一般人15歳で〝ちょっと〟変わった彼のIS生活(完結)   作:A.K

60 / 63
人生ってのは所詮運だ。

人が生まれる場所だってそう。

私は運が悪かっただけだ。
生まれた場所が戦場だってだけ。

私は黒い鳥。
全てを焼き尽くす死の鳥。

そんな鳥にも運命の日は訪れた。


嗤う女は満ち足りる

 その女の人生はどん底から始まった。

 物心ついた時から戦場にいて、息を吸うように人を殺し回ることが日常であった。親はどうしたと言われるが、そもそも親という存在を見た事が無い。故にどうでもいいものだと考えている。

 そんな事よりも生きる為に、金を得る為。女はひたすら殺して殺して殺して屍の山を歩き続けた。

 そうやって一日を終え、生きてる事を実感した女は一人嗤う。

 

 女にしか操縦出来ないISというものが世に知れ渡り数年、本来ISは専用戦闘区画場所以外での戦闘使用は不可とされる。 しかし実際は戦場で当たり前のように運用されている。その時、既に戦場を広げた女は世界にとび出ていた。その時にISというものを知った。

 女はとある国のISを運用する秘匿基地を襲撃、IS『ストレイド』を強奪。それから半年、高額な特殊兵装や戦闘機の特攻などと言った脅威がない戦場においてISは絶大な力だった。 縦横無尽に空間を動き、最高速度が音速、旧世代武器……IS登場前時代の兵器群ではほぼ傷つかない防御性、一方的な展開に出来るほどの攻撃性。どれをとってもISは女にしか操縦出来ないという点を除けば、最強に近い。

 

 金で戦場を駆け、依頼された敵を全て焼き付くすその姿。機体カラーが黒、そして『鴉』のエンブレムがある事から女は何時しか黒い鳥……『レイヴン』と呼ばれるようになった。

レイヴンと呼ばれるようになった女は元々の名がなかった為そのまま己を『レイヴン』と名乗るようになる。

 

 戦場を駆ける黒い鳥。

 それはすぐ様噂になり、裏社会に広がるのは早かった。レイヴンはIS適正も本人は知らないが脅威のSランク、その腕はIS国家代表上位クラスであった為文字通り戦場において無敗。その為何時しか特殊な依頼が回ってくるようになって、戦場において黒色のISを見たら逃げろとまで言われるようになった。

 

 

 

 順風満帆……そんなレイヴンは理不尽と出会う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「がっ、は……私が、こんっな!?」

 

 

 事の始まりはIS委員会と敵対するとある組織からの依頼で、IS委員会委員長こと『霧崎』が住む太平洋にある孤島を強襲し本人を殺害する依頼を受けた。

 

 金を貰えばなんだってする主義、それでもこの依頼を受けた際に本能が危険だと警鐘を鳴らしていた。だがそれでもやるのが私の主義だ。

 情報通り霧崎はその場所にいた。そう、いた……これまた見たことの無い姿でだ。いつだったか、まだ昔に幼児と呼べる頃に見たとある世界の神話が描かれた本に出てくるような、戦女神の様な姿に目前でなった霧崎がいた。

 

 この時既に何度も実戦でIS戦闘はやったから本能で分かる。コイツには勝てない、死ぬ……と。実際ストレイドが出した情報は世界中のISが束になっても勝てない、異常の塊だった。

 私は挑んだ。だが全ての攻撃を躱され、たった一度の攻撃で撃墜された。究極の一撃、そういった方が良いだろう。距離はとっていたのに関わらず、直撃ではないが放った衝撃で天空地.......さらに空間そのものにダメージを与えそのついでに落とされた。理不尽すぎる。

 

 

「クソがっ」

 

 

 好きに生き、理不尽に死ぬ。

 もう今は死んだとある傭兵が言った言葉だ。

 

 

「だがまあ、いい最後だろ。」

 

 

 この人生に悔いはないし後悔もない。

 他の奴らと同じ様に死ぬだけだと私は思った。

 目を閉じ、トドメを刺されるのを待った。だがいつまでたっても命の輝きは消えなかった。目を開けると目標である霧崎がこちらをじっと見ていた。

 

 

「ねえ、貴女の名前は?」

「はっ?」

「いいから貴女の名前はなに?」

 

 

 目標の霧崎が突然そんなことをいう。

 

 

「レイ、ヴン」

「それは偽名?」

「ち、げぇよ。

 名、前……なんかは元からなかった。」

 

 

 あとはもう殺されるだけの私は馬鹿正直に答える。殺されるだけなのだから隠した所でなんの得にならないならいっそ喋った方がマシだろうという考えの為だ。

 

 

「私は意識がはっきりした時には既に戦場で生きて来た。

 途中でIS『ストレイド』を手に入れてその後から付けられた2つ名を私の名前にした。」

 

