一般人15歳で〝ちょっと〟変わった彼のIS生活(完結)   作:A.K

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私は手を汚そう
世界の為に
腐った世界の為に
だからこそどんな手を使っても
どれ程の犠牲を出しても
私は世界を救ってみせる


「固体維持強制解除
電子データ化の形態移行の確認......脳波異常確認ならず......弾丸への自我及び電子体データの注入完了」


世界を救う為に破壊者よ────贄となるがいい


オートマタ

 砲弾が、銃撃が、光線の弾幕が放たれる。地面を抉り、空を裂き、衝撃が空間に響き渡る。

 

 

「厄介だなッ」

 

 

 その中を飛ぶ一つの機影......それは殲滅を纏う澪。そして澪を狙う巨大なロボットが超電磁砲を撃ち込み、澪はそれを躱すが超電磁砲の余波で飛行が安定しない。

 

 

「行け、血の牙達!」

 

 

 まだ完全に数が揃ってない血の牙達を展開し、支部から出ている迎撃装置と量産型コア搭載機のISを襲わせる。早く刀奈に会いたいんだよ......落ちろ!

 

 

────目標補足

「......っ」

 

 

 本当に何なんだ!?個人間秘匿通信に無理矢理入り込んだ上に、通信が筒抜け。話を聞いた時はEOSの発展新型機と思っていたが実際の所は全く違う!四足歩行で超電磁砲二門、しまいには......

 

 

────超電磁クロー展開

「ゼアッ!」

 

 

 この巨体で宙に浮いた上に、高速移動で尚且つ近接格闘。ブースターの類は脚部に幾つか確認出来るが、浮き方が完全にISと同じ。でもIS反応は確認出来てない。あの浮遊はPICを使用せねば現状の機体では出来ない筈でそれはISの特権の一つ、でもISじゃないのなら目の前に居るロボットは何なんだ?

 

 

────我は型式番号IMD-0001 『ファランクス』

    俗称でいうロボットなり、掃射砲発射

「普通に喋れたのか......って、マズッ!?」

 

 

 俺は超振動ダガーを投射し、ロボットの前脚肩部から出てる掃射砲を撃ち抜く。何気に自己紹介もして正体も分かった。こいつが委員会が作ってるという例の『自動人形計画』の機体か!

 

 

 型式番号IMD

 Infinite Mobiru Doll......略称『ドール』

 AIが操縦する事が前提で、人では動かす事が出来ない超高性能機体を動かし、その人以上の強力な武力得るための超高性能無人機製造計画が『自動人形計画』である。

 ISや改良型EOSの様な突出する強力な機体がおり、それらのほぼ全てがIS委員会・女権団に害する組織に所属している為に始まった計画で、呼び名はオートマタ・プロジェクトやRV作戦と呼ばれている。

 ざっくり言えば超強力な機体を作って、それを自動で動かせれるようにして敵対勢力を滅ぼそう!という事だ。

 計画情報自体は既に流出し、ある程度知っている者達はいる。しかし、幾ら何でも十数メートルの巨体を動かし、それを自動操作して敵を破壊するというのは無理だろうと言われていた。信ぴょう性が薄かった情報だったが、どうやら既に完成し、目の前にその完成した存在が居るのは間違いない。そして、一部にIS技術の流用があるのは確かだ。

 そして、目の前のファランクスの危険度が一気に上がる。

 

 

────掃射砲大破を確認、パージ

 

 

 人形計画の機体なら、今のファランクスの姿はまだ外装部分の筈......!!

 

 IMD......ドールの特徴的システムに、二段構造機能が搭載されている。この獣の姿は『本体を包む為の外装』なのだ。これは大規模サポートユニットであり、体の何処かにその本体が潜んでいる。計画では頭・体内・尻尾・背中の何れかに本体ユニットが埋め込んであり、外の兵装である外装に幾らダメージを入れても本体ユニットにダメージは通らない。そのため貫通力のある攻撃であれば内部まで攻撃が通り、本体ユニットの所までダメージが入るかもしれない。

 

 

「そこだ!」

 

 

 そう考えながら周りの敵を落として来た血の牙達を回収し、怯んだファランクスに向けて頭部付属角『プラズマホーン』の完全解放『紅き頭角』で突撃。角は見事に頭部装甲を切り刻み、内部に超高圧電流を流し込む。だが足りない。故にファランクスは一瞬で俺との距離をとって脚部から牽制用ミサイルを数発発射する。

 

 

