一般人15歳で〝ちょっと〟変わった彼のIS生活(完結)   作:A.K

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原点邂逅

 長い間、俺は戦いの中で生きて来た。

 

 全ての始まりはISにおけるテロ。日本で唯一発生し、闇に葬られた近年において史上最悪と呼べる大逆事件。

 死者約一万三千人を出したISにおいてはワースト一位の事件であり、生存者は当時まだ幼い■■■■......俺だけだ。

 

 あれから刀奈と出会い、更識家に保護されたが俺の戸籍は日本政府によって消去されていた。確実にあのISテロが原因であろうと先代の更識楯無から言われた。そこで新たに戸籍を与えられ、名付けられたのが『榊澪』である。もう今や本当の名前は思い出せない。

 それから暫く更識家にて世話になり、俺は療養をしながらも先代楯無から稽古を付けてもらった。それは何故か?決まっている......復讐のためだ。先代楯無は何を言わず俺に稽古を付け、あらゆる戦闘技術を与えてくれた。

 生身の人間でも、一定以上の強さを持つ人間はIS相手でも戦えると言って先代はそれを俺に実際に見せてくれた。IS学園に通って暫く経った時に、当時布仏家の人々......虚さんやのほほんさん、それに刀奈の妹である簪と会った時に言われたのだが、虚さん曰く当時の俺は鬼の様に怖かったとの事。だからこそ当時の簪とのほほんさんは凄い遠くから見ていたのかと納得した。と言うかIS学園ではのほほんさんは見てるが、簪は一体どこに居たのだろうか......。

 それから暫く経ち、俺は更識家の支援もあり一人暮らしを始めた。一人暮らしを始めてからも鍛錬を怠らず、ただひたすら復讐の為に武を極めて続けた。それから身体能力は飛躍的に上昇した。そのような生活を始めてから数年後の中学3年生の頃、織斑一夏がISを動かせることが露呈し、それによるIS検査で引っかかりそこから今に至る。

 

 俺は目的を見つけた。

 亡国と接触し、その末に大元の原因を知る。

 

 そして、ただひたすらに強くなり続け、復讐に燃えた俺を待っていたのは圧倒的強さの差。それこそ、天と地の差があった。元世界最強であり弱体化していた織斑千冬を余計な介入があったとはいえなんとか葬り、これならば復讐の大本......霧崎にだって負けはしないと思っていた。だが結果はどうだ?

 

 織斑千冬と戦った時より威力は出てなかったが、全力の牙突を簡単に止められた。ピクリとも動かなかった。その後の反撃で装甲はバターを切るように簡単に抉り取られた。手も足も出ない......あの事件の時以来、何も出来ずに惨めとも思えた。ズタボロにされた挙句、情けでXE......霧崎が支配していた権利を俺に返した。

 睨むことしか出来なかった俺に対して霧崎は、俺の体を媒体にドールズの特機ファランクスを旗艦であるゴーストに呼んだのだ。しかも霧崎はこれから先、俺がいる所に向けて戦力を向かわせると言った。霧崎はファランクス以外のドールズであるワーカーズを、俺に目掛けて投入して来るのだろう。

 俺にあった居場所......それは焼き払われたあの街だけだ。更識家にいた時は仕様人達の奇怪な目、IS学園では殺人未遂だらけの生活。良き人達が居たのは確かだが、それでも完全な安らぎなんてものは無かった。そんな中で辿り着いた亡国の旗艦ゴーストにいた人達は、こんな俺でも受け容れてくれた。今は忘れてしまったが何かが良くなる感じがあった────が、それも俺自身が招いた種で失った。頑張って、頑張った先にあったのは希望より遥かに大きい虚無感や絶望、怒り......殺意。

 

 ファランクスと戦い、謎の光を受け体は大破寸前までダメージを受ける。そこから一時意識が飛んで目覚めたら四肢も無く、全身が罅割れ主力機関が過剰起動の影響でエネルギーが増えず、エネルギー量は通常IS程はあったが装甲の影響で一撃でSEが底を突く。視界にモザイクが多く走る中、外郭を捨てたファランクスが俺に向けて何かを放ったのを見た。

 

 

 

 

 弾丸はまっすぐに澪の体を貫く。鋼で出来た胴体は真っ二つに、その攻撃でデュアルアイから光は消えた。澪だったものは海に落ち、もとよりあった海の静寂が戻った。鳴り響くは風や波の音、先程までの激しい爆音はもう無い。

