一般人15歳で〝ちょっと〟変わった彼のIS生活(完結)   作:A.K

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貴方の為に
世界の為ではなく

貴方の為だけに
私は全てを捧げる。

さあ、行くわよ。


夏の魔王【地】

 私にとってその出会いは憧れと恋の始まり。

 中国から引越し日本に移住し、その後暫くして小学校に転入した。

 その頃はまだ日本語はカタコトに、断片的にしか話せなかった。その様な奴がいれば小さな子供にとって格好の弄り対象だった。当時はまだ気が弱く、弄りに対して......今思えば虐めに等しいのだがそれに対し学校の教師に相談出来ず苦痛の日々を過ごしてた。そんな中、運命に出会った。

 

 

「おまえらなにやってんだ!」

 

 

 夕日を背に私に手を差し伸べてくれた。苦痛の日々から私は救ってくれた。私の運命はここから始まった。

 

 

「俺が来たから大丈夫。

 立てるか?」

「な、ナンで?なんデ助けてクレたの?」

「困ってる人を助けるのに理由はいらないだろ。

 怪我してる.......保健室に行こうぜ。」

 

 

 それからはと言うと、そいつやその友達である五反田弾や御手洗数馬といった連中が助けてくれたお陰で苦痛の日々は終わりを迎えた。

 そして、そいつ───織斑一夏、あの助けてくれたその時に私は......一夏に惚れた。

 純粋に誰かのために手を差し伸べ、助けるその姿勢が。皆を守りたいと言っていた優しいその心が、なによりも私を助けてくれた時にみせたその優しさに充ちた顔が堪らなく好きだった。 だから私も誰かを救えるように、困ってる人が居たら手を差し伸べた。そして、一夏に振り向いて貰えるように女としても努力した。

 そして、両親の離婚が切っ掛けで中国に戻る事となり......その後色々あってIS乗りとして専用機持ちになった。そうして一夏とまたIS学園に会った。しかし、波乱の学園生活と異常なまでに鈍い恋愛感情の前に撃沈。そして、第2次IS学園襲撃事件を最後に半年前まで行方知らずとなっていた。

 けど決戦から数刻後、一夏から連絡が入った。なんとか無事である事や定期的に連絡する事を言って一方的に切れた。そうして定期的に秘匿的だが連絡し合ったし、上層部に報告して許可を得て会うことも出来た。

 そんな中、状況が変わる。ドイツで暴走状態の一夏の姿を捉え、亡国ドイツ支部の最強勢力を壊滅させた。通信を送っても無反応。私は必死になって探し、今日遂に最愛の一夏と再開した。だが.......

 

 

「あぐっ!?」

 

 

 最愛の人は魔王として、狂気に呑まれていた。

 現実は、どこまで厳しいのだろうか───。

 

 

 

 

「R!?」

「うっさい!他人を心配する前に自分をなんとかしろ!」

 

 

 『魔王』の攻撃は苛烈であり一撃一撃が必殺。

 堅牢性と安定、さらにパワー型である事を追求した真・甲龍ゆえの咄嗟の防御でなんとか耐えたが、それでも腕部装甲が中破と一撃が余りにも重い。

 しかも魔王から放たれる炎に似たエネルギーがSEをじわりじわりと、常に少しずつ減らしていく。

 

 

「排除」

 

 

 魔王は迷いなく最短で効率的に、私達を処理すべき動く。

 

 

「一夏!」

「H!?それはマズいっ、戻って!」

 

 

 箒が突貫した数度打ち合った後、爆音が2回鳴り天井に打ち上げられめり込んだ。箒のSE量も今のやり取りだけで6割程損失している。

 

 

(やられた!

 OG領域機体と聞いていたけどここまで差が!

 ドイツ事変での情報で更に対策してもこれ!?)

