一般人15歳で〝ちょっと〟変わった彼のIS生活(完結)   作:A.K

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それは悲しみ

それは憎しみ

それは怒り

三つの感情が混ざり

生まれし者は

狂う戦士


殲滅

 獣の咆哮が響き渡る。その咆哮でピット内の壁が悲鳴を上げ、誰もがこの存在に畏怖する。

 

 

『ーーーッ!』

 

 

 怒と悲しみ、それに憎しみが混ざりあった咆哮が容赦無くピットとアリーナ内に響き渡る。アリーナに居る人々は突然聞こえてきた獣の咆哮に困惑していたが、同時にその咆哮に恐怖していた。

 鈴は目の前に居る澪を見て、驚愕していた。鈴は先程の行動から、澪は既に人外の領域にたっていることを理解していた。だが

 

 

「無茶苦茶よ......これは」

 

 

 咆哮だけで鉄製の壁が悲鳴を上げ、カタパルトに至っては既にひしゃ曲がっている。たった一回の咆哮で。ニトロや大量の火薬を使った爆発なら分かるが、咆哮でこの様な真似など出来るはずがない。

 

 

『Gurururu......!!』

 

 

 不気味と言ってもいい程の圧力が、突如爆発的に上がり始めた。今この場にいるのは鈴と一夏だけだ。鈴はこの場にいることを危険と判断すると、一夏にピットカタパルト入口からアリーナ待機室へと撤退すると指示を出す。一夏はそれに了承し、鈴も直ぐに撤退する。

 

『Aaaaaaaaa!!』

 

 

 再びピットのカタパルトデッキ前方にVTSの黒い触手が迫るが、澪の周りまで来るが触手は消し飛ぶ。そんなやり取りが鈴達が撤退して数分続き、二度目の咆哮が成された。それと共にピットが爆散したのであった。

 

 

 

───────────────────────────────────

 

『何を、何をしている』

 

 

 所変わってアリーナ戦闘エリアにいるVTS。先程から起きている異常事態に、一人考えていた。 VTSを操る女は騒動を起こす前に既にIS学園から撤退し、密かに待機させていた回収部隊の船に乗り、学園付近の海に居た。

 女はVTSから通した映像をモニターで見ていた。学園から聞こえて来る獣の声に恐れながら。

 

 

───────────────────────────────────

 

 VTSの視界に、ピットが爆発したのが写った。それと同時に、目の前に爆音と共にナニカが屈んでいた。敵対反応と考えを下したVTSが手に持つ雪片で上段の構えを取ろうとして、一瞬の違和感と共に体の半分が消し飛ぶ。

 

 

『Aaaaa......』

 

 

 エネルギー反応は無かった。その代わりに敵の口部から少し煙が出ていた。だとすると......攻撃?そうVTSは処理する。そして、危険と目の前の敵を判断。

 

 

『消えろ!』

 

 

 無事な腕で攻撃し、その腕が引き裂かれた。世界最強を模し、最速とも呼べるその一撃を与えること無く。ならばと脚による高速蹴りを放つが、ナニカは腕で受け流す。

 

 ナニカはその背中から円状の物体を放出し、非固定浮遊部位の中間地点に滞空させる。そして、非固定浮遊部位のスラスターを起動させVTSに衝突した。

 

 

『Gigagagaaaaaa!!』

 

『何なんだ貴様ァァーーーーッ!?』

 

 

 ナニカの頭部の口が開き、VTSの首に噛み付いたのだ。ナニカは噛み付いた常態のままVTSに拳を振るう。VTSはそれにより体が千切れ飛ぶ。

 

 

『何故だ、何故VTSの体が消える!?再生機能は......エラーだと!?』

 

 

 VTSの再生機能。それが腕を切断しても復元する理由であり、今のVTSの奥の手でもあった。普通の攻撃......これはISを含めた全ての攻撃に対して有効である。しかし、ナニカの前では無意味だった。ナニカ......殲滅は名前無き破壊者の『A.I.S.S』を受け継いでいる。それはISの能力を直接触れている時だけ打ち消す能力で、この世に一つの絶対的アンチシステムである。前はON/OFFで行えた。しかし、それが常時発動されている為VTSの再生機能が阻害されて修復されないのであった。無論直接触れている時だけだが。