 ファランクスはISセンサーでコア反応を探知、そして風前の灯火とも言えるほどの反応を捉えた。無論それは今海に落ちた澪。体は上半身を残して完全に砕け散り、エネルギーは枯渇......あとはこのまま生きる事を諦めたのなら消失するだけだろう。

 

 

────ファランクス

 

────指示通り目標の撃墜完了。帰投するぞ主人

 

 

 そう言ってファランクスは颯爽とその場から去る。

 

────────────────────────

 ファランクスが立ち去った後、澪の反応を辿って来た亡国の旗艦ゴースト。ゴーストに搭載されている広範囲ISセンサーが極僅かに残る澪のIS反応を捉え、IS・EOSを総動員して探す。しかし、何処にも姿は無く時間だけが過ぎる。短時間なら潜水出来る装備のEOSで海中も探したが、それでも見つからなかった。

 

 

「榊くん何処にいるのよ!?」

「澪......あんた返事しなさいよ!」

「榊さん返事をしなさい!」

「おーい榊くん!」

「榊返事をしろ!」

 

 

 周辺海域に個人間秘匿通信を行い、澪の通信波長に合わせそれぞれが澪に呼びかけをする。

 今ここにいるのは楯無のミステリアス・レイディ、鈴の甲龍、オルコットのブルーティアーズ、マドカのサイレント・ゼフィルス。それにオータムのアラクネ、ゴースト隊所属のIS・EOS......ほぼ全ての機体が出撃している。

 

 

「個人間秘匿通信に呼び掛けても駄目か......」

 

 

 ゴーストの船長席からアルベルトはそう呟き、通信士であるルーベン・ルークスがその呟きに対して言う。

 

 

「海中に居るのは確認しています。それに反応が微弱し過ぎて、正確な位置まではまだ時間がかかり......私も艦に接続して探しています。

 現在最寄りのロシア支部からEOS専用深海潜水大型パックを要請し、到着まで一時間程掛かります。」

 

 

 彼......ルーベンも融合兵士の試験体の一人であり改造によって試験型ISコアを体内に埋め込まれている。それによりIS並の情報処理能力、頭部に埋め込まれているISセンサーによる索敵能力を得ている。数少ない成功例の一人である。頭にはヘッドフォンに似た小さな機械がついており、それがISセンサーの役割を果たす。それに特殊なコードを他機械に接続する事によって更なる性能向上が叶う。

 今現在はゴースト......この艦に接続し、その索敵範囲・精度を格段に上げている。だが、それでも澪を探すのは艱難を極めていた。今やっている事は広大な砂漠の中から米粒を探す様なもの。範囲や精度が上がったことにより、捜索範囲は格段に小さくなったが発見までにはもう暫くかかる。

 

 

「彼は今一体どういう状況かね束君。」

 

 

 普段は武装・機体開発、ISやEOSの改良や修理を担当する束が現在通信席に座り澪の居場所を探っていた。

 

 

「ざっくり言うと、あの子は一時的に主力機関を完全暴走させちゃったんだよね。それに機体ダメージ、精神的ダメージが来たし体が修復されずに海に沈んだと思う......まあそれだなら良かったんだけどねぇ。」

 

 

 束はアルベルトに続けて説明する。

 

 

「先程まで観測されていた戦闘中、あの子を中心に周辺空間が物理的に湾曲していたのを確認したんだ。

 艦長には言ってなかったけど、あの子の主力機関はISコアではなく『超重力機関』......通称『G機関』と呼ぶ私の全英智を掛けて作り上げた奇跡に等しい無限機関。もう一つ作れと言われたら100%無理と言えるよ。」

 

 

 束が持つ超弩級の知識・技術、ISの利権で得た莫大な資産全てを費やし完成したただ一つの無限機関。開発はその制作過程上の危険性が有り、たった一人で『地球・月圏外』でこっそりと作り上げた。

 

 

「問題なのは機体が仮定だけど大破、主力機関が故障してるってこと!

