一般人15歳で〝ちょっと〟変わった彼のIS生活(完結)   作:A.K

56 / 63
時代はいつだって贄を求む。

人はいつだって身代わりを求める。

それは普通だ。

ならば我々が行うことは正当だ。

我々の正義のために

間違った世界は贄となってもらう。




夏の魔王【天】

 澪と霧崎による最後の決戦から数ヶ月。

 戦場となった場所、両者の戦闘による影響で起きた異常気象が収まり亡国の実働部隊がその更地に来ていた。

 

 

「こちら‪R、IS反応を一つ確認したわ。

 あの決戦の時と同じ反応よ。」

『データ照合の結果、織斑一夏のものと判定。

 各機体この場所を隅々まで探し、なんとしても保護するのだ。』

「R了解。......ちょっとH、BT、返事。」

「「了解!」」

『O部隊ももう少しでその地点に到着する。

 EOS部隊、共にR部隊共にM部隊は織斑一夏の捜索をそのまま続行。

 

 

 保護拒否及び敵対行動をとった場合は、......武力制圧せよ。もう世界がこれ以上の刺激に耐えられん。

 特にRにはそのための力がある。もしもの時には頼むぞ。』

「了解。」

 

 亡国の司令部との通信から十数分。

 R=凰鈴音、H=篠ノ之箒、BT=セシリア・オルコットはISのハイパーセンサーを使いながら織斑一夏のIS『夏の思い出』の反応を探りながらその身柄を探していた。あの戦いから数ヶ月、世界中を転々と飛び回り最終的にたどり着いたのがこの地だ。

 

 

「反応はあるけど薄すぎて場所まで分かんないわね......」

「R少しいいか?」

「何よ?アンタらもちゃんと探しなさい。」

 

 

 居ないわー。と呟く鈴に対して、ムッとして少し怒りが混じった声音で箒は質問する。

 

 

「お前は、良いのか?」

「良いって、なにがよ?」

 

 

 はー居ないわねー。と呟く鈴に箒は続けて言う。

 

 

「一夏がもしも私たちの保護を拒否したら、敵対行動をとったら私たちは全力で一夏を倒さねばならんのだぞ?それを理解してるのか?」

「わたくしはまあ、大丈夫ですが......HやRは一夏さんとは幼馴染みでしたわね。」

 

 

 

 凰鈴音、篠ノ之箒。両者は織斑一夏とは幼馴染みの関係にして両者共に同じ男に恋をしてしまった恋敵でもある。そして、勝った者と負けた者でもある。

 

 

「それがなに?」

「なに?では無いだろう!お前は一夏を......!」

「───じゃあ聞くけど、たった一人の好きな人と何十億の人々の平和。どちらが大切な訳?」

 

 

 箒の質問に簡単に答え、鈴は箒に問い掛けた。

 全人類の平和と、一人の男の安全。ある意味究極の天秤を箒に問い掛けたのだ。

 

 

「そ、それは......」

「あの大戦は最終的には第二次大戦よりは死者や被害が少なかったとはいえ、第一次大戦より多かった。今も傷跡は残ってるし死者だって数多く存在するわ。

 

 一夏はわたし達の事を思って一人で行動してる独自の勢力。

 兎が言うには何故か澪とほぼ同じ無限機関を持ち、明らかに第四世代機を超え、さらに言えば三次移行を超えた異常移行を果たし、と同等になった。

 もう一夏一人で世界を滅ぼせるのよ。

 いくら大切な人だろうと、漸く終わった馬鹿騒ぎで疲れ果てた世界に対しては毒なのよ。」

 

 

 それは正論だった。

 一人で世界を滅ぼせる様な奴が、何処にも属してなく野放し同然で好き勝手出来るのはあまりにも危険。これは世界がそういう流れにしたというのもあるが、さらに言えば現在の一夏が暴走状態にあるというのもある。

 多数の人が死に、この星に住む人々は疲れ果てている。そんな人達を守らなければならない。今の亡国が命じられていることはまずそれだ。それを無視することは出来ない。

 

 

「そもそもアンタはそれを覚悟で今回の捜索に参加したんでしょ?」

「そうだ。だが、私は......」

「アンタは、結果的にだけど澪が残してくれた平和を壊したいの?

 命を掛けて、この世界を滅茶苦茶にした元凶を倒してくれた澪の命を無駄にしたいの?」

 

 

 鈴が持つ部隊は様々な問題を抱える者達が集い、そして抱える悩みを解決させ別の部隊へ移動させていく。その中でも一際の問題児達が鈴が受け持つ二人だった。

 亡国は人々を守らねばならない。それを冷静に、冷徹に理解してるのが鈴だから、かつての学友だから配属されたのだ。

 

 

「H、私だって本当はそんな事したくないわよ!