「足りない......ならば」

 

 

 俺は機体出力を上げ、同時に融合率を急激に上げる。それによりピシッと言う音を聞いたような気がしたが、俺はさらに出力を上げ、再度突撃を開始する。牽制用とは言え全武装が対IS武装のAIS迎撃ミサイル、それも連続で何回も喰らえばダメージはかなり入る。

 出力まだ足りない。だから更に上げたその時────視界が一瞬暗転し、何か身体から抜けていく感覚があった。アラートによる異常警告が響くがそれを無視し、出力をさらに上げた。

 俺にはもう心臓はない。それはこの機体と契約した時からだ。だが、ドクンドクン......そう体を震わすような強い鼓動が鳴り響く。視界は不思議と赤く染まり景色は遅く、体からは重さの感覚が消え失せる。

 

 

「────────────ッッ!!」

 

 

 自分で何を叫んでるのか分からない。だが、それより先に目の前のファランクスを叩き潰す。

 澪は全身のスラスターを最大限稼働させ、ゆっくり見える世界を駆ける。両前脚に超振動ダガーと天啓の剣を投擲し動きを止める。その際に怯んだファランクスの直上に舞い上がりその頭部にトドメの一撃を放つ。多連装パイルバンカー『Dインパクト』を展開し、出力解放して単発式パイルバンカー『BDインパクト』にす超絶的な威力を誇る杭の表面部にエネルギーを纏わせ、エネルギーによる高熱で装甲を溶かし、更にその貫通力で確実に貫くという仕組み。そして、中に入った杭から仕組み爆薬を流し込んで......!!

 

 

「壊れろォォォォーーッ!!」

 

 

 爆薬が爆発し、頭部の内側に激しい衝撃が襲う。するとファランクスのバイザーが砕け、続けて頭部が爆散する。

 頭部には他にも武装があったらしく、さらに激しい爆発の衝撃が澪を襲い地面を幾らか削って止まる。静寂が戻り互いにどう動くか......そういう時だった。

 

 

────頭部破損......撤退を開始

 

 

 そう言って奴は突然発光し、外殻全体が爆散。

 

 

────次は勝たせてもらう

「なに?」

 

 

 突然爆散した事に驚いたが、それよりも爆煙から出て来た恐らく本体ユニットと思われる2m程の人型ロボット。それが飛行用のサブユニットか何かを背負って物凄い速さで離脱していった。

 あんな戦闘をしていた割には、あっさりと引いた。気を抜いた途端に身体のあちこちから火花が散り、小規模な爆発が連発した。無理矢理力を引き出し制限を超えた力を扱って機体が耐えれず、機体全体の過剰ダメージによる自己破壊が起きたのだ。

 

 

「......それより、今は」

 

 

 目前の支部に目を向け、刀奈に会いたい一心で急いで向かおうとした。だが、心と体は一致せず、膝から崩れ落ちた。

 

 

「どうやら撤退したようですね。」

 

 

 え?

 

────────────────────────

 

「ヒッ!?貴様......奴がぼっ」

 

 

 あれから数刻休み体が修復された後に支部の壁を突き破り、中へ侵入してから数十分。

 まずこの支部のシステム操作管理が出来る部屋を探し出し、そこでノーネームを伝ってクラッキング。監禁部屋だと思われる領域のデータを入手し、データを閲覧し情報通り監禁されている刀奈の姿を発見。いかんせんIS反応はあるがそれが微弱で位置取りが分からん。コアネットワークでの探知も遮断されてるのかそれ無理で、この現象を起こしてるのがIS委員会が開発した対IS専用特殊領域であった。ISのあらゆる機能や能力を封じる特殊な装置の力がこの支部内で働いていたのだ。

 

 

「榊くん。領域まであと少しなので、もう少し静かに頑張ってください。」

「はい」

 

 

 ドールを倒した直後にやって来た轡木さんだ。最初声かけられた時はビビった。ゴーストからここまでは軽く一日二日は掛かる距離はあったはずで、それなのにこの人はさっきまでゴーストに居たと言うのだ。それも30分程前。巫山戯るな、ゴーストは太平洋の日本とハワイの中間程の海域に居たんだぞ!?ここロシアの最北端辺りなのにやべえよこの人。しかも轡木さん専用機だと思われるあのEOS、何故か黒いリングになってる。恐らく束が関わってて、艦長のみたいに融合機に仕上げてISの待機状態と同じ仕組にしたのだろう。ついでに前の時なかったIS反応もあって、コアNo.493と表示されていた......新規で作ったオリジナルのISコアだろこれ。今更量産型コアが出来てる時点でアラスカ条約など気にして場合ではないので、そこまで追求されないと思うが。

