ならどうせ死なねーだろうけどな!」

「お?それを言うか?」

「当然!」

「かわんねーな、おい」

「姫華達は行くらしいね」

「そうだな、さすがに止めらんなかったわ」

「後輩を任せたわよ」

「俺達は行けないけど守ることはするから」

「じゃあ互いに生き延びようぜ」

「はい」

「全てが終わったら飯でも奢ってくれや、話はその時だ」

「わかりました」

「約束ですよ」

「やっぱ、できねーかも」

「おい!」

「冗談冗談、お前らはやく帰んないと冗談抜きで社長に怒られるぞ」

「やば!?この後会議があるのに」

「あー、収穫か…がんばろ」

「じゃあね龍我さん」

「また会おう旦那!」

「おう!」

急ぎ足で去ってく2人、それを見て思わずしんみりしてしまう

(俺にも、あんな生活が送れたのかな)

ふと前にいた学校のことを思いだす龍我、同学年や先輩、堂道館のやつらなど喧嘩したり、異世界の奴とも戦ったし、あの人達とも知り合ってあの時はいろいろやったな…今思うとあの生活も普通の学生生活だったのかもしれない。

だがそれは俺の普通だ、俺が味わいたかったのは皆の普通

その普通を求めこの学校へ来たのだが運命とは残酷だ、結局同じ生活を送っちまった。最初はよかったんだけどな、戦いが混ざった瞬間、過去の奴らとの出会いの数々。現に今起きている

(逃れられない運命か…。ワシもあいつも…。)

