一般人15歳で〝ちょっと〟変わった彼のIS生活(完結)   作:A.K

58 / 63
遠い何処か
俺の知らない何処かで
知らない誰かが呼んでいる。

懐かしい
とてもな懐かしい誰かだ。

ならば贈ろう。
己が罪に嘆く者よ。


夏の魔王【崩】

 魔王は理解出来なかった。

 それは文字通り失われた最凶、そして最強の剣。

 自分達の組織の長と相打ちになり宇宙にて消えた、榊澪が持つ対IS武装。

 

 

「何故ソレが!?」

 

 

 箒の手に復讐者の剣が握れている。

 そして、その体に有り得ざる奇跡が具現する。

 

 

「かつて貴様をコケにし、侮辱した私に力を貸してくれるのか……」

 

 

 箒が纏うIS『紅天』、その破損した箇所の装甲に重なるように破壊者の装甲が繋ぎ重なり合った。

 

 

「澪……!!」

「馬鹿な、そんな事がっ

 復讐者の剣だけではなくその装甲は!?」

 

 

 覚悟の波は未だ止まらない。

 

 

「決意を此処に。」

 

 

 ついに魔王の思考は停止した。

 女が纏うISに、白銀に輝く装甲が追加された。それは正しく魔王が宿るこの『夏の思い出』と同じ物である。加えて先程戦った女が纏うISの装甲も付け加わる。

 

 

『行くわよ箒』

『不甲斐ない俺の罪、払わせてくれ』

 

 

 両肩に光る手が添えられ、声を聞いた。

 箒にとってもうそれで誰かなんて充分だった。

 

 

「一夏、鈴……共に行こう」

 

 

──────擬似G機関稼働

      A.I.S.S.発動

 

 

 

 復讐者の剣を振るう。

 手に吸い付き、離しても手の近くで漂う。

 確認が終わり魔王に視線を戻す。

 

 

「有り得ん。こんな事がっ」

『それが有り得るのよ』

『これがオリジナルのISコアが持つ、時結晶が持つ力の一つ。無限に広がる可能性。』

 

 

 魔王は目前の奇跡を否定したい。

 だがしかし、これこそがオリジナルコアの特性だと理解していた。有り得ざる奇跡の発動が出来るのが始まりの二つのコア、それと今では第一世代ISコアと呼ばれるオリジナルISコア。単一仕様能力の形は千差万別。故にこの現象を起こせる能力が元々目の前のISにあったのだと考える。

 

 

「だがしかし、所詮は贋作だ!

 その様なパッチワーク如き姿で勝てるものがぁっ!!!!????」

 

 

 魔王は箒に斬りかかり、いつの間にか炎の壁を突き破り空中にその身を踊らせていた。魔王の中にいる意識群らは一旦冷静になるためそのまま飛ばされ続け、今起きた事を考える。

 数秒考え神速の切り払い、それを受けたのだと理解してから度し難いと呟いた。だが今は万全の状態にすることを優先するのであった。

 

 

 

 

 不可思議な炎の壁はいくらやっても壊れなかった。

 そんな壁から突然何かが飛び出してそのまま空の彼方に消え、壁も消滅する。

 その光景に亡国側は動きを止める。

 

 

「回収班早く!!

 Rが重症だ、急げ!!」

 

 

 そんな中、消えた壁の中から鈴を守る様に立つ箒の叫びが響いた。それにより亡国側は再び動きを開始、鈴はすぐ様回収班により母艦に運ばれた。

 

 

「Hなの、か?

