一般人15歳で〝ちょっと〟変わった彼のIS生活(完結)   作:A.K

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荒れ狂う怒りの化身

それは元は優しき幼子

世界は幼子に厳しかった

幼子は全てを失った

幼子は男になった

男は────力を得て鬼と成す


決別の時

────一時停止解除

 

 

 電子音と共に意識が戻る。

 

 

────機体全機構アップデート完了

    おはようございますマスター

 

 

 俺が一時停止から覚めると共に聞こえた聞き慣れぬ女の声。情報開示のウインドウが出現し一瞬でそれを認識する。

 視界に映るは薄黒一色の和装、そして黒く長髪の女だった。若干透明になってる理由はデュアルアイの視界内に投影されたホログラム故だ。

 

 

「お前は誰だ?」

 

────彼女達に変わる新しい眷属です

 

「......テメェか、俺がこうなった原因は。」

 

 

 胡散臭い言い方、そしてこの女が言う『彼女達』......ノーネーム達の事だ。故に彼女達に変わるという言葉で、こいつが束が言っていた『システム』が具現した時の姿である事は理解した。ISコア人格達と長く居た故に気付いた事でもあるが。

 

 

────あら?もう理解したのですね。

 

「馬鹿にするな。まだ生まれたてのシステムに、遅れをとるものか。」

 

────ちなみに、私めの名前は『XE(エクシィー)』と申します。

 

「ほう......それは本当みたいだな。」

 

 

 胡散臭い。何度も言うがコイツがいう事が信じられん。言葉の中に真実と嘘を練り込ませてあるのが、たった数回のやり取りで理解出来るほどに。

 

 

────それはどう言う意味で?

 

「テメェはノーネーム達に変わる俺の新しい眷属と言ったが、お前は無理矢理その立場を変えただけだろう。貴様がどれだけISコア人格領域と俺の同調を妨害した所で意味が無いんだよ。

 テメェを視界に入れた時から────最っ高に殺意が沸くからな。」

 

 

 コイツを見た瞬間、俺の中にあるISコアが熱く疼いたのだ。そこから発せられる波は俺を静かにだが怒りにより同調率が『-80%』から+の方へ上昇している。

 

 そう。同調率-80%なのだ。これは機体との融合率を示すものであるが、ISコア人格......ノーネーム達との同調率を示すものでもある。だからこそ、この-の数値に入ることはISコア人格達と何らかの手段を通し、接触不可状態にしてシステム────XEが今やノーネーム達に変わる形となっている。

 

 

『榊特殊義兵は作戦室へ。新たな任務が......』

 

 

 すると作戦室のオペレーターから、束特製の頭部後付けの艦内特殊無線でそう伝えられた。これが来る時は一般兵士及びIS・EOS搭乗者では任せられない任務が回ってきた時だ。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 あれから2ヶ月。日本では季節は既に秋を迎え、冬の訪れを知らせている。その間、事は大きく動いた。あれから世界各地を渡り、ほぼ全ての委員会の支部を滅ぼした。その際にドールズ......あの初めて接触したファランクスというドールズの簡易量産型である『ブラッディ・ワーカーズ』というドールズをIS委員会が生産、戦場に投下された。

 ISは通常、空・地上戦に対応している。

 ドールズ『ブラッディ・ワーカーズ』、略称『BW』。 短時間ながら空中戦も対応可能であり地上は勿論、水中戦装備に換装すれば水中戦も可能としている。それによりゴーストは度重なる襲撃を受けることになる。他のゴーストの同型艦も襲撃を受けた。水深200m地点での戦闘は、水中を自由に動けるワーカーズ相手では魚雷では分が悪い。その為全身が機械で、認知の差が通常ISとは無いに等しい澪が対処する事になった。その為全身を耐水圧特殊装甲に換装し、『澪』の全身にプロペラスクリューを後付け。そこにロック式追撃魚雷・ワイヤーブレードを始めとする武装、水中用の超高圧高粒子狙撃銃『水蓮』を装備する澪専用水中装備『破水』を束が開発してインストールした。名前の由来は水中に置いて絶対的強さを相手に知らしめるため────らしい。

