「訓練の終了です。お疲れ様でした。こちらはささやかな贈り物です。」
「全部世話されてるのにまだ何かもらうのは。」
「大丈夫です。特級危険種の強い方を十も殺せば元なんて取れますから。儲かるのです。本当に。贈り物は王具、炎刀 銃。精神力を消費して無限に撃て、威力も小型の危険種なら簡単に大穴が空く程。双刀 鎚。非常に重い鈍器。そして頑丈です。利点も欠点も同じく重いこと。受け取ってください。どちらも役に立つはずです。」
「そこまでされて断わるのは無理ってマジで重たい。あ、でも振るのが不可能な重さじゃないな。結局、重り地獄からは逃れられないか。……王具ってなんだ。」
多少よろめきながらもしっかりと鎚を持っている。使い道のない道具の厄介払いも出来てよかったです。
それにしても王具の説明ですか。
「王具とは文字通り王に封じられた道具たちの事です。帝の兄弟は王に封じられる。それに倣ったそうです。炎刀はパンプキン。双刀はベルヴァーグの兄弟です。他にも
デモンズエキスは一滴程度なら大丈夫だったので帝具扱いだったそうです。意外と適当なのかもしれませんね。
「あっさり一言かよ。いや、分かり易いけど。」
「タツミにはよく説明している気がします。教えるのは好きですが。」
「どうせ地方の田舎の出ですよ。でも、ここから始まる。」
「村を救うための仕事が」「借金返済の苦難が」
「言い方!!もうちょっと良い言い方あるだろ。」
「からかうはここだな。と。勿論、戯言ですよ。」
笑いながらさらにからかう。
「楽しそうですね。お嬢様。」
「ええ。冗談を本気にしませんから。
「「「「「「「それがお嬢様の願いであれば。」」」」」」」
「そう言い切ってくれる事はとてもうれしい事なのですが。それに、貴方達で談笑すると不幸話大会になりますから。」
「えっと、どんな風な。」
「話題を振ってみたらどうでしょう。私は隣で答えを予測して紙に書きます。」
「じゃあ、一番好きな食べ物は。」
これは簡単です。ここに来た時に振舞われるのは一つだけなのですから。
「「「「「「『ピーナッツバター。砂糖入り。』」」」」」」
「何で揃うんだよ。」
「「「「「「初めて食べたまともな食事がそれだった。」」」」」」
それまではゴキブリとか。私は芋虫が主食だったなぁ。バッタとか飛び跳ねるのを食べてた。私は墓を掘り返してた。あぁ、美味しいよね。脳みそ。ワイワイ、ガヤガヤ。
「こんな話になってお茶を飲むには慣れがいるのですよ。」
「飲めるか!!申し訳なさで胸が張り裂けそう。なんかごめんなさい。下手な話題振ってごめんなさい。」
まだ上等な部類の話なのですが。取りあえず彼らにはバームクーヘンでも焼いてあげましょう。
「タツミ、棒を持ってください。あ、そんな感じで回してください。」
ペタペタと生地を塗り付ける。ただ淡々と同じ作業を繰り返しています。
「お菓子作りって大変なんだな。」
「バームクーヘンやミルクレープが大変な部類なだけです。パイ生地を作ってブールドロを作ればよかったです。なんで、バームクーヘンを作ろうと思ったのでしょう。」
「咄嗟の判断だったからじゃないか。余りにもいたたまれなくて。」
「美味しいものを食べさせなければ。それしか考えていませんでしたから。」
「確かにそうだよな。そういえばなんでアリアは色々な人を。」
「私が助けたいと思ったからです。それ以外有りませんよ。」
誰もが助けないなら。私が助けよう。
不公平ではないですか。
切っ掛けはそんなものです。
「優しいな。やっぱり。」
「身内限定です。」
「誰でもそうじゃないか。」
「その通りです。私も人間ですから。泣きもすれば笑いもします。」
「完璧なんてないか。それはそうだよな。」
「完璧なら誰かを頼りません。寂しいのは嫌いですよ。私は。」
「訓練の時と違って普通だよな。」
「普通ですか。本当に。」
顔を近づける。じっと見つめる。
「えっ。えっと。」
タツミが棒を落としかけたので掴む。
