一般人15歳で〝ちょっと〟変わった彼のIS生活(完結) 作:A.K
それは誰にも分からない。
けれどそれは突然やってくる。
だから人は面白いのだろう?
「ちょ、ええ!?何やってんですかぁ!?」
「とりあえずこれで良いはずだよ。」
ノーネームが叫び、フィーはその光景に黙る。束の渾身のストレートが俺に直撃。あまりの威力に身体に突き刺さる血の剣をへし折りながら吹っ飛んだ。
血溜まりに沈む俺の真っ赤な視界、その全てが突然眩い黄金に包まれた。さらに全身に突き刺さっていた血の剣も全て消えた。その現象に俺は戸惑いを隠せないのだが、更に突然様々な光景が浮かび上がっては消えていく。
─────こ、れ……は……
それは祈りである。
かつて俺が戦地で、街で、どこかで、世界を回った時に助けた、名も知らぬ誰か。あのクソッタレな世界に抗う中、理不尽から傷つけられない様にその場に居合わせ助けたもの達。
─────体が軽い……?
それは願いだ。
俺なんかの為に、安らぎと無事でありますようにと。今の俺にとってあまりにも優し過ぎる、甘美でもある優しく暖かい願いだ。
「ぐっ……それが地球の人々が君を思う『心』だよ。」
無理をしてフィーとノーネームに支えられながら、束はISを展開。苦しげに言い続ける。
「君は復讐のためにあるべきものを捨て、全てを置き去りにして、さらに人としての持つべきものさえ炉に焚べてしまった。君の体を操ってる奴が言う通り、今の君は何も残っていない、残りカス.......文字通り灰だ。
けど君はただの灰ではなく、人とISの融合存在。『機械としての側面を持つ』故に、新たに与える事ができるってことを忘れてないかい??」
⟬感情プログラムインストール完了⟭
「ISを、更に言えばコア人格を造り上げたのも私だ。
感情は勿論、無から心を生むことだって出来る.......伊達に天災って言われてないよ。」
頭の中に光が駆け巡る。
これは、このかつてないほどの『希望の光』は見た事がない。
『あんたのお陰なんだよ!』
『世界のためにありがとう!』
『わたし達を助けてくれてありがとうおにーちゃん!!』
『あなたのお陰で子供達が助かった、本当にありがとう!』
眩し過ぎる。
俺には、今の俺にはこの光は.......希望はあまりにもあってはならないっっ!!
「れーくん」
「主」
ノーネームと束が呟いた。何を言いたいのかは分かる。
でも、駄目なんだよ。俺は、もう生きて何をすればいいのか分からない。アイツを殺すだけにその生を注いで来た俺は、殺した相手がいない人生が分からない。余すこと無く血で汚れた俺があんな眩しい世界で生きて良い理由なんて.......無いんだよっ!!
「きっと眩しいんだよね。でもそれが今地球に生きる、君に感謝してる人々が持つ気持ちなんだよ。君が自分をどう思ってるのなんか私には計り知れないけど、同時にそれと同じぐらい皆から君への想いはある。」
「俺は、それでも己を肯定する事は出来ない。」
口が動いた。久しく動かしたその口からは、その様な言葉が出てきた。
「主が目的の為に生きていたのは知っています。目的がない人生がどんなものか、造られたモノである我々IS側にとっては理解出来ないものです。
でも、目的がない『自由なる人生』という果ての無い縛りの無い生き方があってもいいと思います。」
「俺、は.......」
駄目だ。戻ってしまった様々な感情の前に、俺は前を向くことなんてできない。
「奪った。命を。道を。
嫌々で戦っていた連中を殺した。そいつらは本来生きるべき人間だった。でも、俺が殺した。」
あの馬鹿どもに逆らうことが出来ず、嫌々で出て来た連中も居た。アイツら殺さず見逃すことだって出来たのだ。しかし、あの時の俺は殺した。1人残らず、俺の前に出てくる連中は全員殺し尽くした。見逃せばよかったのに、俺は.......。
「だったらそいつらの分も生きればいい。」
突然背後から声が聞こえた。
久しく聞く己自身の声、原点たる俺の声だ。
「ア、アンタはっ」
「よう。湿気た面してんな。」
「アンタにだって、分かんだろ。俺の気持ちが。」
俺自身だからこそ、今の俺と同じような事になった事はある筈だ。だからこそ俺の気持ちがわかるはずだ。
「確かに、俺も1度は今のお前に近い事はあった。
よくある話かもしれんけど、自らを傷つける事だけが償いじゃあねえんだよ。」
俺だから分かる、これは本来の素の口調だ。
本心のままを今、俺に向けていっている。
「生きれなかった分を、見れなかった光景を、知る筈だった分を。奪ってしまったもの達の分をお前が経験するんだ。
結局それも自己満足でしかないとも言えるが、お前をここまで慕ってくれる奴らが居る。」
そう言ってノーネームと束を指さす。
あれ程素の自分を見せなかった俺が、態々晒してまで俺に言う。必死なんだと、理解出来る。俺とノーネームは人生単位での相棒であり、束はもう二度と帰ることが出来ないだろうにここに来た。
しかし、どうあれ俺は..............