 そのためゴーストは澪が居ることにより、無事襲撃を跳ね除けている。しかし、度重なる戦闘の余波で弾薬や補給物資が底をつき始めていた。その為、現在日本の北海道沖の海上に浮かぶ亡国の移動人工島に寄港したのであった。

 

 

 

「......Aa」

 

 

 もうマトモに喋れることが出来ない澪からそう獣の唸り声らしきものが聞こえる。個人間秘匿通信ならマトモに話す事は出来るが口を使った会話はもう出来ずにいた。現コア人格であるXEが無茶苦茶に機体内部、システムを弄った結果の一つだ。ため息をすると金属が擦り合わせる音が鳴り響く。

 どんどん変化していく姿。それが自然と艦の皆との距離を離し、今や作戦会議と何かしらの用がある時以外はハンガーの片端にいる事が多くなった。

 そんな感じで一人でいる澪はいつもの様にコアネットワーク内に一時停止を使用して意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『殲滅』から『澪』になった時に使用出来なくなったコアネットワークへの電脳ダイブは、XEが一向に自分に構ってくれない為解放してくれた。そして、この体に慣れるために身体を動かしながら考える。

 

 

(IS委員会はあと日本にある本部、アメリカ支部の二つ。まだ『アイツ』は前線に出てきてない。)

 

(前から思ったが、奴......ファランクスとの戦闘。あれがコイツの出現理由なんじゃないかと。ファランクスと戦う以前に破損データとバグデータを一箇所に集めていたと聞いてたし、近い内にそのデータを全て詰め込んだ電子兵装対抗弾を開発すると言っていた。その量は相当なものだと聞いていた。ファランクスから喰らった砲撃......特に実弾にウィルスを送り込む『ナニカ』があって、それが機体内部に侵入。そして破損データ群を糧に急成長............それなら合点がつくよな?」

 

 

 先程から俺を見てくるXEにそう言い放つ。

 

 

────ふふ。やはり真のISコア人格達に選ばれただけはある。マスター、貴方は凄いわ。

 

 

 澪はXEの『真のISコア人格』という単語に疑問を感じた。だが話は続く。

 

 

────感情と人としての体を犠牲にし、力を得ようとするんですもの。ああ......狂ってます、とても。

 

 

 その笑みは一見綺麗なものだが、漂うおぞましい空気がそれを無価値にする。

 

 

────でも、つまらないですねえ。少しは冗談に付き合ってくださってもよろしいじゃないですか?

 

 

「冗談に付き合え......はっ、あんな作戦中に俺の体を無理矢理動かそうとすることか?それとも帰還時に反逆する血の牙達を暴走をさせることか?もっとあったな。」

 

 

 それはもう大変だった。何度も何度も......

 

 

────良いじゃない。別にこの艦が沈んだってマスターは生きていけるのだし。

 

 

 コイツは隙あれば俺の体を乗っ取り、亡国の旗艦であるこの艦を俺の手で沈めようとしている。この2ヶ月間はその繰り返しであった。今は一時停止前に体の四肢を繋ぐ接合部分に無理やり力を込め壊してから停止する。それも1時間や2時間で修復されぬよう丹念に。

 

 

「てめぇの勝手な押し付けはゴメンだ。

 しかし、XEのコピー体はもう全滅。自分の体とは言え主導権はてめぇにあったから機体内に入ったウィルスバスター機能を再稼働させるのに苦労したよ。それから身体の権利は俺にあるがてめぇの行動を封じるのに苦労したな。」

 

 

 あれから何日も掛けて意識を落とした。久しぶりに入ったコア人格領域内は以前見た時と比べてもおかしなことになっていた。一言で言えばダンジョン。その中を歩きに歩いて体を侵食していたXEのコピー体を殺し、体の支配権を取り戻して来た。まず脚部を、次に腕部、下半身を、胴体を......残るのは頭部。

 頭部の支配権は本体のXEが握っている。

 

 

────......もうそこまで来てましたか。ならば話は早いですね。

 

 

 XEがそう言うと、俺は背後に懐かしく感じる気配を感じた。背後を見るが誰も居ない。しかし、その気配は己の中にあった。何かを解除したのか?

