一般人15歳で〝ちょっと〟変わった彼のIS生活(完結) 作:A.K
全てを知られながらも
知られて無いと思いながら
踊れよ踊れ
破者の手の中で
澪は織斑千冬とのやり取りをして、生徒達が集まり出した頃に何時も自分が並ぶ時に立つ、先頭の一番右端に立って待っていた。
「やっとか」
授業が始まるギリギリになって現れたあの二人。俺があそこまでスムーズにやったのに何故こんなにも遅くなるのか……分からん。
「遅い!」
糞教師もお怒りだな。あーあ……また叩かれてるな。どうでもいいが。 む?鈴となにか話してるな。ああ、朝のボーデヴィッヒとのやり取りの事か。
でもな、そういう事をやってると糞教師が……遅かったか。
────主
戻って来たか。……っで、どうだった?
────これでやっと動けると喜んでました。お手柄ですね主
それは俺じゃなくて、ミーティアに言ってくれ……って、ん?ノーネーム。こちらに向かって来るIS反応があるのだが、気のせいか?
────いえ、これはIS学園の教師用のISですね。機体はカスタム仕様のラファール・リヴァイブです。
成程…………って、先程から山田先生が居ない。まさか?
澪はとりあえずこれ以上は考えることを止め、目の前の実習に意識を集中させるのであった。
「本日は格闘と射撃を含めた実践訓練を行う。今回の訓練は今までと比べて、危険度が増す。十分に気を引き締めて行え!」
先程叩かれた鈴と織斑が何か言っているが、別にどうでもいい。鈴には可哀想だが、あれは自業自得だ。
「本格的に行う前に、1度試合をしてもらう。そうだな……織斑、凰!出て来い!」
あの2人で試合か……まあ、クラス対抗戦においては未だに勝敗が有耶無耶になってるままだからな。丁度いいだろう
「よーし……ここであの時の決着をつけるか」
「望むところよ!」
ノーネーム
────はい?
先程のIS反応が、物凄い勢いで俺達のいる所に落ちるかのように接近して来ているのだが。気のせいか?
澪がそこまで考えた時だ。空気を裂く、戦闘機のような音が微かに聴こえ始めた。それは次第に大きくなって、澪はその音の発生源とIS反応がある空に目を向けた。微かな悲鳴……それは山田先生の物だとすぐに理解した。
他の生徒達も気付いたのか、ざわつき始める。澪は前に2〜3m程出た。それを辺りの生徒は何やってるの?という風に見ていた。
「お前ら離れてろ!」
澪は短く少し大きな声でそう言うと、名前無き破壊者を纏って空に舞う。流石に此処で非固定浮遊部位の大型スラスターを使えば、焼死体の山となる。その為、澪はその場で上に向かって跳躍した。PICと脚部の足裏にあるスラスターの応用により、一回の跳躍で10mぐらいは飛んだ。そして、脚部スラスターを切り、大型スラスターを起動しても問題無い所まで来たのを確認。大型スラスターとPICを使用してその場に滞空する。
(山田先生を傷付けない様に受け止める。そして、そこにいる奴等に怪我をさせない……!)
澪は山田先生が落ちて来るコースに、その身を踊らせ受け止める準備に入る。澪から見て今の山田先生は、混乱している。さらに、機体は錐揉みしていて減速どころか体勢維持さえ出来ない。だからと言って、速い速度で接近して受け止めても山田先生が傷ついてしまう。下手すれば後ろの奴らが肉塊化。
(だったら……受け止めると同時に、大型スラスターによる減速をするしか無い!)