なんだあれは?
◆
この場にいる皆がゾワリと、背筋が凍るような殺意を感じた。その視線は束……の背後にヌルりと出現したRAYだった。
原点たる澪でさえそれに驚いた。己の索敵能力を持ってしても、RAYの存在に気付けなかった。そして、RAYは淡く光る右腕を束に振るっていたのだ。
ノーネーム、完全に出遅れている。
フィー、ノーネームよりは先に動き出してるが間に合わない。
原点たる澪、本気で動いた場合この場の全員吹き飛ばしてしまうため間に合う速度で動けない。
ドン
束は皆が自分を迫真の表情で見つめ、何かをしようとしているのを見た。そして、背後に途轍ないエネルギーを感じ取って理解した。その時間1秒にも満たない刹那的時間、それ故に次の行動がわかる。
己はRAYに殺されるのだと、ここまで来て殺されるのかと理解した。でも身体を引き裂く痛みは来ず、代わりに突き飛ばされた衝撃が来た。そして、衝撃が来た方向を見れば澪が胸部を切り裂かれていた。
「れーくん!?」
あくまでも今の澪は実体のないエネルギー的な存在だ。速度は澪が出せる限界まで一瞬で出せる。だから間に合った。だから身代わりになった。血に沈む澪を束が抱える。
「駄目だよ.......せっかく会えたのに.......れーくん?返事してよ!?ねぇ!?」
「やはり、貴方達でしたか」
「っ、貴方は!!!!」
「なんという事を!」
原点たる澪がフィーへ手で合図し、瞬時に澪と束、さらにノーネームを光の膜で覆う。フィーは激昂し、RAYに向けて叫ぶ。
「RAY、貴方は己の核を失えば存在が消える。
それを分かっていながら何故!?」
「何故?そんなの簡単です。
意識が有るから駄目であるのなら、意識が無くなる1歩手前を保持すればいいのです。ならば多少傷つけた所で問題は有りません。」
原点たる澪はRAYが放つ感覚が、先程までのものとは違い純然たる邪なるモノになった事を感知。
もはや目の前の存在が外界に飛び出したら、その先は惨状を生むことが目に見えている。
「鍵は博士の手に揃った。
時間は稼ぐ、頼むぞ博士。」
全力全開で奪い去るつもりのRAYを前に、原点はそう呟いて守るべくためその体を動かす。
◆
光の膜の中、フィーはRAYに斬られて存在崩壊を起こす澪の存在固定に勤しんでいる。フィーには本格的な処置は出来ない。あくまでも応急処置レベルの為、どうにか維持出来る位しか出来ない。
「RAYとやらは主を吸収、それにより存在固定を完了するつもりです。もうここまで来てしまったのですから、束博士は今すぐ奥の手をお使いなさい。いくら私でも魂の補填は完璧では無いのです。」
フィーは原点の言葉により束には奥の手があること、そしてそれを使えば必ず助かる事を理解している。ただフィーからしてもそれが何なのかは理解してないが、主たる原点がそう言ったのなら信じるしかない。
一方束は奥の手と言われたが、そんなものは無い為その知識をフル活用してどうにかしようと考えていた。
「……もう良いんだ。放っといてくれよ。」
澪が目を覚ましそう言うが、苦しそうに呻く。それと共に形が崩れる。
「馬鹿言わないでよ!?
絶対助けるんだから!!」
「っ、この期に及んで何言ってんだてめぇ!!
俺に関わったからこうやってお前たちまで死ぬかもしれねえんだろ!?もうヤダなんだよ、俺が守ろうとしたもんは俺の目の前でいつも傷つく!!また俺の前で傷ついて行くのはもううんざりだ!!」
束の発言についに澪が吠えた。
澪の人生は守ろうとした者が、常に己の前で傷ついて理不尽的に死んで行った。住んだ街のもの達、IS学園でのラウラや更識楯無と己に関わった親しいもの達が傷付いた。感情が戻った澪にとって、それは死ぬ事よりも恐ろしい事なのだ。
「だからって、生きる事から逃げるなよ!!
