一般人15歳で〝ちょっと〟変わった彼のIS生活(完結)   作:A.K

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それは怒り

それは黒き禁忌


それは────破壊者


黒き怒り

 そこは戦場だった。黒煙と炎が辺りを黒く、赤く彩っていく。その場にいるのは白き装甲を纏う織斑一夏と、赤き装甲を纏う凰鈴音の二人だ。

 鈴は知らないが、一夏にはこの光景が覚えがあった。澪がセシリア・オルコットと戦った時よりは酷い状況ではないが、ほぼ同じだ。

 

 

「くそっ……なんなんだよこれ!」

 

「……っ、散開!」

 

 

 今いる第一アリーナは大惨事である。一夏は己の姉である千冬から、今のアリーナについて鈴と共に教わった。アリーナの扉はほぼ全て目の前に居る所属不明機のクラッキングを受けて閉まっている。その為避難が全く進んでいないのと、アリーナのピットカタパルトも閉じられて教師部隊も応援不可。幸い観客席の合金性の防御壁は作動しているのは二人とも確認した。しかし、耐ビーム耐性は低く、危険な事には変わりはない。

 

 

 

「うおっ!?」

 

「戦闘中にぼっとするな!死にたいの!?」

 

 

 二人は迫り来る所属不明機のビーム攻撃をギリギリで躱しながら、一夏は雪片弐型で、鈴は双天牙月と龍咆で攻める。相手に攻撃は当たるし、装甲にも何とか傷はついている。白式の高速移動と甲龍の龍咆を使って相手の動きを止めながら迫る動きにより、二機はどんどん所属不明機に近付く……そして

 

 

「とった!これで……」

 

「終わりだぁぁぁぁ!」

 

 

 上手いこと所属不明機の背後をとり、一夏は零落白夜を発動した雪片弐型で、鈴は双天牙月を使い怒涛の連撃を叩き込む。零落白夜は強制絶対防御発動効果、鈴の甲龍はパワー型のIS、更にそのフルパワー攻撃でなら並のIS程度直ぐに倒せる程の攻撃だ。

 

 その攻撃により、所属不明機の頭部の目だと思われる赤いセンサーが光を失っている。脚部を地面に着いて、項垂れているようにも見えて今にも動きそうだが動かない。

 

 

「た、倒したのか?」

 

「どうやらそのようね。あとはパイロットを確保するだけ……」

 

 

 鈴は確かめる様に目の前の所属不明機のIS反応を確認、やはりIS反応は消滅しているのを確認した。一夏は一夏でアリーナの管制室にいる千冬達に通信している。これで終わった……鈴がそう思っていた時だ。

 

 

『システム再起動……オペレーションパターン2。攻撃再開』

 

 

 突然所属不明機のIS反応が再確認され、その次にその太い腕でその場で高速回転。所属不明機のすぐ近くに居た一夏と鈴が直撃を喰らってしまう。

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁ!?」

 

「きゃあ!?」

 

 

 所属不明機の攻撃を受け、一夏と鈴はアリーナの壁まで吹き飛ばされた。

 

 

「……嘘、だろ」

 

「くう、あの攻撃で倒せないなんて……驚きよ」

 

 

 所属不明機は太い両腕と黒い装甲を、先程から放つビーム攻撃で起きた爆炎を反射して赤く光る。その顔にある目らしい何かも妖しく赤く光っている。

 

 

「でも……まだ俺は動ける。鈴も……って、嘘だろ!?」

 

────『甲龍』戦闘続行不可

 

「私は……こんな時に!」

 

 

 先程の攻撃で、甲龍がこれ以上戦闘するためのSEが無くなったのだ。少しの距離を飛ぶ事と絶対防御はまだ働く様だが、物理攻撃なら1度でビーム攻撃なら貫通されてしまう。そのような状況になったのだ。一夏も瞬時加速と零落白夜発動一回分のSEしか無く、もはや絶体絶命……そんな時だ。二人の機体のハイパーセンサーが新たなIS反応を探知した次の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

『お前か』

 

 

 

 

 

 

 一夏と鈴は、突如濃密な怒気と恐怖を感じとり、その二つが放たれる方向に目を向けた。視線の先は先程所属不明機が入って来た、シールドバリアーが一部破損している所に……全身のスラスターから真紅の炎を放つ黒が居た。

 

 

「れ……い?」

 

 

 一夏には目の前の光景に、一瞬戸惑いを隠せなかった。前見た時の名前無き破壊者の姿と、今の名前無き破壊者の姿が少し変わっているのだ。

 

『さあ……始めよう』

 

 