 

 

『何故、何故......何故だぁァァーーーーッ!最強の力を持って、先程まで......何故だ!?』

 

 

 殲滅は腕部に接合されている近接ブレードを展開。さらに指部にも装着型のファングブレードを展開。それと共に殲滅の体から赤黒の粒子が吹き荒れる。

 

 

『Guaaaaaaa!!』

 

 

 VTSは無理やり拘束を解き、損傷箇所を復元。瞬時加速でナニカに近付き一閃。しかし、それさえ避けて腕部を両断された。その状態のVTSをナニカは一閃する。それでVTSの脚部を切断。続けて乱舞の如く攻撃し、体が細切れになった。そして、VTSに汚染された既にコア人格が無いレーゲンのISコアが露出している。既にレーゲンのコア人格は殲滅の中に存在している......それを今の状態で思い出せてはいないが、殲滅はISコアを両断。それにより、VTSは形状を保つことが出来なくなりそのまま泥となって消えた。後に残るのは壊れたISコアと、殲滅だけだった。

 殲滅はうずくまるような体勢をとる。背中に浮かぶスラスターが殲滅の周りを、円状物体が頭部の上に移動して高速回転を始めた。

 

 

 何処だ......何処だ

 

 

 荒れ狂う意識の中、澪は形態移行した名前無き破壊者──────────『殲滅』のスキャンモードで獲物を探す。

 

 

 

────IS学園付近海域に反応あり

   ドイツ軍の物と判明......生体反応複数確認。及び火器の反応

 

 

Aaaaaaa!!(其処かァァーーーッ!)

 

 

 スキャンモードを解除。周りを飛んでいたスラスターが背後に戻り、最大出力で吹かす。殲滅はそのままアリーナの天井のシールドバリアーに接近する。このままではバリアに阻まれるが、澪は右手を変形させ砲門に変え、バリアーに向けて長射ビームを放つ。バリアはたちまち崩壊し殲滅が軽く通れる穴が開き、そこを通り殲滅は何処かへと消えていった。

 無論、管制室にはISセンサーが備えてある為に澪がどこに向かったのかはトレースできる。この後、専用機持ち全員が澪が向かった先......IS学園付近の海上に向かった。

 

 

──────────────────────────────────

 

 女......アーデルハイトは驚いていた。この世において史上最強と呼べる存在をトレースしたVTSが、一般人である憎き男程度に破壊された事を。アーデルハイトは部下に船を出すよう指示を出した。

 

 

「今はここから逃げて、委員会の連中や他国家に女権団と合流しないと......」

 

 

 その時だ。IS学園から上空に向けて赤黒の閃光が立ち昇る。アーデルハイトには見覚えがあった......それは名前無き破壊者のビームだ。ビームはすぐに収まったが、その代わり赤黒い光を放つナニカがこちらに向かって来た......澪だ。

 

 

「逃げろ!早く!」

 

 

 アーデルハイトの部下も現状を理解し、船を出すがその間に澪との距離は縮まっていく。そして───────

 

 

『GUAAAAaaaa!!』

 

 

 アーデルハイト達の目の前に殲滅が現れた。アーデルハイトの部下達は対IS弾を装填したアサルトライフルを殲滅に放つが、殲滅から放たれる赤黒の粒子と対IS弾耐性装甲の前に無に等しかった。

 

 

「対IS弾が効かねえ!?」

 

「何だよあの光は!?」

 

『Aaaa』

 

 

 殲滅はそんな反応を無視し、手を再び砲門に変形させる。先程は長射ビームだったが、今度は極少ぶつ切りのビーム弾をアーデルハイトの部下達の脚に向けてばら撒く。高熱のビーム弾は部下達の脚部に直撃し、部下達は足をズタズタにされ戦闘不能に追い込まれた。結果的にアーデルハイトだけが残った。