 それにその剣は澪のッ」

 

 

 あの炎の壁に残された時と別人のような風格、そしてその特異なISを纏う箒にマドカが問う。

 ある意味亡国において1番澪との関わりが深かったマドカから見て、その手に持つ剣は紛うことなき本物。そしてその纏うISに繋がる様にある破壊者の特徴的装甲。鈴の真・甲龍に何故か夏の思い出の装甲も合わさっている。

 

 

「貸してくれたのだ。」

「それはどういう?」

「それより今戦闘できる者は?」

 

 

 箒はずっと空の彼方に目を向けていた。

 Mはつまりそういう事だと理解する。

 

 

「戦闘できるのは私、そして1度母艦に戻ってもう時期来るN(ナターシャ)やY(山田)だな。」

「少ないな。」

「あの状態もあったが僚機を庇ったりと、私も仲間に守られて今ここに居る。不甲斐ないっ」

「あの人達はMを思っての行動したのだから、それは言ってはならんだろう。」

「……そうだな」

 

 

 そう言った直後に箒が空に舞い上がる。

 途端に鳴り響くアラートに場の空気は張り詰めた。

 マドカはこの場にいる戦力外メンバーへ撤退を通達。

 

 

「到着まで5秒」

 

 

 マドカは考える。

 箒に起きたのはどう考えても異常形態移行だが、過去のパターンとは違う新しい現象。異なるISを繋ぎ重なり合ったソレの力は未知数。

 既にマドカの目でも分かる範囲に魔王が迫っている。

 

 

「皆の力を継いだ『天椿』で討つ。」

 

 

 箒の異常形態移行を果たしたOG領域IS『天椿』の装甲がスライド、エネルギーが吹き出される。

 右手に『復讐者の剣』、左手に新しく武装欄に登録された緋色の剣『断罪者の剣』を握り飛び出した。

 

 

 

 それは亡国の旗艦であるゴーストからも見えていた。

 OG領域のISが2機。鈴を除いた榊、霧崎、織斑に続いて篠ノ之が発現しみせた。

 

 束は考える。

 

 

「霧崎は分からない。

 けどこれで条件はある程度絞れた。」

 

 

 OG領域発現。

 束は第1条件を『全身全霊の覚悟』だとした。

 それも全ての細胞が一つの目的の為に成し遂げる程の覚悟。

 

 澪は何がなんでも復讐を遂げる覚悟。

 一夏はその身を捧げ世界に溢れた姉の罪を祓う覚悟。

 箒は命を懸けその誓いと決意を護る覚悟。

 

 そして第2条件。

 それは第2世代型ISコア以前のコアを使っているということだ。

 言わいるオリジナルコアは一定以上の同調と何かしらの要因により、コアが奇跡の具現たる力である単一仕様能力を持つ。それらが条件に繋がると考えた。

 

 

「あの現象……そうくるとはね」

 

 

 妹である箒が見せたあの現象。

 己ですらまだ認知してない未知の現象で、条件は不明だが複数のISコアとその機体にコアネットワークを通じて共鳴し、力を繋いで纏めて更に合わせて継ぐ。それも精神的にも技量にも作用する、全くもって天災の頭でも理解できない。

 

 そして、宇宙の大穴より招かれた澪の力。

 束は確信した。

 あの日から開いた穴の先、その先に彼は居ると。

 

 

「君はそこに居るんだね。

 この言葉が通じるなら、ほーきちゃんのために最後まで力を貸して欲しい……頼むよれーくん」

 

 

 

 

 

 

 白銀と紫の流星

 異なる二つがぶつかり合う。

 

 

「馬鹿なっ

 なぜその力、破壊者の力が!!」

 

 

 名前無き破壊者、それに移行後の機体に発言していたISのアンチシステム。IS固有の能力や単一仕様能力を無効化する機能、それこそ『A.I.S.S.』である。 これこそ破壊者を破壊者知らしめた最凶の力。

 

 

「紡いで、繋いで、束ねる。」

 

 

 箒が呟くことに力は増し、機体から放たれるエネルギーはさらに増えていく。呼応する様に両手に持つ剣にエネルギーが纏われる。

 

 

「ぐっ、我々以上の力を得たというのか!?」

「……それは違う。あくまでこれは借りてるに過ぎない。」

 

 