 

 

────普通の人間なら発狂してますもの。生物は......人間を含む動物は口に何かを含み、有機物を摂取して体を動かす栄養素に変える。それに伴う三大欲求である食欲が満たされる......しかし、今のマスターは人間的機能がまず無い。食べても体内に消化されずに残り続け、腐り不快感だけしか残らない。呼吸・水分摂取も不要なおかしな身体ですからね。他にも三大欲求である睡眠欲・性欲も皆無......本当に可笑しいです。

    何故マスターは発狂しないのですか?何処からその精神が来るんですか?私にはわからない。どうしてここまで精神を保つ事が出来るのです?

 

 

 普通なら発狂する。しかし俺はならない。俺は別にそれが無くても構わない、目的の邪魔だと考えていたからだ。それこそ狂っていると言われるだろう。それが体がIS返還された人間の末路────化物の誕生だ。

 

 

「XE......一つ聞いておこう。テメェの目的は何だ?」

 

────元あった中途半端な世界に戻す事、ですねえ。

 

 

 嘘......いや、半分は合ってるがもう半分は違う。コイツは俺を伝って『中途半端な世界を滅ぼす』つもりだ。ああ......こんな奴が俺の中で好き勝手やっていると思うと......

 

 

 

 

 

 

 

   ━━━凄く殺意が湧きますよね主━━━━

 

 俺の背後から、そのような声が響く。確実に覚えがあるあの声、でも背後に誰も居ないのは分かってる。

 

 

────これが真のISコア人格......例え、壁があったとしてもそれすらも超えて主となった者に再び合わさろうとする。コアネットワークの領域は宇宙に等しい距離があり、私は奴らを距離で言うなら数光年とも呼べる遠い彼方に追いやった。普通なら接触は二度と出来ないでしょう......それなのに!

 

 

 目の前でワナワナと怒りに燃えるEXを見て、コイツが俺とノーネーム達を引き離した犯人であることを確信させた。

 

 

────私が調べて来たどのISコア人格とも違う!私が作ったあの子とも違う!私が、全ての頂点に立つ私に理解出来ないものなど......

 

「何の為に、何の目的で俺に近付いたのかようやく理解出来た。てめぇ......バグデータを糧に生まれたのはあってるが、その精神構成がまんま生身の人間と同じだ。それ故に何故かは知らんが立派に『脳波』が取れる。最初は疑ったが、てめぇの正体は一つ。

 

 己を電子化させ、まさに完全な電脳ダイブ状態で来た『IS委員会委員長』様なんだろう?」

 

 

 それに対してしまったという顔をしたEXは、小さな声で呟く。

 

 

────ばれ、たか。ええ、バレますね。脳波だけ消せなかったのがここに来てこうも足を引っ張るとは。

 

 

 瞬間、世界の景色が変わる。迷宮の様な世界観が一変、夕日に染まる水面の世界になる。何処までも続く永久の虚しさ。

 姿が変わる。その長い黒髪は金髪へ、全身に白銀の装甲が......その姿は古の時代、神話にて存在した戦女神そのものに変容する。

 

 

「擬態と言うのも、なかなか疲れるものです。

 いい経験になりましたよ。」

 

「霧崎千切......!」

 

 

 怒りが沸き上がる。澪から放たれる怒りはこの世界を震え上げ、ビリビリと空振を起こす。

 