 

 

「死ねぇ!」

 

 

 殲滅がビーム弾を発射し終わったその瞬間、アーデルハイトが対ISロケットランチャーを放つ。アーデルハイトはそれに対して勝ったと確信していた。

 

 

 一方爆炎に包まれた澪は口部を開き、煙の中極少粒子ビームをうち放った。アーデルハイトは一瞬爆炎の中で何かが光ったとぐらいにしか思わなかったが、ビームは煙を突き抜け四散し、アーデルハイトの四肢を貫き通す。

 

 

『Gu......a、オマ......えを、捕......る』

 

 

 澪は荒れ狂う意識の中、何とか目の前のアーデルハイトを殺すこと無く四肢を穿って捕獲する。アーデルハイトは粒子ビームに四肢を貫かれた事で失禁&気絶していたので、澪はアーデルハイトを大型クローに変えた右手で持ち、IS学園まで向かおうとする......その時だった。

 複数のIS反応音が頭に響く。澪は反応があった方角に体を向けると、そこにはIS学園における専用機持ち達が居た。その中には刀奈も居て、澪は隠してきた事がバレた事に申し訳なと思ったのか刀奈と視線が合うが顔を逸らす。それは刀奈にも通じたのか悲痛な表情をしていた。

 

 

「何してんだよ澪!」

 

 

 澪が持つアーデルハイトと、その近くにある船とアーデルハイトの部下達の惨状を見て専用機持ち達は狼狽える。澪はとりあえずアーデルハイトを鈴に任せようと思い、アーデルハイトを鈴に向けて投げ捨てた。鈴はそれに慌てず冷静にアーデルハイトをキャッチする。

 

 

ゴガガドン!

 

 

 殲滅に突然何かが当たり爆発する。専用機持ち達が何事かと思ってると、開放回線を通し声が響く。

 

 

「専用機持ち達は我々教師部隊と共に、榊澪を沈黙・捕獲せよ。我々教師部隊は後方支援でお前達を支援する、専用機持ち達は前方に出ろ。捕獲に方法は構わん。殺しても構わない......これは命令だ。やれ」

 

「なっ!?」

 

『......』

 

 

 専用機持ち達が教師部隊からの突然の無茶苦茶な命令に、驚きを隠せないが教師部隊から澪に向けて攻撃が開始される。澪はそれを回避するがまた何発か直撃して爆発する。

 

 

「待ってください!何故今になって貴女方教師部隊が、ずかずかと出てくるのですか!?

私達が生徒達を避難させていた時、何もしなかった貴女方が!」

 

「我々は其処の榊澪だったナニカを危険と判断し、VTSが沈黙した所で其処のナニカを鎮圧する為に待機していただけだ」

 

「......ゲスが!」

 

 

 ミステリアス・レイディを纏う刀奈がそう呟く。それにイージスコンビに鈴が頷く。一夏はなんとも言えない表情をしていた。

 

 

「凰鈴音だけはそのままその女をIS学園に運べ、その他のメンバーはさっさと其処のナニカを鎮圧しろ」

 

 

 鈴はそれに対してどうするべきかと、刀奈を見る。刀奈は「ここは任せて行きなさい」と言う。鈴はそれを確認するとIS学園にへと向かって行った。

 刀奈は打鉄の狙撃用パッケージを纏う遠く離れた教師部隊達に言う。

 

 

 

「貴女方のその様な理不尽な理由で、私は貴女方に従うことは出来ません」

 

「なら、生徒会長......貴様も危険と判断し鎮圧する」

 

 

 

ゴウッ!