 マドカはその目を疑う。

 箒は頑固で気難しく、それに判断も決して良いとは言えない。だが力だけはあった。けど精神的にはまだまだ未熟であり、慢心することが今までの作戦中よくあった。

 しかし、今の箒は凪の如く静かなる水面の様な落ち着きよう。それに加えて異常なまでの正確性、今までと比べようにならない武を感じる。

 それも、精神性すらも借りているというのか?マドカは今起きている箒に起きた異変とその言葉からその考えに至った。

 

 

「私が得たのは『託された力を、借りる』というなんとも言えない力だ。」

 

 

 魔王の攻撃を防ぎ、捌きながら箒は口にする。

 

 

「澪は『犠牲により得られる力』

 一夏は『その身を捧げる事で得る力』

 

 2人は何かしらの犠牲によって得た力。それに対して私は条件にあった者達から力を借りる。

 得てはなく、『借りる』だけだ。文字通り仮初の力であるから、どんなに凄かろうがそれは借りた力が凄いのだ。」

 

 

 そう言う間も繰り出される斬撃の応酬に箒は見事に防いでみせていた。

 A.I.S.S.の力は相手の能力を封じ、破壊する。その絶大なる力は今2つになって魔王に襲い掛かる。 魔王は目の前の現実を受けれなかった。故に生身の人間が持つ体力の限界まで攻撃を続行することにする。

 

 

「っ、馬鹿な。この様な!?

 それは贋作、本物は既にこの世に存在しないはずっ」

『それを決めるのはアンタらじゃないわ』

『その威力を知ってまだそれを言うのか?』

「このっ、亡霊共がぁ!!」

 

 

 魔王はあの不可思議な炎を放出し、身を守るがそれごと2つの剣に斬られる。単一仕様能力を発動させるが何故か起動しない。どの様な攻撃でさえ追い付いてくる。

 

 

「贋作だとか本物などどうでもいい。

 私はソレを体現するのみ。」

 

 

 手に持つ剣の輝きが増す。

 既に日は暮れた。炎により辺りが火の海になり、地獄にいるかのような環境を作り出していた。

 

 

「そも贋作と言うのなら、貴様のその在り方。

 他人の体を乗っ取り己のモノとしているそれこそ、真の意味での贋作。己の体でない癖に何を言うか。」

 

 

 炎の海、その地獄の中でもその手に持つ剣から放たれる光が青く蒼く強くなる。

 

 

「所詮私は恥侍。

 堕ちる所まで堕ちた愚か者……その罪に気付くのも既に遅かった。だがな、そんな私だから『真の悪』は分かる。」 

 

 

 天椿の全身が蒼く光る。

 紫炎を発する魔王を照らす様に、闇の中にいる邪悪を光の中に引きずり出す太陽のように。

 

 

「真の悪、それは自分勝手な欲の為あらゆる生物の命を脅かす者。

 自らも悪であると認識できず、何よりも自分が正義であると力を振るい続ける者。

 

 そして、巫山戯た理由で世界に混乱を招こうとする愚か者共の事だ。」

 

 

 静かにそう言うが、言葉を発する都度に重圧が高まるその光景にMはとある人物を思い出す。

 

 

「澪が力を貸したのは、機体だけではない……か。」

 

 

 かつてIS学園時代の箒はあまりにも愚行に走り、学園の終わり直前姉である篠ノ之束に回収された後ようやく自分の行動と罪に気付いた。ついぞ澪に謝ることは出来ず、しかし……恐らく澪は見ていたのだ。これはあくまでも想像でしかない、だがそうとしか考えられないのだ。

 あの暗い星々の宇宙、宇宙の穴からこの星を。

 

 

「どうか

 どうか

 どうか

 

 この世界に安らぎを。」

 

 

 祈りを

 願いを

 想いを乗せた祝言を口にする。

 

 

「もう巫山戯た、理不尽たる事で世界中の人々が不安にならないように。

 人が安心して眠れる為に。」

 

 

 二つの剣が光に弾け、一つに重なり交わる。

 魔王を討つ剣、ここに現る。

 

 

「眠れる明日を迎える為。

 人が安心して歩める日を迎えるため。

 

 皆に変わって、私が貴様らを討つ。」

 

「出来るのか!?