 

 

「標的───青雫」

「っ、行きなさい!」

 

 

 セシリアは標的になった途端すぐさまティアーズの近接発展型であるIII型ブルーティアーズを展開、蒼の牙を展開しながら魔王に殺到する。

 

 

「無駄だ。」

 

 

 しかし背中の非固定浮遊部位である大型スラスターから砲門が展開される。鈴はそれが第4世代の展開装甲技術によるものだと理解し、展開されて出てきた砲門が一瞬光を放ちその後すぐにIII型ブルーティアーズが軒並み爆散。爆散した時には既に大型実体剣を振りかぶる魔王の姿がセシリアの視界を塗り潰す。せめてもの抗いとして攻撃用ハンドクローたるブルータスクを展開───それよりも速く攻撃がセシリアに届いた。

 

 

「が──────」

 

 

 一撃でセシリアは侵入口から地上へと吹き飛ばされた。反応からして地上に真っ直ぐに。

 幾らISとてあの威力では只では済まない。

 

 

 

「H!ここは私に任せて地上に後退しろ!」

「だが「だがじゃないっ行け!」......くそっ!」

 

 

 鈴はISの各種設定値を視線操作で変更、同時にフルフェイス型の頭部装甲を展開する。

 

 

(神経感覚及び反射的感覚設定値上限解除。

 機体安全装置全解除、全機能過剰起動.......続けて第1種第2種最終セーフティ全解除。)

 

 

 鈴は全身が焼けるような殺意を受ける。

 この場所に漂うエネルギーが、鈴に向けて殺到することを理解する。それを目にした箒が悲鳴を上げた。

 

 

「鈴逃げろォォーーッ!!」

 

 

 紫炎が波の如く押し寄せる中、鈴は静かに魔王を見つめながら呟いた。

 

 

「覚悟認証─『 I Love You 』─」

 

 

───認証確認、解放

 

 

 真・甲龍の奥の手を今、鈴は愛する魔王へ捧げる。

 命をかけてその愛を届ける。

 

 

 『真・甲龍』

 第三世代型ISとしては初期に当たり、パワー近距離型でエネルギー消費が少ないのが売りの中国の傑作機『甲龍』のカスタムモデルである。元なった『甲龍』は中国製ISとして初めて第三世代機特有のIIF兵装を積み、後の中国製ISの基礎となった。

 真・甲龍は甲龍のカスタムモデルで、現在使用されている第三世代後期型と小数運用されている第4世代型のノウハウが流用されている。 第三世代初期に当たるが幾度にも渡る改修と搭乗者に合わせた調整を受け、その戦闘力は世界でも有数のものとなっている。搭乗者たる凰鈴音の技術や経験により実際の性能は第4世代型の領域を軽く超えている。

 真・甲龍となる為に甲龍は大規模改修を受けている。それは───

 

 

 

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!!!!!!!」

 

 

 真・甲龍、その全身の装甲がスライドし過剰とも呼べる程のエネルギーを放出し迫る紫炎と魔王を吹き飛ばす。魔王は吹き飛ばされのと同時に既に瞬時加速で再度鈴に迫り、その顔面に真・甲龍の拳が直撃した。魔王は吹き飛ぶ間もなく鈴による激流の如き拳の連撃が魔王に叩き込れた。魔王もそれに答えるように同じように拳をふるう。

 

 

「おおぉおおぉおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」

「ぬ、ぐおぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 拳による超速の殺り取りが行われていた。

 既に箒は地上に後退し、この場は魔王と鈴しかいない。もし誰かが居たらこの殺り取りの余波で、一瞬で撃墜しミンチになっていただろう。

 

 これこそが凰鈴音が駆る真・甲龍の奥の手───その名『鼓舞・親愛必殺』、真・甲龍の全リミッター解除と最終改修前に全身に展開装甲を増設。 展開装甲技術による性能超向上機構にして、搭乗者の肉体が無意識に行っているリミッターすらも外す。文字通り機体と一心同体となる究極にして禁忌。

 これは『対OG領域IS最終決戦機構』.......後に『E兵装』と呼ばれる。これにより真・甲龍はこの『E兵装を使用時に限りOG領域ISと同等の性能に至る』という第三世代かつ一時的OG領域ISでもある。ただし、これは天災篠ノ之束の技術や榊澪の機体データや兵装データが無ければ造れないため世界にあるのはこの真・甲龍のみである。

 