君のおかげで私はまた前を向けた!!そして歩むことが出来た!!
君はっ、私の希望なんだ!!私にとってこの世で一番大事な人なんだよ!!生きて、生きて欲しいに決まってんだろ馬鹿野郎!!!!!!!!!」
澪にとってその告白の様……否、そうではなくはっきり言ってそれは告白である。余りの衝撃で思考が停止する程だ。
「なっ、あっ!?」
「わ、我らが母……それは……??」
ノーネームもこれには驚き目を丸くする。
フィーは予想外の発言にあらあらと呟いている。
「君に目的がないのなら、私と共にこれから先を歩んでよ!!生きて君が奪ってしまった連中の分まで私と一緒に生きてよ!!ここまで言わせてまだ死ぬ死ぬって言うのかい!?」
いくら澪でもこれがもう『愛の告白』である事は理解した。澪自信まさか己が束にとってそこまでの存在になっていたとは考えた事がなく、さらに言えばここまで想われているのに……
「告白なんて初めてなんだから!!ねえ、どうなんだよ!?」
顔を真っ赤に染めた束。
未だに束を見てあらあらと呟いてるフィー。
あわあわとどうしたものかと慌てるノーネーム。
そんな彼女らを見ていた澪は、フハッと声を漏らす。
自分に対して愛を抱いて、尚且つ盛大な告白と来た。あの天災と呼ばれた女が、こんな己にそんな大事な想いをしていた事に様々な感情が渦巻いた結果が笑う事だった。
ならば立ち上がるのが己であると分かっている。
「……参った。参ったよ!!
全く、ここまで言われて断る奴なんていねぇよ」
「れ、れーくん??」
「主!!」
「束、何とかできる手段あるんだろ?」
澪の突然の切り替えに流石の束が狼狽えた。
先程まで絶望に沈んでいた、死んでやると消えてやると言っていた男が突然こうなれば束だって驚く。それに対して澪がバツの悪い顔で喋る。
「俺だって、男だぞ。
こんなに想われて、振るような考えは持ってないし……それに」
「それに?」
「必死なんだって、束の願いが眩しくて美しくて羨ましかった。だから、応えてやらねえとって思ったんだ。
だからといって俺の抱えた気持ちが晴れた訳じゃねえ。けど、ここまで来る大馬鹿者の愛を受け止めないってのは無いだろう。」
澪はだから頼む、そう言った。
束はそれに涙を浮かべながらうんと応え1つの白銀に輝くISコアを展開し、澪の頭に当てた。
「これは君のために作ったISコア。
君への願いと祈りを元に造られたこの世に2個と無いオンリーワンの第三世代ISコア『神の心臓』……最果てに至った君へ適応する出来る為に造ったんだ。」
澪は光となってISコアに吸い込まれながら束の言葉を聞く。
「これに入る事はあの体とは縁が消え、このコアがもう君の体だ。だから描いて。
ネームちゃん達と共に、君だけの物語を。」
◆
「主、こうやってまた貴方と共に歩める事を誇りに思います。」
RAYへと至る時、あの日みた黄昏の空間に俺とノーネームはいる。あの時は俺一人だったが、今回は違う。
頼もしい、始まりのあの日から着いてきてくれた大切な存在がそこにいる。
「俺にはもったいないくらいの相棒だ。
……また、着いてきてくれるか?」
今は1つになってしまったが『ノーネーム達』が居る。一人では無い。かけがえのないものが俺にはいる。それを知覚できている。先程まで失意と絶望の中にいたのに、それを認知してから変化した。
「喜んで!!」
ノーネームの手を握り、束が言った言葉を思い出して創り出そう。
心の底から生まれる無限の光を。胸に灯るこの火を炉にくべて鋼の体を打とう。
語ろう。
叫ぼう。
祝福の言葉を。
「俺を見た。」
「我々を見た。」
見つめ合う。
目と目を合わせ、互いの存在を確かめる。
「お前らが居る。」
「主が居ます。」
知覚する。
認知する。
離れないように、離さないように。
「孤独ではなく」
「お独りではなく」
手と手を握ろう。
命の鼓動を確かめる。
「「皆が」」
「「1つに」」
目覚めよ『名前無き破壊者』
覚醒せよ『殲滅』
「至れ」
昇れ別次元へ
至れ『RAY』
「飛ぼう」
破れ殻を
羽ばたこう未来へ。
「希望を」
束から受け取った愛を胸に。
『未来へ!!!!!!』
星の鼓動が響いた。
◆
「ぐがっ!?」