 貴様にとっての恋人の体を滅する事が!!!!」

「『だから破壊する』」

 

 

 魔王がそう言って静かに溜めきったエネルギーを解き放ち、それごと箒がその腕を斬り落とす。破損箇所をすぐ様修復し、鈴に行った神速の猛攻を繰り出す。だがしかし、それらは箒にかすりもしなかった。

 

 

「な、あっ!?」

「私はもう迷わない。

 だから迷わず貴様らを斬り伏せよう。

 

 『壊の剣』よ、唸れ。」

 

 

 その手に持つ剣、『ISの機能を全て壊す』『物体やエネルギーを壊す』……文字通り全てを壊す剣は触れた対象を絶対に壊す剣だ。

 可能性を得て、絶対破壊の力を得たこの剣に断てぬもの無し。

 

 魔王はその危険性を本能が感じとった。次の瞬間、あらゆる可能な攻撃を全て放つ為に行動する。

 

 

「唸れ、唸れ、星の如く。」

 

 

 あれ程苦戦し、世界を火に沈めようとした魔王は為す術もない。打ち合おうとしても即座に砕かれ、射撃を放とうが落とされ、離脱しようとしてもスラスターを斬られ落とされた。

 

 輝く蒼き星が、空を翔け地を照らし、罪ある者に罰を与える。

 

 

「なんというっ、これは現実なのか!?

 確かにこれは、織斑一夏の体はOG領域機体の筈なのに!?」

「所詮は貴様らという贋作が、本来の持ち主の様に動かせる訳ないだろ。 これが一夏なら私へもう既に手痛い一撃を加えてるさ。

 それが出来ない貴様らなどに負ける私では無いっ」

 

 

 星は煌めき、闇を穿つ。

 闇は蠢き体を構築、光に抗う。

 

 

「あの二人の幸せを奪った貴様らは絶対に許さん。」

 

 

 星はその身から光を放ち闇を裂き

 

 

「分断されては高速修復も出来んのだろう。」

 

 

 巨魁なる闇を細かく刻み、その本体を晒す。

 

 

「ぐっ……お、おのれぇ!!!!!!」

「一夏の身体でよくもまあやってくれたものだ。

 どういう気分だ?

 偽りの最強を手に入れ、存分にその性能を発揮できると、お前達の会長が分別した愚かなもの達とされ、結局何もかも果たすこと無く制圧されるのは。」

 

 

 炉心に怒りという薪がくべられる。

 蒼の星は赤く紅くアカク、怒りに染まり熱が手に持つ剣に纏まる。

 

 

「ま、待てッ!

 織斑一夏の身体だぞ!?希少なOG領域到達IS、それを我々ごと破壊するのか!?」

「そうだ。貴様らごと破壊する。」

 

 

 即答だった。1寸の迷いなく一秒の間もなく、その言葉を口にした。

 

 

 

 

 その光景は幻想にしておとぎ話のようだ。

 箒が乗る天椿から放たれる波動が燃える海をかき消し、その身から放たれる光はまさに星。

 何処までも清く、美しさを覚える宇宙の宝物。

 

 対を成す魔王は放たれる紫炎による怪しい魔星の如き、見る人に恐怖を抱かせるもの。

 

 

「宇宙と星」

「えっ?」

「宇宙はこの世界そのものという意味、星はISの事ですね。

 

 宇宙と星は密接にして当たり前、普通にそこにあるもの。星は宇宙という暗闇を照らす光、故に強く光り輝く無数の希望。

 昔から星に希望を見出し、人は星に意味を見出し願う。後世の人々もまた後の世代へ、祈りと願いは受け継がれていく。今のHさんはその希望となる祈りの星。」

「魔王はそれと違う、ただ悲しみの闇を撒き散らす災厄。絶望の象徴、アレは間違いなく星と真逆の立ち位置の魔星だ。」

「貴方達結構ロマンチストなのね。」

 

 