 鈴は愛する一夏がいつか敵として現れた時、自らの手で殺す為にこの力を手に入れた。

 死がふたりを分かつともその愛を貫く為に。

 その身、魔王を焼く日輪の如く輝く。

 

 

「一夏ぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「消えろ、消えろ、亡霊!!」

 

 

 鈴は思う。

 なんて世界はこんなにも残酷なのか。

 どうして愛する人は修羅の道を歩んだのか。

 この世界全てが悪いというのに、なんで一人で全てを背負うとするのか。

 かつて居たもう一人の男、榊澪も目的の為......復讐のために数々の業を一人で背負い逝った。

 愛する人の手を世界の業でもうこれ以上汚さない為に。

───だから!

 

 

「もうこれ以上っ、誰も、その手で、殺めさせない!

 私が終わらせる!

 今日、私の手でっ!!」

 

 

 血涙を流し、頭部装甲の隙間から血が溢れようが構わない。大きな声で魔王に───愛する一夏を想って叫ぶ。

 

 

「例え私が殺されようと、愛する貴方を絶対に止めてみせる!

 刺し違えても、絶対に!」

 

 

 

 両者の攻撃による余波はその場を砕き天井にもヒビを入れ、その後数秒のうちに衝撃がその場を破壊尽くし、地上に2人乱撃を繰り返しながら飛び出した。

 

 

 

 10分前、先行突入したR部隊したBTが機体が大破した状態で吹っ飛んで来た。それを追うようにHが全速力で突入した穴から出て来た。

 

 

「H!」

「M、BTは!?」

「既に回収し、今は母艦にて緊急手術を受けてる。

 何があった?」

「Rはどうした?

 さっきから・・・・・高熱源反応!?来るぞ!!」

 

 

 鈴が未だに残っているだろう地下へ続く穴から、光が天高く伸び続けてくる爆発が大地を砕く。

 

 

「おぉぉおおぉぉぉ!!!!!!!!!!」

「がァァァァァァァァァ!!!!!!!!」

 

 

 衝撃波が大気を震わせ、濃密なエネルギーを纏う2人が地面を突き破り空に舞いあがる。

 

 

「い、ち、かっァァァ!!!!!!!!」

「消えろぉぉぉ!!!!!!!!!!」

 

 

 手を伸ばす。目の前の敵を殺す為に。

 その手を、その剣を振るう。

 

 愛と敵意と殺意と悲しみが、混ざりあって感情が爆発し続ける。そんな中、箒がふと気付く。今の今まで、自分達が気付いてないことに。一夏ならば言うだろうことに気付いた。

 

 

「なあ…ひとついいか?」

「なんだこの忙しい時に!?」

「仮説だ。これは仮説なのだが、もしかしたら一夏は一夏じゃないのかもしれない。」

「一体何を!?」

 

 

 目の前で鈴と殺り取りを繰り返す一夏、織斑一夏はそこに居る。しかし、そのことに気づいた箒にとって一夏だが一夏では無いと思えた。

 

 

「ぐっ、衝撃が…!

 それよりもどういう事だ!?」

「一夏は私達に対して話しかける時、昔から必ず名前で呼ぶ。それは喧嘩しようがそれは変わらない。

 今の一夏には通信を入れても全て『亡霊』呼びでそんな事は今までどんな事があろうと一夏はしなかった。今の一夏は私達を全員『亡霊』と、同じようにしか見えてない.......もうここまで来れば異常だと分かる。」

「おい兎!聞こえてるだろ!?どうなんだ!?」

 

 

 そう叫んだ直後、日本近海を飛ぶ亡国本隊旗艦『ゴースト』から通信が入る。

 

 

『箒ちゃんの話から得た情報から直ぐにあのいっくんを調べた!