 

 

「ここからは私が先頭に立ちます。

 経路は全て把握してますのであしからず。」

 

 

 例の対IS専用特殊領域である監禁部屋付近までたどり着いた。ここからISの能力が極限まで低下してしまうので、生身でありながら異次元の強さを誇る轡木さんが先頭に立ち何かあったら対処するとの事だ。俺も常人以上の強さを誇るが、生身では轡木さんと比べると天と地の差があるので何も言えない。

 

 

────中に監視兵が5人。

    対IS重装備です。気を付けて下さい。

「万が一の想定か......いや、俺がそのまま直行して来るという考えからか。」

 

 

 IS委員会支部襲撃の際、常に真っ直ぐ目的の箇所まで突き進むのでこうなった。別に俺の考えが単純とかそうとか......『集中しなさい。』......了解です。

 

 

「中の形状からしてC4を使っても問題ないでしょう。

 離れて」

 

 

 そう言われて監禁部屋の扉から少し離れた。ついでに真紅の光壁を展開して衝撃に備え......ん?これは────嘘だよな。こんな所にいるはずか無い。ここロシアだぞ?イギリスじゃないのに。

 

────どうなされました主?

 

 中に刀奈のISの反応があるだろう?すぐ隣にもう一つ......ブルーティアーズに似た反応がある(ドオォォン!)......ええい、突撃する!サポート頼むぞノーネーム。

 

────脚部パワーアシストを4%で起動し、跳躍して下さい。パワーアシスト自体部屋に入ったら出るまで出力が戻りませんので、認知を。

    跳躍の勢いで兵士1人の背後に行けます。轡木様は主が突入してから直ぐ突入して中の監視兵を無力化して下さい。

 

 

 澪は跳躍し、爆煙が立ち込める監禁部屋に突入。中は暗いがそこはハイパーセンサーの応用でなんとかなり、予定通り監視兵の背後に降り立つ。すぐ様超震動ダガーを背後から首を突き刺し無力化、その直後に他の監視兵も気付いたようだが既に轡木さんが侵入している。轡木さんは素手で監視兵の頭部に掌底突きを放ち、一撃で頭部を破壊し確実に仕留めている。それも複数の監視兵を同時に。

 

 

「......終わり。何だかつまらないものですねぇ。」

「轡木さんが強過ぎるだけです。」

────あの、私でも目に追えない速さで動いたのですが。この人は人間なのですか?

 

 

 そう言って静かになった監禁部屋を見渡す。部屋と表示されてはいるが、今居るのは大部屋と思わしき広い空間。円状になっており、三つの金属製の扉がある。部屋のど真ん中にある扉を前に、轡木は扉を何回かノックする。「数cm程ですね」と言って、足を高々に上げる。

 

 

「弱めに行きますよ。」

 

 

 そう言うとボッ!という音と共に扉に向けてかかと落としをくり出した。それと共に暴風が吹き荒れ、扉は外れて地面にめり込んだ......どうしたらそうなると思う。かかと落としで扉が地面にめり込むなんて......ええ。

 澪は改めて目の前に居る轡木と戦うのはやめようと決意した。轡木はもう一つの扉も続けてかかと落としで蹴り破る。

 

 

「私は左右の扉を、君は目の前の扉をお願いします。」

「了解です。」

 

 

 なくなった扉の向こう側、そこには窓枠が有り一般的なドアノブが付いた扉が一つ。澪は窓枠から部屋の中を覗き込む。

 

 

「やっと、見つけた......!」

「榊君?......って、榊君なの!?」

「待ってろ。今開ける。」

 

 

 特徴的な水色の髪をした長年世話になり、長らく行方不明となっていた刀奈がそこに居た。特に暴行された様な様子は見れないが、見ただけでも分かるほどに、以前と比べても痩せこけていた。服装は白で統一された長袖長ズボンであり、いつもの扇子もあった。澪はその扇子が刀奈の専用機の待機状態である事を、轡木から聞いていたから故に疑問が残る。なぜISを使わないのか?