「御主人様、どうかなされましたか」

「いや、なんでもねぇよ…」

「そうですか」

「……なぁ、セツナ」

「なんでしょうか」

「お前、俺に付いてきて良かったか?」

「当然です、私は御主人様に出会えた事を心より感謝しております。たとえ悲惨な過去があったとしても」

「そうか…なら、よかった。」

そう言うと龍我は自分の席に座り窓を眺める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後

「あら、龍我じゃない。」

廊下を歩いていると前からプリントを持った町田が通る、生徒会の仕事かな、大変だな

「先輩達の質問はなかなかだったわね」

「ほっとけ」

「まだ、メイドなんか連れているの?」

「仕方ないだろ、付いてくるんだから」

「いかなる時も御主人様の側にいるのがメイドの務めでございます」

「…まぁいいわ」

「んにしても、生徒会の仕事か?大変だね」

大量のプリントを見て言う、どうせよくわからん資料かなんかだろう、なにげに行事は多いからな

「姫華先輩達が学校に来ないからね、全部私の所に来たわ」

今先輩達は七番隊と一緒に修行中なので学校には来ていない、まぁ授業なんて受けている暇なんてないな

「冥も学校に来なくなったし」

冥もセツナにやられ更なる強さを求め修行している

「あいつらしいな」

「原因を作ったのはあんた達なんだから、手伝いなさいよね」

「はぁ?お前の所に副会長がいるんだろ?」

修学旅行で初めてその存在を知ったのだが、交流を深めたクラス戦争があったとはいえ、まぁ、ボコボコにしたな

「いるけど、やめたのよ彼」

「はぁ!?」

「龍我に負けたのがショックだったんだろうね」

そんな事を引きずってやめたなんて、なんて小さな男なんだろうか

「でも、そもそも冥と殴りあったり、聖英と軍戦を相手に勝利している奴に勝てる訳ないよね。」

様々な猛者から勝利してきた相手にたかが能力を持った生徒なんかが勝てるわけがない

「あなたのこと調べたけど、案外凄い人じゃない」

意外そうに言う町田、調べたというより修学旅行で知り合って仲良くなった氷堂に聞いたらい

なんでも、クラス戦争で学校の頂点に立ち、堂道館高校大学共に勝利し、世界最強とも戦い、そして異世界の怪物達を倒した

その戦績は大変優秀なもので氷堂が知る限り3回しか負けてないそうだ

「超有名人がこんなとこにいるとはね、世界は狭いのね」

「ほっとけ」

「そんなに強いのに、なんであんなに弱かったの?」

依然龍我と戦った時は無鉄砲なバカであまり強い印象はなかった。しかし本来は最強に等しい強さを持った、姫華達が憧れ目指した場所にいる人物だった

「もっとほっとけ」

「…なんで隠してたの?」

「使えなかったってのもあるけど、一番は普通の暮らしってのがしたかったんだ」

「普通の暮らし?」

「セツナ、悪いが先に帰ってくれ…」

「かしこまりました、夕飯を作っておきますので早めにお帰りください」

そういうとパッと消える

「お前は、みんなと同じ生活を送ってみたいと思ったことはあるか」

「……ないわね。」

町田も能力者ではあるが、それ以外はみんなと変わらない生活を送っている。本人もみんなと同じ特に変わらない普通な生活を送っていると思っている

「俺は何度かあるんだ、偽りでもいい…みんなと同じで戦いなど知らない平凡な生活に憧れがな」

「…何を言っているの」

「俺はな、自分で選んだこの道は間違えたとは思ってない当然後悔なんて微塵もない。ただこの道もあったんだなって知っておきたかったんだ、俺は」

町田には龍我が言っていることの意味がわからなかった、人の過去なんてわかるものじゃない、だけど龍我からは他の人とはかけ離れた道を歩んできたのだとなんとなくわかる

「…冥はああ見えて根は優しいやつだからよ、仲良くやってくれよ」

「当然よ、私の友達なんだから」

「ははは、それでいい。お前は真っ直ぐ生きろ…新しい時代でも楽しく過ごせるだろう」

会話が途切れしばらく歩いていると再び龍我が口を開く

「お前は、戦争に出るのか?」

「お呼ばれにはなっているわ、でも迷っているの」

「やめとけ、過酷なもんだぞ」

「でも、冥は出るのよ、ほっておけないわ」

「あいつは死なねぇし死なせはしねぇよ。」

「え?」

「友達を思う気持ちが本物なら止めはしない、前線には出ないだろうしな」

「この戦争についてなにか詳しく知っているの?」

「出るなら教えてやるよ」

歩いていると2学年の生徒会室に着き中に入り椅子にすわる龍我

「ほら、俺も手伝ってやるよ」

「あら、出来るの?」

龍我を意外そうな目で見る町田

「なめんなよ、聖蘭や姫隠、聖英などの学校や他の会社の書類作業をこなした男だぞ」

「それは万能ね、お願いするわ」

「任せろや」

そう言うとプリントを受けとる

「会計があっているか確認して頂戴」

本来会計係がやるのだが、チェックの為に町田が目を通すのだ(本来なら姫華がやるのだがいないのでかわりにやっている)