「やったか。」
目の前のRAYが呻き、膝を着く。
原点たる澪は束達が成功した事を理解し、まさか愛の告白で立ち直させるとはと呆れ半分に感心していた。やはり心に響くのはまた同じ心の力なのだと。
「主、先に現実空間へ戻ります」
束とISコア、それにフィーがこの空間から脱出した。この空間の所有権が澪であったがあのコアへ移った事により、RAYと澪のリンクが途切れ空間の管理権利がRAYに渡った事を原点からフィーに伝えられる。そのため『澪以外を排除する』事が考えられ、早急に現実空間に戻ったのだ。
「きっ、さまら……!!」
原点たる澪を睨む。リンクが切れた事によりこれより先の領域へ進むことは出来ず、RAY程の存在ではあるが存在証明が保持出来ない為少しずつ崩壊が始まった。
「見誤ったな。」
「あんな、所詮は『オリジナルの再現体』如きにここまで……ここまでやられるとはっ」
それは澪のことを示していた。
RAYの言う通りあの澪は本物では無い。少なくてもその身体はRAYが記憶から読み取り、それを模して造られた限りなく本物のに近い再現体。
────だが、RAYは一つ重大な勘違いをしていた。
「身体は偽物であって、本物では無いとしてもだ。
その魂の輝きは本人だぜ?」
「あの魂は残っていた残滓を掻き集め、身体は完全に私の手で造り上げた。その全て私の手で造り上げた創造品、限りなく本物に近い再現体という名の偽物……それ以外有り得ない」
『生前の澪』に会ってるからこそ、その魂の輝きが本人だと原点たる澪は理解していた。
「まだ『魂魄技術』を確保出来てないからわからんと思うが、アイツの魂はお前のお陰で『100%榊澪本人の魂』として元通りだよ。その技術が無いのに魂魄補強技術に挑んだ、そして成功したそこんとこは褒めといてやるよ。」
いずれ達する世界において『魂魄』に対しての技術も生まれ、人は言わいるオカルトの領域たる魂に干渉する事も科学技術で出来るようになった。原点たる澪はその技術を収め、その体にそれを行使する為の道具や機能一式を組み込んでいる。
その技術はISMDドール『ファランクス』との戦闘後において、魂そのものが傷ついていた澪に対して既に使われている。それをRAYは一人で生み出し完成させた。これには原点も驚き賞賛した。
「身体偽りなれど魂の輝き死なねばそれ即ち本物。
とある世界の英雄もそうだった。お前はどう思う?」
出てけ、そう言われるような波動を受け弾き出される様に空へ打ち上げられる。原点たる澪に意味が無い行動をしてしまう、それこそ精神的に追い詰められ焦っている証拠である。
原点が現実空間に出た時RAYは少し早くその意識を浮上させ、束の近くに浮遊する希望たる黄金に輝くISコアへ向けてその手を伸ばす。再度吸収し、自己存在固定を図ろうとするが束がその身に纏うOG領域ISの武器たる刀から放つ極太エネルギー波でRAYを薙ぎ払う。
「絶対に渡さないっ!!」
「おのれぇえぇぇっ!!」
人間が放つ量を遥かに超える怒気、それとここにしてずっと隠して来た『愛』がその心を突き動かす。渡さない、離さない。その心が束を奮い立たせる。
RAYは完全に格下である存在に邪魔され、精神状態は荒れに荒れている。本来敵わない筈の束でさえギリギリ反応出来るほどには杜撰な動きになった。
「フィー、戻れ」
原点の言葉に反応し、体の中に戻る。
珍しく困惑するフィーに対して「必要だからね」と、いつもの口調に戻して言う。
『我らが母は肉体レベルはあれど戦闘経験があまり無い。
それも格上とは尚更……そういう事ですか。』
束とRAYの攻防戦を見ながら、未だに光を強めるそれを見る。
「覚醒の時だ。
希望よ、高らかに産声を上げろ。」
光が空へ昇った。
最終予告
復讐から始まった物語
それは命の終わりを持って終焉を迎えた。
だが終焉を迎えた命は愛を知る。
天災の手は心を創り
心は手から灰の男へ伝う。
地獄を見た。
絶望を知った。
悲しみを知った。
罪を背負った。
───光が差した。
前を向いた。
上を向いた。
誰かと歩むことを知った。
想いを伝えられ愛を知った。
灰から命が芽吹き、火が昇る。
これは破壊の奇跡である。
次回=無限の旅路=