 ......けどね、私たちはもう子供じゃないのよ。

 この組織でISを持った時から私たちは国を、世界を守る事から逃げちゃダメなの。

 それこそ、私達のせいで世界が滅ぶかもしれないなんてあってはダメなのよ。だからそれに仇なす者は容赦してはならないの。たとえ、愛する人だとしても。」

「......分かった。」

「言っとくけど、私は学園時代にアンタらが親友である澪にした事を忘れた訳じゃあないからね。たからこそ親友に酷いことしたあんたらを私個人は許してないから。」

 

 

 突然話に巻き込まれたオルコットはギョッとした表情をしていた。

 

 

「セシリア。私は中国生まれだけど、途中から日本に来て育った。故に日本は私の故郷同然。国籍も亡国権限で中国籍から日本国籍に変更した。私は中国人だけど、日本人でもある。

 ぶっちゃけ言えば中国より日本で生活してきたから中国人という認識が薄いんだけど。」

 

 

 

中国より日本での生活による経験が自らの基礎となったためか、その精神や心のあり方は中国人というより日本人に近い。故に中国に帰った後、己の本当の故郷が何処かと理解したのだ。愛した者が、大切な友人たちがいるかの国こそが己の本当の故郷なのだと。

因みに、鈴が駆るこの機体は亡国と中国での交渉により亡国にコアを含めて所有権が移っている。

 

 

「音声データで例の発言聞いたけど、正直初見の時その場にアンタが居れば、その顔面に拳をぶち込む所だったわ。」

 

 

 鈴の背後から放たれる怒気は真っ直ぐセシリアへ突き刺さり、その怒りっぷりからいかに当時の鈴が怒っていたのかを想像してゾッとした。

 

 

「はっきり言っておくけど、私の部隊は『問題性あり』と判断された隊員が配属される場所なのよ。そして、それを調教するのが私の役目。

 アンタらがどれだけ頑張ろうが、亡国自体はアンタらを問題性の塊のようにしか思ってないのを忘れるな。」

 

 

 二人は鈴が隊長を勤めるこの部隊について、配属される前まで噂程度で聞いたことがあった。

 曰く、重犯罪者の矯正場。

 曰く、下水の汚泥の様な輩が集まる魔窟。

 曰く、世間体から酷い評価をされた何かしらのやらかしを行なった者が辿り着く終着点。

 

 配属される前でそういう話は聞いていた。そして、鈴が様々な問題児達を矯正したという事実も。

 

 

「世間から兎がなんて言われてるか知ってんの?

 元は世界最強のせいとはいえど、世界が荒れる要因を作った為『死の兎』って呼ばれてる。

 BT......アンタは『イギリスの恥』やら『今世紀最凶のブリカス』呼ばわり。

 HはIS学園でのやらかしの連発でついたあだ名は『恥侍』って、アンタの実家って剣道やってた所でしょ?侍と実家の家族に対して謝ったわけ?流派を名乗るの禁止にされて数百年の歴史を消し飛ばしたんでしょ。」

 

 

 セシリアと箒はその言葉にウッと息を詰まらせた。

 

 最終的にイギリスはオルコットの1件後、欧州の第三世代機に関する大規模プランである『イグニッション・プラン』からフランスに続いて除外された。篠ノ之束によりEU内のISコア数調整がされ、その結果EUのISコア保有数が減少。EU......その中でもイギリスは篠ノ之束の怒りに触れた為に半年間のイギリス登録ISの起動不能状態付与が施された。

 EU自体に対しての制裁も勿論あり、それにより大きくなった負担責任の為イギリスはEU離脱を強要され、周辺国家からの信用性も失い、さらにEU勢力からイギリスへの負担補助を強要.......イギリスはEUに対して行われた制裁を全負担させられたのだ。

 その後の大戦の影響を受け今も尚イギリスという国は国際的立場も含めてかなり劣悪な状態である。財政面が完全にズタボロになり、大戦により崩壊したインフラも周辺国と比べると完全に差がついた。  

 

 箒に関して澪が居なくなってから暫く経った後から始まった。武道に関する連盟、全国の武道に関する施設、さらに名のある有名な武闘家の人々が直接IS学園まで叱りに来た。その上、『恥侍』と侍に対する侮辱とも呼べるあだ名を付けられ日本国内の数百年の歴史を持つ家系......特に侍に関係していた家系からも怒りの声明がIS学園に届いた。それに加え神社関係の者としても、全国の仏教やら神社関係の者達からも箒に関しての抗議文が届けられた。 これらが終わった後、IS学園内の剣道部の部員達からも剣道場を出禁にされ、尚且つ数々のやらかしで『篠ノ之流』を名乗る事も禁止にされた。箒の行動により数百年続いた『篠ノ之流』は完全に潰え、篠ノ之流は『恥侍』としてこれから先日本の歴史に刻まれる事になったのである。

 

 

「アンタらが頑張ってるのは知ってるし、実行部隊やらアンタらのことを知ってる人らからはちゃんと評価されてるし皆悪い奴だとは思ってない。けどね、それは内部での評価であり外部からの評価は厳しいよ。

 もう既に数年経っても未だに言われ続けてるんだから、アンタらが今また何かやらかせば間違いなく世間からの評価も今以上に下がるだろうし、所属している亡国全体の信頼も下がる。」