「おう」

「あ、これ電卓ね」

「んなのいらん、ほれ、確認せい」

町田にプリントを渡す

「え?もうできたの?」

「当然、俺が本気を出せばこんなもんよ」

「本当かしら」

「計算は合っているが、強いてミスを言うなら表の8段目にある誤字くらいか」

「それは大きなミスよ!」

確かに部費の表の8段落の弓道部が球道部になっている

「よく気づいたわね、意外」

「いったろ、やったことあるって」

「それでも、速すぎよ」

「慣れだ、慣れ慣れ!」

「慣れって、人間離れよ」

「まぁな、人間は一度やめてるからな」

「…どういうこと?」

「そのまんな、ほれ、次はどれだ」

「次はこれをお願い」

「はいよ」

町田から渡される資料を受け取り、雑談を交えながらやる。

「ん~終わったな!」

「そうね、お陰で早く終わったわ。ありがとう」

「いーってことよ!」

「それにしても珍しいわね、バイトがない日に私の手伝いをしてくれるなんて」

「ん?バイトはやめたさ」

「え?なんて言ったの?」

バイトの鬼と学年ではあだ名がつけられていた龍我(本人は知らない)がやめたのはとても意外だったのか、思わず聞き返してしまう

「いろいろあんだ」

「そう、やめたんだ…じゃあ勉強に専念できるね」

「さー、どうかな~。俺にはやることあっからな~」

「ちゃんとやりなさいよね。」

「気が向いたらね!」

じゃ!と言い走り去っていく龍我、勉強はする気はないようだな

全くわからない龍我に呆れながら町田も下校する

「あら?」

その道中で街中を歩く3人の集団に目が止まる。なぜなら、白の制服、胸に軽い甲冑をしており、腰には剣のようなものをさしてあるからである

コスプレ集団なのだろうか、それにしては不振な動いをしているしこんな時間に街中でやるものなのだろうか

町田だけでなく、通る人達からも注目を浴びる

「団長、本当にここであっているんですか?」

黄緑色の長い髪をした少女が不安そうに言う

「大丈夫だ、前来た時はここを通った…気がする」

集団の長と思われる少女が徐々に自信満々に言う

「団長は方向音痴だからな~」

頭に手を宛ながら歩く茶髪の少女が笑いながら歩く

「それにしてもでかい建物だな」

「そうね、他の世界でも見たことないわ」

無数にそびえ立つビルを見上げる

「あの出店うまそうだな」

「そうね、第13世界の味覚を味わってみたいわ」

「こら、私達は観光に来た訳じゃないぞ」

そんな周りを見渡して浮かれている2人を注意する

「だって、この世界は未知なんですよ。」

「そうそう、唯一知られてない場合なんですから。色々と経験しなくちゃ」

「っ。クラッカ、レイス…大変だ」

ここで団長が声をあげる

「どうしたんですか団長」

「道に迷った!」

「え、ええぇぇっ!?」

「あーあ、やっぱりか」

その発言に驚きつつもどこか平然としている

「ど、どうするんですか」

「安心しろ、こう言う時は現地の人に聞けばいいのだ」

「さすが団長!頼りになる!」

「大丈夫かな、襲われたりしないかな?」

「何かあったら倒す、私達は天下の精霊の旅団(エレメンタル・ロード)だ」

「あの、すみません」

その団長がちょうど目に止まったのが、町田だ。見た目も年齢も同じくらいと見て話しかけやすそうだと思ったのだろう。

「え、何かしら?」

町田もまさか声をかけられるとは思わなかったのか、変な返しをしてしまう

「リューガ様の家に向かいたいのですが、場所を教えて欲しいのです」

「……リューガ様?」

その名前からして真っ先に桜義龍我を頭に浮かべたが、なんか発音も違うし結構いる名前なので本人かどうかもわからない、いや知り合いな気がするが確実ではない

「はい、この世界にいるとの事ですが」

「知らないわね」

そう答えるしかなかった

「知らないか、おかしいな…リューガ様なら全土に知れ渡っていると思ったのだが」

少女は顎に手を当てなにやらブツブツ言っている、あまり関わらない方が良かったのかなと思う町田

「団長~お腹空きました」

「もう2日もレーションしか食べてないんですよ」

後ろから2人の声が聞こえている

「目の前に美味しそうなご飯があるのに!」

「仕方ないだろ、この世界の通貨は持ってないのだ。」

「そろそろ御祓をしないと、精霊が拒絶しますよ」

「ま、まて、あと少しすればなんとかなるはずだ」

「なんとかなるって、場所がわかんないなら手掛かりは名前だけじゃないですか」

「その名前も知られていないんじゃ絶望的だ」

「風の精霊を使って探したらいいんじゃないですか」

「しかしリューガ様に止められているし」

「今はそんな事を言っている場合じゃないですよ」

「緊急事態なんですよ」

「…そうだ、思いだしたぞ」

はっと何かを思い出した少女は手を叩く

「神代だ、神代さんの所へ行けばわかるかもしれない」

「場所は知っているんですか?」

「……」

レイスから静かに目線をずらす少女

「ダメじゃないですかー」

「ま、まて、申し訳ないが、神代という人の場所は知らないか、名前は縁だったかな」

再び町田の方を見る少女

(神代、縁…ねぇ)

神代の名字、それは聖皇を名乗る者だけが許される唯一無二のもの。場所も調べればでてくるし教えられるだろう、だがこんな怪しい人達を連れていける訳にはいかない

「ごめんなさい、わからないわ」

「…そうか、わかった。時間を使ってすまなかったな」

町田の言葉に落胆する少女。当てがはずれこれから目的を達するまでさ迷い歩くのだろうか、そう思うと何か力になってあげかくもなる

…そう言えば、龍我は聖皇様と知り合いだったはず、それを結構仲良さそうに。

まさかとは思うが、探している人物が龍我なのかもしれないし、どのみちに会うのだから紹介しよう

「あ、あの」

トボトボ歩き方だす少女達に声をかける

「なんだ、あっ、お礼を渡し忘れたな。」

「違うわ、その…会えるかわからないけど、神代さんの知り合いなら紹介できるわ」

「本当か!?」

すさささっと町田に歩み寄り顔を近づける少女

「え、えぇ。」

「団長、罠じゃないんですか?」

「もしそうなら制圧すればいいだろ?レイスは心配性だな」

「クラッカ、あなたは慎重になるべきです」

「申し遅れました、精霊の旅団(エレメンタル・ロード)の団長、フィルトアス・ティナ。」

凜とした紺碧色の瞳、整った顔立ち、彫刻のように美しいスレンダーな体型、艶やかに伸びた長い黒髪は後ろで結ばれている

軽装な武装はしているがその容姿は貴族を連想させるものだ

「クラッカ・オルマインとレイス・ハーバード」

そう思っているうちに後ろ姿にいる2人の紹介をするティナ

「あ、私は町田理恵です、よろしくね」

「へー、12世界みたいな名前だな」

「確かに珍しいわね」

「こら、失礼だろ。」

「いいんですよ」

さて、このまま龍我の家に行けばいいのだろうか

場所は以前冥と遊びに行った時に知っているのですぐに行けるのだが、私一人だけでいく事は無かった

(…なんか、緊張するわね)

「さっそくだが、案内をお願いする」

「わかったわ」

アポなし訪問はいつもの事なので、迷惑とかそんな事は一切気にしない、というか気づいてすらいない町田は、3人を連れて龍我が住むアパートへ向かうのであった

 

 

 

 

 

 

 

つづくさ




第十三ノ世界の歴史
昔、レオルド帝国とアルガド王国の2つの強国が支配しており世界の覇権(領土)を巡り何度も戦争をし、ついに世界全てを巻き込んだ最大の戦い世界戦争を起こし長い戦いの末に休戦という形で幕を閉じた。それを機に力が弱まった2つの強国から次々と力を持った領土主が独立し新たな国を作りだした
各国で独自の文化や法律が作られ、独自の言語も作り上げた(言語の基礎はもともと1つで世界共有なのでそれは共通語として教わっている、龍我が住む国やネーシャルムーンなどの島国も同じである)
それでも巨大な力を持っているレオルド帝国とアルガド王国の冷戦は続き常に緊迫状態である。
また、独立した国は独裁国家や軍事国家が多く国々で戦争や内戦が多い
各国で話し合いで統一する、世界平和連盟の結成や誰かの動きによって戦争は失くなり、表面上平和になったが、各国が持つ悩みと野心による火種、冷戦がある限り平和にはならない

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