アリアは踊る   作:mera

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ある帝具の話

始皇帝は悩んだ。永遠を生きる事は本当に出来ないのかと。

老いない生命は作れた。のちに生物型帝具と呼ばれる命。

人に応用できる技術ではないものの希望にはなった。

老いない身体に移す事は出来ないか。

それは成功して失敗した。脳以外を老いない身体に移した。でも脳だけは老いていく。

脳を取り換えてしまうわけにはいかない。

不老不死になまじ手が届きそうだったからの狂気。

老いない脳に人格を移そう。失敗した。移す技術が出来上がる前に始皇帝は死んだのだ。

それでも開発は続く。死んだのなら生き返らせればいいと。

人格の転送は可能であり不可能だった。転送の際に人格が変質する。量が大きすぎたのだ。

人格は日々の出来事の積み重ね。そういった誰かは人格を細かく分けてその帝具に記録した。

人生を本に見立て、一ページずつ図書館に収めた。

誰かは気付いた。大量の人格があれば任意の人格を作れるのではと。始皇帝の人格の再現。蘇生は可能なのではと。

歯車は回る。狂っていようとも。

異民族。奴隷。志願者。多くの人格を帝具に記録する。

最後にして最高の帝具を作るために多くの命を費やす。

帝具は数えきれない出来事(ページ)を記録する。山のような人格()を貯蔵する。

億を超える人を殺して帝具は完成する。

永遠に帝国が繁栄するように祈りを込めて名付けられる。

『不朽演劇 ネクロニカ』

終わらぬ、朽ちぬ繁栄劇。死してなお繁栄を謳歌する。そんな狂った祈りを込められて最後の49番目の帝具は完成する。

そして、多くの者が使用しようとして崩れ落ちる。

人格の海にのみ込まれて廃人となる。

水槽一杯の灰色の水(膨大な数の人格)一滴の色水(一つの人格)で染め直すような。揺るがない。変わらない人格の持ち主以外使えない。

そんな事が判明する。考えてみれば当たり前の事が。

神様のような道具を使うものは存在しない。

その道具は名前を奪われて、倉庫にしまわれる。

時代が下るうちに忘れ去られ、倉庫からも消える。

その道具が舞台に出るのは始皇帝の死から千年後。

裏しかない出来損ないの少女と出来過ぎた出会いをする。

たとえ正しい使い方をされずとも、新しい名をあたえられた道具は満足だった。

 

 

 

道具の新しい名前は、生きてさえいれば必ず救う帝具。綴命不凋 パッチワーク。

死者ではなく生者の為の帝具。

殺戮しか出来ない化け物の人を生かす力。

人間には使えない道具は使い手を得た。

少し出来過ぎた話だとは思いませんか。

 


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