一般人15歳で〝ちょっと〟変わった彼のIS生活(完結)   作:A.K

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喪う
失う
全てを失い、喪っていく

持ってたものは
大切に抱えていた物は
その身からこぼれ落ちた

あとに残るものは────


Lost memories

 それは姿を消す。

 

 澪の存在が不明となった後、同時に首謀者である霧崎と特異ドールズであるファランクスの存在が確認出来なくなった。亡国と束が持つ技術であらゆる場所を探し、調べ尽くしたがその存在を確認することは結局出来なかった。

 

 戦場は姿を消していく。

 

 世界各地に点々とあった委員会支部は全て焼き尽くした。霧崎とファランクスが消えた後、突如ワーカーズに不調が発生。 基本的にワーカーズの生産は、霧崎が持つ独自の工場でなされている。生産は霧崎に要請を出した後にされるが居ないためにそれは果たされない。生産工場の場所も霧崎しか知らない為、他の委員会メンバーは誰も知っていないので新たに生産も出来ずにいた。一機が不調を起こしても他の不調が無いワーカーズが整備するが、今現在全てのワーカーズが不調のため互いに整備することさえ叶わない。ワーカーズの整備マニュアルを霧崎は下僕でえる委員会側に何故か教えておらず、何も分からないワーカーズの整備を強いられる。しかし、結局の所何も出来ず、委員会側はワーカーズを不調のまま酷使続けた。

 それ以外にも兵力としては量産型ISコア搭載をしたISがあった。 ISの心臓となる量産型ISコアだけが多量にあり、体となる外装がもう無いのだ。外装を作る工場も企業も何もかも消失・占領されてしまい、委員会側はただただISの心臓部であるISコアが溢れかえっただけとなってしまっている。

 この時、委員会側の戦力の大半がワーカーズが占め、他の戦力は少ない無事な量産型ISコア搭載機ISだけであった。もちろん不調であるワーカーズを前線に出し続けた委員会側は敗退を繰り返した。虎の子の衛星砲エクスカリバーはいつの間にか亡国により破壊され、中の生態パーツ化していた搭乗者とISを亡国に奪われていた。

 そのせいか勢力圏も戦力もほぼ全て失ったIS委員会・女権団側は後退の一途を辿る。

 

 戦争は終わる。

 

 開戦から約3年────地球上全体を巻き込んだとても下らない戦いは幕を下ろした。だが、戦いは終わっても今度は男尊女卑をかがげる人々が現れた。だが先の女尊男卑の末路を知る故にだからどうしたと人々は無視し、世界は愚かな戦いを得て男女共同を目指し、そして篠ノ之束が目指す宇宙を、人類全体が目指し始めた。そうして発足したのは人類連合『LINK』。 亡国企業も宇宙を目指し始めた人類に対し、援助する立場に回ったのであった。しかし、未だにひっそりと隠れていた過激な女尊男卑・男尊女卑を掲げる者達によるテロ行為が度々起こり、その鎮圧にも追われている。

 世界は確実に幾度の大戦を乗り越え、平和への道を歩み続けていた。

 ISは男性にも使えるようになり、男性の操縦者も増えた。IS技術は様々な分野で活躍し、その活躍の場所を増やしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 されど、まだ────戦いの幕は下がっていない。

────────────────────────

 それは普通であった。

 

 それは平凡な日常であった。

 

 それは紛れも無く異常な普通であった。

 

 身体能力も、知識も、精神も、まだ普通であった。

 

 人の悪意はそれの全てを激変させた。

 

 普通は異常に

 

 平凡は異常に

 

 それは紛れもなく異常の中の異常

 

 その全てが壊れて消えた。

 

 感情も、記憶も、人としてのナニかもほぼ全て

 

 全て......全て......壊れては消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球のすぐ近くの衛星である月、その裏側。太陽の光を浴びることのない暗黒の大地、地球側から観測が出来ないそんな大地にそれは居た。

 一つは全身が罅割れ、鎮座している頂きに達したISであり人間の一つの可能性。もう一つは真紅に輝く光の膜であった。その光の膜の前に複数の人々がいた。

 

 

────終極兵装形態移行

 

 

「うん。君はこの3年間を得て、漸くして君だけの極みに至った。」────原点の榊澪

 

 

────通常進化的形態倫理破棄

 

 

「......異世界の主とはいえ、良くここまで自我が崩壊せずに頑張りました。」────原点の榊澪の相棒

 