 ドンピシャな疑問とグッとな考察、素晴らしい!』

「はぁ!?博士どういう事だ、反応では間違いなく『夏の思い出』と出ている………っ、まさか!?」

 

 

 M、マドカは箒と束が言うことをその頭にある知識を総動員させ理解する。まさかそんな、と。

 

 

『そのまさかだよ。いっくん、どうやら『電入依弾』を喰らったみたいだよ。

 以前、れーくんが霧崎から喰らったのと同パターンの乱れが『夏の思い出』から検出されてる。同時に…』

 

 

 そこから全員に向けて1つの情報が送られた。

 そこには…

 

 

『ISのコアネットワーク内に漂ういっくんを見つけて確保したよ。

 同時にいっくんのISコア人格も一緒にいた所を確保して今新しいISコアにぶち込んだ!!!!!!!!!!』

 

 

 製造ナンバーX-0001Sと表記された白金に輝くISコアが写っている。

 

 

『って事はこれは一夏の体だけって事なのよね!?』

『りっちゃん!?』

『答えなさいうさぎ!』

『あってるあってる!

 その目の前にいるのはいっくんの体を奪い取った奴らで、今その体を動かしてるのはそいつらだ!!!!』

 

 

 

「があァァァ!!!!!!!!」

「こっの、一夏の身体から出てけっ!!!!!」

 

 

 真・甲龍のエネルギーが3割を切った。人類史上最高の天才が作り上げた最高峰の力でさえ、自ら目覚めた力を持つ身体には勝てない。

 

 精神及び魂がなく、一夏の身体だけの存在に遠慮など必要無くなった。しかしその戦力差と能力値の高さを前に誰もが膝を着く。やっと分かった時にはもう既に手遅れだったのだ。

 

 

「エネルギー無限とかっ、反則…っぐぅ!?」

「『神の一撃』を跳ね除けただけはあるが、ここまでの差があるのか!?」

 

 

 現在戦力として数えられるのは鈴だけだった。容赦する必要がなくったがそれに気付いた時には既に満身創痍。現状魔王と戦える戦力が鈴しか居ないため戦力不足の差があり過ぎるのだ。

 箒の視界に、くの字に折れ曲がり彗星の如く数キロ程吹っ飛び、落下先の山を弾着して崩壊させる鈴の姿が写る。

 

 

「R!?」

「カバー入れ!!!!!」

 

 

 ISやEOS、亡国本隊全勢力が総出でも魔王は止まらない。鈴が居なくなったことで、止まっていた摩訶不思議な炎が再び吹き荒れドイツの再現が起きようとする。

 一面に吹き荒れる炎が、全てを黒く焼き尽くす。

 

 

「消えろ亡「さ せ る か っァァァ!!!!!!!!」…ぬおおおお!!!!!?????」

 

 

 公開通信に鈴の叫びが響く。

 悲しみ、哀しみ、想いの叫びが戦場に響く。

 

 

「一夏の身体で、一夏じゃない奴がっ

 これ以上一夏を汚すんじゃないわよっ!!!!!」

「ぐぉあっ!?」

「よくもっ、よくもっ、このォォーーッ!!」

 

 

 鈴が真・甲龍の最大以上の稼働をさせる。その背に太陽の如く輝く日輪を背負い、紛うことなき光の速さで魔王を殴り飛ばして初めてダメージらしいダメージを連続で与える。

 

 

「出てけぇぇぇぇ!!」

『りっちゃんそれはダメ!!

 極過上機体稼働は最悪自爆するっ、それ以上稼働率を上げるのをやめて!!』

「うあァァァ!!!!!!!!」

『りっちゃん聞いてよ!?それ以上は!!』

「ごぁっ、ぎぃが!?かぁっ!!!???」

 

 

 既に鈴が駆る真・甲龍はその殆どが赤熱化しており、その拳だけがなんとか赤熱化を免れている。その拳で鈴は既に朦朧としている意識の中、一夏の身体を動けなくする為追撃を行う。そのおかげで始めて形勢が鈴に傾くが、既に機体がいつ爆散もしくは鈴がダメージ過多で絶命するのか分からない。しかし、それでも有効打となるのは鈴しかいない。

 

 

「くっそぉぉぉ!!」

「少しでも、ほんの少しでもRの援護をしろぉ!!」

「っっっっっァァァ!!!!!!!!」

「亡っっ霊っっ如きがァァァ!!!!!!!!」

 

 