 澪はドアノブを破壊し、分厚い扉を開け中に入る。

 

 

「......コイツは」

 

 

 室内はベッドが一つ、中央にある。それ以外天井から床まで監視カメラと黒いブロックの様な機械で埋め尽くされており、ハイパーセンサー越しに見てるから分かるがブロック状の機械から微小なエネルギー波が放出されている。

 澪は試しに部屋に右腕を半分突っ込み部分展開をする。結果は突っ込んでない部分の右腕までは展開されたが、突っ込んでいる部分は未だにほんの少しの粒子が漂うだけだ。つまり、あのブロック状の機械からでるエネルギー波がISを展開させることを阻害しているのだ。それ故に刀奈の専用機がこうして手元に置かれているのだ。部分展開を解いて近づく。

 

 

「刀奈、待たせた。」

 

 

 そう言って澪はまだIS化していない右腕で刀奈に近づいて抱き締める。流石にIS化した左腕でやると痛い故にこうした。

 

 

「どれだけ無茶したの!?こんな、こんな姿になっッ!」

「......ごめん。」

 

 

 そう言って澪はあの日、突然の別れをしたのを謝罪した。それに対して刀奈は「分かってる!全部知ってるから......」と言ったが微妙にだが震えていて、声も若干涙声になっている。今はまだ何があったかなんて言わないが、何れは聞こう。今はここから出るのが先だ。

 

 

「聞きたいことがあると思うが、今はここから出るのが先だ。

 行けるか?」

「ええ。」

 

 

 とりあえず部屋から出て先ほどの大部屋に向かう。すると、驚くべき事があった。というよりやはりそうかと思いつつそれを見る。

 

 

「貴方は!?」

「......なんでテメェがここに居やがる。」

 

 

 ブルーティアーズの反応があったから薄々気付いていたが、やはりと言うべきか、何故未だにそれを持ってるのか元イギリス代表候補生であるオルコット家当主セシリア・オルコットがそこに居た。

 忌々しいクラス代表決定戦で、あの時の全力で叩き潰した忌むべき相手だ。あの後確か代表から下ろされて専用機を失い、刑務所にぶち込まれた筈だったが?

 

 

「それは彼女のBT適正値にあります。」

「読心術ですよね轡木さん。分かりますよ、ええ。慣れました。」

 

 

 BT適正値。一応世界的にはオルコットが最大適性値を持っており、ビット兵器の開発には欠かせない存在。だとするとあの情報は『一時的に返還』と言うことで、実際にはまた与えられていたということか。まあ......それはモルモットと同じ事だが。

 

 

「彼女はあの後亡国の欧州部隊の隊員となり、今もその隊員の一人でも有ります。なのでくれぐれも問題を起こさないようにお願いしますね?」

「あの典型的な女性主義だったコイツが......あの、一応聞きますが大丈夫何ですか?」

「そこは保証しましょう。何かあっても......」

 

 

 轡木さんはそう言って地面をタンッと踏むと、クモ状の罅がビシリと大きく出来上がる。要は『簡単に処理できる』という事なんだろう。

 

 

「それじゃあさっさとここから離脱しましょう。

 あのドールが何故逃げたのかが気になる。増援を呼ばれれば脱出は困難になる前に、早くここから出ましょう。」

 

 

 そう言って俺達は監禁部屋から出た。こちらはIS三機にIS/EOS一機とは言え、ISの機能はほぼ封じられているに等しく、出力も上がらない。故に生身での戦闘しか無理だ。

 そう言ってもここに居るのはもう研究員や職員ぐらいで、戦闘員らしき者達はもう既に始末して反抗する者はいなかった。出口まではあっという間で、すぐ支部から脱出することが出来た。刀奈の奪還とついでにオルコットの回収の任務はこれで終わった。そして、案の定数刻後にICBMが着弾して支部は消滅した。

 

 

────────────────────────

 

 帰還途中、俺は刀奈に全てを話した。自分がこの機体を初めて纏った時に既に人間を辞めて、人とISの融合体になったのを。学園を襲った事を。織斑千冬を殺した事も。今......この機体のシステムが人の姿を捨てようとしている事を、既にそれで体の半分がISに変換されてしまったことを......今まで黙ってきた事全てを開放回線で伝えた。

 轡木さんとオルコットの奴にも開放回線で話していた為聞かれている。オルコットから恐ろしい者を見る様な目で見られたが、別に構わん。既に化け物なんだから。

 

 

 

『分かってた。ISの体になっていくのはさっき榊くんと再開した時、あの時に理解した。

 ISと融合したって言うのは、IS学園にまだ榊くんが居た時にネームちゃん達に聞いてたからもう知ってた。』

『っ.....知ってたのか。』

『あの時、わたし心の底まで怒ったのよ?

