アリアは踊る   作:mera

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第二十四話

「ボルスさん。すまねえ。俺が、俺が吹き飛ばされたりしなければ!」

ボルスの亡骸を守るように仁王立ちしながら泣いているであろうウェイブを見つけます。

無事合流できたようですね。

「任務ご苦労様です。解いていいですよ。いつまでも変身しては辛いでしょう。」

「副隊長。すいません。俺が不甲斐ないばかりに副隊長やセリューさんにも迷惑をかけて。」

「確かにあれは貴方のミスです。不審物を見つけた時点で即座に変身していれば今回のような無様は晒さなかったでしょう。」

「いや、私のミスだ。私が指示を出すべきだった。それ以前に探知機で警戒すべきだった。」

今回の戦いの最大の反省点。

それはウェイブが吹き飛ばされてしまったことではなく目の前に明らかに怪しい不審物があり警戒態勢だったというのに奇襲を受けたこと。

「違う、セリューさんのミスじゃない。俺のミスだ。明らかに俺だけ警戒が足りてなかった。ボルスさんは俺のせいで。」

「確かに、貴方のせいで死んだと言っても過言でもないでしょう。ですがそれだけです。私たちは生きています。失敗を糧に成長する特権は生者しかもちません。それを生かしましょう。」

「それだけって。ボルスさんは。ボルスさんが死んだのをそれだけって。副隊長!!」

「争えば人は死ぬ。それだけです。それだけのことを理解していないなら。覚悟していないなら。ここから去れ。」

「アリア、言い過ぎ。誰もがアリアみたいに死を当たり前だなんて思えないんだから。でも、ウェイブ。どんなに泣いても嘆いてもすがっても死者は蘇らない。なら生きてる私たちに出来るのはボルスさんの遺志を継いで成し遂げる。それが一番の餞だと思うよ。」

セリューに窘められる。確かに言いすぎたかもしれません。ですが、言わねばならないことだと私は思うのです。

「それにアリアだってボルスさんの死を悼んでないわけじゃないし。本当になんとも思ってないならエンバーミングなんてしないよ。」

「仲間の死です。悲しくはあります。怒りもあります。でもそれに振り回されるなんて無様でしょう。」

「副隊長。セリューさん。・・・・・・誰も殺させねえ。必ず仲間を守る。それが俺の覚悟だ!」

「自分の身も考えてくださいよ。覚悟に殺されるなんて馬鹿らしいですから。ですが、ありふれていますが貫くことが難しい。そういうものですよ。それは。」

「アリアだって似たようなものでしょう。手の届く範囲で助けるなんて。・・・・・・いい目をしてるんじゃないかな。今後に期待させてもらうよ。ウェイブ。」

「私はボルスさんの遺体をパッチワークに保存します。ルビガンテはセリューに。コロに括りつけるとしましょう。」

「了解。それじゃ移動だね。」

 

 

「そうか。ボルスが。惜しい奴をなくしたな。ボルスの妻子についてはこちらから手配しておく。」

「宜しくお願いします。本当に惜しい方をなくしました。この度の作戦の不始末どのような罰でも。」

「ウェイブが直接の原因だろうに。槍玉に上げないのか。」

「責任を取るのが責任者の務めです。私から仕事を奪わないでください。」

貴族が貴族足り得るのは責任を取る勤めがあるからです。

私は自分が貴族であることを利用し続けました。権利ばかり使い、義務を放棄するなどという恥知らずな真似など出来ません。

「アリアらしいな。降格処分だ。一隊員として働いてもらうぞ。・・・・・・敗戦の借りはキョロクで返す。」

「随分と甘い処分で。キョロク。安寧道の本拠ではありますが羅刹四鬼の増援に。」

「帝都にいないと思ったらそんなところにいたのか。大臣は随分と重要視しているようだな。」

「状況を整理しましょう。」

「それは後でいい。全員が揃った時に行う。ウェイブの纏う雰囲気が心地いいものに変わっていたがなにかしたか。」

「言葉一つで人は変わりません。出来てせいぜい背中を押すことだけです。彼は私が何も言わなくても覚悟を決めたでしょう。それが少し早まっただけです。」

言葉も万を尽くせば人を跡形もなく変えることは可能でしょう。でもたかが二言三言では後押ししかできません。

「青い果実は熟したか。」

「きっとまだでしょう。ですが青い果実が赤く色付くのを間近で見るのは楽しいものですよ。」

強引に熟させるのも楽しいですが。自然に育つのもまた楽しいものです。

「タツミもウェイブもまだまだ育つか。」

「はい。私達と違って精神面でも肉体面でも。」

肉体面なら私たちはまだ成長するでしょう。日進月歩くらいの速さで。ですが彼らのように跳躍するような速さでの成長はもう望めないでしょうね。

「楽しみなものだ。さて全員を集めて作戦会議といこうか。」

 