 G機関はその危険性故に、特殊な収納技術で絶対に傷付けられない様仕様になってる。けど、どういう原理かそれを突き破ってダメージがG機関に入ってる。あの子が持つA.I.S.Sぐらいしかそれを行う事が出来ない......どういう事かは調べてる途中なんだけどね。

 それとあの周辺空間が湾曲してるってことは、無理やり暴走させて......「束くん。すまないがもう少しわかりやすく。」......地球がやばい事になりそうだってこと!」

 

 

 現在沈黙はしてるものの、いつG機関が暴走し始めるのか分からない。あの機関はIS......澪の意思により修復されるか、束が直接直すしか方法は無いのだから。

 

 

 

 目が覚めると俺は真っ黒い所にいた。

 

 俺の体は至る所がモザイクが掛かっていたが、胸の中心だけは真紅に光り輝いていた。不思議な事に、モザイクだらけだが体は人の姿をしていた。随分と懐かしく感じる。

 

 

「目覚めたかい?」

 

 

 妙な声が聞こえた。俺と全く同じ声が。

 

 

「主よ。唐突に声をかけるのは......」

「良いんだよ。こういう時はこうするのが典型的だろう?」

 

 

 声が聞こえた方に顔を向けると、そこには一組の男女が居た。女の方に見覚えはないが、男の方は見覚えがあるってもんじゃない。体格こそ違うがその顔と声は俺が一番知っている。

 

 

「お前は誰だ?」

「それは君が一番よく知っているだろう。

 さて、私は誰でしょう?」

 

 

 質問を質問で返された。奴の言う通り俺はその正体を知っている。

 

 

「お前は俺で、俺はお前だ。

 正真正銘────榊澪だろ。」

 

 

 男......榊澪はにやりと笑う。

 

 

「君にとっては初めまして、私にとって会うのは2回目だがね。ああ、言うまでもなく以前何処で会ったのかだね?

 君が宇宙で幾らか過してた時があったね。その時既に私は月の裏側に滞在していたんだよ。もっとも君達は気付いて無かったがね。」

 

 

 俺から見ればよく分からない様子で語っているこの男になんと思えばいいのか分からなかった。

 

 

「私は数多の平行世界より来た君自身さ。

 もっとも、私と君は同じ『同一人物』であるけど全てが同じ訳では無い。

 君という存在の原点にして最果てに至った君でもある。」

 

 

 俺はその言葉に対してあまり驚くことが無かった。もとより平行世界の提唱はされていたし、それに自分自身が居ることはクローンか別世界から来た己としか思えなかったからだ。そして、最果ての意味は強さの意味を表す。だが、原点とはどういうことか。

 

 

「それに対して説明しよう。

 私は君の人生とはまた違う道を歩み、ISと接点を持った。そしてIS学園に入り、君と......私の相棒である名前無き破壊者と出会った。それから私はこの世界とは違うIS学園で生活を送り、その途中で人が至っては行けない神の如き領域に至ってしまった。

 その際に知覚してしまった。私という榊澪を起点に無数の榊澪という君達が生まれ、数多くの私がISに触れる世界線を作り上げたことを。

 だからこそ知った。本来、私は......榊澪という人間はISに反応しないのだと。私が初めて平行世界を認知した際、横軸の世界に居た男性操縦者は織斑一夏だけだった。だけど、ISを動かした私を元に枝分かれした運命が数多の世界の君達をもISを動かせるようになった。」

 

 

 同時にそれはイレギュラーな事だった。数多くの平行世界線上に、たまたま現れた男性操縦者が榊澪という事である。そして、原点の俺の目の前にいる男が俺という存在の起源だということか。

 だったら尚更警戒する必要がある。知覚したから分かるが、この目の前に居る榊の強さは霧崎より確実に強い。これは紛れもない事実であり、今わざと圧力をかけられ手足の先の先まで何一つ動かす事が出来ないほどだから故に理解させられる。それがふと、突然消え体が楽になる。

 

 

「んー......そう警戒する事は無いよ。」

 

 

 榊はそう言って俺の目の前に一つの映像を流した。

 それは上半身だけになり、ボロボロに成り果てた俺の体だった。しかし、胸部から俺と同じ様に真紅の光を放っている。よく見ると周辺空間が歪んでいるのが分かった。

 

 

「この世界の私は重力に関する機関を搭載していたのか。あの人が『私が生涯の中でも1位・2位誇るただ一つの無限機関!』と言うだけはあるようだね。

 

 だけど君......これ、ただでさえ異常をきたしてたのに過剰稼働させただろう?供給エネルギー量が極端に少ない。さらに生成速度も遅すぎるし、歪な重力波も検知されてる。

 君を抑制してくれる彼女達もいないし......どうしたんだい?」

 

 

 その目には確かな怒りを感じていた。それだけは分かった。目の前の男が俺に対して怒っていると。それにどうせこの男はこう言いつつも、俺の思考を読み取っているんだろう......