 

 そのストレイドは今や大破、ISコアや付近部品こそ破損は免れたが機体自体はもう二度と動かないだろうというレベルで壊れた。

 

 

「じゃあ貴女戸籍も何も無いのね。」

「あったかも知れねえが、名前が分からない所から始まったんだ。どっちにしても分かんねえよ。」

 

 

 言うことは言った。

 さっさと殺しやがれよと心中思いながらもう一度目を閉じる。……しかし、いつまでも来ない終わりの痛みは何故か来なかった。その代わりISが待機状態の腕輪に戻され、頭に柔らかい感覚が有る。目を開けるとそこには霧崎の顔が、後に日本の漫画で知ったがいわゆる膝枕と言うものをされた。

 

 

「貴女は面白いわ。

 数多のIS搭乗者や馬鹿な女達とは違い、何処までも真っ直ぐ。そして、男だからと女だからという思想も無い平等過ぎるその考え。」

「何が言いたいんだ……?」

「気に入ったわレイヴン。

 前代未踏の領域にいる私に臆せず挑む度胸、ISによって馬鹿な思想に染った連中とは違うマトモな思想、金さえ渡せば依頼をこなすその忠実性……良い。

 

 レイヴン、貴女に依頼するわ。」

 

 

 突然の依頼発言に純粋に戸惑う。

 己を殺そうとした者に依頼を頼むなど、一体何を考えてるんだと。

 

 

「何を戸惑ってるの?

 貴女は金さえ積めば依頼をこなす黒い鳥。

 今までそうやって焼き尽くして来た、そうでしょう?」

「くっはは!確かにそうだ、私はそういう奴だよ。

 生きるためにそう生きてきた。

 いいぜ、その依頼受けてやる。」

 

 

「今とある計画を動かしてるわ。

 ISによって異常と正常な連中が別れた。

 まずISによって助長されたのもそうだけど女性主義者達らや女権団なんかね、それに加えて私が態々築き上げたIS委員会ね。

 

 レイヴン、貴方には最終的には両組織関係者を全て破滅に導いてもらう。」

「……誰を殺すかなんて別に構わねえがよ、なんでそんな面倒臭いことすんだ?」

 

 

 レイヴンは霧崎がその気になれば、誰にも知られないで一方的に殺し尽くせると理解している。さらに言えばIS展開時の霧崎は、元の姿と大きく逸脱している為正体を知られる事も無いだろうと考えていた。

 それ故になぜこんな回りくどい事をするのか、単純に気になったのだ。

 

 

「私はね昔から頭が良かった。それこそ天災が造り上げたISやその核となるISコアの形成や仕組みブラックボックスの内容まで既に理解してる。馬鹿でも分かるぐらいに私は知能としても常識としても比較にならない、それこそ天災と同じくね。

 

 だからこそ現状の世界がこのまま行けば間違いなく滅びる。馬鹿な女たちがISで崩れた世界の武器の価値観やその影響力を今まさに完全に壊そうとしている。」

「そりゃあ知ってるさ。最近明らかに軍人崩れの傭兵やらテロリスト達が爆増してるし、IS技術によって強化された最新兵器関連すら普通なら流れないが既に裏社会に流通してる。」

 

 ISだって完全に無敵ってわけじゃねえ。

 IS技術が応用された兵器なら結構ダメージ喰らうし、特殊兵装なんかかなりダメージが入る。最近開発された対IS特殊弾『AIS弾』なんか通常の弾薬と比べて超がつくほどの高級品だが、AIS弾は一般の銃火器でも撃てる上IS技術応用兵装よりも遥かにダメージが入る。

 そもそもISを纏ってない時に狙撃や強襲されたら大概のパイロットは無力に近い。ISは無敵だの言われてるが、結局の所は弱点は有る。核爆弾や化学兵器やらでも確実に効く。

 

 

「もう既に人類は破滅に真っ直ぐ向かってるのよ。

 だからこそはっきりと消え去るべき対象を分からせなければならない。そして、それを滅ぼすのが私の目的。残った連中は貴女が処理する。」

「てめぇは神にでもなりたいのか?」

「神、ね。

 私は神という物にはなりたくないけど、調停者になりたいのよ。」

 

 

 調停者?レイヴンはそう言うと霧崎がええと言う。

 

 

「神というなれば世界の均衡全てを壊した天災よ。

 

 私は世界の均衡を傾けた、余りにも強過ぎた悪を一度消し飛ばしたいのよ。均衡を保つ存在として、彼女たちの存在は余りにも不要。消し飛ばされ、再度均衡を失えど何れ世界は今よりもマトモな均衡に戻る。

 