澪はすぐ近くまで来ている山田先生を確認し、瞬間的に背後……下にいる他の生徒達を見た。どうやら無事に避難はしたようだ。
次の瞬間、鈍い金属音が辺りに響く。澪は山田先生をキッチリと掴んで、錐揉み状態を解除。さらに、掴んだのと同時に大型スラスターを蒸かして減速。それでもまだ足りない。少しずつ名前無き破壊者は後退していく。澪は脚部スラスターを弱めに蒸かす。
『……っ、止まったか』
後退が止まった所で、澪は山田先生を揺らして正常に戻した。その後、ゆっくりと地上に降り立ち、山田先生を離した。その時、山田先生の顔が妙に赤かったのを澪は不思議に思っていたのであった。
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山田先生の墜落未遂というアクシデントがあったが、直ぐに授業は再開された。……山田先生、あんた意外にも怖いな。山田先生がラファール・リヴァイブを纏っていた理由だが、どうやら先程の試合の件は、山田先生VS織斑&鈴を見せる為らしい。俺を含めた生徒と糞教師は戦闘の影響が出ない所まで離れていた。
山田先生相手に……大丈夫か、あいつら。織斑も鈴も普段の山田先生しか知らないようで少し相手を嘗めていた。油断している。
あの人は、元IS日本代表候補生までのレベルを持っている。特に山田先生について詳しく書いてあったデータには、当時のロングレンジのスナイパー以外の射撃精度は世界的トップレベルと示してあった。しかも、山田先生は異名持ち。……油断はできん相手だ
「では、始め!」
そうこう考えていると、試合が始まった。山田先生の表情はいつも見せる優しい表情を残しつつ、真剣な眼差しだ。……鈴には悪いが、少し悪戯するか。
『山田先生』
『さ、榊君!?』
『突然ですが、お願いが有ります』
俺は山田先生に向けて個人間秘匿通信を繋いで話し掛ける。一瞬慌てた様子で叫ぶが、個人間秘匿通信内だけなので問題は無い。実際戦っている山田先生の表情は、先ほどと変わりはない。
『お、お願いですか?』
『はい。山田先生の今の本気を見せて下さい』
『本気、ですか?』
『はい。山田先生って、普段からドジなのは知られてますが……本当はとても強いって所を見せてやって下さい。銃央矛塵の、当時の元国家IS日本代表候補生の力を』
失礼だが、俺はそこまで言って強制的に切った。俺は見てみたかった。当時の日本の最強角の一人の力を……その射撃精度を。
そうやって考えていると、突然それまであまり攻めなかった山田先生の動きが変わった。射撃主体機VS近接特化・近接〜中距離機という分が悪くも、主に近接戦闘をする機体にある程度の攻撃をしつつも防衛戦になっていた山田先生。しかし、その動きが変わった。それまでよりも動きが数段上がり、織斑達が慌てるのが見える。
山田先生は右手の武装をショットガンに変え、左手の武装をグレネードランチャーに変えた。直後、距離を詰めて来る織斑にショットガンを放って織斑は直撃し怯む。更に、グレネードランチャーをショットガンで怯んだ織斑に連射。
「ぐああぁ!?」
吹き飛ぶ織斑に向けて追いかけるかの如く、瞬時加速で距離を詰める。だが、織斑も何とかPICで体勢を整えようとする。しかし、山田先生はそれよりも速く動いた。更に距離を詰め……織斑が体勢を整えた時にはその目の前に居て、先程までの速度を織斑の目の前で零にした。
確か、これは一零停止というものだったな。ざっくり言えば緊急停止。しかし、緊急停止は止まるまでの時間や距離という物が存在する。しかし、一零停止というのは完成系の緊急停止だ。本当にその場で停止する。時間も距離も関係無く、その場で。
一零停止は未だに俺は身に付けていないIS機動術の一つで、やる事は単純だが実は相当難しい技だ。
「終わりです」
そう言って山田先生は唖然としている織斑に向けて、零距離からショットガンとグレネードランチャーを浴びせる。その衝撃で地上に向けて墜落していく織斑。
その直後、グレネードランチャーをアサルトライフルに変換。背後から奇襲を掛けて来た鈴に向けて放つ。
それに負けじと鈴が龍咆を放つ……が、龍咆の不可視の弾をショットガンを複数回撃つことによって破壊。衝撃が辺りに舞い、それに煽られた鈴をアサルトライフルとショットガンで集中砲火。山田先生も煽られたのだが、その中でのあの精密的射撃能力は凄い。そして……山田先生は四枚の自立式の盾を展開した。
これに以外にも驚きの反応を見せたのは、ボーディヴィッヒだった。どうやら奴も銃央矛塵の事を知っているようだ。自立式の盾は鈴が纏う甲龍を隙間の無い様に囲む。そして……
「とどめ!」
珍しく、山田先生そう叫ぷ。次の瞬間、僅かに空いている隙間に銃口を突っ込んで撃つ────その時だ。
「それまで!」
糞教師のその叫びでこの試合は終わった。
「とても素晴らしい試合だったが、時間が押している。その為、この試合はここまでとする。
諸君、これで山田先生の実力を分かっただろう。これからは敬意を示せ、いいな!」
それで他の奴らがハイと返事をするが、無駄だろう。山田先生だから。……個人的には最後の締めの攻撃を見てみたかったものだな。それと、やはり山田先生は強かった。伊達に国家IS日本代表候補生まで上り詰めただけはある。とりあえず連絡するか
『山田先生』
『あっ、榊君。言われた通り少し本気で行きましたが、どうでしたか?』
俺はその言葉を聞いて驚いた。今の動きが少し本気……なら、本気の本気であるならばあの二人に瞬殺出来ていたというのか?凄い……凄過ぎる。これが山田先生の力の一つ……か
『凄かったです。今の俺には出来ない事、ISに搭載された機能を極限まで上手く扱っていました。……今度、出来るのなら俺に訓練を施して欲しいです』
『な、何だか照れますね……では、切りますね』
山田先生はそう言って個人間秘匿通信を切った。つか、山田先生普通に他の生徒と話しながら俺に個人間秘匿通信で話しかけてきている。……これも実力の内か?