 合流したYとMがそう言ってNが2人に対してそう言う。

 

 

「あの姿を見てそれ以外無いだろう。

 だがこれもうさぎは予想していたのかもしれんな……っ、動いた。」

 

 

 Y……山田は箒の変化にこの中でも特に感じている。IS学園時代生徒と教師の関係として、一番荒れていた時期を見ていたからこそだ。

 亡国に異動した際、既に学生時代とかけ離れた変化を遂げた箒に衝撃を受けたがこの戦いで更に変化したそれこそ、箒の強さに直結してるのだと理解する。

 

 今もISの限界領域を超えた速度による剣戟で魔王を攻め立てる。紫の光を切り裂く白い星、それはまさしく御伽噺やファンタジー物で言われる希望なる勇者。

 世界に恐怖を陥れる魔王。それはいつだって最後には敗れるのだ。

 

 

 

 世界の景色が線となり、最早目前の魔王しか視界にはない。

 

 

「──────────」

 

 

 それでもその目は魔王が亡国の人員がいる方に放つ攻撃を捉え、滅して攻撃を続ける。もはや魔王が何を言うか分からない程までに意識を加速させた。

 

 知覚する。一夏や鈴の相思相愛、そして共にある世界への想い。澪が求めた世界とくだらない事で散った者達に対しての想いとそのもの達の怒りを。

 

 想いを

 思いを

 願いを力に変え、現実へ。

 

────閃光が駆ける。

 

 

 織斑一夏の体を乗っ取って数ヶ月、今日我々はどうしようもない絶望に出会った。

 篠ノ乃箒、我々が神と崇めていた篠ノ之束の妹であり織斑一夏の幼なじみ。

 

 戦闘データ上では覚醒したOG領域機体である織斑一夏のISには何があっても勝つことは不可能だと、我々は計画を立てた当初から今日まで結論づけていた。

 

 

「馬鹿なぁっ!!??」

 

 

 複数の自己意識の群体である我々、それによる紛うことなき回避不可な同時進行攻撃。これを覚醒したOG領域機体を駆る篠ノ乃箒、その表示される名からして『天椿』のもはや見えない速度による剣戟に無効化された。

 この時初めて出した攻撃方法すら初見でいなされる。

既に冷静に物事を考える余裕すら消し飛ばされ、瞬間的に構築した攻撃方法を生み出しては放ち続ける。

 

 白金の様な眩しい光を放ち、全てを照らす天椿。

 防御性は分からないが攻撃性と機動性においては未知数、OG領域機体三機分の力を得たということだからもう先が見えない。

 篠ノ乃箒が豹変したことも精神的な面にも作用している様で、その瞳が我々を貫く。

 

 亡国の連中がいる方向に攻撃を放つがそれを防がれ、更に加速した。ここに来て加速したその動き、閃光のように瞬きの光となったそれに呆然とする他なかった。

 

 

『よう』

 

 

 ゾッとする様な声を聞いた。

 我々元IS委員会と元女権団メンバーにとって、死神にも等しい今や恐怖となったその声を。

 

 

「!?」

『少しだけ言わせてもらうぜ。』

 

 

 榊澪だ。あの破壊の権化の、己らの全てを終わらせた世界の破壊者だ。

 

 

「きっ、貴様は!?」

『今度こそ引導を渡してやる。』

 

 

 それは処刑宣告だった。

 

 

 

 

ズンッ

 

 

 鈍い衝撃が走る。

 あの破壊の剣がコア周辺を貫通していた。篠ノ乃箒が言っていた破壊の効果がすぐ様発動し、剣を伝達し発生しない筈の痛みに襲われた。

 

 

「「ギィッがっ!?ぎがGAGA!!??!?」」

 

 

 委員会残党達はISコアそのものに宿る電子生命体となっている。

 システムそのものを犯し破壊尽くすその一撃はあまりにも致命すぎた。

 

 

「「GAGA!!??!?」」

 

 