「可愛いくらい言ってくれてもいいと思いますよ。……………………戯言ですよ。」
「暇さえあればからかうのをやめてくれ。頼むから。」
「嫌です。」
我ながらすごくいい笑顔で断る。あぁ、楽しいです。
「お嬢様、オーガ様が亡くなりました。先程警備隊の者がやってきて。ご指示を。」
くるくる回している棒を落としかける。焦げてしまいましたでしょうか。
「アリア!!」「お嬢様!!」
「大丈夫ではありませんね。失うとはこういう事でした。零れそう。」
「泣いても構わないぞ。アリア。誰もそれを馬鹿にはしない。させない。」
「いえ。それは無用です。泣いて忘れるほど薄情ではありません。この喪失感を零すなんて出来ません。バームクーヘン作りは終わりです。少し書類を取ってきますので応接間に客人を。」
「お嬢様の願うままに。」
「この書類を確認してください。」
大臣からの代理任命状。大将軍からの推薦状。憲兵隊隊長からの推薦状。帝都警備隊隊長の。元隊長の推薦状。
計四通の書類の内容はどれも同じ。
『アリア・フォン・トスカーナを警備隊隊長に推薦(代理任命)する。』
「これは。隊長が以前から言っていた死んだあと心配するなとはこういう事だったのか。」
「オーガ隊、元隊長はどういう状況で死にましたか。流石に飲み過ぎて死んだわけではないのでしょう。よく一緒に飲んでいましたから。浴びるほど飲んでも死ぬほど飲みはしないはずです。」
「鎧を着た状態で亡くなっていました。下半身しか見つかっていません。上半身は恐らく。」
消し飛んだのでしょう。パンプキンなら可能です。
「状況は朝。貧民街。同行していた隊員ごと。そんなところですか。」
「はい!!巨大なハサミを持った女。ナイトレイド シェーレに間違いありません。生き残った隊員の報告によると遠距離から狙撃も確認したとのこと。報告に一致するように頭を撃ち抜かれた死体がありました。」
「パンプキンとエクスタス。相性が悪い相手をある程度追い詰めましたか。オーガ。」
「あの隊長との関係は。」
「たかられ相手。飲み相手。話し相手。あぁ、でも悪い事仲間が一番合いますね。」
おい、嬢ちゃん。悪い事をしていて金持っている奴知らないか。いい女付きならなお良しだ。
そう言って悪徳貴族を逮捕して、財産を根こそぎ奪って貴族を獄中死させたこと。
あっはっはっは。上手くいった。上手くいった。真面目に仕事するのが馬鹿らしいな。おい、全員。今日は食い飲み放題だ!!嬢ちゃんもだ!!セリューの奴は怒って帰ちまったみたいだな。
馬鹿騒ぎに参加させられ文字通り酒を浴びるように飲んだこと。
嬢ちゃん、金を貸してくれ。色町に通い過ぎて酒代もない。
自分の半分も生きてない小娘に恥も外聞もなく金の無心に来たこと。
嬢ちゃん、武器を作ってるんだろ。よこせ。俺に逆らう馬鹿どもを裁いてくる。そのあとは全員で騒ぐ。いつも通りだ。
警備隊に楯突いた組織が現れた時は武器まで要求してきて。
私に頼み込んで、一緒に捻じ伏せて、馬鹿騒ぎをする。
私に良識を教え、協調出来るようにしたのは親友です。
私に殺し以外の楽しみを教えてくれたのはオーガ。貴方です。
貴方は私の
「あぁ、すいません。思い出していたのです。これからの話をしましょう。」
悲しくて哀しくてでも嬉しくもある貴方を殺せる相手がいる事に。
何だ、いつも通りじゃないか。嬢ちゃん。安心したぜ。
きっとこう言うのでしょうね。
まぁ、とりあえず。
「馬車の準備を。車にはお酒を山のように積みなさい。馬鹿騒ぎをしましょう。そっちの方が送るのにふさわしいですから。貴方も連れて行って文字通り浴びるように飲ませて差し上げましょう。憲兵隊隊長が帰って来たらもう一回行いますよ。」
葬式代わりの飲み会です。人数は少しでも多く。騒がしくいきましょう。
動くのはセリューが来てからです。慕っていたのは私だけではありませんから。
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