 

────全エネルギー出力極限限界突出設定

 

 

「私は......これで良かったのでしょうか?」────この世界の榊澪の相棒であるノーネーム

 

 

 そう言うは......ノーネーム。その顔は悲痛に染まっている。

 

 

「それはどうしてだい?」

「私は......私が一番居なくてはならない時に限って、一番支えなくてはならない時に限って主のそばにいれなかった。

 私が再び主の元に戻った時、もう全て手遅れの状態でした。私が、私が居れば主はこうも無茶をさせることは無かったのでは?機体のメンテナンスが出来たのにと、そう思ってしまうのです。でもそれは所詮ifの話でしかないと分かってるのです。でも私は......」

 

 

 ノーネーム達が澪の元に辿り着いたのは、霧崎の手によって切り離された2年後の事だった。辿り着いた時には澪は榊の手を借り強制的に進化による頂きを目指そうとする作業直前だった。ノーネーム達が澪の名を叫ぶと同時に光の膜に包まれてしまったのである。ノーネーム達は榊が一時的に保護し、その存在維持をしている。もしかしたら霧崎の手によって何かしらの事があるといけないと言うことからだ。

 

 

「ノーネーム、君がそう悔やむことは無い。

 彼は彼の望むようにやった結果がコレであり、君の過ちは無い。」

「ですが!」

「ノーネーム。

 主人の行き先を見守ることもまた我々の役目です。」

 

────形態再構築......完了

    活動限界及び自壊までの時間約1時間

    

 

「それでも、今地球で主を探してくれている友人方にこれをどう説明すればいいのか......」

「ノーネーム。悪いがこれを幾ら彼の友人とは言え、伝える訳にはいかない。此処で彼の意思が無駄になるのは一番恐れている事だからね。伝えるとしたら────全てが終わってからだ。」

 

 

────融合者の同意の元、起動確認中......

 

 

 心身共々ボロボロになってから早3年か。地球ではクソッタレな戦いもようやく終わりを迎え、未来に向かっているようだ。それに霧崎があの街に居る......まあ、今それを知覚したのだ。過去から今までの事を、地球全体から隅々まで全部を。

 

 周りを見て見る。つい先程3年間の眠りから目覚めたのだが、俺は初めて目にする黄昏の空に一面に広がる水面の上に立っていた。

 

 

────最終警告、これから先貴方が目覚めたと同時に貴方は急激に燃え尽きるでしょう。

    それでも、貴方は目覚めますか?

 

 

 人工的な声が頭にそう響く。奴を殺せる力を得る代償として俺の命は文字通り燃え尽きる。体の末端まで全て燃え尽きる。修復もされず、コアネットワークからも断絶され逃げ場もない。

 力の代償として全てを失う事になるが、それでも叶わない。奴の理念が、目的がなんなのかなんて関係ない。俺は俺の復讐の為に奴を殺す。もうこの身はその末端まで死ぬことを承知している。俺の魂は今ここで消えようが、俺の意思は体が果たす。

 

 

 俺に残る記憶は原初の恨み

 

 俺に残る感情は怒り

 

 それと言葉、思考......魂

 

 その全てを代償にアイツを確実に殺せる力を得るッッッ!!

 

 

「寄越せ────その力ッ!」

 

 

 意識が、0と1で出来た魂が消えて行く。

 だがもういい。俺の願いは────きっと......

 

 

 

 

 

 

 こうして、榊澪という世界で二人目のIS男性操縦者の短い生涯は最後まで復讐の為に使われ、最後に己の体に全てを託して完全にこの世から消え去った。

 ここから後の......終の物語は、榊澪の最後の願いを叶える榊澪だったナニカが復讐を果たす記録である。

 

 

────認証確認

    RockSystem......Allcomplete

    『澪-破式』起動を確認

    全拘束具・機体安定膜解除します

 

 

 光で出来た膜が解き放たれ、中から人型のナニカが出てくる。その体は生身の人間のようだが、身体の隅々まで金属で出来ていた。手はマニュプレーターと融合し、脚部もまたISのように変わった形状をしている。頭部の目から下は生身のように見え、目から上はヘッドギアと一体化した装甲に覆われている。

 ノーネーム達が膜から出てきたナニカ......言わずとも澪はその瞳を開ける。開眼と共に真紅の液体が目からこぼれ落ち、赤い線が顔に出来上がる。

 