 

「まさかコピー体が消されるとは思わなかったけど、そこまで強くなってたのね。」

 

 

 霧崎の目は『己以外のあらゆる存在を何処までも見下している』......そんな目をしていた。そこで思い出す。あの地獄、自分の起源に至る記憶の底。己等を殺していく集団の中────今目の前に居る女に似た装備のISがいた事を思い出す。

 

 

「お前......お前かァァァァァァァァ!!」

 

「あら?もう随分立つのにまだ覚えていたの?」

 

 

 根源たる霧崎に、完全に怒りに染まった澪は最高速度で突撃。距離は20mも無い為、澪の身体能力は常人より遥かに上でありながら、それに加えIS10数機分の機体能力を最大まで発揮した復讐者の剣での牙突。機体出力としてはまだまだ力は上がるが、それでも渾身の一撃だ......だが

 

 

「まだ出力は上がるようですが、この程度なんですか?」

 

 

 澪の牙突を霧崎は右手で掴んでいた。

 

 

「くっ、この......がっ!?」

 

 

 引き抜こうとするが、微動だに動かない。さらにそのまま引き寄せられ、左ボディーブローを決められる。澪自身霧崎がそれを軽めにやったのは理解した。しかし、それだけで胸部がごっそり抉られた。装甲がまとめて消し飛ばされた。

 

 

「があああああ!?」

 

 

 痛みがある。あの日、完全に消えた痛覚が何故か機能している。そのまま仰向けに倒れた澪は睨みながら言う。

 

 

「霧崎ィ......てめぇ、一体何をしたァ!」

「そんなの貴方なら分かるじゃない。『A.I.S.S』を使ったに決まってるじゃない。」

「な、に?そんなの事が......」

「貴方より上位存在である私に出来ないとでも?

 これでも私、篠ノ之束と同等の頭脳を持ってるから情報さえあれば作れる。さて......」

 

 

 霧崎がスワイプを出現させ、そこに映るものを澪に見せつける。

 

 

「頭を支配しているというのは便利なもの。わざわざ手足を支配しなくても、頭部から発せられた命令一つで全てこなしてくれる。」

 

 

 

 そこに映るのは慌ただしい艦内の様子。さらにもう一つスワイプを出すとそこには見覚えのあるドールズ......ファランクスだ。霧崎は「この貴方の身体から呼んだのよ。」と言う。

 

 

「別に私がこの中にいるからと言って、『この場所にしか居れない訳が無い』じゃない。貴方も知ってるはずファランクスはIS技術を使ってる。教えておくけどあの人格はISコア人格と同じであり、他のISと同じようにコアネットワークもある。」

 

「俺の体が......俺がここに居るからこそ、バレたと言うのか。」

 

「その通り。そして、タイミングを図って攻撃の指示を出したのよ。それが今だと言うこと。そして、貴方に教えておくけど、あの子の破壊目標は貴方よ。だから貴方がここから出て行かない限り、貴方が見つからない限りこの艦への攻撃を続ける。さあ現実に戻ってもいいわ。邪魔はしないから。」

 

「......くそっ!」

 

 

 澪は急いで現実への意識の浮上を開始する。それと共に霧崎の姿がブレる。

 

 

「私はもう出てくわ。欲しかった物も手に入った事だし。それに対してはありがとうと言っておくわ。一つ、真のISコアに関しては分からず仕舞いだったけど。

 あと、私が出ていったら貴方の体の全ての権限は解除される。喋れないのは不便でしょ?」

 

「......絶対に殺す。」

 

 

 澪が殺意を込めてそう言うが、霧崎は何処吹く風と言うように「そう。」と言って流した。それは両者の力の差をはっきり表していた。




次回予告

澪が原因で襲撃されるゴースト隊

彼は最後の拠り所であるこの場所が、己のせいで傷ついていく事を知り、サヨナラを告げる

次回=good bye=

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