 なんで黙ってたのか、なんで話してくれなかったのかって。』

 

『それは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ、なんだ?なんだ?あの時、俺は何を思ってたんだ?あの頃の思いが、感情が思い出せない。あの頃の記憶はある。だが、感情と思いがスッポリと消失したかのように何も無い。

 

 

『榊君?』

『俺が感じていた感情が、思いが......感情が......あの頃思っていた事は────なんだ?』

 

 

 少し前までの澪ならこれを聞いて『大切な人が、自分から離れるのが嫌だったから。』と普通に言えたのだろう。だが、今の澪は『何も感じない』......本人も自覚してない程に感じなくなっていたのだ。

 

 

────主、体を調べさせていただきます。恐らく帰還するまで時間が掛かりますのでお待ち下さい。

 

────────────────────────

 ノーネームは少し変だと思い、澪の脳波から感情を一通り調べた。その結果......一つの答えに辿り着いた。

 

 ゴーストに着いてから、ハンガーの一角である場所で先程まで居た三人に対して検査報告をした。なお澪はその三人の前にある緊急治療室と呼ばれる所で、直接的な検査を受けている。

 

 

────結果から見れば、悲しみと恐怖に関連する感情反応が消失しています。

    更に報告すべき所は有りますが見てもらった方が早いので、実際に見て頂いてから説明します。皆様......特に刀奈様は覚悟して中にお入り下さい。

 

 

 そう言われて三人は部屋に入る。そして、三人は部屋の中で見る。そこにはほぼ生身と呼べる部分が残っていない、人というより機械化兵と呼べる様な姿をした澪が横たわっていた。

 腕は二の腕までだったのが肩まで、以前はまだ脚部はほんの一部だけだったが腰部まで変換は済まされている。胴体は臍の周辺部分を残してほぼIS変換が済まされ、頭部は目から下はIS変換が完了していた。

 

 

「なんだ?珍しいか?」

「珍しいとかじゃないわよ......何なのよその体は!?ネームちゃんから聞いた話より酷い状態じゃない......!」

「そうでも無いだろう。こんなの」

「〜〜〜っ!」

 

 

 ノーネームが説明する。

 殲滅の圧倒的な力の源......動力源はG機関とISコアからだが、それに付け加え融合者の精神や感情だ。機体との融合率が上昇するにつれて、一際強い力を使うに連れて何かしらの異常が今まで見られてきた。ノーネームはそれが澪の体がISに変わるものだと考察していた。それも今まではほんの少しだけの変化だった。

 しかし、実際は感情の損失も含まれていた。殲滅の進化のかわりに喪う代償とする物が、ノーネームの予想を超えていた。『人間としての体』と『悲しみと恐怖の感情』が、殲滅を強くする代わりに澪から奪い去ったのだ。それに付け加え、IS変換の量が莫大に増加したのだ。

 

 

────現在のIS変換率は87%、融合率は190%オーバー

    IS変換が進むにつれてこの機体も新たな姿に変わろうとしています。それが良いのか悪いのかと言われれば......言わずとも分かっていると思いますが、良いようで悪い方向です。

 

 

 ノーネームの説明は続く。『名前無き破壊者』から進化した『殲滅』、それは澪の戦闘経験やIS変換が進むにつれて次の新たな姿に変わろうとしている。しかし、その次の新たな姿になった時どうなるのかは最早予測不可能という事だ。

 

 

「そうか。」

 

 

 澪はそれを聞いてただそう言った。まるで興味が無いように。それにノーネームは勿論の事だが、刀奈やオルコット、轡木でさえ言葉を失った。

 己の感情────それを失ったと言うのにも関わらず、平然とそう言った澪が信じられなかった。轡木は急いで艦内に居る束に連絡、一分もしない内に四人がいるハンガー脇の緊急治療室にやって来た。

 

 

「君は一体どのぐらい無茶をしたらこうなるんだい!?」

 

 

 やって来た束はそう言いながら様々な機械を展開する。その機械の中でも一際目立つ人の手を模したロボットアームが澪の四肢を掴む。

 そして先端が針のようなUSBケーブルを澪のIS変換された腕に突き刺し、またしてもどっからとも無く展開したノートパソコンに繋いだ。そのタイピング速度は目で追えるかどうかと言う程で、この場の人間の度肝を抜いた。そんな中いち早く復活した轡木が束に話しかける。

 

 