 破壊はすぐ様OG領域に達したISコアに影響を与え、物理的に崩壊を開始する。その中にいる残党達の電子になった魂がほつれズタズタに破壊尽くされる。放たれる声はいく数もの人間が重なり合った不気味な声だ。

 

 

「身体の中枢がこの力に触れた。

 今貴様らは剥き出しの心臓に激毒をかけられたのと同じ……消えろっ」

 

 

 一閃、腕を斬り飛ばす。

 二閃、脚と腰を斬り飛ばす。

 

 ありったけの力で上空へ蹴り飛ばし『壊の剣』を上段で構え、莫大なSEを注ぎ込む。

 柄がスライド展開し、そこから莫大な量のエネルギーが漏れ出す。

 

 

「嘆き」

 

 

 壊の剣から紅い光が溢れる。

 

 

「後悔し」

 

 

 紅から銀色の光に変わる。

 

 

「立ち上がり」

 

 

 銀色に赤黒い光が交わる。

 

 

「そして人は前を向き、明日へ進む。」

 

 

 剣から溢れる光に蒼い空の色が加わる。

 

 

「これは願いを受け止め

 未来へ向ける希望の奔流───────」

 

 

 今ここに願いが解き放たれる。

 

 

「解き放て

─────『蒼天回帰』ッッ!!」

 

 

 

 希望の光が宇宙へ昇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐがァァァッッッッッ!!!!!!!??????」

 

 

 夏の思い出と中にいるIS委員会残党達は、宇宙に届く光の奔流に飲み込まれる。

壊の剣による力でシステムは阻害、魂もほつれ損壊。修復しようが破壊される速度の方が圧倒的に早い。

 

 だから残党達の人格、その中の一人が魂がほつれたこの拍子にこの体から脱出、コアネットワークに逃げ込んだ。

 

 結局脱出したのは一人。それ以外に生存したものはいなかった。他の者たちはコアネットワークに逃げる事に判断出来ず夏の思い出と共に光に還ってしまった。

 

 

「まだだ、まだ私はぁ……このアーデルハイトがこんな所でっ」

 

 

 アーデルハイト。

 かつてIS学園でドイツ元代表候補生にして黒うさぎ隊、その隊長搭乗機『シュヴァルツェア・レーゲン』にVTSを取り付け暴走させ、結果的に澪の手でズタボロにされた過去を持つ女だ。

 

 

「よう。まだ生きてたのかアーデルハイトの姉御。」

 

 

 そんなアーデルハイトの前に、このコアネットワークの中同じ様に、一人の女が何故かそこに居た。

 

 

「貴女、会長に雇われていた傭兵!?

 何故コアネットワーク内に!?」

 

 

そこでアーデルハイトは気付く。

 

 

「そうか、私達を救う為に会長が死んでも尚貴女に頼んど置いたのね!?

 だったら早く助けなさい!!」

「おっとと、そう慌てなさんな。

 直ぐに助けてやるよ」

 

 

 目の前の女傭兵がそう言って助かったと、これで破壊者が破壊して再生される世界に対し、己らの復讐に向けての計画に動けるとアーデルハイトは考え始める。女傭兵が言った言葉の意味を知らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツから最後の依頼だ。

 死んでくれ。」

 

 

 アーデルハイトは何も知覚できないまま消え去った。

 あとに残ったのは女傭兵ただ一人。

 

 

 

「終わったぜ、これで満足か霧崎サンよ?」

 

 

 無限に広がるコアネットワークを見上げ一人呟く。

 電子の宇宙は何も答えず、言葉は電子世界に消えた。




次回予告

家族が残した罪は焼け
その懺悔も焼けた。

身に宿した光は何になる?

新たな希望、それとも絶望であるのか?

悲しみの連鎖
それは今断ち切られた。

世界は歩き始める。
どんな困難が待ち受けていようとも
それでも人は、命ある限り歩き続ける。


「さあ行こう」


人が人である限り
最後まで歩みを止めてはならない。
歩め、未来に向かって。


次回=夏の魔王【壊】=

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。