実習が終わり、織斑とデュノアが更衣室に入り織斑が出て行った所を見計らって更衣室の扉を叩く。中から「誰ですか?」とデュノアの声が響く。
「着替え途中で悪いな、榊だ」
俺がそう言うと、デュノアは「榊君か」と言った。
「何かな?今着替えてる所なんだけど」
別に隠す必要も無いから、普通に言ってしまおうか
「なに……忠告だよ。『シャルロット・デュノア』」
「忠告だよ。『シャルロット・デュノア』」
ボクはその言葉を聞いてありえないと考えた。同時に焦りが、動揺が生まれるが何とか心を落ち着かせて扉越しに言う。
「榊君。ボクの名前はシャルル・デュノアだよ?」
ボクの情報はフランスとデュノア社によって秘匿されている。その為、ボクの事がこの学園にいる者にばれる事など有り得ない。情報によると、ターゲットである榊君……榊澪は普通の一般人であると聞いている。
「ほう?声に若干の震えがある様だな」
そんな馬鹿な!?
「そら……今度は驚いてロッカーに体をぶつけたか。動揺している証拠だな。ええ?」
ま、不味い……は、早くここから出なければ!幸いもう着替えは済んでいる。まずはここを出よう。そうすれば何とかなる。そう考えながらボクは更衣室を出た。そして、その先には……左目が紫に妖しく光る破壊者が居たんだ。
濃密な怒りと殺気を纏った破壊者が……!
ほう?あくまでも平常を維持すると言うか……だが無意味だな。
「まだ強がる様だな」
「強がるなんて……ボクは本当の事を言ったまでだよ」
「そうか……なら、その震えている右手は何だ?」
澪のその言葉で、デュノアは己の右手を見る。しかし、その右手には震えはなかった。デュノアはもう一度澪を見る。澪は何故か無表情で、デュノアを見ていた。デュノアの全てを射抜くかの様に
「ほら、そうやって自ら墓穴を掘る」
澪が言ったその言葉で理解した。嵌められた。その言葉の様に、自ら墓穴を掘ったのだ。そしてデュノアは理解してしまった。完全に己の目的が、正体が割れている。
「今度は強行手段か」
澪の視界の先には、橙色のラファール・リヴァイブ……ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIの腕部とその兵装である、杭打ち機ことパイルバンカー《灰色の鱗殼》が写っていた。そして、灰色の鱗殼は澪の頭に突き付けられていた。それでも尚、澪は逃げようとも悲鳴を上げることはしなかった。
普通ならその様な反応はしない。だからこそ違和感を感じるべきなのだが、この時のデュノアは慌ててそのような考えを出来なかった。
「ごめんね。これも命令なんだ」
そして、澪に突き付けていた灰色の鱗殼を躊躇無くその頭に突いた。頭はその一撃で破裂し、壁や床が血と肉で染められた。
次回予告
誰が何であれ
俺に手を出す者は
破壊尽くす
その全てを
さあ……始めよう
次回=破=