 澪は一度だけ一夏達を見てからそう言った。次の瞬間には、澪は所属不明機のすぐ上を飛んでいた。その後、突然襲って来た衝撃に一夏達二人は少し吹き飛ばされた。

 

 

──────────────────────────

 

『……ふん!』

 

 

 俺は拡張領域から出してきた復讐者の剣で、所属不明機に向けてその剣を振る。既に無人機だって分かってるんだ。A.I.S.S.を起動させている。奴の絶対防御はこれで緩和されて、直にダメージを与えれる。

 

 

『ちっ、まだ反応できるか……』

 

 

 今の攻撃をギリギリで躱した、いや……少し掠れたか。でも、今の攻撃を避けたのは凄いな。マッハに近い速度で攻撃したのに躱すその反応速度は、やはり無人機だからこそか……っ!

 

 

『真紅の光壁!』

 

 

 澪は何気なく嫌な予感がした為、真紅の光壁を発動させた瞬間だった。無人機がノーモーションでビーム攻撃を放って来たのだ。

 

 

『ノーモーション攻撃、だが……』

 

 

 澪は反逆する血の牙達を展開し、それぞれに独立の行動を指揮し、無人機に攻撃を命令させた。血の牙達はビーム刃やビーム射撃で無人機を混乱させるべく、動き回っている。

 

 

『負けん』

 

 

 澪は復讐者の剣を左手に持ち、超圧縮荷電粒子砲兼光刀剣『真紅の世界』を右手に展開した。さらに、戦闘モードになった事で開放された武装『名無しの運命』を両肩から展開した。

 その頃、反逆する血の牙達は戦闘モードになった事で増した速さ・攻撃力を活かして無人機を圧倒。一夏達を苦しめたあの無人機が凄い速度で傷付けられていく。

 

 一夏はその光景を見て、その場でただ待ってるわけにいかないと思い、雪片弐型を構えた。しかし、その時だ。

 

 

ガゴゴゴッ!

 

 

────『白式』戦闘続行不可

 

 

「えっ……!?」

 

 

 反逆する血の牙達が、白式のSEを削り戦闘続行を不可能にしたのだ。その行動に動揺する一夏と鈴に、澪から個人間秘匿通信が来た。

 

 

『お前達はピットに戻れ。ピットの射出口だけは先に開放してある』

 

 

 澪が此処に着くまでに掛かったほんの僅かな時間、その間にノーネーム達に任せて第一アリーナのピットのクラッキングを解いたのだ。

 

 

『戻れ……って、それはどういう事だよ!?』

 

 

 澪は個人間秘匿通信をしながらも、無人機が繰り出すビーム攻撃を真紅の光壁で打ち消して、ビームが観客席の防御壁に飛ばないようにしながら戦闘を続行している。一夏は澪のその言葉に文句を言うが『一夏、すぐにここから離脱するわよ』と鈴が言う。

 

 

『一夏。よく聞いて。私達の機体はレーザーやプラズマに対して耐性はあるけど、『ビーム兵装』に対しては高い耐性がないのよ。だから、今の状態でこれ以上防ぐのは無理よ』

 

『……鈴の言う通りだ。いいか?俺の名前無き破壊者の装甲は、機体内部から放たれるビーム兵装がある為、発射した時にその余波で機体にもビームが降り掛かる事がある。それで損傷しないように機体内外の高ビーム耐性がある。さらに真紅の光壁があるからビーム兵装に対しては俺が適任だ』

 

『それでも!』

 

 

 一夏がそう言うと澪は『それでもじゃねえ』と低い声で言う。

 

 

『優しく言って上げてるのにそれか……織斑』

 

 

 澪の視線は全て無人機に対して向けられているため、一夏に向けられてはいない。しかし、名前無き破壊者とその声から感じ取れる怒りが一夏とその近くにいる鈴が巻き添えで向けられる。

 

 

『お、俺は……!』

 

『まず、俺より己の機体を扱え切れてない奴が何を言うんだ。鈴が無事ならまだ無理の無いレベルで、射撃兵装である龍咆で支援攻撃をしてもらおうと思っていた。でもな、普段訓練もしてない奴で、近接格闘兵装の雪片弐型しかない織斑が居ても邪魔なだけだ。とりあえずさっさと失せろ』

 

 

 澪のその言葉を聞いて、今度こそ一夏達はピットの射出口に移動した。それを確認した澪は、意識を目の前にいる無人機に向ける。

 

 ノーネーム。コア人格は?