「篠ノ之さん。いったいなにをしてるんでしょうか?」

「ざっくり言えばこの『殲滅』と命名されている機体の『進化方向性』とネームちゃん達が言う『システム』と呼ばれる勝手に出て来た異常機構について調べてる。」

 

 

 そう言って空間投影装置を取り出しては、とある図面を映し出した。

 

 

「これは......?」

 

 

 それはまるで銀河系。真紅に輝く丸い点を中心に、様々な点が中央から飛び出しそこからさらに枝分かれしている。

 

 

「これは元は名前無き破壊者、今は殲滅というISの自己派生の独自システムから生まれた機構と特殊データを可視化した物だよ。中央の紅いのが榊君だと思ってくれればいい。でもその紅い点を良く見ると黒い膜みたいのがある。それが『システム』と呼ばれる謎の機構で、殲滅の元々あった機構から完全に独立しているモノ。

 人で言うなら新生成物────『癌』だよ。それもとびっきり醜悪な。」

「癌?」

 

 

 そう言ってさらに新たな図面を見せる。そこには殲滅と思われる図面が有り、表面には紅い部分と黒い部分とで別れている。

 

 

「この図面の黒い部分、これがシステムが寄生している部分。この部分はシステムの......意思と言ってもいいのかな?やろうと思えば動かせるんだよ。

 例えるならでっかい巨大ロボに二人で乗る。操縦桿はあっても普通なら1人しか動かせないから一人がロボットを動かし、もう1人はサポートに徹するってのが一般的だよね?それか一人が動かしてる時はもう一人の操縦桿が動かない仕組みになってるかだね。

 でも、このシステムに侵食された所は例えるなら『二人の操縦桿が直接ロボットを同時に動かすことが出来る』様なものだよ。だからこそ予測不明であって大変危険なんだよね〜」

「つまり榊くんの意思がある状態でも、そのシステムが勝手に体を動かしてしまうかも知れない状態であるという事ですか?」

「うん。そして今現在、いつ勝手に榊くんの体のコントロール権を奪うのかも分からない......故にここに来てから定期的にメンテナンスはやってたんだ。

 だけどここに来て一気に侵食が進むのは予想外だった......そして」

 

 

 束がそう言った時だった。束の姿がぶれたと思えば澪のIS変換された腕が、束がいた場所に殴り掛かっていた。

 

 

「このシステムは元は膨大な破損データから生まれた物なんだよね。それが殲滅......もといISという特殊な機体の中で何かがきっかけで進化して、システムに昇華した。

 故に知られて消されるのを恐れたシステムは、知られたくなかったかこうして私に反抗する。」

 

 

 そう言うともう一度束の姿がぶれ、澪の後頭部に蹴りをかまして地面に叩きつける。

 

 

「まあ所詮はただのデータから生まれたものだからシステムに完全侵食されるか、融合者の意識同意のもとでない限りは対処は出来るよ。私と同等か、私以上ならね。」

「────────ッ!?」

「あちゃあ......頭部まで侵食されちゃったから一撃じゃ沈められないか。まあそんな事もあろうかと、鎮静データを撃ち込んでとたからすぐ収まるからいいけどね。だけど......轡木さん、この様子じゃもう少ししないと鎮静データの効き目が無い────と言うか、皆ISを展開して押さえ付けて。普段の十分の一も出て無いけど、出力は一般的なISより強めだから此処で暴れると困る......と言うよりちょっと暴走してる。」

 

 

 そう言われISを展開して刀奈とセシリアが押さえ付けようとするが、十蔵が既に地面に押さえ付けていた。刀奈達もそれに加わって押さえ付ける。

 刀奈は目の前の暴れ回るその光景を見て思う。世界は何処まで目の前の男の子に酷い目に合わせるのか、どうしてこうなってしまうのだろうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────きゃあ!?

 

 

 それは唐突に訪れた。

 

 

────なんで私達コア人格領域から弾き出されたの?

────ねえねえなんで?

────おいノーネーム!一体こりゃあなんなんだ!?

────私だって分かりません!何故主人格である私までISコアから追い出されるなんて......

 

 

 ノーネーム含め、回収した全ISコア人格は突如ISコアから弾き出された。これがノーネーム達と澪の永遠の別れとなる。




次回予告

俺は別に後悔なんてして無い

他人にどう言われようが
人間に戻りたいなんて思わ無い

俺は己がISでも、人間でも無くてもいい

俺はバケモノでいい


次回=バケモノ=

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