 格下たる鈴の命を懸けた猛攻に一方的に攻められ始め、多大なダメージを受け苛立った魔王。ここに来て初めて乱れに乱れた乱雑な攻撃に鈴の蹴りが炸裂して打ち上げられた。

 

 

「Rが魔王を吹き飛ばしたっ、銃身が焼き切れるまで撃ち続けろぉぉぉ!!!!!!!!!!」

「てぇぇーーーー!!!!!」

「Rっ、B-BT行けぇい!!」

「一夏…っ、穿て灼轟孔!!」

 

 

 全機の攻撃が直撃し誰もが好機を見だしたその時、夏の思い出からこれまで以上のエネルギー反応の高まりを感じ取る。

 その反応は夏の思い出の握り締める右手であり、余りのエネルギーに周辺空間が物理的に歪む。

 

 

『熱が、灼熱の壁が来る…!

 これを受けたらっ、逃げて!早く!!』

 

 

 そうは言っても逃げれないのが現実だ。

 なんとしても目の前の魔王を止めなければ、悪意を持って世界を再び一人で火の海にする。誰もがそれを防ぐために、ここに居る。

 

 

「ぎぃぃぃぃ…!!!!!がぁっァァァ!!!!!!!!」

 

 

 鈴が獣の様な叫びで突貫し、エネルギーを溜めた魔王の右手をありったけの力を込めて殴る。

 

 

 

「ッッッゥツゥウァァガァッッッッッッ!!!!!!」

 

 

 エネルギーは四散し、攻撃は魔王の右手を破壊した。

 しかし、その四散したエネルギーが鈴を襲う。超高圧縮されて高密度のエネルギーはSBも絶対防御を容易く貫き、真・甲龍の赤熱化した装甲を消し飛ばす。

───鈴の左腕と右足の膝から下が消し飛んだ。

 

 

「りぃぃぃぃぃぃん!!!!!!!」

 

 

 操縦者保護機能により痛みはカットされる筈だが、度重なる機体へのダメージと機体そのものが損壊したということによりシステムに不具合が発生。疲労とダメージで朦朧とした意識に追い討ちを賭けるように、突き抜ける痛みが精神を蝕む。同時に、ダメージ蓄積によりシステムがほぼ全てダウン。機体が搭乗者の保護を優先し、最低限の機能を残し停止させた。

 背の日輪も四散し完全に沈黙。

 

 

「っっっおぉぉぉ!!!!!!!!!!」

 

 

 箒が他の隊員の援護を受けながら鈴をキャッチしたが、保護システムのお陰で出血は止まったが左腕を損失し右足は膝から下は無い。赤熱化した機体は奇跡的に形を保って何故戦闘できていたのか分からない。

 

 

「逃がさんッッッッッ」

 

 

 鈴に一方的に攻撃された魔王が弾幕を気にせず、鈴を抱える箒に襲いかかる。

 箒が駆るこの機体では魔王から逃れる事も、鈴を護る事も出来ない。魔王が持つ灼熱の大剣が既に背後まで迫っていた。

 

 

「鈴ッ……!!」

 

 

 箒は全身の展開装甲とSEを全部注ぎ込んだ巨大な盾を形成し、魔王の攻撃が盾にぶつかった。

 激しいスパークと共にSE量が減少、盾となった展開装甲も溶け落ち、背中に業火の熱が触れ激痛が走る。無事な装甲で何度も盾を形成する。

 

 

「護ると誓ったのだッ

 アイツが、一夏が大事にした者を護ると!

 不甲斐ない迷惑ばかりかけた私が、護ると誓ったんだ……これぐらい!!」

 

 

ビキ

 

 

「これぐらいッ」

 

 

 背中に何かが触れた。

 

 

「あっ──────────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ぐっ、がぁ……はっ……」

 

 

 魔王は盾を展開した紅のISを叩き切った。

 それでも尚、鈴と呼ばれた女は生きており、そして抱きとめる紅のISに鈴共々とどめを刺すため近づく。

ドイツ事変で見せた不可思議な炎が壁となり、今この場には魔王と鈴に箒の3人だけだ。

 

 

「まだ、立ち上がるか。」

 

 