 

 

「っ!?」

 

 

 轟音。打鉄の狙撃用パッケージ専用武器『撃鉄』から、超長距離用徹甲弾が放たれた。刀奈は咄嗟に最高出力でナノマシンによる超高密度の水壁を形成したが、徹甲弾はそれすらも貫通して刀奈に直撃した。そして、徹甲弾の爆発が刀奈を覆い、そのまま海へと墜落していった──────────その時だ。

 

 

 

 

 

 

キュイン

 

 

 

 

 

 

 澪......殲滅からそのような音が響く。専用機持ち達は澪の非固定浮遊部位のスラスターと円状の物体から、超高密度のエネルギー反応を確認する。

 

 

キュン

 

 

 刹那、澪がその場から消えた。それと同時に海面が割れ、それが真っ直ぐ教師部隊達のIS反応がある方に続く。それが音が鳴って2秒後の事で、その直後に爆音が鳴り響いて教師部隊のIS反応が全て消失した。

 専用機持ち達は驚いた。自分達から3キロ以上離れた所に居る教師部隊達の所まで、澪が2秒程で到着してしまった事。それに付け加えて、教師部隊を一撃で壊滅させたことであった。

 

 

『......』

 

 

 教師部隊達が海面に墜落していく中、俺はもうIS学園には居られないと考えていた。どうやら暴れすぎたらしい。

 俺は先ほどと同じ移動法で、刀奈を抱えていたダリル先輩の前に移動する。先輩はギョッとしていたが「別れの挨拶なんだろ?早くやれよ」と、どうやら俺のことを見逃してくれるらしい。フォルテ先輩もそうらしい。

 

 澪は刀奈を見て言う。「またな」と、その一言を言ってこの場から去ろうとした時だ。

 

 

「待てよ!」

 

 

 織斑が俺を行かせまいと、雪片弐型を俺に向けて構えていた。

 

 

「澪は人間じゃないのかよ」

 

『つまり、俺が化物だと? 合ってはいるが、生憎俺はまだ人間だと思ってる。だからこそその言葉は心外だ......そして、邪魔』

 

 

 高速の蹴りが一夏に当たり、一夏はそのまま海面へと叩き付けられた。だが、瞬時加速で海面から昇ってきた。俺はクローブレードで振りかざしてきた雪片弐型を受け止める。

 

 

「澪はIS学園の生徒だろ!」

 

『俺の状態がばれては、最早IS学園には居場所なんて無い。もともと学園の大半から敵視されて来て、これでどうなるのか分かるだろ?

 だから、俺は去る。』

 

「んな事させるかよ!理由はどうあれ先生達にも手を挙げたんだ、行かせるぶがっ!?」

 

 

 俺は織斑を殴り飛ばした。こいつ......あれほどの事をしたあいつらの事をまだ正しいと思っているのか?

 

 

 再び一夏が澪に接近。今度は雪片弐型を零落白夜発動状態にさせての攻撃をし、澪はそれを受ける訳にはいかないため咆哮で吹き飛ばす。空いた瞬間を逃す筈はなく、其処をラッシュで攻めていく。突然腹部に衝撃を感じて澪は腹部を確認すると、零落白夜発動状態の雪片弐型が突き刺さっていた。一夏はしてやったりという顔だったが、澪はそれを無視して一夏の首を掴む。

 

 

『もういい』

 

 

 一夏の首を絞めながらそう言う。最早、常時起動状態になったA.I.S.Sの前ではISは無力だ。澪は一夏をぶん回して海面に叩きつけた。どうやら気絶したのか、海面から少し浮かんだ状態で一夏は動かなくなった。イージスコンビも目の前の存在には勝てないことは分かっていた。だからこそ、その光景を静かに見守っていた。

 澪は雪片弐型を引き抜いて海に棄てる。

 

 

『会長を頼む』

 

 

 澪は一言そう言って、その場から姿を消した。

 

 

 

 

────IS学園一年一組在籍『榊澪』、IS学園から逃亡

   世界各地に最重要捕獲リストとし、賞金が掛けられました。目撃情報があり次第、IS委員会まで連絡を

 

 

 この日、澪は世界から行方を眩ませた。




次回予告

かの者は姿を消す

物語は加速する

時代が

人が

世界が動き始める


次回=動く世界=

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