 

「■■■■ッ」

 

 

 榊は到達した澪を軽くスキャンして情報を得る。別に光の膜内の事象を見ていたのでどうなったか知っているが、数多の世界を見た榊とて初めて見た現象に直接見てみたい気持ちがそうさせた。

 澪は非固定浮遊部位であろう鳥に似た機械の翼を羽ばたく。確認為にやっただけだろうか、広げた翼を折り畳む。

 

 

「■■■」

「......君は、本当に全てを捨ててその領域に至ったのか。」

 

 

 情報として理解していたが、こうして実際に見てみるとその事を痛感できると榊は思った。この進化方法は榊とてやってみろと言われたら、拒否する内容でもある。 これは『一つの目的』と『戦闘力』を残して全てを失う事で至る無理矢理な方法である。無理矢理な為に目的を果たす、もしくは一定時間後に自動的に自壊してしまう。その為コア人格達は知ってはいたが絶対に教えることは無かった。これはどの世界線でも同じであり、主である融合者の生命を第一に考えているコア人格達は絶対に教えることは無かった。故に、コア人格達と離された澪は独りでその方法を機体情報から得たのだ。そして、それを躊躇なく実行した。それに榊がサポートし、3年間得てやっとその領域に達したのだ。それだけじっくり時間をかけ、全ての記憶・邪魔な機能を残さない様に消し強さの糧にした。

 

 

「■■■■!」

 

 

────自壊までのカウント開始

    自壊まで残り59分59秒

 

 

 その音声が流れると同時に澪は背中に浮く翼を最大まで広げる。

 ノーネーム達は声を掛けようとしたが、榊に無理やり止められていた。何故か?既にISコア人格としての同調を切られ、権限を譲渡されているから────だ。 澪はそのまま羽ばたき、瞬間的にあっという間にこの周辺から姿を消してしまった。

 

 

「何故、何故止めたのですか!?」

「......しょうがないんだよね、こればっかりは。」

「なにがです!?」

「彼の目には誰も写ってなかったんだよ?

 この場にいた全員......彼の目には写ってなかった。

 眼中に無いなんてものじゃない。彼は彼自身が決めた目的である霧崎君だけを認識し、それ以外は認識してないんだ。それに、今の彼に手を出すことは自らの消滅を意味する。」

 

 

 榊の第六感が告げていた。異常過ぎるほどに強くなった澪に手を出すのは、あまりにも危険だと。

 

 

「自分以外の榊澪がこの領域に達したのは見たことがなかった。それもコア人格達が絶対にやらせなかったやり方で、破壊に特化した自分がここまで末恐ろしいとは思わなかった。

 今の彼は一つの自動機構......それの邪魔になるようなことをしたらどうなるかなんて目に見えてる。それがどんなに親しい仲間であったとしても、もう彼には記憶という物は一片も無いのだから。」

 

 

 今の澪は人間でもISでも無い。

 心を持つ事も、考える事も無いただの戦闘マシーン。

 親しかった者達の記憶を、根源たる記憶も全て消えてしまった哀れな復讐者の成れの果てなのだ。

 

 

「それに、彼はほんの一瞬だけ私に接続したようでね。

 君達宛にこんなものを寄越したよ。」

 

 

 澪が膜内にいた時と外に出た直後に行ったスキャン。そのどちらかの時にコアネットワークに接触し、二つの電子メールを澪は渡したのだ。一つは榊に、もう一つはノーネーム達へ宛てられたものであり、それを榊は見せた。

 

 

『元気でな。』

 

 

 そこに書かれていたのはそんな言葉だった。榊に宛ててあったものには『ノーネーム達を頼む。』とだけ書かれてあった。

 

 

「彼は私に託したんだ。彼の一番大切な仲間を......だからこそ、私には君達を守る権利と義務がある。」

 

 

 榊は思う。大切な者達は自分が守り続ける、と。そして、ここまでやった澪がその願いを叶えることを。

 

 

「怒り、復讐の果てを見せてくれよ......」




次回予告

もう誰も貴方を攻める人はいない
もう誰も貴方を苦しめたりなんかしない

苦しみから
悲しみから
怒りから
もう貴方を襲ったりはしない

やっと自由になれた貴方......
そんな貴方の最初にして最後の願い

次回=復讐者の果て【前編】=

その願いが叶う時
そこに貴方はいますか?

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