 魔王はこの体、織斑一夏が昇華させた第2のOG領域のISに耐える目の前の二人に驚きを隠せない。驚異となる者が沈黙した事により、いくばかり冷静になる。

箒は鈴を地面にゆっくり置き、立ち塞がるように魔王の前に立つ。

 

 

「絶対に、護るっ」

 

 

 紅のISは既に大破寸前。

 それでも尚、魔王の前に立ち塞ぐ。

 それによりさらに驚く。

 

 

「なぜ抗う」

 

 

 魔王は問う。

 目前の愚かな女に語りかける。

 

 

「友を守るためだ」

「どうせ今すぐ死ぬのにか?」

 

 

 返答に魔王は考える。

 擬似無限機関を持ち、装甲修復用の資材も大破しても数十回は軽く治せるほどある。

 現時点で既に修復は始まっているし、減ったSEもすぐさま元通りになるだろう。

 亡国側にこちらに致命傷を与える者は既に戦闘不能。既に勝負はついたのだ。

 

 

「最後まで抗ってみせる」

「無駄だと言うのにか?」

 

 

 そう、無駄なのだ。

 決定的戦力の差、天と地の差がある。

 アリがゾウに挑む様に、たった一つの氷で燃え盛る業火を消す様に既にこの状況は無理であり無駄なのだ。

 

 

「それでも、私はッ!!」

 

 

 絶対に勝てないと分かってる。

 それでも立ち、目の前にいる理不尽たる悪意を断たねばならない。全身全霊、今この時全てをかけて惚れた男と惚れられた女の名誉と矜恃を守る為に魔王に立ち向かう。

 箒は過去一番この時、ISの同調率が適正値関係無く100%の上限を超え、それを祝福する様に覚悟の波が暴れ出す。

 

 

「なんだ?」

 

 

 魔王はそれを感知する。

 人の身では無いから感知できる、コアネットワークの繋がり。それが目の前の女を中心に激しく揺れている。波は物理的に空間を揺らし始める。目前の女が放つ気配が大きくなる。そして、感知する。

 見えない意思で繋がる電子による構築世界、ISコア一つ一つが持つ世界の繋がり、そして共鳴。それは頭上からも放たれる。

 

 

「宇宙だと?」

 

 

 魔王……その中にいるIS委員会残党達の意識の集合体は宇宙に榊澪が開けた大穴があることを知っている。あれから大穴は開き続けていたが、結局何も起こることは無かった。

 それが今地球にも響く程の空震を、まるで目の前の女に反応するようにコアネットワークを伝わって伝達する。

 

 

「もはや汚名の代名詞とも言われる私だが、最後に大切な者達の為この命使えるなら本望ッ!!!!!!!」

 

 

 炎の壁が揺らぐ

 

 

「故に負けられないッ」

 

 

 鳴動は強くなる。

 

 

「今度こそ絶対に」

 

 

 魔王が動く。

 文字通り最強の体を持っても、何か本能的に危険だと理解したからだ。故に仕掛けた。

 

 

を懸けて護ると決めたッッ!!!!」

 

 

 瞬間、世界が赤く染まった。

 箒のすぐ目の前にソレが、ソレが魔王を牽制する様に突き刺さった。そしてソレが突き刺さった衝撃で何故か魔王は吹き飛ばされる。

 

 

「な、なん……ッ!?」

 

 

 紅き雷がソレから漏れ出している。

 ソレはあまりにも有名な『武器』だ。

 その剣は今最も世界で有名な、現代の魔剣とも呼べる最凶にして最強の剣。

 

 

「澪ッ……借りるぞ!!」

 

 

 『復讐者の剣』

 世界で最も有名なIS殺しの剣、失われし魔剣が箒の手に握られたのであった。




次回予告

我が人生は汚れている。
汚れに汚れた哀れな獣の様に。

気付いた時には大切な物を
この両手の中から落としていた。

全てを失ってから気づいたこの誓い。
この誓いだけは守られなばならない。

その剣を手にしよう。
この剣で示してみせよう。
汚れてようがこの誓いのもとに。


「私はもう迷わない」


次回=夏の魔王【崩】=

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