 傍若無人な神では無い。私は、未来を見据えた調停者としてこの力を振るいたいのよ。」

 

 

 レイヴンから見ればそれはまた彼女が違うと言った神同等、傲慢と呼べる。こればっかりは個人的解釈なのだろう……だが、面白いと嗤う。

 

 

「だから日本で情報統制、目撃者の殺害までやったテロ行為をしてその体の性能を測ったと?」

 

 

 今までの会話で一つの噂についての答えが出た。

 IS委員会が日本で新型ISを使用し、一つの街を壊滅させ情報統制と莫大な金をかけて街の存在そのものを無かったことにしたと。

 

 

「仕方ない犠牲よ。

 大いなる大義のための犠牲、失った命は未来の何万何億の人々の糧となる。」

 

 

 レイヴンから見て霧崎はまさに傍若無人な神として、そして己の手で死んだ者達に対して後悔している中途半端な神もどきとして見えた。それに対してまた嗤う。

 だってやろうとしてることは身勝手、そして何処までも独善である。それに対して仕方が無い犠牲と言って後悔し、前を向きながら下を後ろに引かれ続けている。レイヴンからしてこれ程面白いと思えたことは無い。

 

 実力は最高クラス、知能も理念も共に人類最高ときたがそれでも歪なその根っこが何よりも面白くて嗤う。だから言ってしまった。

 

 

「中途半端な気持ちで最後まで行けるか?」

 

 

 ああ……言ってしまった。

 あまりにも滑稽で面白く可笑しくて、嗤う己になんの罰が有るだろう?

 

 

「一つ言っておくわ。

 人は不完全で、歪で、矛盾だらけの生き物なのよ。

 

 だからこそ人はやってのける。」

 

 

 笑った。それも盛大に。

 つまりそれも込みで、全てを抱えて己はその目的の為に突き進むと?ああ狂ってやがる。最高だよ、最高に嗤えるぜ……

 

 

 矛盾してこその人という生き物か。

 

 

「人はこんなところで終われない。

 人の歴史は、黄金の時代を、次のステージに。」

 

「何れ黄金色の天幕が開けるのよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女は一人語る。

 己を雇った依頼主に向けて。

 

 

「これで依頼は完遂された。」

 

 

 ISのコアネットワーク内にある電子宇宙、その中にもしかしたら居るかもしれない依頼主に、届くか分からない報告をする。

 

 

「IS委員会及び女権団、及び分断されたリスト候補者及びそれに連なるリスト候補者……全ての処理処罰と存在抹消完了。」

 

「……あんたの言う通りだったな。

 

 人類ってのは今や宇宙という次のステージに行く。それが今の人類の総意に近いものだって言うから面白い。

 

 

 まあ最もこんな戦場でしか生きれないオレには無縁なものだがね。」

 

「だが、まあ……良いもん見せてもらったよ。

 けどアンタの指示だから破壊者とは1度きりの戦闘だったが、欲を言えばもう一回戦わせて欲しかったがね。

 あ、でも狂人のようなフリをしろってのはマジで許さねえわ。」

 

 

 電子で出来た身体が端からホロリと、散ってその体が消えていく。

 

 

「人生の最後に見るものが、こんな世界って……良いんかね。

 こんな血塗れな女がしていい最後じゃねえよ。」

 

 

 ここはISコアネットワーク内の深層領域。

 正規の電脳ダイブでは危険過ぎて立ち入り禁止に指定されている区域。

 ここに普通の人間が来たら最後、後戻りは出来ない人生最後の電子旅行となる。肉体とその精神が保てないのだ。

 

 

「まあ、こんな人間でも最後ぐらい幸せになってもいいだろう……?」

 

 

 そういえば最後に素晴らしい景色を見せてくれると言って、それっきりだったと思い出しそれが今の景色だと何となく理解し.......初めて美しいと思えるものを見た。

 

 

「最後に美しいと思えるものが見れる、か。

 最っ高じゃねえかおい────」

 

 

 レイヴンはそう言うのを最後に霧散した。

こうしてIS委員会の裏側、榊澪と霧崎千切の因縁、ここ十年ほどのISに関わる事件ほぼ全てに関与していた傭兵は静かにこの世から去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太平洋沖の小さな島、その島唯一の建物である豪邸。

 その一室で女が一人静かに息を引き取った。

 

 女の顔は幸せを感じる表情であった。




次回予告

兎は跳んだ。
可能性がある限りそこへ跳ぶ。

黒き穴を抜け
不可思議の先にソレは居た。


「貴女は誰?」


知恵の実を得た怪物。
独善的な歪みは加速され
ソレは兎を喰らい羽化する。


「おっと、それはさせんよ」
「君は!?」


暗き底へ辿り着く
血の獄にて何を見る。


次回=最果て=

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。