「うぐっ」

「だからこそ澪が残した平和を維持しないといけないのよ。多くの犠牲から成り立つこの平和の世界を。」

 

 

 鈴は強い。今の亡国でも強さ順で上から数えた方が早い程に。今ではもう通常配備が成されている第三世代機とは言え、鈴が扱うのは第三世代機初期に開発されたIS『甲龍』の最終改修型である紅蓮に燃え上がる『真・甲龍』。 最終改修型とはいえ世界中に存在する第三世代機後期型のISと比べても劣る所が多数ある。亡国でも第三世代機後期型のISは配備されており、前期や初期型モデルは全て後期型に変わっている。それでも尚鈴は今の機体を使い続け、亡国最強に近い位置に存在する。

 セシリアも箒も亡国の中でも強い部類だが、鈴と比べると天と地の差がある。甲龍から武装も殆ど変わらないのにも関わらず、相性不利でさえも覆す。それが今の鈴だ。

 

 

 

「見つけた!」

 

 

 鈴がその目で捉えた。更地の大地、その一部が僅かにだが不自然に周りの大地と比べて浮かび上がっている。ハイパーセンサーで解析、分析結果からAIS素材から出来ているカモフラージュ部品だった。真・甲龍のスラスターを吹かし一直線にその場所に近付き、拳部に展開した使い捨てのパイルバンカー『龍王咆』で破壊する。

 

 

「こちらR部隊より司令部!

 織斑一夏のIS反応捉えた!反応値も上昇!」

 

 

 破壊された場所には地下深くまで繋がる人口の穴があり、穴は深く1kmを優に超えている。そして、微弱だったIS反応も一気に増大し、エネルギー反応値も急激に上がっている。

 

 

『司令部より本作戦に関わる部隊へ連絡。

 R部隊はそのまま目標と接触する為突入、他部隊は念の為その場にて待機。』

「行くわよ!H、BT!」

「「了解!」」

 

 

────────────────────────

 

 

「2 700......2800......2950......一体どこまで続いてるわけ?」

 

 

 突入から数分。穴は1kmを超え、今も尚地下へ進む3人。時折不可思議な光を放つエネルギーが下から吹き荒れる。

 

 

「エネルギー反応値は限界値を超えましたわ。」

「(第5世代を優に超える反応値、一夏お前はどうしたんだ?)」

 

 

 ブルーティアーズと紅天も真・甲龍を纏う3人は計測反応を見て警戒を続けている。既に周りは濃密な可視出来る程の不可思議な色をしたエネルギーに満ちている。

 

 

「何あれ?3秒後にゲートらしき何かと接触、3機同時一零停止準備!」

 

 

 その言葉よりきっちり3秒後に突然見えたゲート前に一零停止で止まった3人。鈴は本部へ連絡をしようとするが......

 

 

「繋がらない?H、アンタから本部へ連絡は出来る?」

「駄目だ。繋がらない。」

「恐らく、今では地上の方もこれで慌ててるでしょうね。R、どうします?」

「ぶっちゃけ一旦戻るべきだと思うけど、事態のヤバさは現在進行形で悪化してるわこれ。行くしかない!」

 

 

 そう言って手に取ったのは長らく使ってきた武器の発展型『双刃覇龍』と呼ばれる一対二振りの青龍刀。鈴は勢いよくそれを叩き破壊して中へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは?」

 

 

 ゲートを抜けた先にあったのは何の変哲もない大広間。どこか地下アリーナをイメージさせるような場所である。

 

 

「亡、国。」

「アンタ......!」

 

 

 広さは地下にしては異常に広々として軽く1km以上はあると言った所、天井の広さは500m程。そんな所に───

 

 

「一夏!」

「私には...まだやらなきゃならない事が、あるのだ。」

 

 

 夏の魔王 

 

 その異名で呼ばれる異常が仁王立ちしている。

 

 

(違う、これは・・・・・!)

 

 

 鈴は気付いた。なにか変だと。

 殺気───そして、剥き出しになった敵意を感じ取り普通じゃないと理解する。

 決戦の時とは人が違う、もっとチガウナニカになった。

 

 

「罪を払う。」

 

 

 体から溢れる熱気が空気を焼く

 銀色は紫に染まり、怪しく光る

 

 

「そして闇を払う。」

 

 

 揺らめく陽炎は贄を求む。

 己らが求む世界の創造のために

 

 

「世界の穢れを

 我々が願う世界を壊さねばならない。

───だから失せろ、亡国!!」

 

 

 贖罪の夏、終わる事ない熱狂の渦

 かの者は剣を振る。

 

 吹き荒れるは狂気の風。

 悲しみの刃が今交わる。




次回予告

私は貴方を愛してる。

世界が貴方を責めていても。

貴方が自分を責めていても。

私はこの愛を貴方に届けましょう。

永遠の愛を貴方に
死が私達を分かつとも

貴方を止めて見せる。


次回=夏の魔王【地】=


一夏、私は貴方を愛してる!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。