アリアは踊る   作:mera

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第三話

タツミを帝都の屋敷に招いて一週間。

注射を初めて行ったタツミが可愛くてドクターに気に入られ連行されかけたというハプニングを除けば全て順調です。

訓練が順調すぎたので紅茶とスコーンとジャム。それにクリームを用意して休憩する。

「今までの人生を上回るくらい贅沢してる気がする。」

「三食、時たま間食、寝床有り程度のどこが贅沢なのでしょうか。」

それに本来ならサンドイッチも付けるのですがライ麦パン(朝食の残り)しかないから諦めた手抜きだというのに。サンドイッチのないお茶会なんてコロのいないセリューみたいなものです。

「食事は美味しくて、腹一杯食える。今まで食べた事のない甘い物が食べれる。訓練はその分きついけど。」

「雇う以上当たり前の待遇です。空腹だと効率も落ちます。それにご褒美でもないと頑張り甲斐もないでしょう。」

訓練といっても鉛のベスト、鉛の入ったジーンズを着て、鉛で出来た剣を使って私や使用人と延々と模擬戦するだけなのですが。

無駄のない動き方を習得すれば重さが二倍以上に増えてもどうにでもなりますよ。

「人参ぶら下げられた馬みたいだな。俺。使用人さん達も最初はハーフだけで驚いたけどいい人ばかりだし。アリアに会えて本当に良かった。」

「衣食住が足りて出てきた余裕で人に優しくする。人に優しくするのはある種の贅沢ですから。使用人に贅沢をさせられるほど私は財産を持っている。そういう見方もあるのですよ。」

その余裕をどう使うかはその人次第。でも余裕の無い生など詰まらないものです。

「どんな理由であれ手を差し伸べる人は信じられる。」

「騙すかもしれませんよ。」

「その時は諦める。運がなかったと思って。」

確かに私に騙されたらもうどうしようもありませんか。

「戯言です。地方出身なので心配していたのですよ。ハーフだから害そうとするのではと。」

「俺の村にはいなかったし、ハーフを見たのはここが初めてだったから。地方によってはひどいとは聞いてる。」

「ええ、本当にひどいものです。カトル・カールを持ってきてくれますか。昨日焼いたものがまだあると思うのですが。」

「絶対、ケーキとか食えなかったよな。村じゃ。サヨとイエヤスが知ったら殺される。」

「食べ物の恨みは恐ろしいですから。よく話題に出てきますがどのような方々なのでしょう。」

「サヨはいつも真面目で弓使い。イエヤスは方向音痴だけどいざって時は頼りになる槍使い。二人とも強いし、大丈夫だと思う。」

「心配なら探させましょうか。お安くしておきますよ。」

「村を救ったあとで自慢するつもりだから遠慮しておく。サヨとイエヤスめさんざん馬鹿にしてくれた分、思いっきり煽ってやる。ふっふっふっふ。」

なんとも典型的な、御伽噺の悪い魔女のような笑い方ですが楽しそうですね。

貴方が良いと言うなら貴方の意思を尊重しましょう。何かを失って後悔するのも悪くないことなのですから。

生きていて余裕さえあれば、どんなことも楽しめるのですから。

喜劇だけの、悲劇だけの人生では名作にはなりえない。

他人の人生の脚本家気取りとは随分と酷い人間です。

まぁ、他人の人生を買って、虐め殺す両親に渡している事を考えればいまさらですか。

「あ、そうだ。ナイトレイドについて教えてくれないか。知ってるのは富裕層と帝都の高官を狙ってることしか知らないんだ。」

「趣味の悪い者と汚職に塗れた者を討つ。他称、正義の味方です。」

「趣味の悪い。どんなことしてるんだ。」

「購入した奴隷をクスリ漬けにして人格を壊すとか。殺すために奴隷を購入するとか。自分の物をどう扱おうと自由なので罪には問われませんから。人攫いには気をつけて。見つけ次第殺すに限ります。ああいうのは。」

「人攫いは強いのか。」

「弱いですよ。強ければ別の道があるますから。好んで行う者はいない仕事です。警備隊に殺される犯罪者になりたい者などいないはずです。」

ただ、弱者が強者に敵わないとは限りません。力が足りなければ知恵を使い経験で補うのが人間です。

タツミの友人は多分もう死んでいるでしょう。運が良ければですが。

「少し心配したけどあいつらが負けるわけないか。話の続きを頼んでもいいか。」

「はい。ナイトレイド。多くの帝具を使う革命軍の暗殺部隊。私やエスデス。オネスト大臣。ああ、今は相国でしたね。ブドー大将軍。それにセリュー辺りが目標でしょうか。」

「アリアもか。」

「革命軍にとっては死んでほしい人間でしょうから。あ、後。彼らが革命軍所属と断定したのは元帝国軍所属が多いからですよ。帝国のあり方に反発して帝国を裏切った彼らの行く場所はひとつですから。」

「よし、目標が決まった。アリアを守れるくらい強くなるで!!」

「私の演じるのはお姫様ではなく悪いドラゴンなのですが。でも、楽しみにしておきます。とりあえず、重りの重さ増やしましょうか。」

「やってやる。大丈夫。いけるはず。多分。」

ええ、がんばってください。応援します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立ち入り禁止区画。そう書かれた扉を開ける。

帝具に匹敵する兵器であろうハロウィンの検査を始める。

本体が十。特殊バッテリーが四十。数は合っている。剣型、銃型。どちらも起動させてみる。

問題なし。後はバッテリーの量産体制さえ整えば。私抜きでバッテリーを生産できるようになればクーデターもできる程の力が手に入る。

革命軍にも今の帝国にもハーフの居場所はない。私のところにしかないのですから。

相国が老衰で死ぬまで待つのも可能です。でも手札は多くなければ。私以外の命も掛けているのですから。

地下水路の詳細な地図、危険種化した人間を利用した生体兵器、細菌兵器、毒ガス、ハロウィン、五道転輪炉。他にも幾つか。

手札を増やす努力を。銃を突きつけ合った平和を維持する努力を。

相手を殺せる力を持ち続けるのも楽ではないです。でも必要な事です。

 


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