 

────作られたばかりなのでしょうか、まだハッキリとしてませんがコア人格を確認。予め回収し、今は名前無き破壊者の中で目覚めの時を待ってます

 

 

 そう……か、なら壊して問題ないか

 

 

────それと……主のバイタルが普段より乱れています

 

 

 っ!あの光景が蘇るか……

 

 

 澪の頭には、幼き頃の……地獄の記憶が蘇っている。今は傷を負う者や死亡者は出ていない。しかし、澪の視界はあの時の風景か移り込む。それが災いしてか、澪の動きが鈍って来ていた。

 

 

『だが……!』

 

 

────無人機が急に!?主、右です!

 

 

『ぐ……おおおおっ!』

 

 

 澪は無人機の太い腕でビーム砲である腕を、殴られた直後に真紅の世界で右腕をたたっ斬る。右腕にエネルギーを溜めていたのか、たたっ斬られた右腕が爆発した。その影響で両機は離れた。

 

 

────主!ここは我等が名前無き破壊者を操って……!

 

 

 主である澪を、この無人機から守る為にノーネームが名前無き破壊者を動かそうとする。澪は強がってはいるが、今の状態では普段の半分も力が出せていない。そんな状態で無人機と戦わせるわけにはいかないとノーネームは思うが……

 

 

『俺は問題ない』

 

────ですが!

 

『あの時の悪夢を超える。今が……その時だ!』

 

 

 あの時の光景を、あの時の悪夢を、それを超える為に澪は今の状況を乗り越えるため、意識を無人機を倒す事だけに集中した。それと共に、戦闘モードに移行して変化した頭部のデュアルアイセンサーが真紅に光り輝く。それは怒り。ここまで己を弱めてくれた悪夢と無人機に対しての、激しい怒りの象徴でもあった。

 

 

『名無しの運命……起動!』

 

 

 澪は肩部の名無しの運命を起動し、そこから3mほどの極太の真紅のビームサーベルが展開される。

 

 

『……壊す!』

 

 

 澪がそう呟いた瞬間、無人機が左腕のビーム砲からビーム撃ちながら接近。しかし、戦闘モードの名前無き破壊者の速さには叶わずに上昇瞬時加速で避けられた。

 

 

『!』

 

『遅い……』

 

 

 無人機が己の砲撃が避けられた事を知り、名前無き破壊者が居る……否、居た場所に向けて再びビーム砲を放った。しかし、その時には名前無き破壊者は無人機の真後ろに着地していた。

 

 

『……んだよぉぉぉ!』

 

 

 名前無き破壊者はその場で回転し、名無しの運命で無人機を真っ二つに引き裂いた。しかし、それでもまだ上半身が動こうとしている。復讐者の剣を収納し、真紅の世界で残った左腕を両断した。そして……

 

 

『消えろぉぉ!』

 

 

 澪は真紅の世界を粒子砲モードにし、まだ起動していた無人機の上半身を消し飛ばした。動力源があった上半身が粒子砲によって消し飛ばされた為に、至近距離で爆発される事は無かった。

 終わった。これでこの戦いが終りを迎えたとこの静けさと、管制室にいる教師達と教師部隊、さらに専用機持ち達は考えていた。澪は真紅の世界を収納し、名無しの運命を起動停止させた。

 どうやらクラッキングも解かれた様で、防御壁の中から声が上がっている。そして、次々にアリーナから生徒達が避難して行った。

 

 

────主!

 

『どうした?』

 

 

 唐突に話し掛けてきたノーネームに澪がそう言った。

 

 

────アリーナ直上高度7000m付近からもう一機同型のものだと思われる反応確認。速度はマッハ2を維持して真っ直ぐ此処に落下して来ると思われます!

 

『……胸部展開圧縮荷電粒子砲《名前無き破壊者》起動』

 

 

 澪は空に顔を向け、ハイパーセンサーを高感度モードにする。すると、高度1500mに何かを捉えた。その間にも名前無き破壊者のチャージが完了した。

 

 

『……金属製の箱か?大きいな……まあいい。開放!』

 

 

 空から落下してきている金属製の箱に向けて名前無き破壊者で砲撃し、見事直撃し爆炎が空に舞う。威力はだいぶ下げたがこれぐらいなら……と思ってた時だ。

 

 

────コア反応確認

 

 

 ノーネームがそう言った時、アリーナの戦闘域の地面に先程とは形状が全く異なる黒の無人機がいた。その背中には大型ブレードが存在していた。

 

 

 

 

 戦いはここからが本番だった。




次回予告


倒した先に出会う新たな敵


それは強敵


『……こいつは!』


ついに発動したODA

名前無き破壊者は新たなステージへ


『この拳でお前を……壊す』


次回=双腕の破壊者=

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