 

 

「状況を確認します。次の任地は安寧道本拠地キョロク。任務はボリック暗殺阻止。阻止に失敗した場合はキョロクの殲滅です。」

「なぜ、その人物を守る必要が。」

「大臣が安寧道に送り込んだ駒です。暗殺された場合、安寧道の宗教反乱が予想されます。」

「反乱の拠点にされてはたまらないから。暗殺阻止に失敗した場合、虐殺か。何時もの事だけど進んでやりたくはないかな。」

全員が第二任務に難色を示す。当然です。まともな神経な持ち主では出来ないことでしょうから。

「第二任務は自由参加とします。これは私見ですが虐殺などするものではありません。」

「・・・・・・第一任務を成功させればいいだけだしな。ウェイブ!」

「その通りだな。タツミ!」

「はい。それでこちらがボリック邸の見取り図です。さすがに地下通路は見つけられませんでした。情報不足を先に詫びておきます。」

もう少し早く任地がキョロクだと分かれば探し出すことも可能だったのですが。時間が足りませんでしたね。

「ここまで分かれば十分だ。作戦は。」

「相手の立場から考えた場合護衛対象とエスデス。私。セリューが一緒にいることは望まないでしょう。ですので陽動を仕掛け私たちを分散させようとするはずです。」

「確かにあの三人を同時に敵に回すのは避けたいだろうな。俺なら絶対に嫌だ。」

タツミの意見は正しいです。私達を同時に敵に回すのは死を意味します。

お互いの呼吸も模擬戦(殺し合い)のしすぎで熟知していますからね。

「こちらはあえてその陽動に乗ります。エスデスは守勢より攻勢に使うべき戦力です。そのサポートとしてウェイブ、タツミ。空からの伝令としてラン。空から遊撃しつつ信号弾により戦局を報告してもらいます。」

「かしこまりました。期待には応えさせてもらいます。」

エスデスを攻勢に使えばナイトレイドを殲滅させることも可能でしょう。

それに貴女は誰かを守るなんて器用な真似できないでしょう。

「クロメ、私、セリューが防衛側に回ります。」

「防衛戦なら私の本領発揮だね。それと殲滅戦でも。一日で立派なキリングハウスにしてみせるよ。」

クロメの八房なら防衛戦ならなんとかなるでしょう。またボリックが致命傷を受けても私がいれば治癒可能です。

「問題は敵がボリック邸中庭等にあらわれた場合です。」

「どういうことだ。」

「敵がエスデスの攻勢を利用できるからです。」

全員が首をかしげる。まぁ。私としても一番されたら嫌な事を言っているだけですから理解できなくても仕方ありません。

「エスデスというピンチをチャンスに変えられる可能性があるといえば分かっていただけるでしょうか。」

「パンプキンによる大火力の砲撃か。」

「はい。それに乗じてインクルシオの透明化しつつの邸内突入。他にもシェーレの機敏さを生かした突入。最後にスサノオの奥の手を使った状態での突入。この三つの突入がされると考えています。」

「見えなくても私の弾幕なら関係ない。山ほど人体の一部()を撃ち込んであげる。」

妹の頼もしい発言を聞きながら話を進めようとするとエスデスがそれを遮る。

「一人は確実に止められる。誰を止めるべきだ。」

「では、スサノオを。彼の再生力は厄介ですから。ですがエスデス、アカメの突入だけは防いでください。私との相性は最悪ですから。」

「報告にあった桐一文字のことか。任せろ。絶対に通しはしない。その上で帝具人間を仕留める。無論それ以外もな。」

「防衛側としてもどう転ぼうと有利であることに変わりはありません。」

「次でナイトレイドを仕留める。いいな!」

「「「「了解!!」」」」

しかし、なにか不安があります。まだ立てた作戦に穴があるような不安が。

いえ、こちらの手札は使い切りました。後は敵の出方次第です。

 




第一戦が終わり、第二戦の幕が上がるまでしばらくお待ちを。
次の舞台はキョロクとなります。
この物語を少しでも楽しんでいただけるなら幸いです。


感想を心より待っております。

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