 

 

「────まあその通りだね。 

 そうか......彼女によって引き剥がされたんだね。」

「アンタは奴を、霧崎を知ってるのか?」

 

 

 俺は榊が霧崎の事を知っている事に驚いた。

 

 

「彼女は世界の本質を見透かし、独りでISコアの開発までこぎつけて独自に特殊なISコア......君や私の様な存在まで辿り着いた。

 知ってたから、この世界を理解していたからこそ女尊男卑による女性主義を推進させ────区別させるよう仕向けた。」

「アンタは、何を知っている?」

 

 

 俺は目の前に居るのが本当に俺なのかと、この怒りで生きる俺と本当に元が同じだったのかと疑問に思ってしまう。

 

 

「私は彼女の目的も、君に起きた事件の発端も、その全てを理解している。

 織斑千冬の苦悩に苦渋の決断、篠ノ之束の孤独と天才故の苦しみ、霧崎くんの世界全てを巻き込んだ洗浄......私は、この世界の全てを理解している。」

 

 

 これが俺の原点?違う、こんなの俺じゃない。

 これは、この全てを知り尽くした風格は御伽噺に出てくる正真正銘の『神』じゃないか......?

 

 

「そうさ。私はISが持つ異常性、いずれは生物や自然のの理を超えてしまう程に強力になるISの能力や進化性により誰よりも早く......数千年以上早く人が辿り着く究極の次元に無理矢理入ってしまった。

 ISと人が融合し、超えてはならぬ壁を越え辿り着いた究極の先......それこそが私だよ。」

 

 

 奴が俺の頭に手を触れる。すると様々な光景が目に浮かぶ。 この世界とは違う俺の人生。無事に何事もなく生きている家族や友人、それに俺がいた街。こちらの世界とは歴然たる差があるほど違うIS学園での生活。織斑達と仲良く過ごし、過酷な戦いを乗り越えていった光景......あまりにこちらの世界とは違い過ぎた。

 

 

「これが私の世界での出来事だ。私の世界は、私が居なかった本来の歴史に近い世界線であり、ほんの少しだけ事の結末が変わったぐらいだった。

 しかし、数多の世界線において私と同じ起源を持つ君はいたが、この世界ほど過剰なまでに女尊男卑世界を招いた世界は少ない。」

 

 

 だからこそ同時に怒りが湧いた。それは何故自分同士なのにこうも差が出るのか、あまりにも理不尽であり自分勝手な怒りだ。それはどうしようもないものだと理解してるが、際限なく怒りが湧いてくる。それによりモザイクが俺の体を侵食するように広がり、胸の光がさらに強く輝く。

 そんな俺の頭に突如暖かいものが触れる。思わず下に向いてた目を上に向けると、いつの間にか近くに居た女性が俺の頭を撫でていたのだ。慣れない行動によく分からない気持ちになりながら言う。

 

 

「ッ......貴女は」

「世界が違うとは言え、貴方も私の主人です。

 主人を心配し、癒すのもまた務めでもあります。」

 

 

 胸の光がさらに強くなり、モザイクが顔にまで広がる。光は一筋の線となり、天高く何処までも伸び......澪は全身が割るような痛みを感じ、獣のような雄叫びをあげる。周辺空間はそれに共鳴するように紅く光り、稲妻が迸る。

 榊はそれ見て慌てて澪に近づき、胸から出る光に手を重ねた。

 

 

「うーん......この世界の彼女はどうやら、余計な物を付けちゃったみたいだね。」

「主人はさっさとコレを抑える事だけに集中して下さい!」

「分かってる。君も私の沈静化を頼む。」

「ええ。分かってます。」

「ここじゃあ駄目だ。機関の修理が出来ないんじゃ意味が無い。機体諸共月の裏側まで移動させよう。聞こえてないと思うけど、ほんの少しだけ君の体を借りるよ。」

 

 

 榊はそう言ってハッキングで澪の体の操縦権を一時的に己に譲渡し、はるか先の未来にISが得る粒子移動技術によりその場から消え去った。

 

 

 

 この後、捜索は続けられたものの発見はならなかった。ゴースト隊は他の隊に捜索を一任させ、委員会勢力との戦いに戻ることとなった。

 ゴースト隊内では反対の意見が多かったが、この一番重要な時に旗艦たるこの艦が前に出ない事は他の戦場に影響が受ける為渋々隊員達は了承したのであった。




次回予告


そこにあったものはなんだったのか


次回=Lost memories =

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